街を歩いていると、色あせた古い標識を見かけることがあります。
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 この標識は本来鮮やかな赤色の矢印なのですが、ご覧の通りかなり褪色して薄いピンクのような色合いになっています。これに対し、国道のおにぎりマークや縁取りの青はまだ鮮やかさを保っています。このタイプの標識は、1995年から設置されるようになったものですので、20年ほどで赤だけがずいぶん色褪せてしまっているということになります。

 このように、赤色が他の色より褪色しやすいというのは、ちょくちょくみかける現象です。ひどくなると下の写真のように、肝心なところがきれいに抜けて読めなくなったりします。大事なことは赤で書きたくなりますが、時の流れを考えるとあまり得策でないことがわかります。
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 さて、なぜ赤色はさめてしまいやすいのでしょうか?これは偶然ではなく、それなりの理由があります。まず赤い塗料がなぜ赤く見えるかというと、塗料が赤い光を跳ね返し、青や紫などの光を吸収するからです。青い塗料はこの逆で、青い光を反射して赤などの光を吸収します。

 しかし、青や紫、さらに紫外線などの波長の短い光は、高いエネルギーを持っています。特に紫外線は、原子と原子の結合を切断し、分子を破壊してしまう力を持ちます。長く屋外に置かれたプラスチックがぼろぼろと劣化するのも、この作用が大きな要因です。下の写真など見ると、紫外線というのは破壊光線であると実感します。

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水銀灯の紫外線によって破れたプラスチック網

 つまり赤色塗料は、高エネルギーの光を吸収するものですから、宿命的に劣化を受けやすいといえます。たとえば下図のような塗料分子は、中央付近に含まれているアゾ基(-N=N-)が発色のために不可欠です。しかしこの部分は、紫外線を受けて空気中の酸素などと反応し、切断されてしまいます。こうなると、光を吸収することができなくなり、色が消えてしまうことになります。

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ピグメントレッド12

 といっても、世の中の赤色塗料が全て経年劣化するわけではありません。たとえば下のようなキナクリドン骨格を持った化合物は、褪色が少ないために自動車の塗装などによく用いられます。分子の平面性が高い上、水素結合によって互いに引きつけ合うので、分子どうしが密に詰まり、酸素などの影響を受けにくいためです。さらに、重ね塗りやコーティングなどを施すことで耐光性はより高まり、色褪せをかなり防ぐことができるようになります。

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 世の中で目に入る一つ一つの現象の陰に、化学は潜んでいます。化学を知り、原子のレベルで考えてみると、ああなるほどと思う事柄は数多いものです。