さてまたずいぶん更新をサボってしまいました。何を書こうかと思ったのですが、いま筆者は「π造形科学」の広報を務めておりますので、ちょっと芳香族化合物のことを書いてみましょう。
アルカンの炭素数が増えていくと、異性体の種類も加速度的に増えていくことが知られています。炭素数3までは1種類しかありませんが、その後は一炭素増えるごとにほぼ倍々ペースで増えていきます。炭素数20のイコサンでは約36万種、炭素数30のトリアコンタンでは約41億種、炭素数40のテトラコンタンでは約62兆種の異性体が存在する計算だそうです(こちらなど参考)。

一方、芳香族化合物の基本になるのはベンゼンです。この六角形がたくさんつながったものが、多環式芳香族炭化水素(Polyaromatic Hydrocarbon, PAH)と呼ばれる化合物群で、連結の仕方や数によってさまざまな性質を示します。では、このPAHにはどのくらいの種類があるでしょうか?
環の数が1個(ベンゼン)及び2個(ナフタレン)の場合、異性体はなく1種類だけです。では環が3つになるとどうか?単純に六角形を3つつないだ図形は、3種類考えられます。しかし右側にある団子型の化合物(フェナレン)では、どう二重結合を配置しても、sp2配置になれない炭素が出てきてしまいます。このため、環の数が3の場合、PAHはアントラセンとフェナントレンの2種類のみということになります。

アントラセン(右上)、フェナントレン(右下)、フェナレン(右)
環の数が4つだと、形の上では7種の異性体がありえます。しかし、やはりこのうち一番右にあるひとつだけ、全ての環が芳香環になれません。というわけで、環が4つのとき、PAHの種類としては6種が存在します。

右の黄色い化合物のみ、芳香環のみで構成できない。
では環が5つになるとどうでしょうか。早くも筆者の手には負えなくなってきたので、ウィキペディア先生に聞いてみましたところ、5つの正六角形をつないでできる図形は22種だそうです。何でもありますね、ウィキペディア。

このうち、筆者の勘定が間違っていなければ、7種類が条件を満たせませんので、PAHになりうるのは15種です(下図)。要するに、水素が結合できる場所が奇数ヶ所である場合は、どうあがいても芳香環にはなれませんので除外できます。ちなみに除外組には、以前取り上げたオリンピセンも含まれます。

環の数が6つになると、また違った問題が出てきます。6つの六角形を環につないだ、穴あき図形が出てくるのです。これはPAHでいうならコロネンに相当しますので、7環性化合物に分類すべきでしょう。その代わり、6つの環がらせん状につながった、ヘリセンが登場しますので、これをカウントすることにしましょう。

コロネン(左)とヘリセン(右)
すると、6つの六角形から成る図形82種のうち、31種がアウトということになります(だと思います)。ということで、6環性のPAHは51種ということになります(と思います)。
環が7つでは333種、8つでは1448種、9つでは6572種、10では30490種の図形が存在するそうで、これらのうちいくつPAHになりうるのか、もう手動では全く追いつきません。アルカンの異性体数え上げでも相当大変ですが、こちらはそれ以上の課題になりそうです。もう計算されているのかどうかわかりませんが、どなたかコンピュータを駆使してチャレンジしてみてはどうでしょうか。先行例がなければ、論文一報くらいになるかもしれません。
アルカンの炭素数が増えていくと、異性体の種類も加速度的に増えていくことが知られています。炭素数3までは1種類しかありませんが、その後は一炭素増えるごとにほぼ倍々ペースで増えていきます。炭素数20のイコサンでは約36万種、炭素数30のトリアコンタンでは約41億種、炭素数40のテトラコンタンでは約62兆種の異性体が存在する計算だそうです(こちらなど参考)。

一方、芳香族化合物の基本になるのはベンゼンです。この六角形がたくさんつながったものが、多環式芳香族炭化水素(Polyaromatic Hydrocarbon, PAH)と呼ばれる化合物群で、連結の仕方や数によってさまざまな性質を示します。では、このPAHにはどのくらいの種類があるでしょうか?
環の数が1個(ベンゼン)及び2個(ナフタレン)の場合、異性体はなく1種類だけです。では環が3つになるとどうか?単純に六角形を3つつないだ図形は、3種類考えられます。しかし右側にある団子型の化合物(フェナレン)では、どう二重結合を配置しても、sp2配置になれない炭素が出てきてしまいます。このため、環の数が3の場合、PAHはアントラセンとフェナントレンの2種類のみということになります。

アントラセン(右上)、フェナントレン(右下)、フェナレン(右)
環の数が4つだと、形の上では7種の異性体がありえます。しかし、やはりこのうち一番右にあるひとつだけ、全ての環が芳香環になれません。というわけで、環が4つのとき、PAHの種類としては6種が存在します。

右の黄色い化合物のみ、芳香環のみで構成できない。
では環が5つになるとどうでしょうか。早くも筆者の手には負えなくなってきたので、ウィキペディア先生に聞いてみましたところ、5つの正六角形をつないでできる図形は22種だそうです。何でもありますね、ウィキペディア。

このうち、筆者の勘定が間違っていなければ、7種類が条件を満たせませんので、PAHになりうるのは15種です(下図)。要するに、水素が結合できる場所が奇数ヶ所である場合は、どうあがいても芳香環にはなれませんので除外できます。ちなみに除外組には、以前取り上げたオリンピセンも含まれます。

環の数が6つになると、また違った問題が出てきます。6つの六角形を環につないだ、穴あき図形が出てくるのです。これはPAHでいうならコロネンに相当しますので、7環性化合物に分類すべきでしょう。その代わり、6つの環がらせん状につながった、ヘリセンが登場しますので、これをカウントすることにしましょう。

コロネン(左)とヘリセン(右)
すると、6つの六角形から成る図形82種のうち、31種がアウトということになります(だと思います)。ということで、6環性のPAHは51種ということになります(と思います)。
環が7つでは333種、8つでは1448種、9つでは6572種、10では30490種の図形が存在するそうで、これらのうちいくつPAHになりうるのか、もう手動では全く追いつきません。アルカンの異性体数え上げでも相当大変ですが、こちらはそれ以上の課題になりそうです。もう計算されているのかどうかわかりませんが、どなたかコンピュータを駆使してチャレンジしてみてはどうでしょうか。先行例がなければ、論文一報くらいになるかもしれません。