長いこと化学の世界で生きていますと、専門用語には敏感になります。町中の、思わぬところで化学用語を見かけると、ぱっと目がそちらに行ってしまいます。先日は、「バフンウニ」を「ハフニウム」と見間違え、ああ職業病だなと感じた次第です。

 昨日は100円ショップで、「セスキ」と書かれた袋に思わず目を奪われてしまいました。こんなやつです。

 「セスキ」(sesqui-)とはラテン語に由来する接頭語で、「1.5」を意味します。たとえば複葉機(biplane)のうち、下の翼が半分くらいのサイズのもの、つまり1枚半の翼を持った飛行機を「sesquiplane」と呼んだりするそうです。
sesquiplane
セスキプレーン

 化学の世界でもちょくちょくこの言葉が使われます。「sesquioxide」は、ある元素と酸素が2:3の割合で結びついた化合物を指し、酸化アルミニウムAl2O3などがその例に当たります。以前「ヤヌスキューブ」を紹介した記事を書きましたが、この基本骨格となっている立方体はケイ素8個と酸素12個から成っているため、「シルセスキオキサン」と名づけられています(「sil」(ケイ素)+「sesqui」(1.5倍)+「oxane」(酸素))。

januscube
シルセスキオキサン骨格を持ったヤヌスキューブ

 上に出てきた「セスキ炭酸ソーダ」は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)と炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の複塩のことで、いわばNa1.5H0.5CO3という組成を持ちます。このため「セスキ」という接頭語が採られたのです。

 最も知られた「セスキ」の用例は、「セスキテルペン」という言葉でしょう。テルペンとは植物などが生産する一群の炭化水素のことで、当初炭素10個を持ったもの、20個を持ったものが見つかりました。このため、炭素10個が単位になっているとみなされ、前者は「モノテルペン」、後者は「ジテルペン」と命名されました。

limonenevitaminA
モノテルペンの例リモネン(左)と、ジテルペンの例ビタミンA

 ところがややこしいことに、後になって炭素15個のテルペンが見つかってしまったのです。実はテルペン類は、炭素5個のユニットである「イソプレン」が単位となってできた化合物群だったのでした。というわけでやむをえず、1.5を意味する「セスキ」という接頭語を引っ張り出すはめになったというわけです。

periplanone
セスキテルペンの例、ペリプラノン(ゴキブリフェロモン)

 ちなみに、さらに後に炭素25個と30個のテルペンも見つかってきています。25個のものは「セスタテルペン」(sesterterpene)、30個のものは「トリテルペン」(triterpene)と名づけられています。

retigeranic
セスタテルペンの例・レチゲラニン酸

 ということは、炭素数35個のテルペンなんてものもあったりしないんだろうか――と思って調べてみたら、やはりあるようです。3.5という意味の接頭語もちゃんとあるようで、セスクァルテルペン(sesquarterpene)というのだそうです。

sesquarterpene
セスクァルテルペンの一例

 1.5はまだしも、2.5とか3.5なんて接頭語がよくあったもんだなあと思ってしまいます。語源的にはそれぞれ「2番めの半分(semi)」「3番目の半分」「4番目の半分」といった意味合いのようで、やはりラテン語は奥が深いです。

 ということで筆者は、娘が2歳半になったとき「セスタ誕生日だね!」とか言って妻に怪訝な顔をされたりしたわけですが、みなさまも日常生活の中でぜひこの知識を役立てていただきたいと思います。立たないか。立ちませんね。

 というようなことでまた。