前回の続きで、20年目の思い出話など。

 誰かに頼まれたわけではなく、一銭にもなるわけでもないウェブサイトなどというものをなぜ続けていたのかといえば、やはり医薬品メーカーの研究者という仕事に向いていない自分を感じていたせいかと思います。

 上司には「何でホームページとかに使うエネルギーをもっと仕事に振り向けられないのか」と言われたりしたこともありましたが、それができるのであれば苦労はしていないわけです(笑)。というわけで悩み苦しんでいた2003年から2005年ころに書いたものが、内容的にも充実していてアクセスも多かったというのは、必然といえば必然、皮肉といえば皮肉でした。

 そうした中、2006年からはブログ版の「分館」を開設しました。当初はタイムリーな話題をこちらで取り上げる程度のつもりでいたのですが、更新の楽さと読者からのレスポンスのよさなどの面から、徐々にこちらに一本化する流れとなりました。

 この頃、何度か書籍化の打診をいただいたりしていたのですが、いろいろあってなかなか実現はしませんでした。しかし2007年、3社めの打診をいただいた技術評論社さんより、ようやく初の単行本「有機化学美術館へようこそ」の刊行にこぎつけます。会社員の身で本を出すのはいろいろ面倒でしたが、昔からの夢がかなった瞬間でもありました。


記念すべき1冊目の著書「有機化学美術館へようこそ」

 この本が3万部くらい売れたら会社を辞めようかなと思っていたのですが、実際には1万部ちょっとでした(笑)。しかし結局この年末、死ぬほど悩んだ末に退職し、フリーのサイエンスライターに転身することになります。よくあんな無茶な決断をしたなと自分でも思うのですが、格好良くいえば「心の声に逆らえなかった」ということでしょうか。

 その後、すぐに「現代化学」誌から連載の声をかけていただいたり、東京大学で拾ってもらって働けたりといった幸運が重なり、今もこうしてどうにかライター稼業を続けています。また2008年からは、ボランティアで英訳をして下さる方のご協力により、英語版もスタートしました。こうした方々の支えにより、自分のような者もなんとか仕事ができているわけです。

 最近では、新学術領域「π造形科学」の広報として研究者にお話を伺ったり、その他にも一流研究者へのインタビューの仕事なども行なうようになりました(こちらこちらなど)。著書も13冊に達し、一人でちまちまホームページを作っていたころから、いつの間にかずいぶん遠くまで来てしまったなという気がします。

 ただ最近は、ブログの更新頻度が落ちている――というよりほぼ停止状態なのは申し訳ない限りです。仕事が忙しいのが一番の理由ではありますが(編集者さんに「うちの原稿を差し置いて何してるんですか」と言われそうで)、さすがに研究の現場を離れて10年以上が経ち、有機化学以外の仕事をこなさねばならぬ中で、だいぶカンが鈍っているのも一因ではあります。もちろんできる限り論文をチェックしたり、話題の研究をフォローしたりはしていますが、やはり皮膚感覚のようなものはだいぶ落ちていることは否めません。

 とはいえ、研究の現場から一歩引いた立ち位置だからこそできることもあると思いますし、できる形で化学の世界に貢献してゆきたいとも思っています。何より、ここは長らく書き続けてきた、自分にとってのホームグラウンドといえる場所でもありますので、今後も細々とながら続けてゆきたいと思っております。

 ただし、本館を置いているYahoo!ジオシティーズのサービスが、来年春に休止になるということです。「有機化学美術館」にはもちろん愛着もありますし、残してほしいという声もいただいておりますので、どこかに移転する方向で考えたいと思っております。

 ということで、今後とも「有機化学美術館」をよろしくお願い申し上げます。