第3回、今回は立体化学という面倒なやつの話を。
有機化学という分野を奥深く、一面では面倒にしてくれているのがキラリティというやつです。炭素原子は4本の結合の腕を持っていますが、この腕たちは正四面体型の配置をとっています。問題なのは、その4本の腕についているパーツが全て違う時です。


上図左右の分子は、向きをどう変えても重なり合いません。これらは、鏡に映した時だけ重なり合う関係にあり、「鏡像異性体」と呼びます。そしてこうした分子を「キラリティがある」と表現します。ちょっと複雑な有機分子になると、キラリティを持っていない方が珍しいくらいになります。
鏡像関係にある2種の分子は、融点・沸点などの性質は同じですが、厄介なことに生体にとっては全く別物です。味やにおいが違うこともありますし、鏡像異性体の一方は毒だが、もう一方は全く無害といったことも多くあります。これは、生体の方にもキラリティがあるからです。対称的な作りのバットは、左右どちらの利き手の選手が使っても同じですが、非対称なグローブはそうは行かないというのと同じで、キラルなもの同士では「相性」が生じるわけです。
というわけで、キラリティのある分子は、はっきりとその立体構造を表示する必要性があります。例として、乳酸分子を考えてみます。下図の中央の炭素(黄色で示した)には、-H、-OH、-CH3、-CO2Hと4種類の異なる原子団が結合しています。つまり、乳酸にはキラリティがあるということになります。

平面の構造式でこれを表すには、通常の結合を示す実線の代わりに、くさび型と点線を用います。くさび型は紙面より手前に、点線は紙面の奥へ向かって結合の腕が伸びていることを示します。上の乳酸の場合、構造式では以下のように描きます。

このような、キラリティの源になる炭素を「不斉炭素」「不斉点」などと呼びます(読み方は「ふさい」ではなく「ふせい」)。不斉炭素には、不斉であることを明示するため、「C*」とアスタリスクをつけて示すことがあります。
点線とくさび型は必ずしも両方を併用せずとも、どちらか一方だけ描けば構造が一つに指定できますので、一方だけを描くこともあります。たとえば下図の乳酸は、いずれも上に描いた乳酸と同じものですが、わかるでしょうか?頭の中で分子を動かして立体構造を想像できるようになれば、構造式上級者です(そんなものがあるかどうか知りませんが)。

分子内に不斉炭素が2つ以上あると「ジアステレオマー」というものが生じて、さらにややこしくなりますが、このあたりは専門書に任せるとしましょう。ということで、今回はこれまで。
有機化学という分野を奥深く、一面では面倒にしてくれているのがキラリティというやつです。炭素原子は4本の結合の腕を持っていますが、この腕たちは正四面体型の配置をとっています。問題なのは、その4本の腕についているパーツが全て違う時です。


上図左右の分子は、向きをどう変えても重なり合いません。これらは、鏡に映した時だけ重なり合う関係にあり、「鏡像異性体」と呼びます。そしてこうした分子を「キラリティがある」と表現します。ちょっと複雑な有機分子になると、キラリティを持っていない方が珍しいくらいになります。
鏡像関係にある2種の分子は、融点・沸点などの性質は同じですが、厄介なことに生体にとっては全く別物です。味やにおいが違うこともありますし、鏡像異性体の一方は毒だが、もう一方は全く無害といったことも多くあります。これは、生体の方にもキラリティがあるからです。対称的な作りのバットは、左右どちらの利き手の選手が使っても同じですが、非対称なグローブはそうは行かないというのと同じで、キラルなもの同士では「相性」が生じるわけです。
というわけで、キラリティのある分子は、はっきりとその立体構造を表示する必要性があります。例として、乳酸分子を考えてみます。下図の中央の炭素(黄色で示した)には、-H、-OH、-CH3、-CO2Hと4種類の異なる原子団が結合しています。つまり、乳酸にはキラリティがあるということになります。

平面の構造式でこれを表すには、通常の結合を示す実線の代わりに、くさび型と点線を用います。くさび型は紙面より手前に、点線は紙面の奥へ向かって結合の腕が伸びていることを示します。上の乳酸の場合、構造式では以下のように描きます。

このような、キラリティの源になる炭素を「不斉炭素」「不斉点」などと呼びます(読み方は「ふさい」ではなく「ふせい」)。不斉炭素には、不斉であることを明示するため、「C*」とアスタリスクをつけて示すことがあります。
点線とくさび型は必ずしも両方を併用せずとも、どちらか一方だけ描けば構造が一つに指定できますので、一方だけを描くこともあります。たとえば下図の乳酸は、いずれも上に描いた乳酸と同じものですが、わかるでしょうか?頭の中で分子を動かして立体構造を想像できるようになれば、構造式上級者です(そんなものがあるかどうか知りませんが)。

分子内に不斉炭素が2つ以上あると「ジアステレオマー」というものが生じて、さらにややこしくなりますが、このあたりは専門書に任せるとしましょう。ということで、今回はこれまで。