有機化学美術館・分館

HP有機化学美術館のブログ版。タイムリーな話題,短いテーマをこちらで取り上げます。

医薬

一人でサイエンス

 Nature誌やScience誌などで、有機合成関係の論文を見かける機会が増えてきました。90年代ごろには、両誌に有機分野の論文が載ることはきわめてまれで、Nicolaouのタキソール全合成(Nature 367, 630 (1993).)や、村井らの触媒的C-H結合活性化反応(Nature 366, 529 (1993).)など、文字通り歴史的な論文がたまに掲載される程度でした。筆者など、ちょっと生物学分野に偏り過ぎなんじゃないの、と思っていたものです。

 しかし最近では、毎週のように――はちょっと言い過ぎかもしれませんが、かなりたくさん有機分野の論文が掲載されるようになりました。その分、なんでこれがNature、Scienceなんだろかと思うようなこともありますが、まあ筆者の見る目がないのでしょう。

 こうした超一流誌に掲載される論文は、大人数が投入された大型プロジェクトが多くなります。分野をまたがった共同研究などでは、著者が20人くらいになることも珍しくありません。余談ながら論文の著者数の世界記録は、Phys. Rev. Lett.誌に載ったヒッグス粒子に関する報告で、なんと5154人が著者として掲載されています。33ページの論文のうち、著者名と所属機関の表記だけで24ページを占めているということで、いろいろと桁違いのお話です。

 ところが、大学などに所属せず、自宅の物置きでたった一人で行なった研究で、Science掲載を果たした人物もいます。ホロトキシンという化合物を発見した、島田恵年氏がその人です。

holotoxin
ホロトキシン

 島田氏は、京都大学薬学部の学生であったころ、母の「ナマコが水虫に効く」という言葉を聞き、試したところこれが本当に有効であったそうです。島田氏は大学院を中退し、自宅の物置きでナマコから有効成分を抽出する実験に取り組み、10年かかってホロトキシンを結晶化することに成功したのです。この結果をまとめた論文は、1969年にみごとScience誌掲載を果たしました(こちらで見られます)。

 島田氏はこのホロトキシンを「ホロスリン」の名で水虫薬として商品化し、現在でもホロスリン製薬から発売されています。在野の一化学者の果たした快挙といえると思います。

 前述のヒッグス粒子のようなビッグサイエンスが幅を利かす現代にあっては、こうした小規模で地道な研究が、世間をあっといわせる成果を挙げるのはなかなか難しいのが現実です。とはいえ、金と人をかけるばかりではない、鋭いアイディアの研究も見てみたいと思う次第です。

(参考)「海の生き物からの贈り物~薬と毒と~」 化学工業日報社
海洋天然物化学について一般向けに書かれた本ですが、上記のようなエピソードも満載で、大変に面白い本です。著者は,DPPAやTMSジアゾメタンの開発で知られる、塩入孝之先生です。

大村智博士にノーベル生理学・医学賞

 さて今月16日、筆者の新刊「世界史を変えた薬 (講談社現代新書)」が発売になります。タイトル通り、モルヒネ、キニーネ、麻酔薬などなど、世界の歴史と医薬の関わりについて書いた本です。興味のある方はご覧いただければ幸いです。

 さてこの本の最終章で、医薬の開発には長らくノーベル賞が出ていないという話を書きました。1950年代くらいまでは、いくつもの医薬がノーベル賞の対象になっていますが、その後は1988年のBlack, Elion, Hitchingsらが唯一の例となっている――という内容です。

 と、その本が出る直前に、久方ぶりの医薬品開発に対する授賞が決まりました。大村智、ウィリアム・C・キャンベル、屠呦呦の3氏に、2015年のノーベル生理学・医学賞が贈られたのです。特に大村先生の授賞は、医薬品研究者出身、かつ東京理科大の後輩に当たる筆者には、大変に嬉しいことです。

 大村博士は山梨大学を卒業後、いったん高校の教員になるものの理科大の大学院に入り直し、山梨大学の助手を務めた後に北里大学へ移るなど、その経歴は異色であり、いわゆるエリートコースを歩んだわけではありません。しかし、ここからが大村博士の真骨頂でした。

 土の中には、1グラムあたり1億ともいわれる細菌が住んでおり、この中には有用な化合物を生産しているものがいます。大村博士は、こうした細菌を培養し、医薬になるものがないか探すという仕事に取り組みます。土は場所によって細かく性質が違い、住んでいる菌も全く異なります。このため、各地の土を集めてくることも重要な仕事です(筆者も会社員時代、ドライブついでに山の中の土を採集してきたものです)。

 この時、どのような作用の化合物を狙うか、またその化合物の作用の有無をどう判定するかは、大変難しい技術になります。大村博士は数々の手法を工夫し、新規な作用を持った化合物を数々発見しました。たとえば下の化合物スタウロスポリンは、プロテインキナーゼと呼ばれる酵素の作用を妨げる作用を持つ、非常に有名な化合物です。これをツールとして用いることで、生化学に多くの発展がもたらされました。

staurosporin
スタウロスポリン

 また、不要になったタンパク質を分解するシステムである、プロテアソームの作用を阻害するラクタシスチンも、大村らが発見したものです。

lactacystin
ラクタシスチン

 ラクタシスチンは、ハーバード大のE. J. Coreyらによって全合成が達成され、その分解によって生ずる下のような4員環ラクトンが活性本体であることが確認されています。Coreyは大村博士に敬意を評し、この化合物に「オオムラライド」の名を与えています。

omuralide
オオムラライド

 大村博士の発見した化合物のうち、25種ほどが医薬・研究用試薬として用いられ、人類の幸福と科学の発展を助けています。この素晴らしい実績から、大村博士には「微生物代謝の王」との称号も奉られました。また、生産菌の遺伝子操作によって、有用な化合物を量産させたり、不要な化合物の生産を抑えたりといった技術も編み出しています。

 中でも今回授賞の対象となったのは、イベルメクチンやアベルメクチン(エバーメクチン)など、抗寄生虫薬の発見でした。

ivermectin
イベルメクチンB1a

 これらの化合物は、川奈のゴルフ場の土から発見されたといいます。イベルメクチンは、アフリカに蔓延するオンコセルカ症やミクロフィラリアといった寄生虫病に著効を示します。しかも極めて安全性が高く、一度経口投与すれば1年は有効という、実に驚くべき効能を持ちます。十分に医療環境の整っていないアフリカ諸国でも安心して使える、素晴らしい薬剤です。

 この薬で2億人が病から解放され、年間4万人が失明を免れており、病気の撲滅も間近といいますから、その人類に対する貢献度は絶大です。ノーベル賞の対象となるのも、全く当然といえるでしょう。


 そして大村博士の凄いところは、研究者として大成功しているのみならず、人生の大成功者でもある点です。製薬企業であるメルク社などと組んで、医薬となる化合物を発見するたびにロイヤリティを獲得、その総額は250億円にも上っています。この潤沢な資金で研究を推進した他、病院や専門学校などを建設、北里研究所の運営にも関わっています。美術にも造詣が深く、個人としのコレクションを収めた韮崎大村美術館まで建てているということですから、実に見事な金の稼ぎ方、使い方という他ありません。

 人類に、科学に、教育に、地域の発展に、素晴らしい貢献を果たした大村博士が、最高の栄誉に輝いたことは、実に喜ばしいことと思います。その歩んだ道は、多くの研究者や関係者に、重要な示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

参考文献 「大村智 - 2億人を病魔から守った化学者」 馬場錬成 著 中央公論新社

まつ毛が伸びる薬・グラッシュビスタ日本上陸

日本薬局方解説書」というものをご存知でしょうか。日本で用いられるあらゆる薬の詳細を解説した本で、その厚さは20センチ以上にも及びます。そのくらい、医薬というものは多くの種類があるわけです。

 しかし、このほどその薬局方にもない全く新しいジャンルの薬、「睫毛貧毛症治療薬」というものが登場しました。睫毛貧毛症などと言われると、いったい何の病気かと思ってしまいますが、要するに塗るだけでまつ毛が伸びるという薬です。日本での商品名は「グラッシュビスタ」だそうで、なんだか名前まで医薬というよりは化粧品のような響きです。

 この薬の化合物名は「ビマトプロスト」で、下のような構造です。その筋の方なら一見してわかる通り、プロスタグランジンの誘導体です。

glashvista
ビマトプロスト(グラッシュビスタ)

 プロスタグランジンはいわゆるホルモンの一種で、構造が少しずつ違う誘導体が存在し、その作用は極めて多彩です。グラッシュビスタはプロスタグランジン類のうちPGFを元に作られた薬で、末端のアルキル鎖がフェニル基に、カルボン酸部分がN-エチルアミドに変わった構造です。

PGF2a
プロスタグランジンF

 それにしてもこんな作用がよく見つかったな、と思うところです。実はこの薬、最初からまつ毛を伸ばすために創られたものではありません。もともとは、緑内障の治療薬として開発されたものでした。緑内障は、眼圧が高まることによって視野が狭まるなどの症状が起こる病気で、ときに失明の原因ともなります。グラッシュビスタを点眼すると、目玉から水分が流れ出して眼圧が低下し、症状の進行を抑えられるのです。

 ところがこの薬を使っていた患者に、まつ毛が伸びるという「副作用」が発見されたのです。ならばそれを逆手に取り、睫毛貧毛症治療薬として使ってしまおうという発想から、グラッシュビスタは誕生したのです。

 なぜそうしたことが起こるのか?毛周期における成長期を延長すると推測されていますが、詳しいところはわかっていないようです。まあプロスタグランジンは非常に多彩な作用がありますから、何が起きても不思議はないところではあります。

 効果のほどはどうかというと、グラッシュビスタを毎日1回ずつ4ヶ月間塗り続けると、約80%の人に効果が見られ、平均で1.62mmほどまつ毛が伸び、色も濃くなることが認められたそうです。ちなみに値段の方は70日分が1万〜数万円ということで、おっさんの目からは「高っ!」としか思えないのですが。

 以前、某バラエティ番組に出演した際、この薬の話をして「これくらいつけまつ毛でよくないですか」と言ったら「あかん、先生は全然女性のことわかってへんわ!」と司会者の方に一刀両断にされた記憶があります。まあ確かに、カツラよりは地毛がいいに決まってますね。とはいえ筆者には、1万円以上もかけてメカニズム不明な薬で1〜2mmまつ毛を伸ばしたいという心理は、残念ながらやはり理解不能なところではあります。ただし、効果の方はそこらの怪しげな品と違い、しっかりとしたデータに裏付けられていますから、美しくなりたい女性には強い味方になってくれるかもしれません。

日本発のエボラ治療薬となるか〜アビガンの話

西アフリカで発生したエボラ出血熱は、一部の国ではすでに鎮圧されつつありますが、いくつかの国では相変わらず猛威を振るっています。最近ではアメリカやヨーロッパにも飛び火し、日本も対岸の火事とは言っていられない情勢になってきました。正直、政治家の皆様におかれてはうちわとかSMバーとかは後回しにし、こっちの対策をしっかり打ってくれよと言いたいところではあります。

 そのエボラ治療薬として、日本の薬が脚光を浴びています。富士フイルムの「アビガン」という薬で、もともとは富山化学が開発していた薬剤です。化合物名は「ファビピラビル」、かつてはT-705というコードネームで呼ばれていました。この薬が、恐るべきエボラウイルスに有効ではないかという結果が出つつあるのです。

 抗ウイルス剤は、医薬の中でもいまだに最も難しい領域のひとつです。細菌の場合は、自前で生活・増殖できる仕組みをひと通り持っています。その仕組みをうまく薬剤によってストップしてやれば、繁殖を抑え込めます。たとえばペニシリンなどは、細菌の生存に不可欠な「細胞壁」を作る酵素をストップします。あらゆる細菌はこの細胞壁を持っていますので、ペニシリンは多くの細菌に対して有効です。

penicillin
ペニシリン

 しかしウイルスは細菌と異なり、増殖のための仕組みを自前で持っておらず、宿主生物の細胞のシステムを乗っ取って増殖を果たします。このため、ウイルス自身の作るタンパク質はごくわずかであり、薬を開発しようにも狙い所が少ないのです。また、ウイルスは持っている遺伝子も形状やサイズも驚くほど様々であり、非常に多様性が高いということもあります(ちなみにエボラウイルスは、遺伝子として1本鎖RNAを持っているタイプに属します)。

 このようなわけで、ウイルスには細菌と異なり狙い所が少なく、共通の弱点といえるものもありません。抗生物質は一剤で多くの細菌をやっつけてくれますが、抗ウイルス剤はエイズ、インフルエンザ、C型肝炎など、個々の病気に特化したものにならざるを得ません。しかもウイルスの変異は速いため、せっかく開発した薬剤がすぐ無効になってしまうことも少なくありません。

 というわけでウイルスは極めて厄介な敵であるわけですが、これに立ち向かうアビガンとはどのような薬か。実は下図のように、C5H4N3O2Fと、わずか15原子から成る大変にシンプルな構造です。

T-705
アビガン(ファビピラビル)の構造式。水色はフッ素

 こんな簡単な化合物が、いったいどうエボラウイルスに作用しているのでしょうか?実はこの化合物、RNAを構成する部品である、シトシンやウラシルにちょっと似ています。え、似てるのは下半分だけで、上半分は全然違うじゃんって?筆者もそう思うのですが、エボラウイルスはうっかり者であるのか、シトシンやウラシルと間違えて、このアビガンを取り込んでしまうのです。

CU
シトシン(左)とウラシル(右)

 取り込まれたアビガンは、さも本物であるかのような顔をして、RNAのパーツとして組み込まれるべく、下のようにデコレーションされます。そして、これらをつなぎ合わせてRNAを作り出す、「RNAポリメラーゼ」に入り込みます。

TP

 ここまで来てウイルスはようやく騙されたことに気づきますが、時すでに遅しで、この分子はRNAポリメラーゼにがっちり取り付いて離れなくなります。となるとエボラウイルスは遺伝子であるRNAを複製することができず、これによってウイルスの増殖がストップしてしまうのです。

 薬の構造があまり本物のシトシンやウラシルに似ていると、RNAポリメラーゼからすぐ離れてしまって効果を示しません。逆に違いすぎると、さすがにウイルスが間違えてくれず、うまく取り込まれません。アビガンの構造は、この間隙を絶妙に突いているわけです。


 実はこのアビガン、最初からエボラ出血熱を目指して開発されたものではなく、もともとはインフルエンザの薬でした。しかし、同じRNAポリメラーゼを持つタイプのウイルスであるから、エボラにも効くのではないかということで緊急措置として試したところ、どうやら効果がありそうだということになったわけです。近く、フランス政府がエボラ出血熱治療薬としての、正式な臨床試験を開始することになっています。

 ということは、RNAポリメラーゼを持つ他のウイルスにも効く可能性があるわけです。実際、西ナイル熱や黄熱病にも有効という話がありますし、最近ではノロウイルスにも効果があるのではという研究も出てきました(参考)。ノロウイルスは日本でも毎年多くの食中毒患者を出しますので、本当に有効ならば朗報となります。

 ただし実のところ、アビガンは普通に医療機関などに流通していない薬です。動物による安全性試験の段階で、胎児に奇形が生じる可能性が認められたため、日本では通常の認可が下りなかったのです。結局アビガンは、従来の薬が効かない新型インフルエンザが流行したときのみ、政府の命令によって製造されるということになっています。通常なら不認可ということもありえたが、タミフルなどとはメカニズムの異なる有望な薬なので、非常時の切り札として残された、ということのようです。

 もちろん現状のエボラ出血熱拡大の危険性は、副作用のリスクをはるかに上回るでしょう。アビガンの臨床試験がうまくいき、エボラ鎮圧に貢献することを祈るばかりです。できれば、通常のインフルエンザやノロにもこの薬が利用可能になる日が来れば、なお素晴らしいことでしょうが。

含ホウ素医薬・タバボロール

 しばらくまともな記事が書けていませんでした。この間、脱法ハーブ改め危険ドラッグの話とか、世間ではいろいろあったわけなのですが、いずれタイミングを見て取り上げたいと思います。

 ということで今回は医薬関係の話。このほど米FDAは、Anacor社から申請されていた爪白癬治療薬タバボロール(Tavaborole)を認可しました。下図に示す通り、わずか原子17個から成る、非常にシンプルな構造の薬です。
tavaborole1
水色はフッ素、ピンク色はホウ素

 大きな特徴は、ホウ素原子を有している点です。生体分子のほとんどはC,H,N,O,S,Pなどの元素でできていますので、体内で働く医薬品もまたこれらの元素で作られたものがほとんどです。これ以外のヘテロ元素を含んだものは数少なく、筆者の知る限りこれまでホウ素の入った医薬品は、多発性骨髄腫治療薬ボルテゾミブ(商品名ベルケード)くらいであったかと思います。

Vercade
ベルケード。右側にボロン酸構造を含む

 タバボロールのような小さな化合物が、きちんと標的タンパク質を見分け、結合できるのかと思ってしまいますが、意外にうまく行くようです。標的は真菌の作る「アミノアシルt-RNA合成酵素」(AARS)で、アミノ酸をt-RNAに結合させる働きを持ちます。これを阻害することにより、タンパク質合成を妨げて菌の増殖を食い止めるという仕掛けのようです。

Tavapro
アミノアシルt-RNA合成酵素

 タバボロールは、このRNAの糖部分に、下図のように共有結合でくっついてしまいます。ボロン酸エステルは糖の保護基によく使われますが、これを医薬に応用したといえます。

Tavaborole
タバボロールとAARSの結合部分を示す

 この薬の開発元であるAnacor社は、ホウ素医薬に特化した会社なのだそうで、他にも同様な骨格を持つ化合物がいくつか開発中であるようです。これでうまく行ったわけですから、医薬というのもいろいろな発想があっていいなあと思った次第です。

PS この薬の開発に関わった方のブログがありました。狙って作ったものではなく、偶然できた副生成物の活性を確認してみたら、意外な作用があったということのようです。創薬にはよくあるセレンディピティではありますが、幸運をみごと逃さず薬にまで仕上げたのは素晴らしいと思います。

医薬にノーベル賞は出るか?(2)

 さて前回、医薬品の開発に対してはここ25年ほどノーベル賞が出ていないと書きました。では今後、ノーベル賞が出るとしたらどんな医薬でしょうか?

 25年前のブラック、エリオン、ヒッチングスらの受賞理由を見ると、「薬物療法の重要な原理の発見」とあります。つまりこの受賞は、H2ブロッカー(胃潰瘍の薬)やアシクロビル(ヘルペスの薬)を発見した功績ではなく、新しく薬を創り出すための「道筋を編み出した」ことが評価されたわけです。

 たとえばブラックは、「受容体拮抗薬」という医薬ジャンルを確立した一人です。胃潰瘍という病気は、胃酸の出過ぎで起こります。その胃酸は、ヒスタミンという鍵物質が受容体の穴にはまりこむことで放出されます。そこで、受容体の鍵穴に先回りしてはまり込み、ヒスタミンを結合させないようふさぐ(拮抗作用)化合物を創ればよいと考えました。

 ただし、ヒスタミンの受容体は胃酸放出にかかわるもの(H2受容体)ばかりでなく、アレルギーなどに関わるH1受容体というものもあります。これを見分けて、標的であるH2受容体のみに結合する分子でなければ、胃潰瘍治療薬になりません。そこでブラックらは、本来の鍵であるヒスタミンの構造をもとにいろいろなパーツを付け足し、H2受容体のみに結合するシメチジンを創り出しました。現在に至るまで行われている合成創薬の基本形が、ここに確立されたといえます。

cimetidine
ヒスタミン(上)からシメチジン(下)の創成

 現代で、これに匹敵するほどの創薬手法が編み出されているなら、ノーベル賞もありうるといえます。筆者の見るところ、それに当たるのは抗体医薬ということになるでしょう。

 抗体医薬に関しては、以前も何度か本ブログで取り上げています(抗体医薬の台頭日本発の抗体医薬・ポテリジオ)。合成低分子によるのではなく、遺伝子組み換え技術によって作り出した抗体を利用する医薬で、ガンやリウマチなどの治療を現在大きく変えつつあります。

 すでに抗体医薬は、医薬品売り上げランキングの上位を席巻するようになっています。下図に2011年と12年の売り上げランキング(ユート・ブレーン社調べ)を示しますが、長らくベストセラーの座に君臨してきたリピトールやプラビックスの名が消え、12年には抗体医薬がトップ10のうち6品目を占めるに至っています(遺伝子組み換えインスリン製剤のランタスを含め、バイオ医薬が7品目)。合成創薬を手がけてきた者としては、わかっていたこととはいえ相当にショッキングな変化ではあります。

ranking
医薬品売り上げランキング。色をつけたのがいわゆるバイオ医薬。

 抗体医薬の基礎となる、モノクローナル抗体の製法を開発したケーラーとミルシュタインは、すでに1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。これから抗体医薬が受賞の対象になるとしたら、乳ガン治療薬ハーセプチン(ジェネンテック社)や、リウマチ治療薬レミケード(セントコア社、後にジョンソン&ジョンソンが買収)を創り出したチームということになるでしょうか。その効能があまりに革命的であること、製薬業界にこれだけ大きなパラダイムシフトを巻き起こしたことを考えれば、受賞の資格は十分にあるのではないでしょうか。


 その他の医薬で、ノーベル賞の対象になりそうなものはあるのでしょうか?前回紹介したスタチン類の他、アルツハイマー症治療薬アリセプトを開発した杉本八郎博士などは、よく候補として挙げられます。

Aricept
アリセプト

 その他、筆者としてはFK506の発見者も候補に挙げたく思います。免疫抑制剤で、移植手術の際の拒絶反応を抑えるために用いられます。これでしか救えない命を何十万も救っていること、そしてシュライバーらによって研究され、ケミカルバイオロジーの礎を築くことに貢献したことも考えれば、ノーベル賞の価値は十分あるのではと思われます。

FK506
FK506

 もう一人、筆者は「この人こそノーベル賞にふさわしい」と思える人物がいます。エイズ治療薬の研究で知られる、熊本大学の満屋裕明教授がその人です。

Mituya
満屋裕明教授(熊本大のサイトより)

 1980年代半ば、エイズはまだその正体もよくわからず、感染したら最後と恐れられていた死病でした。満屋教授の所属していたアメリカ・NIHの研究所では、全員がエイズの研究を拒否し、満屋教授にもエイズウイルスを用いる研究をしないよう求めたといいます。結局満屋教授は、昼間は他の研究を行い、早朝と夜だけエイズの研究に取り組んだということです。

 こうした死をも恐れぬ研究の中から、満屋教授は世界初のエイズ治療薬AZT(アジドチミジン)を発見します。これは核酸に似た構造で、エイズウイルスが自らを複製する際に働く逆転写酵素を阻害することで効果を発揮します。その後も精力的に研究は続けられ、何と4つの治療薬が満屋教授のグループから世に送り出されています。

AntiAIDS
満屋教授が開発した抗HIV薬

 現在では各種のエイズ治療薬が出揃い、ウイルスに感染してもこれら数剤を一緒に服用し続けることで、エイズの発症を抑えこむことが可能になっています。90年代には不治の病であったエイズが、今や天寿を全うできる病気に変わってしまったわけで、これは近代医薬が人類に為した最大の貢献の一つでしょう。

 アルフレッド・ノーベルは、その遺言で「人類のためにもっとも貢献をした人に賞を与える」と述べています。エイズの治療薬開発ほど、それにふさわしい業績もないのではないでしょうか。あまり一般に知られていませんが、こういう仕事こそ正当に評価されて欲しいと筆者は感じます。

参考:熊本大GCOE 満屋教授紹介ページ











医薬にノーベル賞は出るか?(1)

 さて気づけば今年もノーベル賞の季節が近づいてまいりました。ということで、今年は化学賞の予想はケムステさんにでもお任せして、筆者は生理学・医学賞の方を予想してみましょう。といっても生物学は専門外ですので、「医薬品の開発にノーベル賞は出るか?」というテーマで考えてみようかと思います。

 医薬品を創り出した人にノーベル賞が出た事例は、かつては数多くありました。インスリンを発見したバンティングとマクラウド(1921)はちょっと医薬といえるかどうか微妙ですが、プロントジルを開発したゲルハルト・ドーマク(1939)、ペニシリンを発見したフローリー、チェイン、フレミング(1945)、結核の特効薬ストレプトマイシンを発見したワクスマン(1952)、抗ヒスタミン薬を開発したボベット(1957)などなど、20世紀中盤は多数のノーベル賞が医薬品開発に与えられています。これらが救った人命の数を考えれば、これらの受賞は全く当然といえるでしょう。

Streptomycin
ストレプトマイシン

 しかしこの後は、ぱたりと医薬の開発に対してノーベル賞は出なくなります。この間、創薬技術は劇的に進展し、多くの医薬が世に送り出されたのに、ちょっと不思議なことにも見えます。もちろんプロスタグランジン、一酸化窒素、エイズウイルスなどの発見のように、間接的に医薬の開発に結びついた業績は数多く受賞しています(むしろ、ある発見が医薬の開発に結びつくと、初めてノーベル賞が出るとも言われる)。

 しかし、本当に医薬品の研究者に対してノーベル賞が授与されたのは、H2ブロッカーを開発したブラック、アシクロビルなど抗ウイルス薬を開発したエリオンとヒッチングスら(1988)が最後のようです。この半世紀で、これが医薬研究者が最高の栄冠に輝いた、ほぼ唯一の年といってよいかもしれません。

aciclovir
アシクロビル。ヘルペスなどの治療に用いられる。

 なぜ医薬開発への授賞がなくなったかの理由は定かではありませんが、「現代の医薬は評価が難しい」という点は理由に挙げられそうです。感染症を一挙に駆逐し、多数の人命を救ったことが明らかなペニシリンなどに比べ、生活習慣病の治療薬などの評価は簡単ではないのです。

 一例としては、コレステロールの生合成経路を止める医薬・スタチン類があります。これらは血中コレステロール値を引き下げて動脈硬化を防ぐ妙薬として爆発的にヒットし、史上最大の売り上げを記録した医薬となりました。これを開発した遠藤章博士(元・三共)は、絶えずノーベル賞候補として名前が挙がります。

mevalotin
三共(現・第一三共)の大黒柱となったメバロチン

 しかし近年、スタチン類は確かにコレステロールを下げるものの、寿命の延長にはつながっていないという指摘がなされ、激しい論争となっています(こちらの記事こちらなど参照)。完全に決着がついたとはまだ言えない状況ですが、下手をすればノーベル賞の権威に大きなキズがつきかねないだけに、授賞に慎重になるのは当然かもしれません。

 では医薬でノーベル賞はもはや難しいのか?というと、必ずしもそうでもなさそうに思います。長くなったので、筆者の考える候補はまた次回に。

 参考:
新薬に挑んだ日本人科学者たち」 講談社 日本の創薬史が俯瞰できる、興味深い本です。

麻薬とコーラと麻酔薬

 最近ニュースを見ていたら、コカインの密輸が摘発されたという話が出ておりました。
発表によると、2人は今年4月上旬、コカイン約1・6キロ(末端価格約1億円)の水溶液を染みこませたジャンパーや毛布をブラジル国内から同県春日井市の親族宅に国際郵便で送るよう現地の仲間に依頼し、国内に密輸入した疑い。

 中部国際空港の名古屋税関出張所職員が荷物検査をしていたところ、通常より重く、酸っぱい臭いのするジャンパーを発見し、発覚した。

 いろいろなことを考えるものだと思ってしまいますが、ジャンパー1着に染み込ませたコカインだけで1億円か、というのも驚きです。こうなると危険を犯してでも密輸する者は後を絶たないだろうな、と思えます。しかし酸っぱい臭いって何だったんでしょうね。

 コカインは、南米原産の植物「コカ」の葉から得られます。この葉を噛むと活力が湧いてくるとされ、インディオたちが肉体労働に従事する際に利用されていたそうです。有効成分であるコカインが抽出されるのは1860年のことで、その効果は多くの人を虜にしました。
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コカ

 たとえばシャーロック・ホームズものの第2作「四つの署名」(1890)でも、主人公ホームズがコカインを服用し、ワトソンに薦める場面が出てきます。作者コナン・ドイルもコカインを使っていたとの説もあり、今でいうスマート・ドラッグ(集中力や記憶力を増すとされる薬)を服用するような感覚だったのかもしれません。

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コカイン

 コカ・コーラも、当初はコカの葉を原料にしていたことは有名かと思います。もともとは、薬剤師ジョン・ペンバートンが、頭痛や神経衰弱の治療薬として開発したものです。当初は、コカインやアルコールを含んだリキュールとしてスタートしたのですが、当時盛んだった禁酒運動のあおりを受けてアルコールを抜き、清涼飲料水にモデルチェンジしました。さらにコカインの中毒症状が指摘されると、コカの葉を原料から除き、現在のコカ・コーラの原型が誕生します。ともかく1903年まで、コカ・コーラには微量ながら確かにコカインが含まれていたわけです。

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コカ・コーラの開発者ジョン・ペンバートン

 コカインには局所麻酔作用があるため、手術などに応用されていました。しかしコカインは、モルヒネのような禁断症状は起きないものの、精神的な依存性は強力であるため、やはり禁止される他ない薬物です。そこで、コカインの構造をまねた合成化合物が作られ、これらが現在も麻酔薬として常用されます。特にリドカイン(またはキシロカイン)は十分な効果がある上に毒性も低く、歯科用麻酔薬として常用されますので、名前を聞いたことのある方も多いでしょう。

Lidocain
procaine
リドカイン(上)とプロカイン(下)

 人を破滅に追いやる麻薬も、扱いようでうまく活かせるという好例でしょう。構造を変えることで、より優れた性質を引き出してみせたこれら麻酔薬は、人類と化合物の付き合い方のみごとな成功例に挙げてよいのではと思います。

参考:
麻薬とは何か―「禁断の果実」五千年史
毒と薬の科学―毒から見た薬・薬から見た毒

珍しい元素を含んだ医薬

 昔から人類は病を治すため、様々な動植物・鉱物を、医薬として試してきています。水銀や鉛の化合物など、今となっては危険な毒物でしかないものが妙薬と信じられていた時代もありました。
 現代でも、金属塩が医薬として用いられている例は少なくありません。リチウム塩は双極性障害、金塩はリウマチ、白金塩はガン、ビスマス塩が下痢の治療薬として用いられているなどがその例です。その他、検査薬や造影剤、ガンの放射線治療などに、各種金属が用いられます。

 しかし通常の低分子医薬では、用いられる元素は極めて限られています。C・H・O・N・S・P及びハロゲン類くらいのもので、それ以外の元素はほとんど用いられることはありません。

 ところが最近になり、ホウ素を構造中に含む薬が登場しました。多発性骨髄腫治療薬ボルテゾミブ(商品名ベルケード)がそれで、プロテアソームを阻害することによって腫瘍細胞をアポトーシスに追い込むという新しい作用機序の薬です。
ベルケード
 (ボルテゾミブの構造。ピンク色がホウ素原子)

 見ての通りペプチドを模した構造ですが、右側のカルボン酸であるべき部分がホウ酸ユニットに置き換わっています。これによってターゲットのプロテアソームを「だまし」、その働きをブロックしてしまうという仕組みです。単純といえば単純な仕掛けですが、薬としては極めて有効で、すでに8億ドル近い年間売上を叩き出すヒット商品となっています。

 大鵬薬品からはTAC-101という化合物が、やはり抗ガン剤として開発中であり、現在Phase3段階にあります。この化合物はケイ素を2つ含んでおり、ちょっと医薬のイメージからは遠い構造です。

TAC-101
 (TAC-101。黄緑色がケイ素原子)

 この化合物はレチノイン酸受容体を標的としており、やはりアポトーシスを誘導することでガン細胞を殺す狙いを持ちます。比較的シンプルな構造ですが、通常メディシナルケミストの発想しない構造で、あるいはコンビケムによるライブラリから見つかったものでしょうか。

 ホウ素もケイ素も、いずれも炭素と安定な結合を作るにも関わらず、低分子医薬としては使用例がほとんどありません。手詰まりになったときは、たまにこんな化合物を作ってみると意外な活性があるかもしれません。常識にとらわれず、何でもやってみることも時に重要なのではと思います。

製薬業界FAQ

 この季節になると、筆者のところにも学生さんから「製薬業界はどんな職場なんですか?」というメールをよくいただきます。我々の時代と違い、だいぶ就職活動の時期も早まっていて、求められる条件にも変化が出てきているようです。というわけで、ちょっと製薬業界志望者への筆者なりのFAQを。

 ・研究所の一日を教えて下さい

 だいたい僕のいたところでは朝が8時半スタート、夜は7時半〜9時くらいまででした。これは会社によってもだいぶ違うと思います。基本的には実験ばかりの毎日です。自分で合成したサンプルを薬理部門の担当者に提出し、返ってきたデータを見てどこを改良すべきかを考え、次の新しい化合物をデザインし、それを合成・提出して……の繰り返しとなります。普段は合成するサンプル量はせいぜい数十〜数百mgですが、テーマの進展具合によって大量合成(数百グラム単位くらいまで)も行います。これは失敗が許されず、かなり苦しい作業です。

 会社の設備はたいていの大学よりもいい物が揃っていますし、スターラーなんかも一人3台くらい使っていますので数もこなせます。いかにうまく時間を使って、効率よく実験を組み立てていけるかが勝負です。がむしゃらにやたら長時間頑張る人もいますが、短時間で効率よく結果を出している人もやはりいます。

 また特許書き、発表用資料や月報の作成、、セミナーでの発表、社内で担当する業務をこなすといったことも当然行います。年数が経ち、リーダーの立場に近づくにつれて、他部門との折衝・プレゼン・報告などの作業が増え、実験をする時間は少なくなっていくのが普通です。

 ・仕事は楽しいですか?

 実験が好きなら楽しい職場です。嫌いならやめた方がいいでしょう。当たり前ですが、重要です。

合成の仕事はそう簡単にゴールにたどり着くことのない地味な作業ではありますが、「あ、結晶になった」「不純物が抜けた!」「おっしゃ活性上がった!」などなど小さな喜びが少しずつあるのがよいところです。これが事務系の仕事にはない、合成屋の長所と思います。

 もうひとつ合成のいいところは、学生時代にやっていたことをそのまま生かせることです。他の仕事、例えば事務や営業、生物系などの研究職でさえも、学生時代にやっていたことと会社でやることは多かれ少なかれ異なります。彼らはかなりの期間研修を積み、先輩に仕事を教えてもらわないと戦力にはなりません。しかし合成は、配属になったその日から一応仕事ができます(もちろん覚えること、勉強しなければいけないことはたくさんありますが)。即戦力、スーパールーキーなんてものがありうるのは、野球選手と合成屋くらいじゃないかと思います。

 ・研究所の雰囲気はどうですか?

 これは会社によっていろいろ違うようで、一概には言えません。同じ会社の中でも、部署、サイトによってずいぶん文化が違ったりするようです。伝統、トップのキャラクターなどによって各社それぞれの色があります。

 ・学部・学歴による有利・不利はありますか?

 会社には理学部・工学部・薬学部・農学部などいろいろな学部の出身者がおり、就職にどこが有利ということはありません。薬について基礎知識のある薬学部出身者はやはりある程度有利な面はありますが、入社後の勉強によって十分追いつけます。

学歴については、我々が入社したころには「博士は不利、修士がよい」という風潮がありましたが、最近は各社とも博士採用が増えているようです。ただし学部卒の研究職採用はほとんどなくなりました。

 ・学生時代の研究テーマによる有利・不利はありますか?

 特になく、全合成をやっていた人、素反応をやっていた人、あるいは無機化学に近いことや天然物採取をやっていた人などもいます。ただ会社では多くの種類の反応、小スケールから大スケールまでの合成を行いますので、そうした経験のある全合成経験者は重宝されるかもしれません。とはいえ、有機合成の基礎さえしっかりしていれば、学生時代の専門分野に関わりなく活躍できます。

 ・会社と大学の実験の違いは何ですか?

最も大きいのは、スピードを求められる点かと思います。収率10%の反応をいろいろ検討して改善を図るより、10倍スケールで反応をかけて力でねじ伏せるケースもあります。また、簡単に多種類のサンプルを作れる合成ルートデザインが求められたりもします。
その他、会社では凝った難しい条件の反応はあまりやらない代わり、広い範囲の反応をこなす必要があります。この辺はやはり経験が必要になります。

 ・入社前に身につけておくべきことはなんですか?

 僕の個人的な意見ですが、有機合成の力に尽きます。他のことは後でもできますが、有機合成の基礎だけは後からではなかなか追いつくものではありませんので……。半端に他のスキルを身につけるより、今しかできないことをすべきでは。外資系でもないのにTOEICの点数がどうたら言ってくる会社もあるようですが、正直愚策だと思います。

 後は、これはどこの世界でもそうだと思いますが、やはりコミュニケーション能力でしょうか。といっても営業マンみたいな立て板に水のしゃべりが必要なわけではなく、普通に挨拶して普通に意思を伝えることができれば十分なのですが、それができない人もやはりいるようで。

 ・ぶっちゃけ給料はいいですか?

いろいろなレベルで人件費抑制策が進んでいますが、それでも他業界よりはまだよいようです。それがいつまで続くかは筆者にはわかりません。

 ・製薬業界の将来はどうですか?また、将来性のある会社はどこですか?

 それがわかるようなら、筆者も株でも買ってひともうけするところなのですが(笑)。実際、製薬会社は5年先くらいならある程度予想はできても、10年15年先となるとどうなっているか誰にもわかりません。大型新薬で一発当てることもありますし、副作用問題や特許切れで一気に業績が落ち込むこともあります。好調な会社だからこそ、海外のメガファーマに買収されてしまうようなことも十分ありえます。

 ただし、現在製薬業界はどこも新薬不足に悩んでいます。2010年前後に大型医薬の特許が一斉に切れる「2010年問題」は深刻で、強力な研究開発力と巨大な資金を持つメガファーマでさえも苦しんでいるところが多いのが現状です。実際、外資系のメーカーは次々日本を撤退しており、国内でも大規模なリストラを行っているメーカーは少なくありません。実際、ずいぶん優秀な研究員があちこちの会社から溢れ出しているようです。

 現在は、臨床試験通過率の高い「抗体医薬」などに各メーカーとも力を入れ始めており、この傾向が続けばメディシナルケミストのプレゼンスが相対的に低下する可能性はありそうです。個人的には、ケミストの頑張りでこの傾向にぜひ風穴を開けてほしいと思っていますけれども。この「新薬が出にくい」という現状については、そのうちしっかり考察してみたいと思います。

 とにかく今からの時代、どこに就職しても一生安泰ということはないし、何十年も間違いなく安定に繁栄し続ける産業というものもほとんどないだろうと思います。しっかり考えて仕事を選び、自分の居場所を確保しつつも、何があっても大丈夫な自分だけのスキルを身につけることが必要になるのでしょう。周りを見回しても、やる人はきちんとやっているようです。

 以上、筆者の個人的な見解でした。

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