内科・救急・集中治療の勉強日記

内科・救急・集中治療の話が中心の個人の備忘録です。情報を参照する場合は、必ずご自身での確認を行ってください。

敗血症の輸液について

米国では様々なことにプロトコールが存在しており、オーダーもいろいろなセットオーダーとなっているのが主流です。例えば敗血症だと、30ml/kgの輸液を自動で開始するセットなどがあります。日本にいた時には個別に決めていたので、このセットだと輸液過剰になることもありプロトコールがいつも正しいわけではありませんが、遂行しなければいけないルールとなっています。


SSCGでは敗血症に起因するhypo-perfusionに対して少なくとも30ml/kgの晶質液の輸液を推奨しています。これはStrong recommendationと成っていますが、evidence levelとしてがlow quality evidenceです[1]。アメリカ合衆国連邦政府とSSCGは驚くことに、この30ml/kgに例外を認めておらず例えば肺炎やARDSを発症した患者にも有害な可能性があるにもかかわらずこの30ml/kgを投与するようにと定めています。


米国ではこのSEP-1(Sepsis CMS Core Measure) protocolというのに例外なく従わなければいけないわけですが、内容としては基本的に敗血症の定義はSepsis2のままであり、Severe sepsisに対しては3時間以内に乳酸値の測定、抗菌薬前の血液培養の採取、抗菌薬の投与を、6時間以内に(もし乳酸血が2mmol/L以上であれば)乳酸値の再検を要求しており、Septic shockに対しては3時間以内に乳酸値の測定、抗菌薬前の血液培養の採取、抗菌薬の投与に加えて30ml/kgの輸液を、そして6時間以内にボリューム評価と組織灌流の評価を要求しています。そしてこのボリューム評価にはバイタルサイン、Capillary refill、末梢の脈、皮膚所見が含まれており、さらにCVP、ScvO2、ベッドサイドエコーでの評価、PLRまたは輸液のボーラスチャレンジのうち2つを少なくとも行わないといけません。


ここでの落とし穴ですが、まず、Severe sepsisの定義ですが、少なくとも臓器不全を伴う敗血症で、敗血症性ショックの定義が輸液をした後にも関わらず低血圧が遷延するものです。したがって敗血症と診断した時点ではSevere sepsisなのかSeptic shockなのかを判定できません。それゆえに結局、すべての症例で30mL/kgが投与されることとなります。さらにCVPやScvO2と言った輸液の指標には適していない、あるいはエビデンスが不十分なものを強制している点も落とし穴の一つです。


この輸液のコンセプトですが、静脈から輸液をすれば静脈還流量が増加し、心拍出量が増えるというコンセプトです。しかしながら、静脈還流が増加するためには静脈系の圧格差が増加する必要があります。Guytonの生理学によれば静脈還流量は末梢静脈圧と右房圧の圧格差で規定されます。そして静脈系はStressed volumeとUnstressed volumeに分類され静脈内のボリュームが満ちて行った時にある時点で静脈がそれ以上Expandしなくなり圧が上昇し始めます。その直前までのvolumeをUnstressed volume、そしてそれ以降のvolumeをStressed volumeと言います。平均循環充満圧(Mean ciculating filling pressure: MCFP)というのは心臓が動いていないと仮定した時の血管内圧のことですが、これに大きく寄与するのはStressed volumeと言われています。輸液を行った場合にもし静脈還流を増やしたければ、このStressed volumeが増えることによって増加するMCFPの増加の程度が、CVPの増加の程度を上回っていないと還流が増えることはありません[2]。通常大量に輸液をしても拡張障害がなければ、健常な人では拡張期容積が拡張することでCVP上昇をすることなく反応できます。しかしながら敗血症においてはしばしば拡張障害を呈するためCVPが上昇しやすい状況ができています[3]。したがって輸液を行いすぎると、ある程度のところでMCFPの増加よりもCVPの増加の方が大きくなってくるポイントが出てきます。さらに臓器灌流はMAPとCVPの差で規定されるため、CVPが大きくなると臓器灌流まで低下します。実際にこの差が少ないとAKIの発生が多かったという観察研究があります[4]。さらに無意味な過剰輸液は各部位のコンパートメント症候群を引き起こしmorbidityとmortalityの両方と関係しています[5,6,7]。

したがって、輸液をすることでCOを上げない限りは輸液は害になるだけというふうに考えて良さそうです。そしてこの輸液をすることでCOが上昇するかどうかのことを”Fluid responsiveness”と言います。Passive leg raisingでは仮想輸液負荷状態を作り出し、それによりCOが増えるかどうかをみるものです。輸液負荷もすることもなく評価できるため最高の方法に見えますが、COの測定値が信用できるのかというのが常に付きまといます。

つまり、輸液はそう簡単ではなく、プロトコールなどで決めることは困難だと思います。


過去の大規模研究ではSeptic shockの最初の3時間のプロトコールのうち、抗菌薬の早期投与ができたかどうかは死亡率に関係していたものの、輸液のボーラスができたかどうかは死亡率には関係なかったという結果となっています[8]。


このようなことから、何でもかんでも30ml/kgの輸液を行う方針にはいささか疑問が残ります。。。少なくとも現時点で敗血症において本当に脱水補正の範囲を超えた輸液が良いか悪いかは誰も知らないというのが本当のところだと思います。


[1] Intensive Care Med 2017;43(3):304-77

[2] Intensive Care Med 2013;39(7):1299-305

[3] Eur Heart J 2012;33(7):895-903

[4] J Crit Care. 2015;30(5):975–81

[5] Anaesthesiol Intensive Ther 2014;46(5):361-80 

[6] Anaesthesiol Intensive Ther 2014;46(5):433-50

[7] Crit Care2016;20:67

[8] N Engl J Med 2017;376(23):2235-44

ARDS急性期にステロイド?

ARDSの急性期におけるステロイドの使用に関して、2017年9月22日に発表されたSCCMとESICMの合同のガイドライン驚きの内容がありました。


Guidelines for the diagnosis and management of critical illness-related corticosteroid insufficiency (CIRCI) in critically ill patients (Part 1): Society of Critical Care Medicine (SCCM) and European Society of Intensive Care Medicine (ESICM) 2017


このCIRCIですが重症疾患における視床下部ー下垂体系におけるストレス応答の障害と認識されており、重症病態においてGlucocorticoidによる抗炎症活性がうまく機能せず炎症が制御不能においちる状態を指します。


まず、CICRIの診断に関する推奨ですが、

1.CICRIの診断において、ACTH負荷後の総コルチゾール値がランダムな総コルチゾール値に比べて有用か?→ このガイドラインではこのどちらを使うべきかに関して推奨なしとしています。


2.CICRIの診断において、遊離コルチゾール値の測定は総コルチゾール値の測定に比べて有用か?→ very low quality evidenceに基づくとしながらも総コルチゾール値の測定を推奨しています。


3.CIRCIの診断において唾液の遊離コルチゾール値の測定は血清総コルチゾール値よりも優れているか?→ very low quality evidenceに基づくとしながらも唾液よりも血清総コルチゾール値の測定を推奨しています。


4.CIRCIの診断において、1-μg ACTH刺激試験は250-μgACTH刺激試験と比べて有用か?→ low quality evidenceですが、high-doseである250-μgACTH刺激試験の方を推奨しています。


5.ハイドロコルチゾン50-300mgを投与してその反応を見る方がACTH負荷試験より有用か?→ very low quality evidenceに基づくとしながらもCIRCIの診断においてハイドロコルチゾンへの反応を見るよりも、250-μgACTH刺激試験を行うことを推奨しています。


6.CIRCIの診断において、コルチコトロピン値を測定する方が250-μgACTH刺激試験よりも有用か?→ 250-μgACTH刺激試験の方を推奨しています。


次に敗血症ですが、


A.ショックでない敗血症の成人患者にステロイドを用いるべきか?→ ショックがない場合、推奨されない。


B.敗血症性ショックの成人患者でステロイドは投与されるべきか?→ 輸液療法及び、中等量から高用量昇圧剤を用いていも反応しない敗血症性ショックでのステロイド投与を推奨する。


C.敗血症性ショックに投与するステロイドの種類と投与量はどうすべきか?→ ハイドロコルチゾンを400mg/day未満の投与量で3日間以上用いることを推奨する。


次にARDSですが、これが最も驚きの推奨でした・・・


I.ARDSの成人患者においてステロイドを用いるべきか?→ P/F ratio <200で発症14日以内の中等症から重症のARDSにおいてステロイドの投与を推奨する。文献中では発症7日以内であれば1mg/kg/dayのメチルプレドニゾロンを、それ以降の発症であれば2mg/kg/dayで13日以上かけてテーパリングすることを推奨しています。


外傷について

a.多発外傷の成人患者でステロイドを用いるべきか?→ 用いないことを推奨する。


ざっと内容をまとめましたが驚いたのが発症早期のARDSに対するステロイド投与です。知らないうちに大きな研究でも出たのかと思い調べてみましたが、これに関する新しい大きな研究はなさそうです。主に根拠にしているのはIntensive Care Med 2016;41(3):517-20のようです。

発症早期はdoseが少なめなことの根拠はJAMA 1998;280:159-65やN Engl J Med 2006;354(16):1671-84を挙げています。これらの参考文献の大半はMeduri GUらによって書かれたものであり、ちょっとこれだけで推奨とまでなるのはどうかなあと思いました。


しかしSCCMとESICMの合同のガイドラインとなると影響力がかなり大きそう、世の中の治療が一気に変わりうるのかと思います。しかし、この発症早期のステロイドに関しては、やはりRCTでの評価がいるような気がします。また1mg/kg/dayという非常に少ないメチルプレドニゾロン量が役に立つのはピンとこないような気もします。

Auto PEEPについての基本

Auto PEEPについての基本


気管支喘息やCOPDの急性増悪では基本的に肺が過膨張になる傾向があり、Auto PEEPは発生してしまうことがあります。この予防のために深めの鎮静や、low tidal volume、呼吸数を抑えてARDS同様にhypercapniaをある程度許容するといった戦略をとることが多いかと思います。また大前提としてSABA+SAMA+ステロイドといった、これらの原疾患の治療が最大限にできていることも前提となります。


Auto PEEPが存在すると呼気終末に吸気に転じる際にAuto PEEP以上の吸気努力を行わないと吸気努力が口元まで伝わらないためにトリガーができなかったりあるいは遅れたりします。そこで理屈としてはAuto PEEPと同じだけの圧をカウンターPEEPとしてかければ吸気を開始することができます。このカウンターPEEPはAuto PEEPの80%以下に抑えておくことが推奨されています[1]。しかしながら問題点として、自発呼吸がなければVCVで呼気ポーズをとればauto PEEPの測定ができるわけですが、自発呼吸では臨床的にAuto PEEPの測定は難しいためカウンターPEEPの至適値を算出するのは困難なことが多いと思われます。なので個人的には少しずつ5cmH2Oくらいから始めて上限が8-10cmH2OくらいまでカウンターPEEPを増やしながら反応を見る感じになるかなあと思います。結局、意識があれば本人が最も楽という値にセットすることが多い気がします。
 

トリガー不良の場合は人工呼吸器期間が長く予後不良であることが指摘されているため[2]、やはり喘息発作やCOPDでAuto PEEPのハイリスク患者では人工呼吸器のグラフィックのスケールを拡大し、目ざとく呼気のflowがきちんと0に戻っているかを確認し、怪しい場合は深めの鎮静で呼吸回数を抑えておいた方が無難かもしれません。


[1] Ann Emerg Med 1997;29:275-81

[2] Crit Care Med 2009;37:2740-5

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