2009年07月11日

人間文化研究機構 第10回シンポジウム「百鬼夜行の世界」

有楽町マリオンで開かれた人間文化研究機構 第10回シンポジウムに行ってきました。

テーマは「百鬼夜行の世界」。


プログラム

開会の挨拶 金田 章裕(人間文化研究機構長)ほか
基調講演
「妖怪絵巻誕生の謎を解く」 小松 和彦(国際日本文化研究センター教授)
「美術史の立場から」 若杉 準治(京都国立博物館列品管理室長)
「国文学の立場から」 徳田 和夫(学習院女子大学教授)
「情報学の立場から」 山田 奨治(国際日本文化研究センター准教授)
休憩
コメント1 香川 雅信(兵庫県立博物館学芸員)
コメント2 小林 健二(国文学研究資料館教授)
パネルディスカッション

司会:常光 徹(国立歴史民俗博物館副館長)
パネリスト:小松、若杉、徳田、山田、香川、小林



基調講演のトップバッターは、以前このサイトでも紹介した『妖怪絵巻誕生の謎を解く』の著者、小松和彦氏
発表の内容は本の内容と重複する部分が多かったのですが、百鬼夜行絵巻を以下の3つのタイプと分類してみる、というものも。
1)都大路更新型の百鬼夜行絵巻
2)山中出没型の百鬼夜行絵巻
3)化け物屋敷型の百鬼夜行絵巻
講演の中ではあまり触れられませんでしたが、配布されたパンフレット(立派でびっくり)に記載されている「戯画と妖怪画との違い」についての説明も面白く、違いは「なにかのきっかけで覗くような場面があるかどうか」にかかっているといいます。
単に動物たちが擬人化されているだけでは、動物が主人公の物語で終わってしまいますが、それを覗き見る人間が介在することで、怪異譚の性格を帯びるというのですね。
今後の研究方向としては家来の鬼化に注目というお話も。


「美術史の立場から」からは、若杉準治氏。
若杉氏の発表で面白かったのは、行列図の系譜に百鬼夜行図をおいてみるというもの。
行列図の発端とされるのは、後白河法皇のもとで制作された行事記録画。1173年の『玉葉』には、各大臣の容貌を似せて描いた記録としての行列図があるとのこと。
鎌倉時代には行列図が型として成立していて、物語を主題とした行列図とは別に、個人の特徴を描こうとした行列図が多様に変化して後から物語性が追加された、と考えることもできるようです。
「辟邪絵」という邪悪なものから人間を守る異累神を描いたものに「神虫」と呼ばれる昆虫のような生き物が描かれているのですが、この神虫の典拠は不明とのこと。
(家蜘蛛は害虫を食べてくれる益虫なので見つけても殺すなといいますが、関係あるのかも?)

「国文学の立場から」は徳田和夫氏。
徳田氏によると、妖怪の行列を描いたものは、中世の文学や文芸の表現形態に通じるものがある、と。「物尽くし(ものづくし)」や「揃え(そろえ)」では、同じような事物を連ねる。さらに、風流(ふりゅう)と呼ばれた、歌声・念仏・輪舞を伴う祭礼や仮装行列、平安時代にはじまった「田楽(でんがく)」などもあり、百鬼夜行が時代の文芸、芸能を体現していると指摘。
洛中洛外図で趣意書を読みあげる場面などの図も、百鬼夜行との類似点。
他にも、赤鬼が櫃をはがしている場面は、鬼が妖怪を脅して追い立てているのではなく、鬼が妖怪を解き放っているのではないかという仮説も。


「情報学の立場から」は山田奨治氏。
個人的に、一番新鮮で感動があったのが山田氏の発表。
門外漢という立場ということもあり絵の解釈からは離れ、情報学の立場から編集距離と系統樹という考え方を使って、百鬼夜行の図像配列と編集過程を推定。
(今年1月に発表されたとのこと:「百鬼夜行図」編集の系譜, 日文研怪異・妖怪文化の伝統と創造研究会, 2009.1.24.

方法を簡単に言うと、仮に2つの絵巻があったとしたら

1.2つの絵巻に描かれた共通の図を記号化。
2.記号の並び順(配列)を比べる。
3.1つの置換だけで同じ順番になれば編集距離は1、2つ置換だと編集距離は2とみなす。

以上を繰り返し、編集距離が小さければ小さいほど2つの絵巻は系統的に近いとみなす、という感じです。
発表を聞いた時には、まさに遺伝子解析の応用だと感じました(ACGTの塩基配列を比較)。
この方法を用いて、9つの百鬼夜行絵巻から真珠庵本系統の系統樹を作成すると、日文研B本がもっとも普遍性があることになり、共通の祖本を持つとしたら、日文研B本の図像配列が祖本に最も近い、ということに。

というわけで、この発表は小松氏の本にあった仮説を強力にサポートすることになったわけです。
この他にも、真珠庵本には後世の錯簡(順番が入れ替わっている)の可能性があることを示唆したり、と驚きの連続。

このような方法論は、他にも応用できそう(版画は反転するけれど、遺伝子でも反転の概念はあるし)と期待。



そうそう、パネルディスカッションでも皆さん強調されていたのが、あくまでも真珠庵本中心の考え方をいったん脇においてみようということで、これにより真珠庵本の価値が下がることはない、ということ。
(なんだかすごく気をつかっている感じ……。研究者って大変ですね。)



■関連リンク

人間文化研究機構連携展示 「百鬼夜行の世界」2009年7月18日(土) - 8月30日(日)

国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース


rsketch at 23:55│TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 講座/シンポジウム 

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