日本人でも日本語を間違えるように、アメリカ人でも英語を間違えます。

 ただ、アメリカ人が英語を間違えるとき、日本人が間違えないようなところを間違えるんです。

 そこが面白いですね。

 頻繁に出くわすアメリカ人のミスについてお話ししましょう。

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1. its を it's と書く

 信じられないかもしれませんが、アメリカ人の多くが極めて初歩的なミスを犯します。日本人なら誰でも中学で習う its と it's の違いをアメリカ人の多くが理解していません。私の肌感覚で言うと、2割から3割ぐらいの人かしら。

 例えば、「各国は自国民を保護しなくてはならない」を英語で言うと・・・

 Each country must protect its citizens. ですが、これを・・・

 Each country must protect it's citizens. と書いてしまう。

 出版されている書籍や公的なホームページなどでも見られます。

2. for you and me を for you and I と言う

 前置詞(for, with, to など)の後にくる人称代名詞は目的格(me, him, us など)にしなくてはならないのですが、主格(I, he, we など)を使うことがファッショナブルになっています。

 例えば、「これは君と僕のためだ」を英語で言うと・・・

 This is for you and me. が正しいのですが、これを・・・

 This is for you and I. と言う人がたくさんいます。

 他に、動詞の目的語として人称代名詞を使う際にも、目的格を使うのが正しいのに主格を使ってしまう人が爆発的に増えています。

 例えば、「ジョンソン夫妻が妻と私を招待してくれた」は英語で・・・

 The Johnsons invited my wife and me. ですが、これを・・・

 The Johnsons invited my wife and I. と言う人がものすごい勢いで増えています。

 これは「過剰修正(hypercorrection)」によるものだと私は分析しています。

 「過剰修正」とは、本当は正しいのに類推によって間違いだと誤認し、修正しなくていいものを修正することを意味します。

 アメリカ人は "Me and my brother went to town." という具合に "me" という目的格を主語として使うことがあります。これは教養のない誤った英語だと学校で教わり、"My brother and I" と言うように直されます。

 そうすると、「I は正しい英語で me は誤った英語なんだ」という感覚が無意識に生まれる。

 そして、"my wife and me" は教養のない言い方なんじゃないかと思えてくる。そして、正しく話そうとして "my wife and I" と言ってしまうんです。

 この間違いは大学教授や政府高官に至るまで、教養のある人の間でも蔓延していて、手をつけられない状態にあります。

3. The problem is を The problem is is と言う

 これも手をつけられないぐらい蔓延していて、しかも大学教授や政府高官に至るインテリ層でも気づいていない人が多いです。

 「問題は、民主主義が機能していないということです」は英語で・・・

 The problem
is that democracy isn't functioning. ですが、これを・・・

 The problem
is is that democracy isn't functioning. と言ってしまう人がものすご〜く多くいます。

 is を2回言うんです! 動詞は1つでいいのですが、繰り返すんです!

 主語は、The problem、The question、The thing など数種類あります。

 流石に書き言葉にするとおかしいと分かるので、文体では見られません。話し言葉だけです。

 なぜ動詞を2回も言うのだと思いますか?

 これも「過剰修正」だと私は分析しています。

 英語には、次のような言い方が存在します。

 What the problem is is that democracy isn't functioning.

 「問題が何かと言うと、民主主義が機能していないことです」という意味です。

 この場合 "What the problem is" という句が主語になっていて、それに対して動詞の is が次に来ています。主語の一部として存在する is は、「問題が何であるか」の「ある」の部分です。そして、2番目の is はこの文章全体の動詞です。

 つまり、読むときは・・・

 What the problem is / is that democracy isn't functioning. という風に斜線のところで切ります。そこに意味の切れ目があるからです。

 この What 付きの文章からの類推で、The problem is is ... と2回動詞を重ねてしまうのだと思われます。最初の Is と2番目の is は意味が違うということを意識的に理解していればこのようなミスは起こりませんが、何となく音で覚えているものだから、無意識に Is を繰り返してしまうのでしょう。

4. lead の過去形・過去分詞 led を lead と書く

 lead(導く)の過去形・過去分詞は led なのですが、lead と書いて [led] と読ませようとする人がたくさんいます。これも私の肌感覚だとアメリカ人の3割から4割、ひょっとするともっといるかもしれません。しょっちゅう目にします。

 "lead to 〜" で「〜に至る、つながる」という意味があります。

 「不景気が彼らの倒産につながった」は英語で・・・

 Recession has led to their bankruptcy. ですが、これを・・・

 Recession has lead to their bankruptcy. と書く人が極めて多い。

 ここにも「類推」が働いているものと思われます。

 1つは、read(読む)という動詞からの類推です。read の過去形と過去分詞は現在形と同じ read と書いて [red] と発音します。ここから、lead という動詞も、そのままの綴りで [led] と読ませることができると勘違いをしたのでしょう。

 もう1つは、lead(鉛)という名詞からの類推です。これは lead(導く)という動詞と全く同じ綴りをしていて [led] と発音されます。lead と書いて [led] と読ませる単語をすでに知っていることも手伝って、led とわざわざ綴りを変える必要性を感じにくいのだろうと思います。

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 今日は、私が普段から気になっているアメリカ人の英語のミスについてお話ししました。

 ネイティブスピーカーだから正しい英語を使っているとは限りませんので、ご注意ください。