なぜ日本社会は停滞しているのか
「健全な対立」がある社会には進歩があるけれど、「健全な対立」が何らかの理由で阻害された社会は停滞します。日本にはそういう「行き詰まり感」があると思うのです。
その一因に「保守は一体化できているのに、リベラルは分極化している」という現状があります。
自公連立与党はこの社会に一種の「安定感」を与えていますが、構造改革やジェンダー問題(ジェンダー格差・LGBT・選択的夫婦別姓など)が遅々として進んでいません。
この記事では、三浦瑠璃著「日本の分断」を教科書として用いながら、日本を前進させるために必要な「健全な対立」をどのように作っていくべきかを考えます。それは勿論のことながら、自民党に対して有意義な対立軸を提供し、政権奪取できる野党をどう作っていくかという話と同義です。
外交安保が投票行動を決める第1要因
政治的立場には「外交安保」「経済」「社会」と3つの領域があります。3つとも自分と同じ立場の政党や候補者がいれば、誰でも迷わずそこに投票するのですが、1つか2つしか合わない政党や候補者しかいない場合、日本人は第1に「外交安保」を、第2に「経済」を、そして第3に「社会」を考慮することが「日本人価値観調査2019」で判明しました。
日本人のマジョリティーは「外交安保リアリズム」で、憲法改正・日米同盟強化・自衛隊の役割拡大を支持しています。
よって、どれだけ優れた「経済政策」を打ち出しても、「外交安保リアリズム」に反対している政党には政権を取る可能性がありません。現在の立憲民主党は、どれだけ「経済政策」と「社会政策」で優れた対案を出しても、「外交安保リベラル」であり続ける限り、日本国民から政権を委ねられることはないのです。
日本人の平均は「外交安保やや保守」「経済やや保守」「社会ややリベラル」
日本人は穏健で中道な人が多く、極端な右派も左派もあまりいません。外交安保と経済においては中道のやや保守よりで、日米同盟支持と成長重視(分配よりも)です。また、社会政策では54%の人がリベラルであり、中道のややリベラル寄りに重心があります。
ということは、国民の実情と自民党政権が最も乖離している領域が「社会政策」にあるわけです。
自民党の弱点は「社会保守」であること
野党が政権を奪うには、自民党の弱点を争点化しなくてはなりません。そして、自民党の弱点とは「社会保守」であることなのです。
自民党が取っている「外交安保保守」「経済保守」は日本人のマジョリティーと合致しているので強みですが、「社会保守」だけは日本人のマジョリティーとズレていて弱みとなっています。平均的な日本人は、自民党が取っている立場よりもリベラル寄りであり、男女平等や選択的夫婦別姓やLGBTの人権などに配慮したいと思っている人が過半数です。また、若い層ほど「社会リベラル」が多いので、自民党がこのまま「社会保守」で行くと、国民の多数派から見放されるリスクがあります。
自民党の「社会政策」には同意できない多くの「社会リベラル」が自民党を選択している最大の理由は、「外交安保」を安心して任せられる野党がないという実情にあるのです。
「外交安保」での対立が解消したら自民党はヤバい
憲法改正が実現し、日米同盟強化がコンセンサスとして定着し、自衛隊が合法的存在としてその活動を拡大していける環境が整ったなら、戦後ずっと続いてきた日米同盟や自衛隊に関する「保革対立」は影が薄くなります。
そうなると、国民は「外交安保リアリズム」だからというだけで自民党を選んではくれなくなるでしょう。「保革対立」は「経済政策」や「社会政策」へと土俵を移していくからです。
この時、「社会保守」を取り込んできた自民党に危機が訪れます。「外交安保保守+社会保守」の自民党と「外交安保保守+社会リベラル」の野党なら、野党に十分勝ち目があるからです。
自民党の存続にとっては、憲法改正を実現させずに謳い続ける方が得策だという考えもあります。多数派の支持を取り付けられるからです。
自民党にとっては、野党が「外交安保リベラル」の立場を取り、憲法改正に反対し続けてくれる方が有難いと言えます。なぜなら、この状況が続く限り政権を握り続けられるからです。
しかし、これは日本国民にとっては有害だと言えます。「外交安保」以外の領域での社会的進歩がいつまでも達成できないからです。
「自由主義者・リバタリアン(27.2%)」の受け皿になれる政党が決め手
「経済保守+社会保守」の票は自民党が一手に引き受けているのに対して、「経済リベラル+社会リベラル」の票は立憲民主党や共産党やれいわ新選組などに分散しています。
与野党対立は、この「保守 vs. リベラル」の構図で捉えることが多いのですが、実際には、ここに含まれない人口層があるんです。
1つは「経済リベラル+社会保守」である「介入的保守」と呼ばれる層で、これは17.7%と少ないのですが、もう1つの「経済保守+社会リベラル」である「自由主義者(リバタリアン)」は27.2%もいます。
日本人のマジョリティーは資本主義や競争やある程度の格差に反対しているわけではありません。よって、「成長 vs. 分配」において野党が「分配」に偏り過ぎるとマジョリティーは取れないのです。
現在のリベラル野党が「社会リベラル」の票をたくさん取り逃がしているのは、「社会リベラル」の半数以上の人が「成長重視」だからだと言えます。
経済政策においては成長重視だけれど、社会政策においてはリベラルという「自由主義者(リバタリアン)」が日本人の27%もいて、この人口層の受け皿になれるメジャー政党が今のところありません。強いて言えば、維新の会と国民民主党ですが、まだ全国組織としては弱い。
ということで、憲法改正や自衛隊や日米同盟での対立が意味を持たなくなった暁には、この「自由主義者(リバタリアン)」の層を獲得した政党が自民党を倒せる見込みは十分にあります。
この観点から、立憲民主党が共産党と組んだことは、政権奪取に必要な条件から遠ざかったわけで失敗でした。日本人は「外交安保」と「経済」においてリベラルな政権を望んでいないからです。
「社会リベラル」を掲げる政党が与党になるには、「外交安保」と「経済」において中道保守を掲げ、「社会」において中道リベラルを掲げる必要があります。そのような政党が大々的に出現した時には、自民党に大きな脅威となることでしょう。
そういった「健全な対立」が政治闘争の舞台に立つまでは、「社会リベラル票」は様々な政党に分散してしまい自公連立与党に勝ち目がなく、社会政策における前進は日本人の大半が望んでいるにも関わらず阻まれ続けることになるのです。
推薦書
参考ウェブサイト
「健全な対立」がある社会には進歩があるけれど、「健全な対立」が何らかの理由で阻害された社会は停滞します。日本にはそういう「行き詰まり感」があると思うのです。
その一因に「保守は一体化できているのに、リベラルは分極化している」という現状があります。
自公連立与党はこの社会に一種の「安定感」を与えていますが、構造改革やジェンダー問題(ジェンダー格差・LGBT・選択的夫婦別姓など)が遅々として進んでいません。
この記事では、三浦瑠璃著「日本の分断」を教科書として用いながら、日本を前進させるために必要な「健全な対立」をどのように作っていくべきかを考えます。それは勿論のことながら、自民党に対して有意義な対立軸を提供し、政権奪取できる野党をどう作っていくかという話と同義です。
外交安保が投票行動を決める第1要因
政治的立場には「外交安保」「経済」「社会」と3つの領域があります。3つとも自分と同じ立場の政党や候補者がいれば、誰でも迷わずそこに投票するのですが、1つか2つしか合わない政党や候補者しかいない場合、日本人は第1に「外交安保」を、第2に「経済」を、そして第3に「社会」を考慮することが「日本人価値観調査2019」で判明しました。
日本人のマジョリティーは「外交安保リアリズム」で、憲法改正・日米同盟強化・自衛隊の役割拡大を支持しています。
よって、どれだけ優れた「経済政策」を打ち出しても、「外交安保リアリズム」に反対している政党には政権を取る可能性がありません。現在の立憲民主党は、どれだけ「経済政策」と「社会政策」で優れた対案を出しても、「外交安保リベラル」であり続ける限り、日本国民から政権を委ねられることはないのです。
日本人の平均は「外交安保やや保守」「経済やや保守」「社会ややリベラル」
日本人は穏健で中道な人が多く、極端な右派も左派もあまりいません。外交安保と経済においては中道のやや保守よりで、日米同盟支持と成長重視(分配よりも)です。また、社会政策では54%の人がリベラルであり、中道のややリベラル寄りに重心があります。
ということは、国民の実情と自民党政権が最も乖離している領域が「社会政策」にあるわけです。
自民党の弱点は「社会保守」であること
野党が政権を奪うには、自民党の弱点を争点化しなくてはなりません。そして、自民党の弱点とは「社会保守」であることなのです。
自民党が取っている「外交安保保守」「経済保守」は日本人のマジョリティーと合致しているので強みですが、「社会保守」だけは日本人のマジョリティーとズレていて弱みとなっています。平均的な日本人は、自民党が取っている立場よりもリベラル寄りであり、男女平等や選択的夫婦別姓やLGBTの人権などに配慮したいと思っている人が過半数です。また、若い層ほど「社会リベラル」が多いので、自民党がこのまま「社会保守」で行くと、国民の多数派から見放されるリスクがあります。
自民党の「社会政策」には同意できない多くの「社会リベラル」が自民党を選択している最大の理由は、「外交安保」を安心して任せられる野党がないという実情にあるのです。
「外交安保」での対立が解消したら自民党はヤバい
憲法改正が実現し、日米同盟強化がコンセンサスとして定着し、自衛隊が合法的存在としてその活動を拡大していける環境が整ったなら、戦後ずっと続いてきた日米同盟や自衛隊に関する「保革対立」は影が薄くなります。
そうなると、国民は「外交安保リアリズム」だからというだけで自民党を選んではくれなくなるでしょう。「保革対立」は「経済政策」や「社会政策」へと土俵を移していくからです。
この時、「社会保守」を取り込んできた自民党に危機が訪れます。「外交安保保守+社会保守」の自民党と「外交安保保守+社会リベラル」の野党なら、野党に十分勝ち目があるからです。
自民党の存続にとっては、憲法改正を実現させずに謳い続ける方が得策だという考えもあります。多数派の支持を取り付けられるからです。
自民党にとっては、野党が「外交安保リベラル」の立場を取り、憲法改正に反対し続けてくれる方が有難いと言えます。なぜなら、この状況が続く限り政権を握り続けられるからです。
しかし、これは日本国民にとっては有害だと言えます。「外交安保」以外の領域での社会的進歩がいつまでも達成できないからです。
「自由主義者・リバタリアン(27.2%)」の受け皿になれる政党が決め手
「経済保守+社会保守」の票は自民党が一手に引き受けているのに対して、「経済リベラル+社会リベラル」の票は立憲民主党や共産党やれいわ新選組などに分散しています。
与野党対立は、この「保守 vs. リベラル」の構図で捉えることが多いのですが、実際には、ここに含まれない人口層があるんです。
1つは「経済リベラル+社会保守」である「介入的保守」と呼ばれる層で、これは17.7%と少ないのですが、もう1つの「経済保守+社会リベラル」である「自由主義者(リバタリアン)」は27.2%もいます。
日本人のマジョリティーは資本主義や競争やある程度の格差に反対しているわけではありません。よって、「成長 vs. 分配」において野党が「分配」に偏り過ぎるとマジョリティーは取れないのです。
現在のリベラル野党が「社会リベラル」の票をたくさん取り逃がしているのは、「社会リベラル」の半数以上の人が「成長重視」だからだと言えます。
経済政策においては成長重視だけれど、社会政策においてはリベラルという「自由主義者(リバタリアン)」が日本人の27%もいて、この人口層の受け皿になれるメジャー政党が今のところありません。強いて言えば、維新の会と国民民主党ですが、まだ全国組織としては弱い。
ということで、憲法改正や自衛隊や日米同盟での対立が意味を持たなくなった暁には、この「自由主義者(リバタリアン)」の層を獲得した政党が自民党を倒せる見込みは十分にあります。
この観点から、立憲民主党が共産党と組んだことは、政権奪取に必要な条件から遠ざかったわけで失敗でした。日本人は「外交安保」と「経済」においてリベラルな政権を望んでいないからです。
「社会リベラル」を掲げる政党が与党になるには、「外交安保」と「経済」において中道保守を掲げ、「社会」において中道リベラルを掲げる必要があります。そのような政党が大々的に出現した時には、自民党に大きな脅威となることでしょう。
そういった「健全な対立」が政治闘争の舞台に立つまでは、「社会リベラル票」は様々な政党に分散してしまい自公連立与党に勝ち目がなく、社会政策における前進は日本人の大半が望んでいるにも関わらず阻まれ続けることになるのです。
推薦書
参考ウェブサイト