女子バレー部の監督1 肉体接待

 大会が終わり、3年生が引退すると、あたしたち2年生は落ち着きを無くした。4分の3が空になったレギュラー枠に、誰が座るのか。それが気になって、普段の練習にも身が入らなくなってしまった。当落線上にいるあたしもまた、不安に胸が押しつぶされそうだった。

 後輩にひとり、上手い子がいる。あたしと同じセッター。1年生だ。
 技術はあたしの方が上だけど、その後輩は、あたしよりも背が少し高く、身体能力も優れている。選手としてどちらが上かは意見の分かれるところだろう。
 うちの部に年功序列なんていう生温い体質はない。強い方がレギュラーに選ばれる。だから、実力にそれほど差がないのなら、あとは監督の戦略次第でスタメンが決まる。
 戦略と言えば聞こえはいいが、ようするにそんなもの、好みの問題だ。監督が好きな方を選ぶ。選考の材料には、選手としての能力だけでなく、個人的な好き嫌いも含まれるのである。それが現実。
 あたしは特に嫌われているわけではないと思うが、他の子に比べて好かれているわけでもないだろう。
 対してライバルの後輩は、わりと気に入られているのではないか、とあたしは思う。普段の態度を見ているとそんな感じがするというだけで、実際に監督がどう思っているのかは知らないけれど。

 新しい背番号の発表を明日に控えて、あたしは居ても立ってもいられなくなった。監督にアピールをしなければ。そう思った。
 発表の前日に実行して、かつ結果に影響を与えられるアピールとなると、これはもう、あたしが何をするつもりなのかは言うまでもないことだろう。
 もちろん抵抗はあるが、レギュラーになれるのだったら構わない。
 明日、もしライバルの後輩がレギュラーに選ばれれば、その子は大会で経験を積んでさらに成長してしまうだろう。そうなれば、あたしは卒業するまでスタメンの座を掴むことができなくなる。来年に有望なセッターがまた入ってきたら、ベンチ入りすら危うくなるかもしれない。
 3年にもなってベンチにすら入れず観客席で応援をしていた先輩たちをあたしは見てきた。その姿のなんと惨めなことか。
 うちは強豪校だ。だから、全国の中学校からエースが入学してくる。部員はみんな、地元ではちょっとした有名人だ。家族の期待は大きなものであるに違いない。ほとんどの部員は、将来はオリンピック選手、なんてお世辞と期待の入り交じった言葉を幼い頃から無数に受けてきたことだろう。
 それなのに、高校ではレギュラーにすらなれず、どころかベンチにすら入れず、いつまでも1年生と一緒に観客席から声出しをするだなんて、とても耐えられることじゃない。あたしは絶対に嫌だ。
 そんなことになるくらいなら、監督に処女を捧げた方がまだいい。耐え難いことではあるけれど、それでもだ。
 部活が終わってみんなが帰った後、あたしは監督室の扉を叩いた。
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