今回も連載物ということで、全てフィクション及び登場人物を架空の人としてご理解ください。

師匠は普段とてもジェントルマンです。
バンドのメンバーも皆さんとても性格が穏やかな人が多く、気性の荒い人はいませんでした。
演奏している音楽のタイプが物語っていますよね。

17年間、師匠の傍で仕事していて、あまり怒りを表に出したことはなかったのですが、2度ほど自分も凍りつくほど怖いと思う場面に遭遇しました。

そのうち1回はご存知の方も多いと思いますが、六本木ピットインでのライブレコーディングの時(All Night Wrong)の製作時です。
これについてはウィキ等でいろいろ語られていますが、真相はちょっと違う部分があるので、いつか詳しく載せたいと思っています。

残り1回の凍りつくような場面は、今自分が住んでいる名古屋の ボトムライン でのライブ中の出来事でした。

元々、世間一般的に気難しい人ってイメージがありますが、例えばこんなことでそのようなイメージが生まれてしまうんではないでしょうか。
自分が仕事で関わった初期のライブで、そこのライブハウスのプロモーターが頑張って、ライブを盛り上げるために、外注の照明屋を雇って、結構凝ったライティングを行っていた時がありました。
ライトシューティングにかなりの時間を費やしていました。
もちろん彼らもプロなので、きちんとした仕事をしたい一心だったのでしょう。

私楽器班としては、いち早くステージをあけてもらって、複雑な機材のセッティングに取り掛かりたいと思っていました。
ほどなくシュートが終わり機材のセッティングに取り掛かりました。
照明のチーフにメンバーの立ち位置等を聞かれ、楽器をセッティングしながら大体の位置にバミリを付けました。
その日の照明は本当に凝っていて、スモークや、ピン、サイド、照明演出等すごい感じで照明リハを行っていました。
機材セッティングも終わり、師匠達メンバーがステージに上がり、いつものようにサウンドチェックを行い始めました。
PAとの一連のやり取り(各パート個別のサウンドチェック、モニターのチェック)が終わり、バンドとしての曲リハーサルが始まりました。
すると、照明スタッフも曲に合わせてライティングのリハーサルを行い始めました。
まずはスモークを焚いて演出効果を出すチェック。
スモークといっても本当の煙ではなく(主成分はよく知りませんが)ちょっと匂いのある煙に似た細かい霧状の物でした。
すかさず、師匠が ” スモークはやめてくれないですか。 ” と一言!
後で理由を聞くと楽器、特にネックにスモークの成分が付着してプレイしづらくなるそうでした。

照明チーフも困ったなって感じでしたが、まあしょうがないかと。

次に、各個人がソロを行っている時のピンスポット。
師匠がソロを取り始めるとすかさず照明さんはピンを当てました。
すると師匠が、” ピンスポットもやめてくれないですか。 ” と一言!
照明チーフもさすがにムッとした表情を浮かべました。
それならということで、ソロの時にステージサイドに置いていたスポットで師匠を照らしました。
すると三度目 ” サイドのスポットもやめてくれないですか。 ” と一言!
照明チーフも呆れ顔でした。
極めつけは、曲の雰囲気を出すためにステージを暗くする演出があったのですが、これにも師匠はNGでした。
後に再び理由を聞くと、全て自分の演奏に支障をきたすからだそうでした。

照明チーフも ” もう俺たち何もやることないじゃねーか! ” って怒りをぶちまけていました。
でも、こちらサイドからすれば、お客さんも師匠のファンなら素晴らしいステージ演出効果より、師匠の素晴らしい演奏が聴きたくて来ていると確信していたので、あえて反応せず、淡々とリハーサルを進めていきました。
(後でもめたらしいですが)

それほど、自分の演奏にこだわりを持っている方なんです。
以降、ライブハウスの照明さんにはピンは当てないことと、スモークのNG、真っ暗もNG、なるべく師匠の指板が本人に見えるようなライディングをと事前にお知らせするようになりました。

そして、ボトムラインでの出来事です。

メンバーは Bass ジミーさん Drums チャド 師匠のトリオ編成です。
ボトムラインはいつもライブを行っていたる慣れた場所。

オーナーをはじめ、スタッフの方々はとても優しくて優秀な人たちばかりです。
師匠もお気に入りのライブハウスです。

ここで、事件は起こりました。

いつも師匠のバンドは2ステージ行います。
1ステージ終わると少し休憩し、2ステージ目が始まります。

1ステージ目の B* P*** という4ビートの曲の演奏が始まりました

最初のテーマ部分は普通だったのですが、ソロが始まった途端、師匠がなんだか調子悪そうな感じでした。
曲中もちょっと声を出したりして、演奏しづらそうでした。

何度も首を振る仕草をし、ソロをリトライしている感じがこちらにも伝わってきました。
この曲は4ビート、本来、チャドやジミーさんの本業とする曲ではないはずです。

3人のコンビネーションが合わないのかなと、ドキドキしながらステージ横で見守っていました。
そして、この曲が終わったと同時に、師匠はこの曲の譜面(自分のスケール記号が書いたもの)を破り、アンプの後ろに捨ててしまいました。

僕はもう背筋が凍る思いでした。

そして1ステージ目が終了。
メンバーは楽屋に引き上げていきました。

自分の中では、師匠はジミーさんやチャドの演奏に満足できず、怒って譜面を破り捨てたように感じていました。

なんとかしなきゃって思い、破れて切れ切れになった譜面を拾い集め、セロテープで貼り付けて元のコード表が見えるように直しました。

でもこれでは譜面台には置ないので、ボトムのスタッフの方にコピーをさせてもらい、恐る恐る、三人のいる楽屋にコピーした譜面を手渡しに行きました。

想像では相当険悪な雰囲気な3人だろうなって思って、楽屋のとびらを明けました。

すると、意外や意外、ジミーさんも、チャドもニコニコしていました。
険悪な雰囲気は微塵もありませんでした。

師匠も怒っている感じではありませんでした。

コピーして再び使えるようになった譜面を師匠して渡すと、笑いながら ” ありがとう ” って言ってくれました。
そしてそしてもう一言。 ” そのテープで貼り直してくれた譜面でいいよ。それをちょうだい。これは思い出として取っておくから。 ” って優しく微笑んでくれました。

傍にいたジミーさん、チャッドも大笑い!

ホッと瞬間でもあり、涙が出そうなくらい嬉しい瞬間でした。

聞けば、師匠は自分自身のプレイに満足が行かなかっただけみたいです。
ジミーさんもチャドも、やっるべき事はちゃんとやっていた。
流石だなと思いました。

そして師匠の自分のプレイに対する厳しさも、やはり見習わなければと痛感した瞬間でした。





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