2009年09月23日

Act機 Scene26 ダンバートン5〜

「何これ……」

 ダンバートンを囲む要塞じみた高い外壁の上で、同じように周囲に居る冒険者達の隙間をくぐり、石造りの見張台に小柄な体でよじ登ると、猫のような瞳を暗い街の周囲に向けsweetpafeは呟いた。
 
「ちょっと……」

 その後ろで雪野そょ風も同じように呟く。
 地面から随分と離れている外壁からは遠くまで見渡せる、日中であればガイレフへと続く街道と、広がる深い森が見えているはずの街の周辺。夜はイウェカとラデカの照らす微かな明かりだけを頼りにしなくてはただの暗闇だった。
 だが今広がる光景は暗闇では無い。
 巨大な一塊となりゆっくりと動く影。
 それは数えようとする事が無意味な見渡す限りのコボルトの群れ
 影に隙間は見えない、アランウェンが二人に告げた通りダンバートンを取り囲んでいる。
 時折耳に届くコボルトの奇声と、一斉に動いたと思われる足音。
 雑多に周囲に居るだけではなく、何かしらの目的がそこに存在するものと予想出来た。

「おそょ、コボルトが統率されてる」
「そうね……こんな事自分で見てなければ信じられないわ」


 低級魔族であるコボルトやゴブリンは、普段であれば組織性のある行動は取らないとされている。それゆえ駆け出しの冒険者達でも、パーティーを組み討伐任務等に赴く事がある。
 コボルトの巣窟となっているマスダンジョンはダンバートンからも近い為、冒険者組合から試験として仕事として任される事も多い。
 実際に雪野そょ風やsweetpafeが今までにその様な光景を見た事は一度たりとも無かったのだ。
 しかし今見えている光景は、確かに統率され組織的に動いているコボルト。
 赤い柱の一件からあちらこちらで起きている不可思議な出来事に結びつける事は容易であった。
 
「これも……何か関係が……」

 雪野そょ風は言う。

「そう考えるのが今は当たり前かもね」
 
 sweetpafeが返す。

「どちらにしても、これは何とかしないとイメンマハに行くどころじゃないわ」
 
 見張り台からひょいと飛び降り、背負ったレザーロングボウの弦を確かめるsweetpafe。
 無言で頷き雪野そょ風もレザーロングボウの握りを確かめる。
 足元が騒がしい。
 雪野そょ風が手摺から下を軽く覗き込むと、街中から盾や杭、板が大量に台車で運ばれていく様子が見えた。
 二人の真下はダンバートンの北入口になっている、進入を防ぐ為のバリケードを築くようだ。
 
「まだ門は塞ぎきって無いみたいね」

 sweetpafeがまた手摺によじ登り見下ろしながら言う。足元はぷらぷらと浮いていた。
 
「そうね、それまでは上から止めないと」
「うん」


 雪野そょ風が答え、sweetpafeも頷くと騎士が下から二人に何かを叫んでくる。

「そこの二人、上の様子はどうなっているか教えてくれ!」
「人数は集まってる! でも矢が足りないと思うから大量に上げて欲しいの!」
「解った持って行かせる! 門を完全には塞げないと思われるので、そっちから仕留めてくれ!」
「善処するわ」


 sweetpafeが答えると、騎士はすぐに周囲の人間に指示を飛ばしていく。
 数人が南の方へと走っていくのが見えた、ネリス武器店へ矢を取りに行ったのであろう。

「とりあえず……門が塞がるまでは、と言うよりもこっちがメインのようね」

 手摺から降り、軽く肩を上げながらおどけるように言うsweetpafe。
 街側から外側へと場所を移しながら答える雪野そょ風。
 
「まぁ仕方ないわよ、あんな数に近接戦闘挑んだら結果は解りきってるもの」
「それもそうね」
「ルシュとかバカだから突っ込みそうだけどね」
「それも、そうね」


 二度目の「それも」をsweetpafeは強調しながら返し、二人は外を見下ろす。
 先ほどと距離は変わってはいないが密度が増してきている。
 
「来る様子が無いけども……」
「おそょ、違うわ多分弓に警戒してる。今よりもう少しこっちに入れば矢が届くもの」
「そんな知能あるのかしら?」
「今は誰かが指揮してるっぽい、ありえる」
「……確かにね」


 がらがらと大きな音が後ろから近づいて来る、振り向くと矢筒を大量に載せた小型の台車がある程度の距離を空けながら設置されていた。
 
「わぉ、使い放題ねこれは」

 sweetpafe歓声を上げながら早速そちらに向かうと矢筒から矢を引き出し、自分の大きな矢筒に矢を詰め込んでいく。
 
「いいわよねそれ……」

 雪野そょ風はsweetpafeのそれと比べると遥かに小さな矢筒をいくつか持ち、定位置と決めた場所で足元に立てていく。

「仕方ないじゃない、おそょじゃ肩の関節がうちと違うからどうせ扱えないし」
「解ってるんだけどさ……」


 エルフであるsweetpafeの矢筒は、雪野そょ風の矢筒よりも遥かに大きなもの。
 雪野そょ風も一度借りて使ってみたが、奥の方の矢を抜こうとした時に肩をまわし過ぎて、脱臼しそうな目になった事があったのを思い出す。
 エルフは弓を使う事に特化してきた種族。その身体構造が違うため矢を抜く右肩の可動範囲が非常に広く、口の大きな矢筒もうまく扱える。
 この辺りが同じエリンに住みながら全く違うのだと、改めて思い知る一件であった。

「さぁて……このまま来なかったらどうしよう?」

 レザーロングボウの弦を弾きながらsweetpafeが呟く。澄んだ音を鳴らして弦が震える。

「朝になれば視界が開ける分、今よりは楽になるわ」
「うち寝るわよ」
「ひっぱたいて起こしてあげるわ」


 雪野そょ風が矢を一本軽く振ると、矢がしなり空気を切る音がした。

「そんなもんで叩く気か――」
「おい! あれ!」


 軽口を言い合っていると叫ぶ声があがる。声は二人の左側、ラビダンジョンに向かう方向から発せられたもの、二人はそちらに目を凝らす。

「おぱふぇ、何か見えた?」
「……あれは……」


 sweetpafeは大きな瞳を少し細め暗闇を睨む。視界の悪い砂漠で暮らしてきたエルフの目は、光の少ない夜でも人間より遥かに良く見通せた。

「え? 誰か来る!」
「は?」


 先ほどの声は近くに居た男性のエルフが発したもののため、雪野そょ風にはまだ何も見えない。sweetpafeはすぐに駆け出し、真下に向かって叫ぶ。

「誰か街の外に居るわ!!」
「何? 聞こえない!」


 先ほどの騎士が声には気づき見上げたものの、バリケードを作っている雑音の中sweetpafeの声がかき消されて下まで届かなかった。 

「だから!! 外に誰か居るの!! 馬でこっちに向かってる!!」
「馬がなんだって!!」
「もう!!」


 らちが明かないと判断し雪野そょ風の隣に戻るsweetpafe。

「おそょ! 見えた?」
「まだよ、今何処」


 先ほどと同じ方向に視線を向けるsweetpafe。

「――やばい追われてる!!」
「え」
「おそょ、援護して! さっきの人も見えるでしょ、皆に位置の支持お願い!」
「君! どうするつも――」


 雪野そょ風の目にはまだ暗闇しか映らなかったが、すぐに方向の見当だけをつけ弓を構える。
 先ほどのエルフに周囲の指示を言い伝え、sweetpafeは躊躇無く外壁の上に登ると暗闇に向けて小さな体を躍らせた。
 両手両足を一度大きく開きローブで風の抵抗を得ながら、地上すれすれで両足を畳み込みしなやかに着地。
 ココパンダローブの大きなフードがばたばたと揺れ一瞬で地上に降りると、門を守ろうとしていた騎士達が、突然降って来た彼女に驚き騒いでいる。
 一度そちらに振り向き何かを叫んだ後sweetpafeは暗闇に走り出す。

「なんて子だ……」

 最初に見つけたエルフの青年が真下を覗き込み呆れていた。

「あの子は大丈夫だから! 私じゃ見えないのよ、位置を教えて!」
「あぁ、あの小屋のもう少し向こう、左寄りだ……コボルト数匹に追われてる!」
「追われてるからあの子が行ったんでしょうが!!」


 雪野そょ風がそちらを睨むと炎の揺らぎが現れる。

「ファイアボルトか……流石おぱふぇね、これなら――狙える」
 
 数本の矢を右手にまとめて持ち、近くの松明にかざして鏃に火を移すと、一息にレザーロングボウの弦を引き絞る。
 
「そっちで……矢を避けてよね――」

 sweetpafeの発したファイアボルトを目印にその後方に狙いをつけ矢を放つ雪野そょ風。
 五本の矢が立て続けに放たれる。
 炎の軌跡を描きながらsweetpafeとそこに居ると思われる誰かの上を飛び越していった。








  
 ダンバートン外壁から飛び降り、門に居た騎士達に誰かが追われている事を伝えsweetpafeは暗闇を走り出した。
 蹄の音が徐々に近づいて来る。

「さっきのエルフ君はあてにならないな……あ」

 支持を出したエルフが頼りなく感じたsweetpafeはその場で思いつき、魔法詠唱を開始。

「ファイアボルト!」

 体の周囲に炎の玉が浮き上がり、彼女を中心に旋回運動を見せる。

「これで解るでしょう」

 ファイアボルトを雪野そょ風への誘導灯にし、蹄の音の方に更に走るsweetpafeの上空を五本の光が通り過ぎていった。
 馬を追っていたコボルトに二本が命中し、その場で群から飛び出していたコボルトの増援が若干距離をとる。

「さっすが、理解が早いね」

 コボルトの奇声が近づき、馬の嘶きが聞こえる距離で炎のエレメンタルを開放しファイアボルトの灯りを消すと、ハイドを発動し一息に駆け寄るsweetpafe。
 そこに居るコボルトは五匹。
 姿を消したままで近づき矢を手に持ちながらハイドを解除する、ハイドを発動させたままでは周囲から見えないようにしているマナの壁の影響で、視界が酷く歪んでいるため狙いが定まらないのだ。
 光の粒子が体の周囲から立ち昇りコボルトが気付いたがすでに遅い、二本の矢が同時に放たれ打ち抜かれていく。
 二匹が打ち抜かれた事で他のコボルトの足が止まると、彼女の方へと馬が加速してくる。

「乗って!」

 向かってくる蹄の音と聞こえる若い女性の声。
 馬上から差し出された左手をsweetpafeはタイミングを合わせ掴み、そのまま駆ける馬へと飛び乗った。

「ありがとう、助かった! って……え?」
「大丈夫だった? って……え?」


 ダンバートン北門に向けて走り続ける馬上でしばしの沈黙。お互いに聞き知った声。

「えーっと……何を……してたのかね……」

 馬上の女性に問いかけるsweetpafe。

「えーっと……何を……と、言われると……」

 手綱を握りながら答える女性。

「……と……とにかく街に入るよせつこ!」
「ひゃい!」


 コボルトに追われていた女性、せつこ――煉刹那は馬の振動に舌を噛みそうになりながら答え、青毛のシャイアを加速させ北入り口へと向かう。
 砂埃を巻き上げながら街へと近づくと、バリケードを築いていた冒険者達が慌てて道を開け、二人を乗せたシャイアを通した。

「危なかったあ……」

 騒々しい街の中に入ると、息の上がったシャイアから降り煉刹那は額の汗を拭いながら安堵を口にした。
 街の明かりに照らされて、濃いピンク色の肩口でそろえた髪が光る。
 赤い装甲と、髪と同じような濃いピンク色のスカートを付けたらふティオズアーマーも光を反射した。
 雪野そょ風よりも随分と年下。ウリル達と同世代の冒険者。
 二人はシャイアから降り、煉刹那は手綱を近場の柵へと固定する。 

「いあ、危なかったじゃなくてね、何故あんな所を走ってきたのかね……」

 煉刹那の背後に立っていたsweetpafeは片眉を上げながら問う。

「おぱふぇ、大丈夫だった? って――せつこ!」

 外壁から降りてきた雪野そょ風が二人の元へと近づくと、sweetpafeと同じように煉刹那の姿を確認し若干呆れたような表情を見せていた。
 
「そょ!」
「そょ! じゃない! 何してたのよ、あんなとこで」
「うん、森で道に迷って出てきたらあんな状態だった」


 腰に手を当て答える煉刹那に雪野そょ風、sweetpafe両名の目が点になる。
 
「あははー、いやーびっくりしたさぁ。森からやっと出られたと思ったらあれだもん」

 雪野そょ風は頭を軽く抱え、sweetpafeはなぜか遠い空を見て両手を組んでいた。

「神様、せつこは……この子は悪い子じゃないんです、ちょっと頭の中身に難しい問題があるだけで……」

 神に祈っていたようである。
 その様子に煉刹那は頬を膨らまし、非常に不満げな顔をしていた。
 
「とりあえず……今は先にやる事があるわ、行くわよ!」

 先んじて我を取り戻した雪野そょ風が外壁へ再度向かう。先ほどからコボルトの群に動きは無いのかこれと言った騒ぎは聞こえてはいない。

「せつこ、弓使えたっけ」

 同じように立ち直ったsweetpafeが煉刹那に振り返り訊く。

「んー……クロスボウならなんとか……」
「だよね、ならこのままさっきの門に向かって入り口を守って」
「りょーかい!」


 三者それぞれが現状を打開する為、それぞれの出来る事のある現場に走り出した時、それは起こった。
 ダンバートンの周囲から聞こえてくるコボルトの奇声と大地を踏み鳴らす足音の塊。
 
「なに?」

 煉刹那が視線をきょろきょろと動かしながら辺りを見渡す。
 sweetpafeも外壁に昇る階段に足をかけたまま、先に登っていた雪野そょ風を見つめる。
 外壁に居た雪野そょ風は遠く視線の先でそれを見た。

「……な……」

 言葉を失う雪野そょ風、周囲の者達も同様に時間でも止まったかと思うほど動かない。

「おそょ……なにが見えるの……」

 ゆっくりと階段を登り雪野そょ風の隣に来ていたsweetpafeが問う。雪野そょ風の顔色は暗がりでも解るほどに血の気が引き、白い。
 明らかな異常に表情を強張らせるsweetpafe。
 カカシの様に動かなくなった雪野そょ風は何も反応しない、sweetpafeはその様子に恐る恐る人ごみを欠き沸け、外壁によじ登り、そこにある暗闇の中を見た。
 
「あ……ぁ……」

 sweetpafeは見てしまう。
 人間では無くエルフである事を、暗闇を見通せる目を持った事を、彼女は恨んだだろう。
 そこに見えたもの。
 影が一斉に動き、一時たりとも同じ姿をしていない歪な塔。
 塔は見る間に高さを増していく。
 時に壁が剥がれたかのように塔からばらばらと落ちていく。
 声が出ない、小さな歯ががちがちと鳴る、体が恐怖に引きつり動かない、喉が干からびる、だが彼女は振り返り外壁から叫ぶ、小さな体全体を震わせ力の限り叫ぶ。

「せつこ……みちゃだめえええええ!!」
「え?」


 北門のすぐ傍で煉刹那はその叫びに視線を上げた。
 そこには体を半分以上外壁から乗り出し、今にも落ちそうになりながら叫んでいるsweetpafeの姿。
 
「え? なんで!」

 その姿に大声で問う煉刹那。

「なんでもいいから! 言う事をきいて! お願い……だから……みちゃダメ……」

 鬼気迫るその表情と声に煉刹那はその場に足を止めた。
 あまりにも異常な事態が外では起きていると、自分が見ても何も変わらないのだと判断し、その場から二人のいる外壁に昇る階段へと踏み出した足元に違和感が訪れる。

「え……」

 その場にかがみ込み硬い石畳に手を触れる煉刹那、冷たい感触と同時にその掌に細かな振動を感じた瞬間、立ち上がり外壁に向かい叫んだ。

「おそょ! ぱぺち! 危ない!!」

 足元の石畳が大きくうねった。押さえつけられていた大地が怒り、突き上げたかのように。
 それは一瞬で広がり、周囲の全てを突き上げる。
 木々は揺れ動き、家々のガラスが歪んだ窓枠に押され砕け散り、屋根瓦が降り注ぐダンバートンの街。
 そして暗闇に包まれた街の周囲にも広がる。
 
「おそょ!」

 sweetpafeが思い切り雪野そょ風の手を引く、引かれた手の感触にそちらを見る雪野そょ風の顔は青白い、その顔色にお構いなくsweetpafeは外壁から地上へと彼女の手を引いたまま駆け下りる。
 揺れる大地、不安定な階段を駆け下り、そこに居た煉刹那に雪野そょ風の手を握らせた。
 
「せつこ、おそょをお願い」
「え、ぱぺちは!」
「いいから、おそょと安全な所に行って!」


 sweetpafeの真剣な表情に、一瞬躊躇しながらもゆっくりと頷いた。
 強張った表情の雪野そょ風の手を握り、煉刹那は広場を目指し移動する。
 二人が安全な場所に向かおうとしている事を確認し揺れる階段を駆けあがるsweetpafe。
 
「どうせ、うちしか見えない……見なくちゃ……何が起きているのか……」

 足元を確認する為と自分に言い聞かせながら見ないようにしていた外へと投げられる視線。
 そこに見える巨大な影。
 彼女に見えたそれはコボルトの塔。
 途方も無い数のコボルトがお互いを踏みつけ、よじ登り、ひたすらにうず高く積み上がっていく。
 低い位置のコボルトはすでに命の灯を消している、途中力尽きた者が剥がれ落ちていく、奇声を上げながら同属を踏み越え、かきむしり、我先にとひたすらに上を目指す魔族。
 例えようの無いおぞましい狂気がそこに在る。

「……う……」

 その様子を目に映してしまったsweetpafeはその場で膝から崩れ落ち、顔を上げる事すら出来ない。
 大地の怒りはこの塔に対するものなのか、激しさを増していく。
 そして一際甲高い奇声が響いた時、大地は一度大きく身震いをする、その衝撃に狂気の塔が崩れ去ると、大地の怒りは収まったのかただ耳が痛くなるような静寂が訪れた。
 sweetpafeは細い腕に力を込め、空を見上げる。
 そこにはコボルトの狂気を傍観していた巨大なイウェカとラデカが、愚か者を蔑むように地上を見下ろしていた。







Act機 Scene26 ダンバートン5〜 END




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2009年07月02日

Act機 Scene25 ティルコネイル4〜

「うりぼ! きり無いぞこれ!」
「わかっとるよ! とにかく村に入れるな!」 


 静かだったティルコネイルは今や戦場の有様となっていた。
 突如現れた巨大狼の群れはその数を減らす事無く、次々に森から現れる。調査の為村に多数の冒険者達や騎士が滞在していたのは幸いだったであろう。
 ウリル一行は宿屋を飛び出し、現在ファーガス鍛冶店近辺にて交戦していた。
 
「多すぎるなこれは」

 ウリルは苦々しく呟く。
 特に指示がある訳では無くとも自然とお互いのポジションを把握し、村に掛かるそれぞれの橋を中心に防衛線を張った冒険者達。
 だがそれも徐々に狼達に押され、当初は固まっていた防衛線は崩れだしていた。
 至る所から冒険者の声が響き、騎士達の指示が飛び、狼の咆哮が響き渡る。
 負傷者が徐々に増えていくが狼達は数を減らす事は無かった。

「なちこ! むつ! だーと! 川向こうから矢を撃て、距離を詰められる!」

 ウリルが梨於とむちゅ、ダァトに指示を飛ばす。

「おう! サリー前に出すぎるなよ!」
「だーとこそ矢が無くなったとかボケないでよ!」


 弓士達を援護するように控えていたサリアーヌにダァトは声をかけ、橋へと狼たちに背を向けぬよう後ろ向きに下がっていく。
その様子を見た近辺に居た弓士達も同様に、橋を渡って行き剣士達がそれを援護する。

「ウリ! ウリも下がった方が――」
「下がれん! ワンドあっても遠くなりすぎる、早く行け!」
「うりりん! これ!」


 ダァトに続き梨於も下がる。むちゅがウリルに走り寄り、青い液体の入った瓶をいくつか渡した。

「む? お、すまん助かるぜ」
「むつお手製さ!」


 そう言い残し橋の方へと走っていくむちゅ、ウリルは受け取ったマナポーションを一本飲み干し、空になった瓶を足元に投げる。
 周囲のマナを敏感に感じ取れるようになり、大きく息を吸い込むと身体にマナが吸い込まれていった。

「ん? ……これは……」
 
 ウリルが周りに聞こえない声で呟く。
 

「ウリさん、これじゃもう後ろが無いよ……」

 その声に先ほどの疑問を振り払うウリル
 ダァト達が橋を渡りきったのを確認し、ウリルの傍へとやってきたサリアーヌが、不安げな声でウリルに言う。

「いや、これでいい。最悪の事態は防げそうだ」
「え?」


 サリアーヌがどういう事かを尋ねようとした時、眼前の急傾斜を三頭の巨大狼が滑るように駆け降りて来る。
 巨体を低い姿勢のまま揺らし、大きく開いた口から白い牙を剥きだしで、高く吼えた。

「説明は後だ! 着地を狙え!」

 その予想通り斜面の中腹から巨大狼が暗い夜空を背負い宙に跳ぶ。
 頭上に踊る狼。
 そのしなやかなシルエットがイウェカに重なり美しかった。
 ウリルは軽く後ろに下がり、一頭に狙いを定めつつファイアボルトを詠唱、巨大狼が着地するよりも早くワンドに巻きついた炎を開放する。
 周囲の大気がその高熱で歪み、巨大狼の無防備な腹に炎の塊が直撃した。
 弾き飛ばされる巨体が斜面に激しくぶつかり動きが鈍る。
 そのタイミングで背後から空気を切り裂く無数の鋭い音が、ウリルの横をすり抜けていく。
 川向こうから弓士達が止まった的に向かって一斉に正射していた。

「良いタイミングだ」

 満足げに口元を上げるウリルが目を向けると、サリアーヌも同様に空中に踊った巨大狼に対して飛び上がり、凶悪な牙の見える顎にメイスを深く叩き込んでいた。
 狼の巨体が後ろ足の辺りを中心に回転し跳ね上がる。
 近くに居たクレイモアを抱えた剣士が、サリアーヌに弾き飛ばされた巨大狼を受け取るかのように、肩口から自分の身体ごとぶつかり深くその刃を突き入れ、狼の動きを沈黙させた。

「ありがとう!」

 空中に浮いていた無防備な状態から着地したサリアーヌが、クレイモアの剣士に声をかける。

「お互い様!」

 剣士はサリアーヌに答え、すぐに両手でクレイモアを大きく振るい狼の血を払うと、切っ先が空気を裂き高い音が鳴る。
 もう一頭駆け降りて来ていた巨大狼も同様に、他の冒険者達に仕留められていた。

「上手くいったな」
「とりあえずね。でも後がもう……」


 ウリルがワンドに炎を絡ませながら言うと、サリアーヌも頷きながら答え、先ほど尋ね損ねたこの後について再度確認する。

「うむ、今のうちが良いか……」

 周囲の巨大狼は警戒して遠巻きにうろついているだけで、此方に向かってくる様子は見えない。
 
「何が?」
「まぁ、村に入れなければなんとかなるだろう」
「え?」


 疑問を口にするサリアーヌにウリルは口の端を軽く上げた。
 
「今のうちに下がるぞ! 村に入れなければ何とかなる、全員川向こうに引け!」

 ウリルが周囲に聴こえるよう大声で叫ぶ。

「は? おい黒いの、まだ狼どもは居るんだぞ!」
「ここで防がなかったら村に来るじゃないか!」


 付近の冒険者が口々にウリルに対して疑問を投げるが、ウリルは涼しい顔で答える。

「川向こうから弓で抑える、そろそろ武器もヤバイだろ近接戦士は」

 その言葉に自分達の剣に目を向ける剣士達、確かに刃はすでに痛みが激しい。

「しかし、そうは言っても……」

 先ほどのクレイモアの剣士が尋ねた。

「大丈夫だ、さっきから見ていて確信した。とにかく、また来ないうちに一旦引くぞ」

 ウリルは背を向けると橋へと向かって走り出す。
 冒険者達はお互いに顔を見合わせるが、武器がこれ以上は戦闘には持ちそうも無いため従う事を選び、徐々に下がって行った。

「うりぼ!」
「ウリ!」
「うりりん!」


 川向こうに居たダァトと梨於、むちゅが走り寄ってくる。
 
「今は喋ってる余裕は無いぞ。俺らの攻撃は届かんのだから狼に気を向けとけ」

 ウリルは二人に軽く目を向けながら言うと、橋の袂で川向こうを睨んだ。

「サリ! 急げ!」
「ちょっと待って!」


 クレイモアの剣士と共に台車を引っ張り、橋を渡って来るサリアーヌ。

「何してたんだ?」

 ウリルが尋ねる。

「これこれ」

 サリアーヌが台車に荒く縛られていた布を取ると、そこには満載にされた矢。ファーガス鍛冶店に残っていたものを積み混んで来たようだ。

「おお!」
「ねえちゃん助かった!」


 周囲の弓士達がサリアーヌとクレイモアの剣士に賞賛を口にする。

「なるほどな」


 ウリルが頷くと近辺にいた剣士達が矢を抱え、弓士達に配っていく。名も知らぬ冒険者同士が今はまるで長年連れ添った仲間のように動いていた。
 この指示も無く、今それぞれがやるべき行動を瞬時に取れるセンスが、冒険者にとって最も必要な要素の一つである事は間違いない。
 
「ウリ! この後どうするのよ!」

 矢を受け取りながら梨於が叫ぶ。
 ちらりと梨於に視線を送ると、再度川向こうに目を向けるウリル。
 すでにほとんどの冒険者はこちら側へと渡ったようで、狼の群れが徐々に橋へと近づいて来ている。そこに弓士達が矢を撃ち込みまた離れる。
 波のように寄せて返す狼の集団。

「そろそろ頃合か……そちら側にもう誰も居ないか!」

 川向こうに向かい叫ぶウリル。
 その声に反応する人間は居ないが、狼が数頭ウリルの声に反応しゆっくりと彼を睨み、鋭い牙をむき出しにしながら唸る。
 どうやらウリルが人間達のボスであると認識したようだ。
 少し離れた一頭の白狼が吼えた。
 辺り一帯の空気が弾けると、それを合図に一斉に走り出す巨大狼の群れ、十数頭の黒い巨体が砂煙を上げ向かって来る。

「うりりん! 来たよ!」

 むちゅが叫ぶ。

「ち、気の短い連中だ」

 舌打ちし呟くウリル。

「橋を落とせ!! 早く!」

 そう指示を出し、自らもファイアボルトを詠唱する。
 弓士たちは矢継ぎ早に無数の矢を狼の群れに向かって放ち続けるが今度は止まりそうにも無い。
 詰まる距離。
 サリアーヌが橋の杭にメイスを叩きつけ歪める、周囲の剣士達が橋を固定していたロープを次々に切り橋が崩れ出す。
 魔法士達もウリルに習いファイアボルトを詠唱。
 狼の群れは橋の眼前に迫っていた。

「ファイアボルトを橋に打ち込め!」

 ウリルの声を合図に数十の炎の玉が崩れかけた橋に投げつけられた。
 周囲の空気が高熱にさらされ視界が歪み、息が苦しくなる。
 爆発音。
 無数のファイアボルトの熱で川の水が一気に気化し辺りに靄が立ち込めた。
 酷く蒸し暑い。    
 丸太で組まれた橋は激しく燃え上がった。

「良し!」

 いつの間にか目に当てていたゴーグルキャスケットの白く曇ったゴーグルを首元に下ろし、満足げに頷くウリル。
 吹き抜けた風に靄が流されていくと、崩れ落ち燃え続けている橋の向こうで、巨大狼の群れが憎々しげに此方に唸りをあげていた。

「え? なんで……」

 むちゅが呟く。
 
「来ない?」
「おい黒いの、どういうこったこれは」


 周りの冒険者達も口々に訊く。

「川だ、あいつらは水が大嫌いで渡って来れないのさ」
「は? うりぼそれは――」
「話は後だ、一斉に矢を撃ち込め! また離れると手に負えん!」


 ダァトの質問を遮り、指示を出すウリル。
 弓士達はお互い顔を一瞬見合わせ、それぞれが矢を放つ。剣士達もその背後で矢を持ち弓士達に次々と渡していく、矢の途切れる隙を与えない。
 
「サリ! 他の橋の方にも伝えに行け!」
「解った!」


 ウリルは作戦成功と見るや、サリアーヌに伝令を任せ周囲を見渡す。
 
「うむ、とりあえずは何とかなったな。しかし……さっきのは……」

 ぼそりと呟く。

「ウリ! なんか様子がおかしいよ!」
「む?」


 梨於の声に思考が遮られ、川向こうに目を向けると、狼達が一斉に空を見上げている。
 騒々しかった辺り一体が急速に収まり、不気味な静けさだった。

「なんだ?」
「どうなってんの?」


 ダァトも疑問を口にし、むちゅも同様の事を口にする。
 イウェカとラデカが真上に昇り夜の村をぼんやりと照らす、薄赤い光と薄青い光で。
 最も川から離れていた先ほどの白狼が再度吼える。
 甲高く、雑音の混ざらない澄んだ遠吠え。
 それに習い周囲の巨大狼達も一斉に吼える。
 大気が震え、音の圧力が身体に伝わり、耳を塞いでも頭に響き渡るその咆哮。
 びりびりと震える空気の層。
 そして、大地さえも震えだした。

「なんだ! 地震?」

 誰かがそう叫ぶ。
 細かい断続的な振動。
 大地が震え始めるやいなや狼達の遠吠えはぴたりと収まり、徐々に群れが森の中へと戻って行った。

「どう……なってる……」

 ウリルが狼達の様子を観察していると、最初に吼えた白い巨大狼が此方を睨んでいた。
 視線がぶつかる。
 周りの狼達が消えて行き、最後の一頭になった白い狼も踵を返し森へと戻って行く。
 狼が足を止め振り返ると、もう一度ウリルと視線がぶつかる。
 その真っ赤な瞳と大きく裂けた口元が、嗤った様に見えた。
 ウリルの背中に冷たいものが走り抜け、顎を汗が一筋流れ落ちる。
 そして巨大狼達は一頭も残らず姿を消した。

「うりぼ……」

 ダァトがウリルの傍へとやって来ていた、細かな振動はいつの間にか収まっている。

「だーと……村長から馬借りてきてくれ……」
「は?」
「嫌な予感がしまくる……イメンマハへ……るーのとこへ行くぞ」
「お……おう……」


 見上げた夜空に浮かぶイウェカとラデカ。
 それは巨大狼の瞳のように、ウリルを睨みつけているように見えた……





Act機 Scene25 ティルコネイル4〜 END

rusyu10sellia at 21:29|PermalinkComments(1)TrackBack(0)clip!小説 

2009年05月28日

ヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

ヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
なんぼほど放置してるんだ俺。゚(゚ノ∀`゚)゚。アヒャヒャ

イヨウ(`・ω・´)ノ
つーことで約……4ヶ月?位ぶりの更新だZE!

まぁちーっとばかしリアル多忙だったり、なんだかんだでね……
今回はお知らせとかなんだとかで軽く更新させてもらうZE!




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rusyu10sellia at 13:04|PermalinkComments(3)TrackBack(0)clip!マビノギ 

2009年02月13日

Act機 Scene24 バンホール5〜

「あ、xmakixちゃーん! ちょっとまっテ!」

 独特のアクセントで呼びかけられ、xmakixは手綱を軽く引いて馬を止めた。
 軽く左に目を向けると深い井戸のようなバンホールの町が遠く、低く、そしてちらちらと松明の明かりに照らされ、滲んで見える。
 右に向けばそこはライアンアルトへと抜ける街道。
 いつもならイビーが佇み、見晴らしの良いこの場所も今は薄暗く。しっかりと建てられていた見張り台もその残骸を残すのみ。
 幾人かの冒険者がバンホールへ入る為に、あるいは他の地域に向かう為に、xmakixの横を通り抜けて行った。
 馬を止めたままで振り向くと、急勾配になった町へと続く坂道を大きな荷物を抱えた影が近くと遠くに二つ、xmakixの方へと走りよって来る。
 長い金色のボリュームのある髪、肩口と腰元を大きく露出した上半身は陽に焼けている為か健康的な小麦色だった。足元は大きく膨らんだ赤っぽいパンツという特徴のあるファッションと、呼びかけられた声のアクセントでxmakixは後ろから追いかけて来たのが誰であるのか気付く。
 馬から下りると手綱を放さぬよう気をつけながら、声の方へと体を向けた。

「エイレン、どうしたん?」
「はぁ……はぁ……良かっタ、間に合ったヨ」


 息を荒くしながらxmakixの前に抱えていた荷物を下ろすと、エイレンはxmakixの前に掌を向けて少し待ってくれと意思表示を見せる。

「良いよ、落ち着いてよ」

 xmakixはその様子に軽く笑いながら道の端へと体を寄せ、その手綱を立ち木に回して馬を止めた。
 エイレンはウルラで最高の鍛冶士、アイデルンの孫娘だ。
 まだまだその技術はアイデルンに遠く及ばないものの、年齢を考えれば相当な技術を持っている事は確かである。
 細いその体に似合わぬ金槌を振るい、日頃からアイデルンを手伝っていた。
 少しずつ呼吸を整えたエイレンは、xmakixに顔を向けて白い歯を見せて笑う。

「ごめんネ、コレをオジイさんが持って行かせてくれっテ」

 そう言いながら、足元に下ろした大きな荷物を指差す。
 xmakixが訝しげにしていると、エイレンの後ろからもう一つの影がやって来た。

「はぁ……ぜぇ……ちょっと待ってくれても……良いじゃないか……」

 苦しげな息に混じり、聞こえてきたのは少年の声。
 エイレンと同じように大きな荷物を足元に下ろす。硬い金属の音が聞こえた。
 少しクセのある跳ねた緑色の髪に、擦り切れかけているデニムのオーバーオールを着た少年は不満げにエイレンに話しかける。
 
「そんな事言ったっテ、xmakixちゃんに追いつけなかったらドウするのヨ」
「そうだけどさぁ……」
「ショーンまで。何を持って来たん?」


 少年はショーンだった。彼は普段、水車の管理をしている。
 生意気な表情が多いが、イビーに一目惚れしている純真な少年でもあった。
 
「xmakixちゃん。これ、ルシュさんの鎧と剣なの」
「るんるんの?」


 そう言いながらエイレンは荷物の口を縛っていた紐を解くと、中には鈍い赤色のマントを付けたらふティオズアーマーが微かなイウェカの明かりを反射し、その装甲を輝かせている。
 ショーンも同じように少し小さめの荷を解くと、黒いスパイカシルバープレートブーツと二振りの鞘に収められたグラディウスが見えた。

「え? だって昨日修理に出したばっかりじゃないん?」

 その通りだ。昨夜ルシュはイリアから戻り、その足でバンホールを訪れた際にアイデルンに装備を預けていた。
 現在のバンホールの状況から設備も整っていない事は明白であったが、僅か一日で装備を直した事になる。
 そしてその状態もxmakixの目で見る限りは完璧に見えていた。

「んー、なんだか良く解らないんダけど。オジイさん、他の仕事を止めてルシュさんのを直してたヨ。ワタシまで手伝わせて。いっつも相手が誰でも順番を守れってワタシに言うのにサ」

 少し頬を膨らませてエイレンは言う。その様子が可愛らしくてxmakixは微笑む。

「ふーん、アイデルンさんが珍しい」
「そうなんだよ。それもさ、昨日の夜にイビーが来てから急にさ」


 ショーンも呼吸が落ち着いた為か話に参加する。

「え?」

 xmakixは首を傾げた。

「うんうん、昨日の夜遅くにね。ショーンもワタシとオジイさんを手伝ってくれてたんだけど、イビーちゃんが急にオジイさんの所に来たのヨ」
「あんな時間だからびっくりしたよ。それも何だか様子もおかしくてさ」
「どう、おかしかったん?」
「んー、なんていうんだろ。ぼーっとしてル感じ?」
「ぼーっとっていうよりも……ずーっと上の空っていうか……」
「ふーん……」
「イビーちゃんが何かオジイさんに言ったみたいなんだけど、それからはルシュさんのにかかりっきりになって驚いたヨ」


 エイレンとショーンは二人で顔を見合わせながらxmakixに説明する。
 xmakixも軽く空を見上げ視線を回した。

「まぁ、それでさっきxmakixちゃんが馬を借りに来たでしょ。それでイメンマハに向かうなら、ルシュさんが行っているはずだから持って行かせてくれっテ」
「うん、それは良いんだけど。これ結構重いよね……大丈夫かなこの子……」


 xmakixがアイデルンから借りた馬の顔を撫でながら、少し不安げな顔を見せるが、エイレンは笑って答えた。

「オジイさんが荷物と一緒に乗ってるんだヨ? xmakixちゃんそんなに重たいノ?」
「しっつれいな」


 今度はxmakixが頬を膨らませた。ショーンが隣でクスクスと笑う。
 確かにアイデルンは高齢とは思えぬ体系をしている。身長もxmakixよりずっと高く、鍛え上げられた体は近接戦闘を専門としているルシュやほりほり、その他のギルドメンバーを思い浮かべても一回り以上は大きかった。
 つまりはxmakixよりも遥かに体重が重いという事だ。そのアイデルンが普段荷物と一緒に乗っている馬なのだから、なんら心配する事は無いという結論に至る。

「オッケイ。じゃ、これ預かって行ってるんるんに渡すよ」
「うん、お願いネ」
「あ、でも料金は?」
「オジイさんが後で良いからルシュさんに持ってこさせろっテ、ルシュさん以外からは受け取らないから、本人が持って来るようにってサ。特急料金だからネ?」
「あはは、解った。るんるんにそう伝えるよ」


 三人は荷の口を閉めると、太い皮のベルトで二つの荷物を括り合わせ、そのまま馬の鞍の左右に振り分けバランスを見ながら位置を調整し、別の革紐で鞍へしっかりと固定した。
 背中に荷物を載せられた一時だけ馬は嫌そうな声で啼いたが、すぐに慣れたのかおとなしくしている。
 鎧に二振りの剣、金属靴の重さは相当な物で三人は作業が終わる頃にはうっすらと汗を浮かべていた。
 
「これでよしだネ」
「はぁ、疲れた」


 エイレンとショーンが額の汗を拭っているのを横目に、xmakixがもう一度鞍と荷物を軽く引っ張ってみる、ずれない事を確認すると立ち木に止めていた手綱を解き、そのまま飛び乗った。馬が軽く首を振りながら小さく啼いた。

「じゃあ、ちょっと急いでるからこのまま行くね」
「うん、ナニがあるか解らないから気をつけてネ」
「ありがと、アイデルンさんによろしく伝えといて。ショーンもお疲れ様」
「わかったヨ」
「あいお、気をつけて」


 手を振る二人にxmakixが馬上から頷き手綱を引くと、荷物を載せた大きなサラブレッドはゆっくりと方向を変えて歩き出した。
 一定のペースで聞こえる蹄の音と、体に伝わる軽い振動が心地よいとxmakixは感じる。
 バンホールの一番高い位置からもう一度町を見下ろす。
 夜風がゆるりと吹き抜けて来るとxmakixの赤い髪を揺らした。

「良し、行こう」

 誰に聞かせるでも無く呟き、手綱を少し強めに引いたその時、体に振動が伝わる。 短い周期で断続的に伝わってくる振動。馬の歩くそれでは無い。
 
「え……まさか……」

 xmakixは体を硬直させる。手綱を締め歩き出していた馬を止めると、サラブレッドはxmakixに首を向けた。落ち着かない様子で大きな体を揺する。
 付近の土がむき出しの壁からパラパラと砂が落ちてくる、風に乗った砂粒がブロードフェザーハットに当たり小さな音をxmakixの耳に届かせた。

「xmakixちゃん!! 危なイ!!」

 エイレンの大きな声で一瞬失っていた我をxmakixは取り戻す。
 周囲を見る事無く鐙を蹴りサラブレッドを前に押し出した。
 真後ろで大きな質量の落ちた音がする、振り向くとそこには子供の頭ほどの落石。

「xmakixちゃん! 早く行っテ! また地震で崩れル!!」
「エイレン! 僕らも危ないから!」


 xmakixの方へと叫ぶエイレンと、エイレンを引っ張るショーンが見える。
 二人に頷く事で了解の意を伝えると、先ほどよりも強く鐙を蹴りサラブレッドを一気にラインアルトの方向へと加速させる。
 大地はサラブレッドよりも遥かに大きくその身を震わせていた……
 
 



 ――時間を僅かに戻す。
 




 xmakixを送り出したほりほりとアオシは、空になったグラスをジェニファーの店へと戻しに来ていた。

「さて……アオさん。ちっとばかし夜遊びをしようか」
「はい?」


 リカドに借りて来ていたトレーと三つのグラスを渡し、人込みを避けるように店から離れた二人。
 歩きながらほりほりがアオシにそう言う。
アオシは怪訝な顔になる。この数日で一番多い表情に見える。

「男二人で夜遊びも悪くないだろう?」

 ほりほりはアオシに顔を向け口元を上げる。
 意図が解らずなんと返して良いのかと口篭るアオシにほりほりは続けた。

「なに、ちょっとした探検ごっこさ」
「探検――ですか」
「そ」


 軽く返すほりほりに、尚更困った顔をするアオシ。
 そのままアオシはほりほりに肩を捕まれ引き寄せられる、煙草の匂いがした。

「アオさん。バリに忍び込むぞ」
「え!」
「静かに」


 肩を掴んでいた手はいつの間にかアオシの首に回されている。傍目からでは酔ってじゃれている様に見えただろう。

「ちょ、ほりさん。バリはもう崩れて――」
「本当に全部崩れたか?」
「え?」


 首に腕を回されたままで、なすがままのアオシに静かにほりほりは告げる。

「崩れたのは知ってる、だけど中は本当に全部崩れたのか? 断言できるか?」
「いや……それは……でもあの状況じゃ……」
「アオさん、ダンジョンって何か知ってるか?」
「一応は……」


 アオシの首元から腕が離れると、急に開放されて前へと転びそうになる。
 振り向くとほりほりは後ろで煙草の火をつけ、白い煙を吐き出した。
 
「いいか、アオさん。ダンジョンはつまりラフの事だ」
「知ってますよそれは」
「確かにアオさん達が居たダンジョンは崩れたかもしれない。なら他は?」
「……そうか……そういう事ですか」


 ラフ。
 それは一般的に言われるダンジョンの原型である。
 本来各地のダンジョンはかつての魔族、つまりはポウォールとの戦争時に戦士ではない女性や子供、老人や怪我人達を魔族から、あるいは疫病などから守る為に作られた避難所がその本来の目的であった。
 そして度々起こる戦争時その役目は徐々にただの避難所では無く、砦であり要塞と化していく。あるラフは深く地下へと、あるいは別のラフは遠く幾つもの場所へと繋がり、広大になっていった。
 時に魔族を混乱させる為に、時にその場へと閉じ込める為にあらゆる物理トラップや、魔法トラップを組み込み、その建造に魔法を使い半永久的に掘り進められ、複雑化していく事となる。
 結果現在ではその全容を理解している者は存在しない。
 あまりにも広大になったラフは、人々が迷い魔族と共に閉じ込められる、あるいは求める場所へと辿り着けないという本末転倒な状態を引き起こしていく。
 その為ラフの主要な部屋に女神モリアンを象った女神像が配置されていった。
 この女神像はただの目印では無く、内部に仕込まれた魔法装置を利用し、特定の物を女神像に捧げる事によって、魔族に知られぬまま安全かつ迅速に移動できる事となる。
 後にラフを逆に利用され、本来なら最深部である筈の部屋へと魔族を送り込む事に成功されてしまう。 
 これが現在の魔族の巣窟となったダンジョンである。
 
「つまりだ……」

 ほりほりは足元に煙草を落とし、靴底で踏み消した。
 
「無限に近い魔法空間でもあるダンジョンは、恐らくだが全てが崩れたわけじゃない」
「じゃあもしかして無事なダンジョンがあって、そこに何かがって事ですね」
「そういう事だ、もしかしたら逆かもしれないけどな」
「逆? ですか」
「ああ、崩れてない方が多いのかも知れない」
「なんでですか?」
「中に閉じ込められてるとか、落盤で誰かが死んだとか――そういう話を聞かない」


 腕を組みアオシに顔を向けるほりほり。アオシは少し難しい顔をした後、ゆっくり頷いた。

「よし行こう」
「でも入り口が崩れてるのにどうやって……」
「なに、水車に届いていた水路を逆に入る。アオさん泳げるよな?」


 二人は瓦礫や松明の影をゆっくりと移動して行く。以前はアイデルンの工房があった辺りに体を低く屈めて様子を伺う。他に人気は無い。
 元々バリダンジョンの入り口があった場所には二名の騎士の姿が見えた。

「ご苦労さんなこった……あれを掘り返す奴は居ないだろうに」

 土砂に埋まった崖の一部を見ながらほりほりは皮肉っぽく笑う。アオシも軽く笑った。

「あそこだ」

 ほりほりは水が少しだけ流れ落ちている地点を指差す。もう水車が回っていないので地下水を引き上げられなくなっている。
 幸い土砂や瓦礫で騎士の方からは死角になっていた。

「アオさん、覚悟はいいな?」
「でも良いんですか? お上に言われてるんじゃ……」
「だから、こっそり忍び込むんじゃないか。ばれないように――な?」
「そうですけど……はぁ……もう諦めましたよ」
「良い心がけだ、行くぞ」


 二人が暗闇に潜んで、一気に水路へと向けて走り出した時だった。
 足元から伝わる振動。繰り返しそれは訪れ、収まる様子は無い。細かな砂や埃が降ってくる。

「え……やばい……アオさん。行くぞ!」
「え! マジですか!!」
「安心しろ水はもう無い! 走れ!」


 暗闇から飛び出し、一息に駆け抜けた。騎士が何か叫んでいたが無視する。
 地面から少し高い位置にあった水路に飛び込み、狭い水路を這って行く。濡れた壁面が不快だったがかまっては居られない、いつ崩れてもおかしくないのだ。
 すぐにバリダンジョンのロビーへと出る。
 元々ロビーから外へはさしたる距離では無かったのが幸いした。内部も当然ながら揺れている、天井からばらばらと小石や砂が降ってきていた。
 
「アオさん! 赤と青どっちが好きだ!」

 水路から飛び降りたほりほりが、振り向かずに祭壇から叫ぶ。
 泥が顔や服にびっしりとへばりついていた。
 ロビーも土砂に半分以上が埋まっていたが、祭壇はまだその姿を全て隠してはいない。
 壁面にびしりと大きな亀裂が入る。
 
「赤!!」

 アオシも叫びながら水路を飛び降り、転がるように祭壇へと飛び乗った。
 ほりほりが小さな青い玉を祭壇へと捧げると淡い光が二人を包み込む。
 大きな音が聞こえたが、それは一瞬で耳から離れて行く。そして二人の視界は暗闇へと向かっていった……





Act機 Scene24 バンホール5〜 END 

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2009年01月14日

Act機 Scene23 バンホール4〜

 乾ききった夜風が低い姿勢で這い回り、砂埃を浮かす。
 カタチを持たないそれは人々や建物の隙間に体をくねらせてすり抜けて行こうとし、避け損ねた障害物に薄く埃の膜を重ねる。
 ちらちらと揺れる小さな炎に照らされた、霞がかかったような鈍い色彩の半壊した町。
 バンホールはまだ町としての機能を取り戻してはいなかった。

「ほーりー」

 xmakixは大きな樽に汲まれた水で顔の埃を流し落とすと、少し離れた松明の傍で口から大きく煙の輪を吐き出していたほりほりを呼んだ。

「ん? まっき、飯はさっき食っただろ。結局ケーキも注文したじゃないか。もう食った事を忘れたのか?」
「ちゃうわ!」


 xmakixと同じように顔や腕の砂埃を落としていたアオシがそのやり取りに苦笑しながら小さめのタオルをポケットに押し込むと、そのまま二人の方へと足を向ける。

「マキさん、どうしたんです?」

 二人は結局返事をするものの、その場から動かなかったほりほりの元へと揃う。
 ぱちぱちと薪の燃える音を聞きながらxmakixは、満腹感と眠気それに疲れから気だるそうな声で尋ねた。

「明日からどうするん?」
「どうする、とは?」


 ほりほりが短くなったタバコを松明の中へと放り込むと、巻紙の燃える鼻をつく臭いが一瞬漂う。 

「このままずーっとバンホールに居るん?」
「あー、その事か。んー……」


 軽く腕を組みながら宙を眺めるほりほりの様子を、アオシは眺めている。
 xmakixは近くに転がっていた廃材を組み合わせた歪な椅子に腰を下ろす、みしりと嫌な音が聞こえたが気にしていないようだ。
 夜は更けてきたものの、まだ人々の声は聞こえる。
 少しずつでは在るが町並みの外見は随分とましになったように映る。
まだ崩れた炉に火は入らず。水車が回っていない為、湧き出してくる水もただ溢れ出してくるだけの状態ではあるが。
 小さな町であるとはいえ、地形までも変わってしまった場所を人の力で元に戻す事はとても出来るものでは無く。例え数年が経過しバンホールの機能が戻ったとしても、やはり以前とは違う新しいバンホールの町なのだ。
 復興では無くこれは新たな町を造ることなのだろう。
 それは人であるからこそ出来る、「創造」という可能性の一つなのだ。
 ここに集まって来た皆はその「可能性」を知っている、そして信じている。
 壊れたものが元に戻ることは無い、だが新たに造り上げる事は出来る。
 それは不恰好なものかもしれない、それは以前のものよりも使いにくいものかもしれない、それは全く別のものになるのかもしれない、それでも人々は造り上げていく。
 人が生きていくと云う事はつまり、常に何かを作り上げていく事に他ならない。
 新たな街を、新たなものを。
 そして人間同士の繋がりを。
 壊れたものでも新たに作り直していく。
 それはxmakixが腰掛けている廃材の椅子のように。

「ほり、やっぱりさ…… うちはせりを探したい」

 歪んだ椅子に腰掛けてxmakixは呟く。
 ポケットから新しいタバコを出し咥えていたほりほりの視線が下がる、アオシもそちらへ注意を向ける。

「ふむ、そうだなあ……」
「マキさん……」


 俯き加減だった顔を上げ二人を見上げながらxmakixは続けた。

「だってさ、さっきほりもアオチも言ったやん。今こうなってる事にせりが何か関係在るのかも知れないって…… うち難しい事は解らへんけど、でも…… せりは友達やん、仲間やん……」

 松明の中にあった薪が弾けて、細かな火の粉が暗い空に舞い散る。

「それにさ、ほりさっき身内が関わってるからにはほっとけないって言ってたやん」
「ほりさん、俺も…… 何かって言っても何が出来るか解んないですけど、俺たちも動きませんか? ……」


 xmakixの言葉にアオシも同意する。
 ほりほりは二人の様子に若干難しい顔をし、ゆるりと煙を吐き出すと口を開いた。

「二人の言いたい事は解るよ」
「ほり、じゃあ明日から……」
「まぁ待てよ」


 二本目の吸殻を松明に投げ込みながら軽く二人を止めるほりほり。
 両手を砂埃でがさついたセリナレザーコートのポケット入れながら、足元に転がっていた柱の廃材に軽く腰を下ろし、言葉を続けた。

「まっきと、アオさんの云わんとしている事は良く解ってるよ。俺だって別に探したくないとか、動物じゃないんだからほっとけば帰ってくるとか、そんな事は思っちゃいないさ」

 軽く首を傾け、xmakixとアオシの顔を見渡すほりほり。
 松明の炎から熱を奪った生温い風がゆるりと吹く。
 
「でもな、一つだけ俺は気になってる事がある」

 ほりほりの言葉にxmakixとアオシは顔を見合わせ、続く内容を待って開きかけた口を閉じる。
 その様子にほりほりはポケットから両手を出し軽く組み合わせると、体重を両膝にかけるように前かがみに背中を丸めた。

「あのな、ルシュさんが果たして自分以外の誰かに見つけてもらう事を望むかどうか――だ」
「え?」
「なんで、るんるんが?」


 xmakixとアオシは同時に疑問を投げかける。
 ほりほりは、さも当然と言わんばかりに二人へ返答した。

「解らないか? じゃあ、二人に訊くがルシュさん――は、まぁいいか。セリアの事って何を知ってる?」
「ピンク大好き」
「……まっき」
「……マキさん」


 即答するxmakixだが、その答えにほりほりとアオシは軽く頭を抱える。
 だがxmakixは当然といった顔でさらに続けていく。

「それだけちゃうもん。ケーキも好きやし、かわいい洋服も好きやし、お酒飲んだらすぐ酔っ払うし――ほり、アオチ、何が違うん。知ってるやんせりの事、一緒にダンジョンだって行くし、クエストだってやるし、ギルド一緒やし、たまにボケるし、それの他に何を知ってないとあかんの? 友達ってそれでいいやんか」

 xmakixは一息に告げると、顔を上げ二人の顔を見つめた。
 その表情は真剣なもので、アオシはまっすぐに見つめられた目を軽く逸らせる。
 ほりほりは少し目を細めてxmakixの目を見つめ返すと、軽く息を吐き出した。

「まっき。言ってる事は正しいし、間違っちゃいないと俺も思うよ。だけどな、そういう事じゃないかも知れないんだ俺の言ってる事は……」
「だから訊いてるやん、他に何を知ってないとあかんのって」
「アオさん、俺の言ってる事解るか?」


 xmakixに諭すように小さく答えたほりほりは、先ほどから黙っているアオシの方を向き尋ねると、アオシは少し困った表情でゆっくりと話す。

「あの…… 俺も良くは解って無いかもなんですけど。ほりさんが言ってるのってもっとこう、何て言うのかな……」
「アオチ、教えてよ。何があかんの? それだけじゃ何が足らへんの?」
「アオさん、いいよ。言える範囲で言ってみな」


 xmakixとほりほりの二人の視線を感じながら軽く空を見つめるアオシ。
 その目には抉り込まれたバンホールという井戸の底から、遠いイウェカとラデカが映る。
 二つの丸い光は優しげに、儚げに輝いていた。

「えっと…… 多分セリさんがもしも今回の事件に関わっているとしたら…… 俺らの知らない何かがある訳ですよね」
「うん、そうだな。知ってりゃ何も難しい事はない」
「だからその…… 言い方悪いですけど、ルシュさんとセリさんの間に俺らの知らない…… 知っちゃいけない何かがあるかも知れない…… って事かな……」
「何それ? るんるんとせりの間にって――」

 
 アオシの答えを聴くと、xmakixの問いかけを止めるかのようにほりほりは立ち上がった。
 ポケットを探りタバコを取り出すと、ゆっくりとした動作で火を点け煙を流し込む、同じようにゆっくりと煙を体から外へと開放しながらxmakixに向けて口を開いた。

「アオさんは大体解ったみたいだな。まっき、そういう事なんだよ」
「だから何って、はっきりしてよ」


 xmakixは若干苛ついた声でほりほりに訊く。

「いいか、まっき。もしもだ――何かは解らないがルシュさんがセリアの事で隠している事があって、それがこの事件に関わってるとしたら? それで俺らがセリアを見つけたとして、俺達が知っちゃいけない事がそこにあったとしたら? ましてや、それがあったら普通の隠し事じゃない、とんでもない何かがそこにあるはずだ」

 指元まで火が近づいていたタバコをまた松明へと投げ込み、ほりほりはxmakixの前に屈みこんだ。
 xmakixは何も言わない、ただ静かな表情をしていた。
 ほりほりは屈みこんだ姿勢のままで静かに話しだす。

「まっき。俺はまっきの言ってる事はさっきも言ったが、間違ってるなんて思わないし正しい事だとも思う。俺だって友達や仲間をあれこれ詮索するような事は嫌さ。だけどな今はちょっとばかし事情が違うって事なんだ」

 二人の様子にアオシはどうしていいのか解らず、その場から離れるでも近づくでも無く立ち尽くしていた。
 
「なぁ、まっき。だからな俺はルシュさんに全部任せるって言ったんだ。調べられる所まで調べて、俺らの協力が必要なら言えって言ってある。だけどまだ数日だ、何か解ったかも知れないし、まだ何も解っちゃいないかも知れない」

 xmakixは無言のままで軽く俯いている。
 ほりほりはゆっくりと立ち上がり、同じように静かにゆっくりと続けていく。

「ルシュさんが何か言ってくるまでは、ちょっと待たないか? ここに居ればあっちこっちから冒険者が来る。俺だって何もしてない訳じゃない、新しい顔ぶれを見ればちゃんと情報は集めているさ」

 そこまで言うとほりほりはxmakixから離れ、アオシの方に近づき小声で囁く。

「アオさん、悪いんだがジュースか何かジェニファーの所で頼む」
「あ、はい」


 セリナハーフコートのポケットから金貨を数枚渡すと、軽くアオシの肩を叩くほりほり。

「解っちゃいるんだが、納得出来てないだけさ。大丈夫だ」

 それだけ告げると、xmakixの元へ戻っていく。
 アオシは二人を気にしつつ、足早にジェニファーの店へと向かった。
 離れていくアオシを見ながら、再度xmakixに話しかけるほりほり。

「まっき」
「……ん」
「あのな、セリア以外にも何人か行方知れずになっちまってるそうだ」
「……え?」
「それも同じようにイメンマハのセン湖で、な」


 xmakixはその事を聴くと俯いていた顔を上げる。
 目元が微かに赤い。
 ほりほりはその顔に目を向けないままに続けていく。

「そっちからも何か解りそうな気はしないか?」

 そこまで告げ、わざとらしい大振りな仕草で振り返り両手を軽く広げる。
 しばしの沈黙。

「え? どうしたんですか?」

 グラスが三つ載ったトレイを抱えながら調度戻ってきたアオシが怪訝な表情を見せる。
 xmakixは無言のままでほりほりを見つめると、すっと立ち上がりトレイからグラスを一つ手に取り、中身を一息に飲み干した。
 
「うち、イメンマハ行って来る。ほり、アオチ、後宜しく」
「え? なに? え?」


 先ほどまで消沈していたxmakixの変貌にアオシは目を丸くして混乱した表情になり、ほりほりの方に視線を向けるが、ほりほりは涼しげな顔で軽く笑っているだけだった。

「まっき、朝まではまだ随分あるぞ?」
「いいよ、誰かに馬借りて行けば朝には着くから」


 それだけ言うとxmakixは足元に置いていたカバンを抱え、早足で歩いて行く。町人の所へ馬を貸してくれるように尋ねに行ったようだった。
 状況を理解できないアオシはほりほりの元へ行き、グラスを差し出しながら尋ねる。

「あの、俺が居ない間に何があったんですか?」

 アオシからグラスを受け取り少し流し込むと、ほりほりは軽い口調で返す。

「なーに、復興作業に飽きてきたみたいだから他の仕事を教えてやっただけさ」
「はぁ……」


 何を言えば良いのか解らないまま、自分のグラスに口をつけるアオシ。
 
「気にするな、大した話じゃないさ」
「ですか……」
「まぁ、俺達は俺達でやる事がある訳だ」


 グラスを手元で軽く揺すり、手の中でくるくると回る黄色い液体を眺めながらほりほりはアオシに呟く。

「正直言えば、俺もとっととこんな訳の解らない事は終わらせたいさ」
「はい」
「だけどな、これでも一応俺はギルマスな訳だ。こんな自由気ままなギルドだが俺が動くって事は、内情はともかく外から見りゃギルドの動きになりかねない訳だ」
「それってまずいんですか?」
「まずいって言うか…… これは内緒だぜアオさん」
「え? はい」


 そう言うとアオシを手招きで隣に呼ぶと、軽く首をアオシの方へと傾け、周りには聞こえない大きさの声で伝える。

「あのな、ルシュさんにも言って無いんだが、行方不明者の出てるギルドに勝手な動きをするなってお上から通達が着たのさ」
「え? ……それって」
「ようするに、訳が解らない事だから騒ぎ立てるなって事さ」
「な……」


 それだけ言うと元の距離を開けるほりほり。
 
「そういう事だから、うまい事やらないと怒られちまう」

 おどけた様子を見せるが、目は笑っていない。
 松明の薪が燃え尽き崩れる音が耳に届く。

「これはどうやら、俺がちっとばかし考えてた通り、随分ややこしい事になりそうだ」

 そんな話をしていると、二人の元へ蹄の音が近づいて来た。
 引き締まった体のサラブレッド。艶のある毛並みと、しっかりとした四肢、綺麗に整えられた鬣。とても丁寧に扱われているのが見て分かる。
 その鞍にはxmakixの姿。
 
「まっき、誰に借りたんだ? いい馬だな、その馬」
「アイデルンさんが貸してくれたから。初めて乗ったけど嫌がらないし、おとなしい子だよ―― じゃあ、うち行って来る」
「気をつけて行けよ、何があるか解らん」
「うん。ほり、アオチ後宜しく」
「はい、マキさん何かあったら連絡下さい」
「うん、何か解ったらすぐ連絡する。んじゃ」


 そう言い残し軽く手綱を引くと、ラインアルトへと上る坂に向かう。じきにその姿は雑踏へと混じり消えていった。

「マキさん、大丈夫ですかね?」

 アオシは心配そうな顔でほりほりに向き直る。
 
「大丈夫…… だろう。今は俺も何とも言えないよ」
「ですよね……」 


 ケアン港の方向から吹き込んできた風が少し強い。
 隙間だらけのバンホールの町は出来損ないの笛のごとく夜風を巻き込み、不協和音を響かせた。






Act機 Scene23 バンホール4〜  END 


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2008年12月31日

もーいーくつ……も寝ないで来年だよ(

ちーす・w・
えー11月あたりより非常にプライベートの方が忙しく。
一ヶ月以上、かれこれ二ヶ月もなにもしないままになってましたOrz……

ということで本年最後の日なのでせめてご挨拶おば・w・

まぁだらだらと書きそうなので、いきなり追記に(ぁ






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rusyu10sellia at 07:07|PermalinkComments(1)TrackBack(0)clip!

2008年11月22日

Act機 Scene22 ダンバートン4〜

 ダンバートンの鐘は七度体を揺すり、澄んだ音を響かせる。
 僅かに湿り気を纏った夜風は静かに吹きぬけ、鐘の音を遠い夜空へと攫っていった。
 パララが姿を隠しイウェカが昇り始めた頃合の広場には、各地から今夜の宿を、あるいは食事や補給を求めて冒険者たちが集まり、一時の賑わいを見せている。
 一般の冒険者に混じり、恐らくはラビ、マス両ダンジョンの警戒調査に当たっていると思われる王国騎士団の姿。冒険者からの情報を集めてでもいるのだろう、騎士団のみが着用を許された黒く輝くクラウスナイトアーマー姿が目についた。
 それらを無視するかのように幾人かの冒険者をすり抜け、細長い影と小さな影が広場から離れていく。
 細長い影は雪野そょ風、小さな影はsweetpafe。
 グリニスの食堂でsweetpafeが語ったマナとセリアリア、そしてルシュへの「何か」を知っているのであろうという疑念、今各地で起きている異変との関わり。
 考え出せば切りが無くなる謎。
 雪野そょ風の表情からはその感情の一切が読み取れた。
 sweetpafeはそんな彼女の隣を無表情に歩く。
 雑踏が煩わしいかのように、かつかつと足早に石畳を踏み魔法学校の方向へと向かう二人。
 身長差がある為足音のリズムは重ならない、だがそれは特に意識的にでは無いのだろうが、いつの間にかゆったりとした雪野そょ風の足音の間にsweetpafeが足早に一度多く踏み、数歩後にはぴたりと一致していた。
 喧騒を背中に受けながら雪野そょ風が魔法学校の重い扉を両の手で押し開く。
 言葉を交わす事は無く、そのままフローリングの床を変わらぬ歩調で鳴らしながら階段を上った先。巨大な扉の開かれたそこは魔法学舎内の図書館。
 ひんやりとした空気と古書特有の紙やインクの匂いが、この場所には静寂以外は要らぬと無言の圧力を感じさせた。
  
「さ、早く片付けてイメンマハに向かおう」

 図書館に入るなり口を開いたのはsweetpafe。
 食堂での会話の後イメンマハへすぐにでも向かう気でいたのだが、雪野そょ風が図書館の本を片付けていない事を思い出しこちらへと来たのだ。
 辺りをくるりと見渡すが他の人間は見当たらない、右奥のテーブルに詰まれた本を見つけるとsweetpafeはそちらへと向かう。
 雪野そょ風は相変わらず無言。
 数歩進みsweetpafeは小さく溜息を吐くと足を止め、カツンと少し大きな足音を立てて振り向く。
 長く揃えられた淡い緑色の髪がふわりと舞った。

「おそょ!」

 振り向いた勢いで浮いた髪が降りるよりも早くsweetpafeは雪野そょ風を呼ぶ。
 凛とした張りのある声が静寂の図書館に響いた。
 雪野そょ風は一瞬びくりとしたが、すぐに名前を呼ばれた方に視線を向ける。
 
「ぁ……ごめん、ちょっと考え事を――」
「そんなのは見れば解る」


 雪野そょ風が言い終る前にぴしゃりとsweetpafeは口を挟み、小柄なエルフは猫のような大きく丸い瞳ですらりとした人間を見つめると、そのまま歩いて人間の前で足を止めた。

「おそょ、あんたがそんなんでどうするのよ」
「……え?」
「今やるべき事、今考えるべき事、今出来る事。あんたが良く言う事でしょ」
「ぁ……」
「全部――今――でしょ。考える事や何かする事が悪いんじゃない。でも今出来ない事や今考えても答えの出ない事は、今じゃなくてその時が来るか余裕のある時にする事じゃないの? 優先順位を間違うと必要な時に必要な事が出来なくなる」 


 sweetpafeはじっと雪野そょ風に視線を真っ直ぐぶつけたままずらさない。
 
「るしゅんを迎えに行ったのなら大方――同じ事をあんたがるしゅんに言ったと思うけどね、せりりんの事を知ればるしゅんも余計な事ばっかり考えそうだし」

 しばしの沈黙。
 軽く息を吐き出したのは雪野そょ風。

「はぁ……そうね、その通りだわ」

 長い腕を大きく広げると、雪野そょ風はひんやりとした図書館の空気を大きく吸い込み吐き出す。そのまま軽く体を伸ばし、全身をリラックスさせた。

「おぱふぇ、その通りだわ。考えるにも情報が足らないし、推測だけでは意味が無い」
「その通りよ」


 雪野そょ風の声はいつものトーン。
 sweetpafeは答えながら踵を返す、振り向きざまにチラリと見えた口元は微かに笑っていた。
 本が積み重ねられたテーブルに向かう彼女を、雪野そょ風は苦笑し髪をかき上げながら後に続く。

「これよね?」

 一足早くそこについたsweetpafeが確認する。

「ええ……うわ、ずいぶん引っ張り出してたのね私……」

 かなり横に長いテーブルに積み上げられた書籍は数十冊に及んでいた。
 普段は閲覧される事が無い様な本も多かったようで、よく見るとヴェルベットのテーブルマットは埃で薄汚れてしまっている。
 軽く埃を払いながら、歴史書、辞書――とジャンルごとに改めていく二人。
 
「これ全部メンマについて?」

 sweetpafeが椅子の上に膝立ちになりながら確認する。
 
「大方はそうよ。他の地域に関してや魔法関係もあるけどね」

 雪野そょ風が答える。
 sweetpafeは一冊の本を手に少し首を傾げ、ぱらぱらと中を開きながら雪野そょ風に尋ねた。

「ねえ、おそょ。なんでメンマについて調べてたの?」
「異変が起きた現場だから」


 そっけなく答える雪野そょ風。

「それだけじゃないでしょ」

 持っていた本を閉じ横へ避けると、変わらない声で再びsweetpafe。

「ふぅ……ルシュがね、ぽろっと漏らしたのよ」

 小さく息を吐き出し、雪野そょ風は手を休める事無く答える。

「るしゅんが?」
「ええ、定期船でこっちに帰って来る時に大雑把に話をしたのよ。その時に――場所がイメンマハなのが気になる――って、聞こえてないフリしたけどね」
「ふむ、やっぱりるしゅんは何かを――うちらは知らない事を知っている――か」


 雪野そょ風の返答に、軽く宙を見上げ分類の作業に戻るsweetpafe。
 薄く埃の舞う中いくつかの山に分けられていく書籍。
 ほぼ分類が終わった時点で雪野そょ風が声をあげる。

「あれ?」

 sweetpafeが少しずつ本を抱えて本棚へ向かおうとしていたが、声が聞こえたので戻って来る。椅子の上に抱えていた本を置き、何があったのかと訝しんだ。

「どうしたの?」
「あ――本が足らないのよ……」
「え?」


 机の上に分けられて積み上げられた本。
 雪野そょ風は歴史書の山、辞書の山――と確認していく。

「何が足らないのよ」

 sweetpafeがその様子を眺めながら問いかける。テーブルに置かれた山を見渡し、少々うんざりとした表情。書籍の柱はテーブルの高さもあり、床に立った彼女の身長程になっていた。
 
「こんなに出してたのに覚えてるわけ?」
「全部覚えていたわけじゃないけど、最後に見ていた本が無いのよ」
「そういう事か、最後に見ていたのって何よ」
「イメンマハの都市歴史についての本だったんだけど……」
「ふむ」


 改めて山を崩し、中を開きながら分類しなおす二人。
 最後の一冊を開いても、その本は見つからなかった。

「だめね、やっぱり無いわ」
「おそょ、とりあえずこの本を先に戻して、スチュアート先生に訊いた方がいいんじゃないかな」
「あー……そうね、そうしましょ」


 そこに無い物は考えた所で出てくる訳では無い。
 雪野そょ風はこの場所から出て行った時の事を思い出し、sweetpafeが言うようにスチュアートに確認するのが有効だと納得する。
 広場の鐘が八度くぐもった音を届かせた。
 
「おぱふぇ、悪いけどこっちの本お願い。私は向こうに行ってくるわ」
「わかった」


 比較的分量の少ない辞書の山をsweetpafeに持って行ってくれるように頼むと、雪野そょ風も本の山を持ち歴史書の棚へと足を向ける。
 見上げる程高い壁面は一面の本棚。
 図書館内にはジャンルごとに分けられた六つの本棚がある、その蔵書は半端な数では無い。スチュアートによればまだこの他にも、歴史的価値や資料的価値の高い本が相当数あるらしいのだが、それらは万が一の事があれば文化的損失が大きすぎるため秘蔵されているのだそうだ。
 本棚の隙間を埋めていきながら、その事を思い出す雪野そょ風。

「そうか……ここにあるのは表の話ばかり――」

 通常は閲覧出来ない資料。
 その事に行き着いた雪野そょ風は思考を高速で回転させる。
 
「つまり……隠された何か、が在る可能性」

 辿り着いた結論。
 それは様々な謎や疑念に絡みつかれた彼女の心の中で一つの形を成す、それを正しいとも間違っているとも判断は出来ない、しかし可能性の存在に気付いた事で新たな方向性を自らに指し示す。
 そして同時に新たな謎と疑念をも呼び起こす。

「でも……何故、何を隠す必要性が在る――」

 思考の世界へと潜り続ける雪野そょ風。だが唐突に打ち切られた。

「おそょ!!」
「ひぁ!」


 おおよそ普段の彼女の口からは発せられないであろう悲鳴。
 いつの間にか真後ろに立っていたsweetpafeが大声で呼んだのだ。

「な……何よ! びっくりするでしょ!」

 不機嫌そうな表情のsweetpafeを見下ろす姿勢で、彼女に非難の目を向ける雪野そょ風。
 
「何回呼んだと思ってんのよ!!」

 華奢な体を抱きしめるかのように腕を組み、軽く足を開いた姿勢で言い返すsweetpafe。
 
「え?」
「え? じゃない!!」


 それなりに長い時間、雪野そょ風の感覚は完全に内面へと向いていたようだ。ふとテーブルを見ると書籍の山は消えていた。
 
「まったくもう……ほら、早くそれを戻してさっさとイメンマハに行くよ!」

 sweetpafeはまだ雪野そょ風が抱えたままになっていた数冊の本を取り上げると、本棚の隙間に収めていく。収め終わるとさっさと図書館を出て行ってしまった。
 取り残された雪野そょ風は慌てて後を追う。
 図書館の扉を出ると古書の匂いは消え、うっすらと床や階段に使われている木材の香りと、密閉された室内の微かに淀んだ空気が肌に絡む。
 sweetpafeを視線で探すと、二階部分に作られた魔法教室へ続く壁際の廊下を小柄なエルフは足早に歩き、魔法教室の扉をくぐって行った所だった。
 すぐに後を追う雪野そょ風。図書館と違い普通のサイズの扉には複雑なレリーフが掘り込まれている。文字らしき物がいくつも見えるがそれを読み取る事は出来ない。
 真鍮の冷やりとしたドアノブをまわし軽い扉を押し開くと、部屋の最奥に置かれた黒板の前にsweetpafeは居た。

「おぱふぇ、ごめんってば」
「居ない」
「え?」
「スチュアート先生は居ない」


 その言葉に室内を見渡す雪野そょ風。
 それほど広い部屋でも無いため誰か居れば必ず目につく、しかしそこにはsweetpafeの姿以外は確認する事は出来なかった。

「こんな時間なのに……」
「おそょ、とりあえず書置きして行こう。あまり悠長にしてる状態じゃ無いかもしれない」
「仕方ない……か……」


 雪野そょ風は大きなテーブルの上に置かれていたインク瓶とペンを見つけ、手帳を取り出すと何やら書き記しページを切り、目立つ位置に重石で留める。
 
「これで一応解るかな、アイラさんにも言付けておくわ」
「あぁ、あの本屋の子ね。スチュアート先生にお熱らしいわね」
「おぱふぇ、そういう事言わないの」


 言いながら二人は部屋を出ると階段を下って行く。
 先ほどよりはっきりと耳に届く鐘の音、一回二回――八回――九回目の鐘の音は喧騒がやけに大きく混じっていた。

「ん? なんだか騒がしいね」

 sweetpafeが軽やかに階段を駆け下り魔法学校の重い扉を開くと、雑音の波が静けさに包まれていたホールにどっと流れ込む。
 人々の声、走り回る足音、何やら指揮をしている号令までが入っていた。
 魔法学舎から出た二人の目に映った光景。
 冒険者、騎士が入り混じり、普段なら十分な広さを持ったダンバートンの街路が狭く感じる程の往来。 
 皆一様に装備を整え街に三つ在る通用門へと駆け巡って行く。

「え? 何が一体……」

 sweetpafeはその光景に唖然とし、雪野そょ風も複雑な表情を見せる。

「そこの二人! ボサっとしているな!」

 呆然としていた二人に、凛とした鋭い声が叩き付けられた。
 声の主は銀色の長い髪を整え、フェニックスサーコートプレートに身を包んだ目元の涼しげな女性。

「ア……アランウェンさん、これは一体?」

 雪野そょ風が声の主――アランウェンを見つけ、走り寄りながら尋ねた。
 アランウェンは迷い無く一言で答える。

「盗賊コボルトの群れが街を囲んでいる」
「え? それはまま有る事なんじゃ……」


 sweetpafeが雪野そょ風の横に立ち再度尋ねると、アライウェンは落ち着きを無理やりに作った声で言う。

「半端な数では無いんだ。街をぐるりと一周、まるまる取り囲んでいる……」
「な……」
「え……」


 アランウェンの答えに二人は言葉を無くす。ダンバートンの街を完全に取り囲むほどの数、それは百や二百は居るという事に他ならなかった。
 二人は顔を見合わせると同時に頷き勢い良く走り出す。
 イウェカとラデカが輝く夜空、街中に広がる喧騒さえも冷たい風は攫っていく。
 それはそのまま底無しの星の海に、欠片も残さず飲み込まれていった……






Act機 Scene22 ダンバートン4〜 END


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2008年10月24日

ついやってみた、その2

うん、今はこうやって遊ぶのがマイブームキタコレ(

ちょいと作ってる過程を晒してみる・w・
へたくそいうなああああああああウワァァァァァァヽ(`Д´)ノァァァァァァン!


元1元2



まず元はこの2枚。
ここから女性ボディからは首から下を、るーの顔はいらない所をがりがり消して・・・



加工中1



こんな状態に・w・




それを重ねて・・・
加工中2加工中3


さらにいらない所を消したり描いたりひたすら繰り返す・・・






すると何となく出来る・w・
出来上がりは追記に(`・ω・´)d


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rusyu10sellia at 18:12|PermalinkComments(7)TrackBack(0)clip!マビノギ 

2008年10月23日

うん、ついやってみた(

うん、フカさんが楽しそうな事やってたので俺もやってみた(

後悔は・・・

聞くな(

もうちょっとこういうソフト扱えれば、色々あそんで見たくなったじぇ・w・続きを読む

rusyu10sellia at 02:43|PermalinkComments(3)TrackBack(0)clip!マビノギ 

2008年10月19日

Act機 Scene21 ティルコネイル3〜

 さらさらと緩やかに流れる水音。
 夕刻も過ぎ、風が微かに冷たさを帯びて、水面と草木を揺らす。川向こうに見える大きな風車も風に吹かれゆるりと回っていた。
 近くに生えた大木から聞こえていた小鳥の声もまばらになり、夜が近いと静かになる事で告げている。
 薄い雲に覆われたイウェカの明りで、大木が淡い影を落とているなだらかに傾斜した川辺に、ウリルは仁王立ちし腕を組んだ姿勢で難しい顔をして唸っていた。
 その少し後ろでは鍛冶屋のファーガスが、砥ぎ損ねて刃の曲がったショートソードを片手に、ウリルとは別の意味で唸っているのだが。いつもの事なので誰も気にもかけない。

「全く見当たらないな」 

 ファーガスの唸り声を全く無視して、ぼそりとウリルが呟く。
 
「だね……」

 ウリルの足元でかがみこみ、川の中へと目を凝らしていた梨於が、立ち上がりながら返事を返す。
 梨於が川の波によって微かに濡れた足元で滑らないよう、注意を払いながら傾斜を少し登ると。下流の方からダァトとサリアーヌが川沿いを歩いてウリル達の方へと向かって来た。

「うりぼ。ダメだ、貯水池の方まで見てきたけど、なーんもいない」
「ウリさーん。やっぱりここ何日か、全然釣れないそうですー」


 ダァト達の声に顔だけを向けるも、黙ったまま軽くうなずいただけで、ウリルは特に何も言わない。予測していた範疇だとでも言わんばかりに。

「後は、むつだが……まぁ同じだろうな」

 ウリルはまだ答えは出ていないが、それも予想の通りになるだろうと一言漏らし。 ダァト達から再び視線を川面に向け、静かな流れを見つめた。隣に立ったダァトも同じように川面を見つめ、一言。

「うりぼよ、やっぱ普通じゃねえぞ、これ」
「わかっとるよ」


 そっけないウリルの返答。
 それっきり会話はなく、サリアーヌと梨於は少し離れて男二人を眺めていた。
 
「うりりーん」

 川の上流の方からむちゅの声が聞こえる。
 まだ川を渡る橋の奥に見える小高い丘の上に居るので声は遠いが、ウリル達がそちらに顔を向けると、両腕を頭の上で大きく交差させバツマークを掲げる。

「やっぱりな」

 その様子にウリルはむちゅから視線を外し、揺れる水面へとまた視線を戻す。
 ゆっくりした足取りで彼女が四人のそばまで来ると、サリアーヌは声をかける。

「お疲れ様、やっぱりダメだった?」
「ぜーんぜん、魚一匹どころか、川の中になーんにも居ないんだもん」


 サリアーヌの問いに、大きく手を広げ軽く首をすくめながら答えるむちゅ。

「むつさん、ディアンはなんて?」

 ダァトがウリルの隣を離れ、傾斜を登りながら尋ねる。

「ディアンは川の中をあまり気にしてないから、よく解らないって言ってたけど」
「ふむぅ」


 三人の傍まで来たダァトは大きく足を投げ出し、草むらに腰掛けた。
 ウリルは相変わらず無言で川を見ている。
 静かに流れていくだけの小川。
 さらさらという緩やかな音は変わっていないものの、生の気配を感じ取る事が全く出来ない事を認知したそこには、薄ら寒い感じすらした。
 浅い川底でゆらゆらと流れに翻弄される水草が、やけに不気味にも映る。
 風が静かに吹き抜け、ざわざわと大木の枝葉を揺らす。
 静かである事の薄気味悪さ。
 普段は気にしないものが、たった一つのきっかけで一遍する。

「うりー」

 一人川辺に居たウリルに梨於が声をかけた。

「ん」

 振り向くでもなく、聞こえているというだけの返事。珍しく黙り込むウリルに、四人はただ黙って様子を見ていた。
 少しの間の後、大きく息を吐き出し後ろを振り向くウリル。

「暗くなってきた、飯でも食いながらちょっと整理しよう」

 そう言いながらピアルスの宿屋の方へと渡る橋へと足を向ける。
 残された四人は、顔を見合わせ後に続く。
 小鳥のさえずりは既に聞こえなくなっていた。





 ピアルスの旅館は普段は人の少ないティルコネイルにあわせていたので、現状では少し手狭ではある。
 一応ケイティンの経営している食料品店もあるのだが、ウリルは何故かこちらを選びわざわざ部屋を一部屋取ったのだ。
 空いていた訳ではなかったと思われるが、すぐに部屋に通されたのは前もって予約を入れていたのだろう。
 五人も入ると少し手狭な感じはするが、荷物もあるので楽といえば楽ではある。

「ふぅ、丸二日近くまともに食べてなかった」
「あー、そっか。キアに入ったときからだもんね」


 ダァトは豪華では無いが暖かい料理に満足げにうなずく。
 サリアーヌもきちんとした食事はしばらく取っていなかった為か、ずいぶんと嬉しそうだった。
 
「お疲れ」

 と、笑いながら軽くねぎらう梨於。
 むちゅもそんな二人に軽く笑いながら、お茶を入れていた。
 運ばれてきた食事をゆっくりと食べながら会話もするが、ウリルは一人難しい顔をしている。指先はこつこつとテーブルを叩いていた。
 料理も一口二口手をつけただけで、後は何か考えているかのように黙り込んだままだ。
 
「うりー、冷めちゃうよ……どしたん?」
「んーむ……」


 梨於が少し心配しながら尋ねるが、ウリルは唸るばかり。

「うりぼよ、何か解ったのか?」

 ダァトも流石に、普段と違いすぎるウリルを怪訝に思い、話を促す。

「むつ、俺にもお茶くれ」
「ほい」


 二人の声を聞いてか聞かずか、ウリルが空になったカップを差し出し、むちゅは暖かいお茶を注いだ。注がれた少し甘い香りのお茶を軽く一口流し込むと、一度天井を見上げ四人に向き直り口を開く。

「さて。まぁ、言うまでも無くなんだが。かなり異常な事態だ」

 四人はウリルの方向に顔を向け、黙って話を聞いている。
 他の部屋のざわめきや、足音がやけに耳に届いた。

「一度話しをまとめると――あくまでこのティルコネイルの事だけにするが。だーととサリーの情報だとキアダンジョンの中で、ブルーハーブが生えたまま枯れていた事。それに魔族どもが潜んで居なかった事。そしてゴーレムがそこに居たにも拘らず、岩ですら無く砂に変わっていた事――であってるな?」

 早口にダァトとサリアーヌから聴いた、キアダンジョンでの出来事を並べる。
 静かに頷く二人。
 
「それに、むつが気付いた畑の麦が一切生長していない事。それに今、皆でも確認したが川に一切の魚が居なくなっている事。一応この当たりが、少なくともこの五人の中で一人でも実際に見て確認した事になる」

 ウリルはそこまで言うと一息つき、四人を見渡した。特に異論や間違いが無い事を確認した上で、さらに続ける。

「そしてこれは今から三日前――時刻的には二日前かも知れないが、イメンマハのセン湖に現れた赤い光の柱が関係していると考えられる。実際まっきやアオチに聞いたバリが崩れた時間も、脱出したら柱が見えたって事だからこれは間違いないとは思う。順番的には地震が起きて直後のあの柱だ。ついでに言うと――セリが消えたと思われるのもこの辺の時刻だろう……」

 テーブルに置いてあったカップを取り、口を湿らせるウリル。
 四人は改めて起きた出来事や、関連していると思われる出来事を順序立てていく。 そしてセリアリアが消えたという事実に改めて表情を曇らせた。
 空になったカップをテーブルに戻すと、ウリルは尋ねる。

「原因と結果がまだはっきりはしないが……ここまでで、何か無いか?」

 部屋に居る者が何も話さない為、周囲の音が大きく聞こえる。
 木の床を踏む音、食器の鳴らす音、にぎやかな話し声――この一瞬に何が起こるか解らない状況に入り込む日常。
 あるいは異常から正常への回帰を望むがゆえか。
 皆恐れている。
 この世界は決して平和では無い、だが正常な日常は確かに存在していた。
 それが突然現れた赤い光の柱によって、一瞬で崩れさり日常の正常性は消え去る。
 「解らない事」は「知らない事」とは違う。
 「知らない事」は恐れにも、あるいは希望にも絶望にもならない。
 なぜなら「知らない事」は目の前にどのような姿で現れても、等しく「存在しない」事になるからだ。
 だが「解らない事」は、何か一つの事がおかしいのだと認知してしまう事で、恐れに、不安に変化する。
 「解らない事」を解き明かせばそれは希望にもなるだろう。
 それゆえに皆、学ぼうと、知ろうとする。
 「解らない事」を無くす為、それはつまり恐れや不安を取り除く為に知識を得、解明し、そして平穏を、安心を得ようとするのだ。
 「解らない事」は「異常」である、知識を学び安心を得る事とはつまり「異常」を分解し、解析し、「解っている事」へと変化させ、再構築を経て「正常」だという認識へと回帰させる事だ。
 結果それが絶望に繋がったとしても、やはり何も解らないよりは良いと考える。
 絶望しか見えていなくても「解っている事」であればそれを超えようと、あるいは回避しようと進む事が出来るのだから。
 「知らない事」ではそれすらも出来ない、それが一番恐ろしい事だと知っている故に学ぶ事もある。だが結局は「知らない事」は所詮「存在しない事」でしか無く。
 それを「知らない事」だったのだと認識する為にはどうやっても「解らない事」が発生し、「存在する事」に変化しなければいけない。
 全てを知る事は不可能だ。
 結果、「異常」は最終的にあらゆる事を知る、つまりは「存在する事」を顕現させる切っ掛けでもあると考えるべきだろう。
 
「何も無いか。俺はさっき一つ思い当たる事が出来た」

 沈黙を破ったのはウリルの声。

「え? うり、何か解ったの?」
「うりぼよ、一体なんだよ?」


 梨於とダァトがほぼ同時に聞き返す。サリアーヌとむちゅはウリルに顔を向け、続く言葉を待っていた。
 四人の視線が集まる。

「いくつかの例外というか、関連性はまだ読めないが……恐らくは――」

 若干の間をあけ、ウリルは二の句を告いだ。

「マナだ」

 その発言に四人はあっけにとられる。
 
「え?」
「なに? うりぼそれは……」
「うりりーん、マナってどゆこと?」
「ウリさん、あの、解るようにお願いできませんか?」


 四人の疑問がウリルに寄せられる。
 ウリルは空になったカップを右手で軽く遊びながら、大きく息を吐いた。

「あくまでも、俺の予想というかでしか無いから。それを踏まえて聞いてくれ。そこに行き着いたのは、だーととサリーの話から連想していったんだが……」

 ダァトとサリアーヌが顔を見合わせ、どの事かと考える。

「だーと、ブルーハーブだけが枯れてたって言ったよな?」
「あぁ、ブルーだけだ。グリーンもレッドもイエローもちゃんと生えてたけど、ブルーだけが枯れていたんだ。それが?」


 サリアーヌはポーチから件の枯れたブルーハーブを取り出し、テーブルに置く。

「これですよね?」
「うむ。それ」


 ウリルは手を伸ばし、ブルーハーブを摘みあげ続ける。

「これ。ブルーハーブとだーとは言ったが、他の言い方知らないか?」
「え? 他?」
「うむ、これな。薬草学や調合学では――マナハーブって言うのさ」
「な……」
「ハーブには俗称と正式名称があってな。グリーンはベース、レッドがブラッディ、イエローはサンライト――てな具合になる。薬草学や調合学をかじって無いとわかり難い事だが――るーならすぐ気付くかもな」


 摘み上げたブルーハーブを、テーブルに置くとウリルは続けた。

「それに次はゴーレムの事だ」
「ゴーレムもマナが関係あるんですか?」

 
 サリアーヌが問いかける。
 ウリルは少し考えた後――これも仮説でしかないが――と前置きを入れ答えた。

「ゴーレムってのは、作られたモノじゃないかと」
「作られた?」


 サリアーヌが再度尋ねる。
 
「んむ、魔族って一括りで表すが。それは違うんじゃ無いかって事だ、これは昔るーと話してた時に出てきた、るーの説ではあるんだが」
「るーが?」
「んむ、根拠も何も無いが――と、るーは言ってたがな」


 梨於が――るーって一応考える頭あったんだ――と漏らすと、四人は苦笑する。

「なちこ、るーはあれで薬草学も調合学もそれなりに学んでるぞ」

 まだ口元を歪ませたままで答えるウリル、彼以外の四人は少々意外そうな顔を見せた。
 
「まぁそれは置いておいてだ、るーはこう考えてたんだ。魔族は分類できるんじゃないか、ってな」
「分類つーと……」


 ダァトが小さく首を捻りながら呟く、それに続けるウリル。

「大雑把にまず三種類には誰でも分けられそうだと――」

 ウリルの言葉の途中、急に騒々しい音があちこちから届く。次々に扉の開く音や、荒々しく廊下を走り階段を飛ぶ音が響く。
 
「なんだ?」

 ダァトは疑問を口にし、部屋の扉に手をかけ廊下に顔を出そうとした時、奥から走ってきた冒険者が扉に激しくぶつかった。開きかけたドアがダァトの顔に勢い良く直撃し、その場でうずくまる。

「痛ってええ!!」
「だーと、大丈夫?」


 サリアーヌは慌てて、ダァトの様子を確認しに行く。
 ウリルが二人を跨ぐ様にして廊下に出ると、旅館中の冒険者が装備を整え外へと走り出していた。

「何があった」

 ウリルはちょうど部屋の前を走っていた小柄な冒険者を捕まえ尋ねる。
 小柄な冒険者は慌てた表情で早口に答えた。

「あんた、何ぼーっとしてんだよ! 巨大狼の群れが牧草地や南平原に大量に出てきたんだよ!!」
「なに?」


 その瞬間一斉に甲高い狼の遠吠えが村中に走り抜ける。
 普通の遠吠えでは無い、山間にこだまし、幾度も響くその大きな遠吠えは部屋の窓ガラスをびりびりと揺らす。

「ひ……何……この声の大きさ」

 むちゅが窓ガラスが震え、支えていた窓枠すらも揺れる音に身を竦ませた。
 梨於も同様に強張った表情でウリルに振り向く。

「……行くぞ、とりあえず今は話してる場合じゃ無さそうだ」 

 五人は荷の中から装備をそれぞれに取り出すと、部屋から足早に飛び出した。
 外を吹き抜ける冷たい夜風に乗り、いつまでも遠吠えだけが繰り返し静かな夜を切り裂いて行く。
 それはあたかも、遠い空にまで届くかのように……






Act機 Scene21 ティルコネイル3〜 END

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