多くの子が発言する授業にするには、ある日の初任者指導

2013年05月28日

自分のクラスは達成しているとしても・・・、

PAP_0161 道徳的価値は学習指導要領に、『第2 内容』として示されている。数例をあげると、『家族愛、郷土愛、尊敬・感謝、誠実・明朗、信頼・友情・・・』といったようなものだ。およそ人間の生き方として大切と思われる内容は網羅されているといっていい。

 ところで、わたしも若いころはそんな考え方をしていたが、
『ああ。この道徳的価値について、うちのクラスの子どもは十分身につけている。だから、あらためてとり上げる必要はない。』
そう思われている方はいらっしゃらないだろうか。

 また、そこまで思わないにしても、資料を読むと、『こんなことうちのクラスの子どもたちはするはずがない。だから、とり上げなくてもいいだろう。』そのように思われる方がいらっしゃるかもしれない。

 本記事ではそのあたりを考えてみたいと思う。例としてとり上げる内容は、1年生の『動物愛護』である。



 本授業は、初任者研修の一環として、わたしが初任者Aさんのクラスで行った。時期は3月。資料名は『けがをしたユリカモメ』(日本文教出版株式会社刊)である。掛図のようになっている写真や絵が5枚。それにカセットテープがついている。ふだん道徳の授業はわたしがお話を読んで子どもたちに聞かせるのであるが、本授業においては、このテープを使用することにした。

 それでは、同社のお許しをいただいているので、まずは、そのお話の全文を掲載させていただく。どうぞ。



 ユリカモメは遠い北の国からやってくる渡り鳥です。冬の間は、北の国ほど寒くない日本で過ごします。
 
 さちおさんが川岸の道を通りかかると、たくさんのユリカモメが飛んでいました。子どもたちがそのユリカモメめがけて石を投げています。
 『いけない。あんなことをしている。』
そう思ったとき、石が一羽のユリカモメにあたりました。ユリカモメは水の上に落ちました。子どもたちは驚いて逃げて行ってしまいました。ユリカモメはぐったりとしたまま流れて行きました。

 さちおさんはすぐ川にとび込みました。ひざまで冷たい水につかりながら、流れにゆれているユリカモメを救い上げました。そして、着ていた上着を脱いでユリカモメをくるんで急いで街の交番に届けました。交番からの知らせでパトカーがユリカモメを動物園に運びました。

 ユリカモメはひどいけがをしていました。片方の羽が付け根から折れていたのです。でも、動物園の人たちが手当てをしたのでけがはやがてすっかりよくなりました。けれどももう、遠い北の国まで飛んでいくことはできません。このまま動物園で飼ってもらうことになりました。

 そのことを聞いたさちおさんは、
『助かってよかった。でも、仲間と一緒に帰っていけないなんて、かわいそうだなあ。』
と思いました。


 お話は以上である。

 このお話をとり上げるにあたって、Aさんに話したことは、
「このクラスに、いや、この学校に、動物に向かって石を投げるような子がいるとは思えない。みんなどの子も動物にやさしいよね。
 その証拠に、校庭には多くの小鳥が毎日のように遊びにやってくる。自然がいっぱいだからやってくるのだが、そんな石を投げるような子がいたら、まず遊びに来る小鳥はいなくなるに違いない。
 しかしね。だからと言って、『もう目標は達成しているから、この内容をとり上げる必要はない。』そう思ってはいけないよ。」


 さあ。それでは、そう思ってはいけないわけを本授業をふり返りながら考えてみよう。なお、授業の流れを◎印で、その考察を※印で表す。

◎初めに、ユリカモメの写真の掛図(冒頭の写真を参照してください。)を提示。
「ユリカモメという鳥です。この写真を見て、感じたことを言ってね。」

 しかし、予想通りにはなかなかいかないものだ。『かわいい。』『きれい。』などという意見を予想していたが、『くちばしがとがっている。』『しっぽの羽が黒い。』『空を飛ぶ。』『ええっ。飛べないんじゃないの。』などという理科的な発言が相次いだ。

※このあたり、1年生に限らないが、低学年は特に最初の子の発言に引きづられる傾向があるから、あまり意見を求めず早々に切り上げることにした。

◎そして、さっそく上記のお話のテープを聞かせることにした。
「さあ。このユリカモメがどんなふうになってしまうのか、お話を聞いてください。」

 話が終わると、一斉に手が挙がった。どんどん指しながら、発言内容を板書していった。

kokuban1

「鳥に石を投げるなんてひどい。かわいそうじゃん。」
「何で石なんか投げるの。当たったらけがするじゃん。」
「ユリカモメはけがしちゃったよ。だからね。飛べなくなっちゃった。」
「鳥に石を投げるなんて、悪い子だ。」 
「パチンコで鳥をねらうみたいにして、石を投げた。遊んでいるんだけれど、ダメ。そんなの。」
「当たっちゃって川に落ちちゃったからね。びっくりして逃げちゃった。いけない子たちだ。」
「さちおさんはかわいそうに思って、川へ飛び込んだでしょう。ユリカモメ思いで、やさしい。」
「さちおさんは自分が石を投げたわけではないのに、助けようとして川へ飛び込んだんでしょう。だから、えらい。」
「ユリカモメに石を投げた子どもはかわいそうなんて思っていない。だから逃げたんだよ。」

 ここでちょっと不可解な発言があった。物議をかもす。
「一緒に飛んでいた仲間のユリカモメが助けてやればいいのに。」
「ええっ。ユリカモメがユリカモメを助けるの。」
「ええっ。どうやって助けるの。」
「そんなの、無理。羽が付け根から折れているんだよ。そんなの、ユリカモメの仲間が助けてあげられるわけないじゃん。」
「・・・・・・。」
「お医者さんでないと治せない。」
「そんなことないよ。動物園の人が治しているじゃん。」
「動物園の人はやさしいからね。けがの手当てをしてやったでしょう。お医者さんでなくても治せてよかった。」
「警察の人もやさしいよね。心配そうに見ているよ。治ってホッとしたと思う。」
「さちおさんもほっとしたよ。でも、北の国へ帰れなくなっちゃったからかわいそう。」
「警察の人でも治せるんじゃないの。だって、警察の人だっているよ。」
「でもね。いくら治せてもね。あの子たちがいたら、また石投げられてけがしちゃうから、かわいそう。」
「ずっと動物園にいさせてあげれば、大丈夫。」
「そうだよ。北の国へ飛んでいくことができてもね。北の国にも悪い子がいたらけがしちゃうでしょう。だから、動物園にいた方がいい。」
「動物園のなかなら、けがしたり病気になったりしても手当てしてくれるし、安心できるのではないか。」

※またまた、授業は思わぬ方向へ展開していった。

 大人は、治って早く仲間のもとに行けたらいいと考える。治ったのはよかったけれど、一羽だけ動物園で飼われるのはかわいそうと考える・・・だろう。お話の結末もそうなっている。

 しかし、子どもは必ずしもそうとらえるとは限らない。まさか、『北の国にも悪い子がいたら〜』などと考えるとは・・・、
 あらためて、子どもの柔軟性に舌を巻く思いだった。

 それについてだが・・・、ここは、あくまで、『動物愛護』の心情を養うことがねらいだ。だから、愛護につながるのであれば、いろんな発想があっていい。『このまま動物園で飼われた方が幸せか。北の国へ戻れた方が幸せか。』などは、とり上げなくていいと考えた。
 幸い、子どもたちもそこにこだわることはなかった。そこで、子どもたちの自然なやり取りに身をゆだねることにした。

 
◎授業の流れに戻る。
「関係ないことだけれど、この川は(わたしたちのまちを流れる)B川じゃない。だって、河原の感じが似ているよ。」
「そうだ。似ているね。B川だよ。」
「でも、家がないから、むかしのB川だ。」
「ぼくもB川だと思う。だって、鳥が遊んでいることあるよ。ぼく見たことあるもん。」
T「実はね。この絵がB川かどうかは分からないけれど、B川にユリカモメが来るかどうかは分かるよ。その資料がある。今、見せるね。」
「あっ。ほんとうだ。ユリカモメって書いてある。」
「向こうに男の人がいるじゃん。あれ、さちおさんなんじゃないの。ユリカモメを助けているんだ。」

※またまた、予想外の流れ。

 まさか、B川になぞらえるとはね。・・・。B川は学校のすぐわきを流れている。子どもたちも親しんでいる川だ。だからこのやり取りは、お話を我がこととしてとらえているあかしとでもいえるだろうか。

 しめしめ。この流れは、授業の終末にスムースにつながるぞ。・・・。そう思った。そこで、授業の最後に提示するつもりの資料を、ここで出すことにした。

◎以下、途中は省略させていただいて・・・、終末の場面をとり上げることにしよう。
kotori2 
T「この写真は、C小学校に舞い降りてきた小鳥なの。こっちはね。B川に降りてきたユリカモメかな。でも、人がこうやって近くを歩いていても逃げないでしょう。どっちも逃げないよ。なんでだと思う。」
「鳥と人が仲良しだから。」
「そう。石なんか投げる人はいないから。」
「小鳥もね。安心している。」
「でも、休み時間にボールを投げてて当たったら、けがしちゃうよ。」
「小鳥が近づいてきたら、ボールを投げないようにしないといけない。」
「大丈夫だよ。小鳥は逃げるの速いから、当たらないよ。」
「それにね。ユリカモメはB川には来るけれど、校庭には来ないよ。だから、大丈夫。」
「小鳥がね。もっともっといっぱいC小学校に来てくれたらいい。」
「小鳥をね。いっぱいかわいがるの。そうしたら来てくれるよ。」

※いかがだろう。冒頭に問題提起させていただいた、『もう目標は達成しているから、この内容をとり上げる必要はない。』という点についてだが、

・日常、いくら動物愛護の言動が見られるからと言っても、それは無意識の世界かもしれない。それを意識化させることは大事なのではないか。言動がより積極的になることも期待できる。

・小鳥、ユリカモメへの温かな心。それは、決して鳥にだけ向けられるわけではない。生きとし生けるものに向けられるはずだ。そう。お友達を大切にする心にもつながる。

 いや。ほおっておいたらつながらないだろうね。指導者が、そう関係づけて学級経営をするように努めることが大切だ。

 道徳の一時間は、学級、学校生活のすべてと有機的関連性をもたせる必要がある。

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by 松永エリ   2013年11月27日 11:43
初めまして。

コメントから失礼致します。不適切でしたら申し訳ありません。

ブログを読ませて頂き、現在は退職されているとのことでしたが、Class Chartsと呼ばれるイギリスで展開されている新しいソフトウェアに興味を持っていただけるのはないかと思いメールさせて頂きました。(http://jp.classcharts.com/)

Education&Technologyという分野になりそのキーワードでHPを検索させて頂いた次第です。

クラスチャートとは、現在主に海外の教員によって使用されており、豊富な生徒のデータを使用して、Class Chart上で適切な座席表を作成したり、生徒の振る舞いの管理を行う無料のツールです。

私はこの製品の日本語訳チェック等を担当し、現在日本にて、周知をしているところです(使用対象は、小学生、中学生、教員、保護者なのですが、よければご覧いただけたらと思いました)。

日本での周知はなかなか難しいとは思っているのですが、もしご興味をもっていただけましたら、クラスチャートに関する記事をブログ内で書いていただけると非常に幸いと思いましてご連絡させていただきました。

私のほうで作成したClasschartsを簡単に説明したワードファイルもご用意があります。

お時間のある際にクラスチャートをご覧いただければ幸いです。(http://jp.classcharts.com/)

何かあればご連絡頂けますと幸いです。
ありがとうございました。

http://www.edukey.co.uk/
(ClassChartを開発した会社)

http://www.classcharts.com/
(Class Chartのページ)

松永
2. Posted by toshi   2013年12月07日 15:52
松永エリ様
 コメント、ありがとうございました。お返事が大変遅れ申し訳ありません。
 興味深そうなHPをご紹介いただきましたが、どれもみな英語なため、わたしにはわかりません。
 日本語訳をご紹介いただけたらと思いました。
3. Posted by 松永エリ   2014年01月22日 20:27
toshi様、

コメント頂き有難うございます。
そしてメールボックスばかりチェックしていたため、返信が大変遅れまして申し訳御座いません。

日本語でのサイトは、
http://ja.classcharts.com/となります。
登録頂くと中をご覧頂けます。

アメリカやイギリスですと、クラス管理をこういったケースで行っていると思うのですが、classchartsの性質から、日本での普及は大変難しいと感じている次第です。
遅くなってしまい大変恐縮ですが、お時間のある際にご覧頂けますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
松永
4. Posted by toshi   2014年01月26日 13:09
松永エリさん
 登録がうまくいかないようです。
 それで、貴コメントと見られた少ない情報からの判断ですが、
 座席表への取組は、わたしたちはやっております。ただ、その目的は若干違うように思いました。あくまでわたしたちは、毎時間の学習にかかわる部分における子どもの実態、想いなどを書き込んでいます。そして、明日の授業に生かす目的で使っております。
5. Posted by 夢は小学校の先生   2014年01月29日 09:30
5 話を切るようにコメントしてしまってすみません。

私は現在教育学部に通う大学生です。まだ1年生なので実践的な授業なんかはしていませんが、ブログを拝見して本当に素晴らしいと感銘を受けました。

授業について子供達の主体性などを促すような教え方をされていて、ただ分かりやすいように教える…では足りないんだと気付きました。
またトラブルの解決方法や褒め方など、思わず成る程…と言ってしまうぐらいに参考になりました。

これからも是非、ブログを拝見したいと思っています。忙しいかもしれませんがブログよろしくお願いします。
6. Posted by toshi   2014年01月30日 05:10
夢は小学校の先生さん 
コメント、ありがとうございます。そして、HNからして、うれしくなってしまいました。夢が実現されますよう、祈念しております。
《ただ分かりやすいように教える…では足りないんだと気付きました。》
 1年生でいらっしゃるとのこと。それなのに、こうした気づきをされたこと、すばらしいと思いました。
《これからも是非、ブログを拝見したいと思っています。

 ありがとうございます。よろしくお願いします。目次がありますので、そこからクリックしていただければ、読みたい記事が見つかりやすいのではないかと思います。
 ただ、申し訳ないことに、リンク切れも多数ありますので、その点はお詫びします。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
多くの子が発言する授業にするには、ある日の初任者指導