2007年11月30日

日本のよさを生かそう。(習熟度別学習をめぐって)3

10011f52.JPG 日本の義務教育において、つい十年ほど前までは、習熟度別にグループ分けして授業を行うなど、とんでもないことだったはずである。

『そのようなことをしたら、子ども同士、できる、できないが白日の下にさらされ、優越感や劣等感を醸成してしまう。差別感をうむことだってあるかもしれない。心を育む観点から言っても、そのようなことをするべきではない。』

 ところが、あれよ、あれよというあいだに、世の中の常識は大きく変わり、いまや、国も推奨するし、我が地域においても、かなり一般的になってきた感がある。

 ただし、我が地域においては、ちょっとよそにはないと思われる動きもあるので、それについては、後述する。

 これまで、PISA調査を中心にいろいろ論述してきたが、ここでちょっと習熟度別授業について、振り返ってみよう。


 まず、わたし自身は、すでに、拙ブログの記事に書いたことがある。

     小学校における習熟度別は?

 ここでは、学級担任制を基本とし、担任と子どもとのふれ合い、信頼関係を中心とした学級づくりが、学力形成に重要な役割を果たす小学校教育の特性を述べ、習熟度別授業の問題点を具体的に指摘した。


 次に、

 今回、PISA調査責任者のシュライシャー氏の講演をご紹介いただいたことにより、新たな観点で、習熟度別授業の問題を考えることができた。

 習熟度別をとり入れた国の成績が、かんばしくないと報告されているのだ。

 同氏はその原因として、『習熟度別に分けたつもりが、実は、一人ひとりの子どもの社会的、経済的、文化的背景によって分けられる結果になってしまう。』という点を指摘していた。

 これは、世界各国のデータをもとにした考察だから、説得力がある。

 この論理でいくと、日本は今、社会的に二極分化が進んでいると言われているから、習熟度別をとり入れると、学力格差はさらに広がりそうだ。


 また、この講演では、習熟度別をめぐって、新たな視点を与えてくれた。

 世界各国が、子どもの学力を高めようとすると、おもに2つのやり方に分かれる。

 一つは、早い時期から習熟度によってグループ分けをして、それぞれの能力に応じた指導をしようとする国。
 もう一つは、グループ分けをしないので、いろいろな能力の子どもがいるが、もっぱら、一人ひとりの個人差に応じた指導を教員の努力によって行っていこうとする国。

 そして、後者の方がよい結果をもたらしていると言うのだ。

 つまり、システムによって個人差に対応するよりも、教員の努力によって個人差に対応する方が、いい結果を出している。

 ここまで分析しているということ、そして、その分析結果に、わたしは驚きの念をもった。



 さて、もう一つ、ここで、新たな資料を紹介させていただきたい。
 

 つい最近、今の勤務校で、算数の研究授業があった。実は同校では、高学年だけ習熟度別をとり入れているが、あとの研究討議の場で、講師の先生は、以下のようにおっしゃった。

「習熟度別は、やめた方がいいですね。もう、教育界では、『このやり方は成果が上がらない。』というのが常識になっています。〜。」

 わたしは、『そうだよな。PISA型調査の講演でも、そう言っていた。』そう思った。しかし、その理由は、かなり違っていた。

〇子どもは教員から学ぶだけではないということだ。友達からも、環境からも学んでいる。

〇子どもの考えは、教員よりよいことがある。子どもらしい発想が、遅れがちな子どもによりよい理解をもたらす。習熟度別にしてしまうと、遅れがちな子どもは、そうした多様な考えを聞く機会をなくしてしまうことになる。

〇遅れがちな子どもにも、発展的な学習をした方がよい場合がある。ところが、そうした機会を得ることができない。

 これは、つい先日、わたしが記事にした内容とほぼ同じではないか。日本の伝統的な、大人数による一斉学習こそが、子どもの学力を伸ばすのに適しているというのだ。

    教員の資質を高めるために、

 ただし、

〇習熟度を高めたいという、その一点のみをねらいとする授業なら、習熟度別もいいだろう。しかし、それでは、『学ぶ』ということができなくなる。

 今、この記事のHPを見つけることができたので、リンクさせていただきたい。

    習熟度別学習の考察と問題点     杉山吉茂教授  
(リンク先のP10、11に掲載されています。)


 しかし、わたしは思う。いくら大人数による一斉学習がいいと言っても、

〇子ども同士、互いに協力し合ったり、学び合ったりする雰囲気が、学級になければならない。
『あっ。Aちゃんは、ここのところを、こう考えてしまったから間違えてしまったのではないの。惜しいね。』
『先生。Bちゃんの考え、すごいね。便利だから、使わせてもらおう。』

そうした雰囲気がないと、学力向上は期待できない。

 そういう意味では、かつての拙ブログ記事、『いじめ防止と算数の授業』が参考になるであろう。

〇指導者に、子どもの考えを引き出す姿勢がなければならない。指導者主導では、やはり、子どもは受身になってしまい、主体的な学びにならないことに変わりはない。それでは、豊かな人間関係の構築も、むなしいものになってしまう。

 日本には、日本のよさがある。いろいろな能力をもった子がいる学級という組織を大切にし、問題解決学習をとり入れた一斉学習で、学力向上を図ろうではないか。
 自信をもっておし進めていきたい。

 
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 我が地域の教育委員会も、表向きは、『習熟度別学習をおし進めましょう。』と言っています。国がそう言っているからでしょう。

 しかし、『我が地域においては、習熟度に応じた指導を、あくまで、一人ひとりの個人差に応じた指導ととらえたいと思います。一斉指導のよさは、やはり大事にしたいと思います。それこそが、我が地域らしさではないでしょうか。』とも言っています。

 本音の部分では、一斉学習の効用がよく分かっているのです。

 柔軟な対応を呼びかけていると言っていいでしょう。ですから、多くの学校は、高学年の算数において、それも、単元を選んで、習熟度別をとり入れているようです。

 それでは、今日も、1クリックをよろしくお願いします。


rve83253 at 02:00│Comments(8)TrackBack(0)教育観 | 指導観

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この記事へのコメント

1. Posted by KG   2007年11月30日 17:13
研究授業での講師の先生のお話し、すごくよくわかります。
佐藤学先生の本で「習熟度別指導の何が問題か?」という本は、この講師の先生とシュライシャー氏の講演内容、両方を含んだ内容となっております。

http://my.reset.jp/~yokokai/siminto/genkisyuukai/gakusatou.htm
ここにその本の内容をまとめたページがあるので紹介しておきます。(こんなに書いたら著作権法違反なのではないかと心配するくらい本の内容が紹介されています)
2. Posted by toshi   2007年12月01日 10:27
ちょうどわたしのブログを読まれているかのように、あまりにもタイミングのよい講師の先生のお話でしたから、わたしはおかしくなってしまったくらいです。
 そして、またまた、新たな観点から習熟度別学習の問題を学ばせていただきました。
 
 話は変わりますが、以前、フィンランドの教育についてはよく分からないと書きました。でも、こうしてブログをやらせてもらっている以上、分からないままではいけないと思い、今、本を購入して読んでいます。

 やはり、少人数によるグループ学習、協同学習が基本のようですね。日本の一斉学習による問題解決的学び合いとは、一線を画するようです。
3. Posted by KG   2007年12月01日 11:46
本当にタイミングが良すぎますね。
同時に上からのトンチンカンな改革は憂慮するところなのですが、うまく受け流して良い方に改善していく現場の方の知恵と努力には敬服するばかりです。

日本における協同学習の授業実践については、佐藤学先生の「教師たちの挑戦―授業を創る、学びが変わる」が参考になるかと思います。
ここで紹介されている授業がフィンランドスタイルに近いでしょうか。

toshi先生が目指しておられる授業と協同学習方式は本質的にはほとんど同じで、手法としてはグループ学習の取り入れ方に相違があるような気がします。
以上は素人判断なので、toshi先生がもしお読みになったらtoshi先生の批評をお聞かせ願いたいです。
4. Posted by ai   2007年12月02日 01:05
ご無沙汰いたしております。
toshi先生のおっしゃっていること、よく分ります。
学級の子供たちが主体的に動き、協力し、学ぶことはとても大切ですよね。
時には、大人が想像する以上の相乗効果がもたらされることもあると思います。
いろいろな子供がいる学校と言う場だからこその、相乗効果ですよね。
このようなまとまりのある学級にするには先生方の努力は大変なものだと思いますが、そのためにも、以前の記事にあった「教員の資質を高める」ことが急務なのでしょうね。
また、素人の意見で恐縮ですが、toshi先生が初任者のご指導をなさっているように、幾重にも先生方のサポート体制を張り巡らせることも、大切だと思いました。
5. Posted by toshi   2007年12月03日 00:53
KGさん
 話はぜんぜん違うのですが、本日の記事にも、タイミングのよさに驚いたエピソードを掲載しています。何か不思議な感じがします。

 これは、陰の声で、小さく言いますが、我が地域には、国の権威にストレートには従わないという、習癖があるのです。地域の独自性を大切にしています。

 本の紹介、ありがとうございます。

 今、フィンランドの教育を書いた本と、公立中学校で大変な成果を上げている学校を紹介した本を読んでいます。
 ごめんなさい。後者は、本屋で見つけたものを買ったので、ご紹介いただいたものとは違ってしまいました。

 今日ご紹介いただいた本も、近いうちに読んでみたいと思います。
6. Posted by toshi   2007年12月03日 01:03
aiさん
 いつもありがとうございます。
 ときどき、わたしや初任者の授業を紹介させていただいていますが、どれも、いろいろな能力の子が力を発揮し合い、それによって考えを深めるという、そういう学習をしていると思います。
 これこそが、自立し、生涯を通じて主体的に生きる力の育成に直結した指導だと確信し、がんばっています。
 どうぞ、これからも、拙ブログをよろしくお願いしますね。
 
7. Posted by うーん   2012年08月03日 20:14
「よい結果をもたらしている」って、統計的有意差の検定とかした上でいってるんですかね、その先生。教育関係者っていうのを見てますと、数学リテラシーが著しく欠いている人もかなりいますので心配だなあ。頼むからそういう人に算数おしえさせないでほしいっす。
8. Posted by toshi   2012年08月04日 09:45
うーんさん
 貴ハンドル名に思いがこもっているように感じられ失笑を禁じ得ませんでした。(失礼!)
 「よい結果をもたらしている」というのは、記事にも書いていますが、OECDのPISA調査責任者であるシュライシャー氏が講演でおっしゃったことです。
 PISA調査は、2009年において、世界65の国と地域で行われました。そしてその調査結果と各国の教育施策とを分析した結果として講演で話されています。したがって、かなり信憑性の高いものということができるのではないでしょうか。
 くわしくは、記事にあります『PISA調査責任者のシュライシャー氏の講演』をクリックしていただければと思います。そのP14あたりに記載があります。

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