2007年12月25日

しかけどころ(3)4

0f288792.JPG 『しかけ』の概念については、(1)に記述しているので、お読みでない方は、そちらからご覧いただけると幸いです。ちょっと誤解を招きかねない言葉だと思いますので、その点よろしくお願いします。


 そして、前々記事(2)では、『しかけ』は、長期的な展望をもって見つめていきたいという部分について書いた。

 それを受けて、本記事では、『単元におけるしかけ』と、『一時間の授業におけるしかけ』について、書きすすめたいと思う。

 いずれも、しかけどころ(1)に書いた、総合的な学習の時間の研究発表会で、参観させていただいた授業である。
 ここでは2学級をとり上げるが、わたしは、当日、全学級を参観させていただいたので、一つの教室には数分しかいられなかった。したがって、ここでの記述は記録を参照せざるを得ず、どうしても断片的になってしまう。

 申し訳ありません。



 まずは、単元全体を通してのしかけにかかわる授業から。

 5年生のあるクラスは、エコキャップ運動に取り組んでいる。ゴミとなるペットボトルのキャップを集め、それをリサイクル業者に売り、その収益で発展途上国の子どもたちにワクチンを寄付しようという運動である。

 学級では、8万個を目標とした。担任は初め、『それはとても無理。でも、やれるところまでやれればいい。』という思いを抱いたようだ。

 活動しているうちに、『自分たちだけでは8万個など、とてもとどかない。』そう気づいた子どもたちは、まちの人たちに協力を呼びかける。お店などへは、収集のための箱を設置してくれるように頼み込む。

 大部分は、『いいよ。』『がんばってね。』などと好意的だったが、

 数軒のお店では断られたようだ。

「こんなもの、店に置くわけにはいかない。もっとちゃんとしたものならいいけれど。」


 それで発奮した子どもたち。しっかりしたものを作ったのだろう。

「おお。これならいいよ。いいのができたね。店に置いてみよう。」



 まちの人の協力はすごい。子どもたちがたのんだ人が、また、さらに他の人にもたのんでくれる。

 こうして、8万個も夢ではなくなった。

 子どもたちは口々に言う。

「ふだんあまり話すことのなかった人とも、自然に話せるようになった。『ありがとうございます。』って言えるようになった。」
「まちの人に、『えらいね。がんばってね。』『また集めておくからね。』って声をかけてもらえるとうれしい。」
「『たくさん集まったよ。早く取りに来てね。』って言われちゃった。初めて会った人にまで、感謝されちゃった。」

 でも、断られた経験は、貴重だったようだ。

「ぼくたちはこんなにがんばっているのにと思うと、最初はがっかりした。」
「でも、いいのを作ると、『いいよ。』って言ってくれたからよかった。」
「まちの人は、ぼくたちを子ども扱いしないのだと思った。それがうれしかった。」

 子どもたちはこうした活動を通し、まちの人たちの協力への感謝の思い、エコキャップ運動の意義、リサイクル運動への関心、発展途上国の実情などを知るという方向に学習を深めていく。


 さて、読者の皆さんには、この学習で、何が『しかけどころ』かお分かりいただけたことと思う。

 子どものやることだからと、すべてまちの人が、『いいよ。いいよ。』と言っていたら、子どもたちの情熱はそれなりにしかならないだろう。
 ある程度の挫折経験。それこそが、新たなる活動への意欲付けになっていく。また、意識も深まる。

 そこには、担任初め、まちの人たちの、子どもへの信頼がある。



 次は、3年生。一時間の授業における『しかけどころ』を見てみる。

 この学級は、介護老人保健施設との交流を進めている。子どもたちは、ある日、この施設を訪ね、群読交流会を行う。ところが、せっかく訪ねてがんばったのに、ちっとも喜んでくれないお年寄りがいたことに、落胆する。

 授業の初めは、
「笑顔のないお年寄りがいたから、楽しくないのかなと思うと自信がなくなった。」
「悲しくなってしまって、どうしたらいいか分からなくなった。」
「みんなでやっていたから、どうにかがんばれたけれど、自分も笑顔が消えそうになった。」
「ぼくたちが何かしても、うれしくなんかないのだ。無視されているみたいでいやだった。」
「耳が聞こえないのかなあ、それとも、興味を持ってくれないのかなあと不安になった。」
などという発言が相次いだ。

「もう二度と行きたくない。」
という子まであらわれた。

 そこで、この介護老人保健施設で働く職員の方々の声が、資料として提示される。

「みなさんは、喜んでくれないと言っているようですが、いつもわたしたちに怒鳴るような方も、あの日は、とてもなごやかな表情で過ごしていたのですよ。きっと、やさしい気持ちになれたのだと思います。」
「ちっともうれしそうではなかったように見えたかもしれませんが、その方は、皆さんが帰った後も、皆さんからいただいたカードを大切そうに持っては、いつまでも眺めていました。きっとうれしかったのだと思います。」
「表情は変わらないように見えても、みんな喜んでいるのです。わたしたちには、お年寄りのちょっとした表情の変化も分かります。」
「病気で言葉や感情を失ってしまったと思われたお年寄りも、皆さんとふれ合ったことにより、言葉や感情が戻ってきたのです。ほんとうにありがとうございました。」

 子どもたちは、驚いたようだ。そして、うれしさがこみ上げてきた。

「そうか。ぼくたちが群読をしたのは、むだではなかった。」
「ちゃんと喜んでくれていたのだ。表情が変わらなくても、心ではうれしかった。」
「ぼくたちとふれ合ったら、病気が治ったのかな。」
「それなら、これからも行ってふれ合いたい。」

 みんなの心が和んだ。参観者も皆笑顔で子どもたちの話を聞いていた。『よかった。』という思いだ。


 ところが、一筋縄ではいかない。

 たった一人ではあったが、疑念は持続したようだ。

「いや。ぼくは、まだ、行く気にはなれない。・・・。ちょっと考えてみる。」

 これはこれですばらしいのではないか。ほんとうに、本音に生きる子どもたちである。



 さて、最後に、2つほど。

 まず、わたしは初任者指導に携わっているから、その観点から感じることがある。

 『しかけどころ』というのは、初任者にとっては、予期していない子どもの発言で、実際は対応に困ってしまい、無視してしまいかねないものが多いのではないか。

 でも、困ることはない。そこにこそ、人間の真実がある。きれいごとではない。


 担任の、子どもを把握する努力と、深い洞察によって、逆にそれは、子どもを大きく変容させたり、深い気づきへ導いたりすることになる。すばらしい学習が保障される。


 もう一つ。

 これは、問題解決学習に共通する考え方だが、『ええ。なんでえ。』『どうしてえ。』という思いが、学習を意欲的なものにする。矛盾の発掘が大切だ。


 そんなもの、いつも用意することはできないだって。

 そんなことはない。PISAの言葉を借りれば、『実生活とはそのようなものではないのか。』


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 ああ。問題解決学習の問題点というか、留意点に言及するのでしたね。

 すみません。それは、次回にさせていただきます。

 それでは、今年も押しつまってまいりました。お忙しいこととは存じますが、よろしければ、1クリックをぜひお願いします。

rve83253 at 08:04│Comments(6)TrackBack(0)総合的な学習の時間の指導 | 問題解決学習

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この記事へのコメント

1. Posted by くるみ   2007年12月27日 01:10
子どもたち・・・ほんとにすばらしいですね。
こんなふうに、自ら進んで、真剣に、そして、生き生きと感じ考え行動し、振り返り、次の行動へとつなげていけるものなのですね。子どもの力を改めて感じました。大人の「しかけ」次第ですね。親も「しかけ」を学ばなくては・・・。
2. Posted by toshi   2007年12月27日 14:48
くるみさん
 子どもの可能性を信じ、子どもに寄り添うように支えてやれば、子どもの学びはどこまで伸びるか分からないといったくらいのものだと思います。
 今、減らされようとしている総合的な学習の時間ではありますが、わたしは、今、その意味、意義を強調するつもりで、記事にさせていただいています。
 教科とは、大人が教えやすいように設けたと言われています。その『教科』という枠では学べない学びを子どもに保障するという意味で、その大切さを、これからも訴えていきたいと思います。
3. Posted by yamame   2007年12月27日 17:17
5 「しかけ」

いいですね

私は 北国の 一教師です


しかけに ほぼ対応する? 「ドラマチックな..」をいつも念頭に
子ども達と奮闘する毎日です

貴方のブログを読ませていただきましたが、ワタシャまだまだ学びが必要なようです 
4. Posted by toshi   2007年12月27日 20:46
yamameさん
 『ドラマチックな』
 ああ。これも大切ですね。わたしがいつも引き合いに出す言葉、『ええ。なんでえ。』『どうしてそうなるの。』などという声も、これに含まれるなと思いました。
 貴ブログ、少しのぞかせていただきました。白一色の雄大な自然、マイナス13度。
 こちらでは想像もつきません。
 そう言えば、わたしの一昨年の勤務校の一つが、北国のある町の小学校と交歓していたのを思い出しました。
 今後とも、どうぞ、よろしく。
5. Posted by ushio   2008年05月24日 22:50
5 エコキャップをしかけた担任です。つい、先日このブログを見て、「わたしのクラスだ!」と気付きました。昨年の授業を見に来ていただきありがとうございました。めざした8万個は大きく超え、3月で26万個に達し、6年生になった今なお、自主的に続けています。先週、この活動がNHKに取材されました。お時間があれば見てください。5月31日土曜日18:10〜NHK「週刊こどもニュース」〜質問バンバン!〜のコーナーで紹介されます。地域の協力のすごさは想像をはるかに超え、改めてまちのよさ、温かさを実感しました。
6. Posted by toshi   2008年05月25日 06:08
ushioさん
 うわあ。授業者ご本人からのコメントとは、うれしい限りです。
 26万個ですか。すごいですね。きっと町ぐるみという感じになったことでしょう。子どもは生涯記憶に残るし、それは生きる力になっていくことでしょう。『人間への信頼感を強めたこと』『なせばなるといった思いをもったこと』が力になっていきますね。
 テレビ、楽しみにしています。

 お詫び。
 わたし、拙ブログへの掲載許可を校長先生にお願いしただけでした。お詫びします。もうお一人の3年の先生にも、よろしくお伝えいただければと思います。

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