2009年12月07日

政府の事業仕分け 教育編(2) 全国学力調査をめぐって、4

39bc296d.jpg前々記事に続き、本記事では、全国学力調査をめぐる事業仕分け、そのなかの質疑応答編をとり上げさせていただく。

 この質疑応答にはがっかりさせられたが、

 しかし、ひょんなことから、同調査について、すばらしい国の取組があるのを見つけることもできた。本記事の最後では、それを紹介させていただこう。



 初めに、事業仕分けにかかわる新聞記事にリンクさせていただく。(すみません。
もうすでにリンク先は消えています。)

  【事業仕分け詳報】(2)仕分け人「非常に失礼なんじゃないか!」
  
  【事業仕分け詳報】(3)文科省「誤差は1%以内」 

  【事業仕分け詳報】(4)仕分け人「30億円かけるより10億円で」

 この仕分けの記事を読み、なんか、むなしさを覚えた。ああ。こんなレベルの人が仕分けしているのか。『これでは、日本の将来は救われないなあ。』とがっかりさせられた。

 論点は、
・抽出の割合はとか、
・学力の推移はとか、
・ランキングは県段階でいいのかとか、
 いわゆるマスコミ受けするものばかりで、肝心の、調査を受ける子どものことが、まったくとり上げられていなかった。

 この記事を読んでいると、まるで、子どもが、人格のないロボットであるかのようだ。数値化された学力(?)を、つめ込めば済むロボットか。そんな認識だから、生身の子どものことなど、議論する必要はないのだろうね。

 ああ。この子どもたちが、これからの日本を背負ってたつというのに、無機質で物のような感情のない、そんな日本人ばかりにしてしまっていいのかな。また、自分というものがなく、誰かの言うことをオウム返しに言うだけという、そんな日本人ばかりにしてしまっていいのかな。


 それ以外でも、

 同調査では、学力のほんの一部しか測れないのに、仕分け人には、そんな理解もないようだ。

 また、わたしは、かつて、同調査の活用問題は、『学力観の黒船』と書かせてもらったが、そんな意識もないようだ。

 それらは、まったく議論になってこない。



 仕分け人の一人、A氏は言う。

〇「私は(現行のやり方は)評価できるというふうに思います。とりわけ都道府県別のランキングがマスコミをにぎわしまして、3年間で、わりと下の方でずっとあった自治体っていうのがあるんですね。

 ちょっとこの場でざっくばらんで言いますと、北海道、沖縄、大阪、大分、そして岡山、それから福岡と高知です。この7県は3カ年とも結構低調でした。

 でもですね、去年あたりから本格的な取り組みが、たとえば自治体の知事、あるいは教育長のリーダーシップで始まって、たとえば大阪であれば、小学校の学力がぐっと上がってますし、高知であれば中学校の学力がぐっと上がってきている。そういう組織的な取り組みをきっちりとやったところは成果が出ているんですね。そういう意味ではアラームを鳴らしたという意味で、それから組織的な取り組みが始まったというような意味づけは非常に大きいと思うんですね。これは評価できると思うんです。」

 冗談ではない。こんなこと、評価できるものか。

 子どもの人格形成を無視しての、調査問題正答率アップ至上主義の学習ツールを開発した(?)のは、どこの誰だったっけ。

 わたし、あんなものは、公教育の教育計画とは認めない。いかに、学習指導要領弾力化に賛成するわたしでも、あれはもう、弾力化のはんちゅうをはるかに超え、チョー独善的な代物だ。
 
 
 そんな計画を立てながらも、その点数の結果は、たいしたことないのだ。

 『ぐっと上がった。』などとは、よく言えたものだ。都道府県別順位は相当上がったかもしれないが、正答数にすれば、ほんのちょっとですよ(『播磨のいぢ』にリンクさせていただきました。)


 ああ。何度も繰り返すが、ランキングなど、公表しなければよかったのだ。

 第一、同調査の目的に、ランキングなどまったく書かれていない。このようなものを公表するから、その後の、一部市民による、市町村ごと、あるいは、学校ごとの開示請求につながった。学力狂騒の元凶は、まさにここにある。

 公教育を荒廃に導いてしまったランキング。それを評価するとは、開いた口がふさがらない。


〇A氏はさらに言う。

 「おそらくこの場の、この会場にいらっしゃる方も、ネットで聞いてらっしゃる方もこの全国学力調査についてはちょっと勘違いをしてらっしゃる可能性があるんです。
 だまされていると言ってもいいんですが、これですね、問題を公表しちゃっているために経年の比較ができないんですね。ですから平均点の素点が去年より今年、今年より来年、上がっていたとしても、それが日本の子供たちの学力が上がっていることにはならないんです。
 ここは非常に大事なポイントで、もし経年比較をやりたければ、もっと少ないサンプルで、要するに同じ問題を3年連続で使うということをしなければいけないんです。」

 ここにも、毎度おなじみ、大阪府教育委員・特別顧問特有の『脅し』というか、『はったり』というか、とにかく教育者にあるまじき、まわりの人をドキッとさせる手法がある。


 勘違いも、だまされてもいないのですよ。この、A氏こそ、おかしい。

 ランキング同様、この、いわゆる学力の経年比較なども、調査の目的には何も書かれていないのだ。つまり、経年比較は公には調査の目的とされていないのだ。

 A氏こそ、学力低下論に加担し、一同をだまそうとしているのではないか。

 よく解釈しても、A氏は、一人相撲をとっていることになる。


〇A氏の論理矛盾。

 「もう1つ、それじゃあ視点を提供します。私は税金を使ってやる調査である以上ですね、公表が原則だと思うんですね。
 たとえば都道府県ぐらいですね。学校のデータを公表する必要はないです。もしやるなら、都道府県だけじゃなくて市区町村ぐらいまでデータを公表して、厳しいところは分かっているわけです。厳しいというところについては、お金を投じるなり、教員を厚く配置するなり、人とカネを支援しましょうと。そうすれば、みんな分かるんですね。」

・『税金を使ってやるのだから、公表が原則』という。これは、市民に、分かりやすい論理だ。論理の落とし穴と言っていい。

 でも、子どもの側にたって考えてみよう。迷惑(?)な調査を大人の論理で一方的にやらされて、その結果を公表される。その挙句、身のまわりの大人が、無理して学力を上げようとし、さまざまな圧力を加えてくる。たまったものではない。

 子どもは声を上げることができない。だから、身のまわりの大人が配慮してやらなければどうしようもないのに、仕分け作業にはそのような配慮はまったくない。

 『税金を払っているのは大人なのだから、大人の論理でいいではないか。』そう言いたいのかね。まさかね。

・後段。

 A氏は、なんで、『学校のデータを公表する必要はない。』などと遠慮するのだろう。

 あなたの論理でいくなら、きめ細かく、きびしい環境におかれた学校を把握すれば、その学校にお金を投じるなり、教員を厚く配置するなりできるではないか。遠慮することはない。『学校ごとの公開をすべきだ。』と、ビシビシ言いなさいよ。

 それに、『きびしいところは分かっている』?

 そうだよ。その通り。

 なら、学力調査など必要ないではないか。どんどん、お金や人員の配慮を要求すればいい。したのですか。


〇ただ、国も、矛盾なのだ。

・ランキングは都道府県別を自ら公表しておきながら、市町村はするなという。また、序列化はしないと言いながら、都道府県レベルなら事実上しているわけで、

・同仕分けをめぐって、このA氏の主張に、国はまっこう反対していない。『学力の推移をみることなどは、この調査の目的ではありません。』と言えばいいのに、それは言わない。だから、その矛盾をつかれるのだろう。

・それどころか、経年変化と都道府県比較をごっちゃにしているフシも感じられる。これは、仕分け人をイライラさせていると思われる。


〇A氏は、民主党の主張に合わせているのだろう。だから、自説と民主党の主張のハザマで矛盾を起こすのだろう。

 また、民主党にしても、もう削減するという方向は決めている上での、この仕分けなのだろう。だから、相手が何を言っても、やたら自説を言いつのる。ならもっともらしく官僚の主張を聞くのではなく、もっと最初からセレモニーっぽくしてしまえばいいのに。偽善だ。


〇もう細かく見ていくのはやめるが、こうして、悉皆か、40パーセントか、もっと下げるかの実質的議論はないまま、大幅縮小だけが決まった。

 もっとも希望制も加味しているから、これは実施段階で大騒動になるのではないかな。財政豊かな地域は、地方教育行政府が、希望制を活用して全校実施を打ち出すだろうし、そうでないところは、きわめて少数の学校で実施ということになるのだろう。

 どちらにしろ、こんな仕分けをしているようでは、新たな狂騒が始まると思われる。




 それでは、ここで、

 冒頭お約束した、『すばらしい国の取組』をご覧いただこう。

 
 そのまえに、まずは、本来の同調査の目的を確認しておこう。

 同調査の目的は、

〇国が、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図ること、

〇各教育委員会、学校等が、全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立すること、

〇各学校が、各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てることです。


 ねっ。ランキングなどの公開はないでしょう。また、経年比較もない。

 そして、もう一つ。

 国は、これまで、この目的の第一項にあるような、成果と課題の検証や、改善などを図った形跡はない。

 ない?

 すみません。ずっとそう思ってきた。でも、あったのだ。その形跡(?)が。



 それでは、お待たせしました。

 国による『全国学力・学習状況調査において特徴ある結果を示した学校における取組事例集』にリンクさせていただきましょう。


 わたしは、これを読んで感動した。こうした事例集がもっともっと喧伝され、多くの学校に、多くの地域に知れわたり、地方教育行政府や学校が、学校改革、授業改善に生かしていくよう、強く希望する。

 まさに、同調査の目的の第三項の具現化だ。

 ここにはランキングもない。他地域との比較もない。(全国平均との比較はあるけれどね。)あるのは、同調査結果をふまえての地道で確実な学力向上策だ。

 それは、どこかの地域に見られたような、ストレートな点数アップ策ではない。子どもの成長を願い、日ごろの授業の充実を図るものがほとんどだ。(なかに一校だけストレートな点数アップ策かなとみえるものもあったが、これは今後仔細に検討してみたい。)

 わたしが日ごろ主張する教員の指導力アップ策の見本のようにも見えた。


 特に気に入ったのは、

・平均点の高い学校ばかりを紹介したのではない。平均点以下しかとれなかった学校の学力向上策、及び、成果も紹介されている。

・わたしが、『学力観の黒船』と呼び、良問が多いとした、活用問題(B)の学力向上を願った取組が多数紹介されている。

・日ごろの全教育活動(国語・算数だけでない。)を見据えての取組となっている。

・こうした学校の取組からは、子どもが、将来、実社会に出てからも生きる力として必要な学力がしっかり育つであろうと思われる。

・なかには、拙ブログでかつて批判した指導がないわけではない。しかし、『子どもが育つ指導の多様性』の範囲内であれば、この際は、特に目くじらたてる必要はないだろう。

・ちょっと中学校の事例ものぞいてみた。

 これはもう、わたしが先入観(ごめんなさい。)でいだく中学校の指導の姿ではなく(つまり、教え込み、つめ込みではないということ)、子どもを活躍させる授業の展開が、全教職員の統一された理解のもと、行われていることに、ものすごくうれしい思いがした。

・「話のキャッチボール」「なるほど実感エネルギー」「考えることが楽しい」「動き出す子ども」「進化し続ける教育課程」(以上、小学校)
 「全教科を通じた話合い活動」「知的な葛藤(かっとう)と考える楽しさ」「受けたい授業」「一部賛成、一部反対」「教員と生徒が共に創り上げる授業」「自分の学び方への自信」「ちょこっと授業参観」(以上、中学校)

など、ちょっと見ただけで実践のイメージがつかめる魅力的な言葉が多数あった。


 どうぞ、お時間があれば、リンク先をじっくりご覧ください。


 
 それでは、最後に、わたしの思う事業仕分けを提示し、終わりとしたい。


・活用問題は良問が多い。これを日ごろの授業実践等に生かせば、子どもの生きてはたらく学力は確実に育つ。(もちろん、もっと良問にするための検討はしていただく。)

・したがって、同調査は全国全教員の指導力アップに資することができる。

 担任する学級の子どもたちの、どこで成果が上がり、どこが不十分なのかを確実に把握し、明日の指導に生かしてもらうために、

 また、問題を仔細に検討し、明日の授業改善に生かしてもらうために、

 これからも当面毎年実施し、悉皆で行う必要がある。

・ただし、上記のような目的をより明確にするため、ランキング公表などはすべてとりやめる。個々の教員が分かる結果も、自分の学校、自分の学級と全国の結果だけでいい。

・市民に対しては、

 税金でやっている調査ではあるけれど、教員の指導力アップが目的なので、お子さんの結果は別として、それ以外は、少なくとも、学力狂騒のおそれがある間は公表を差し控える。

・その代わり、本最終リンク先のような意欲的な実践について、どんどん匿名で公開していく。いい加減な学校があるとすれば、そこにはプレッシャーがはたらくくらい、徹底して公開する。そのための予算は惜しまない。

 それが、日本の子どもの幸せと、明日の日本の明るい未来につながっていくのだ。


 そのように説明させていただこう。


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 今回、義務教育費の国庫負担分について検討はされましたが、減額はされませんでした。

 実は、これ、今のわたしの仕事に、直接、関係しています。

 国が初任者指導の制度をスタートさせたのは、平成元年度でした。それによっても、教員定数は増やされたわけです。

 今回、たとえば、
「初任者指導の制度は、ほんとうに効果を上げているのか。数値で示して。」
「意味ないようだから、廃止。」
などとならなくて、よかったです。

 なにしろ、本記事で示したように、ほんとうの意味での実効ある仕分けではなかったですからね。
 

rve83253 at 12:39│Comments(3)TrackBack(0)教育制度・政策 | 全国学力調査

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この記事へのコメント

1. Posted by toshi   2009年12月09日 22:54
kiuchi 、田中さん
 ハンドルネームは異なっていますが、同一の方ですね。
 記事に関係ない内容ですし、特定の運動を呼びかけるようでもありますので、削除させていただきました。
 あしからず、ご了承ください。
2. Posted by 今日   2009年12月17日 20:18

いつも、真剣な記事、ありがとうございます。

下記で、引用させていただきました。

2009.12.17

<教育研究者・従事者を入れてくださいよ…抜きにした事業仕訳 >

http://plaza.rakuten.co.jp/zyx1830/diary/200912170000/
3. Posted by toshi   2009年12月18日 23:12
今日さん
 いつも、うれしいコメントをいただいております。ありがとうございます。
 特に、今回、感慨も新たなのは、今日さんは、悉皆で行う全国学力調査に賛成していらっしゃいませんよね。

 勝手ながら、わたしの思いを書かせていただきますと、
 悉皆かどうかよりもっと大切なこと、それは、子どもの幸せ追求であると、そのあたりでは、まったく今日さんと思いを共有するものだと、そのように思いました。
 貴ブログで紹介していただいたことも感謝申し上げます。

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