2017年02月05日

問題解決学習のtoshi的考察(2)

IMAG6835 前記事で、学習問題について、ある先輩の言葉を掲載させていただいた。

『学習問題はつくるものではないでしょう。子どもたちの切実な思いによって、にじみ出るように自然に生まれるものではないですか。』
 そして、《退職した今になってこの言葉の重みを感じることがふえている。》とも述べた。

 そう。子どもの手によって自然に生まれるという、この考えと実践がないなら、それは問題解決学習とは言えないであろう。


 ある日、5年生の担任から、突然、要請を受けた。

「toshi先生。よろしかったら1時間、5年生の授業をお願いできないですか。
「ああ。いいですよ。でも、突然、何ですか。」

 5年生と聞いて、とてもなつかしくなった。一昨年度は前期に3年生、昨年度は後期に4年生といった案配で、実質1年間にわたり社会科でかかわってきた子どもたちだ。久しぶりだし、ぜひやってみたいと思った。

 だけれど、矛盾する2つの思いも抱いた。担任の話をうかがうと・・・、

 子どもたちには根性がある。簡単には納得しない。深く追求しよう、追求せずにはいられないといった心情が育っている。これはもう、うれしい限りだ。

 しかし、それと同時に、《うわあ、これは大変だ。とても1時間で済みそうな内容ではない。》


 さあ、それではその話の中身だが、こうだった。公害の学習である。

 教科書には、昭和35年(1960年)ごろのA市の空と海の写真が掲載されている。オレンジ色の煙と海といっていいだろう。ばい煙、汚水の写真だ。そして、隣のページには現在の同市の青空の写真も・・・、これは大きく掲載されている。

 そして、A市民の話として、
・小さかったころは、自然もあったが、まもなく海面にあわがたち、いやなにおいがひどくなった。
・空はけむりだらけで青空は見えなくなってしまった。
・それでも当時は、市歌で工場が出すけむりのことをほこらしげに歌っていた。
というのが載っていた。

 この、《煙を誇らしげに歌う》というのが、子どもたちにはショックだったようだ。
「公害をまき散らす煙、それが何で誇りなんだ。」
「海だって毒の廃水を流されて、B病が起きたじゃないか。」
というわけだ。

 教科書会社の指導書には、《高度経済成長期の象徴としての廃液とばい煙》という趣旨の説明が載っているが・・・、そして、担任はそういう趣旨の授業をやったが、子どもたちは納得しなかったという。それどころか、
「おかしい。体に毒なんだよ。死者まで大勢出たのだよ。それが誇りだなんて。」
というわけで、さらに怒りにも似た思いになった子もいたようだ。

 これは、担任も同じ思いだったようだ。若さを強調して、
「昭和35年ではまだわたしも生まれていないです。ずっと前です。toshi先生なら、このころのことがお分かりになるのではないかと思ったのです。」
「そうね。この年、わたしは15歳。まだ子どもだったよね。中3から高1だもの。でも、このころの大人の人たちの思い、時代の気運といったものは、少しは分かる気がするよ。」


 さあ、何を学習内容とするかについてだが、わたしには3つの思いがあった。

〇戦後15年。当時の大人はみんな太平洋戦争を経験している。猛烈な空襲下、軍需産業のみならず、工場はすべて操業不能におちいったといっていいだろう。そのため終戦の日は、見事なばかりの青空だったという。

 敗戦の象徴としての青空ときれいな海。何かの本で読んだことがあったなあ。そうか。それなら、貧しさの象徴でもあったわけだ。

 となると、15年後、復興した工場が出すばい煙や廃水は・・・それとは逆に、指導書通り、高度経済成長の象徴ということになる。

〇当時、ばい煙や廃水について、くさいとかきたないとか、そんな思いはあっても、それが有毒という意識にまではなっていなかった。多くの国民は知らなかったのだ。

 それにはわけがある・・・と、わたしは思う。

 このころ、我が市の河川もきたなかった。上流に捺染工場がある川では、毎日川の色が変わった。川の色で何色の捺染がなされているか分かった。また、それとは別に、橋を渡るときは鼻をつまみながら渡った。そのくらいくさかった。

 それでも、有毒と思わなかったのは、みんな悪臭には慣れていたからではないか。ボットントイレ、畑、肥だめ、さらには、町のあちらこちらにあるごみ箱(上蓋を開けてむき出しのごみを入れる物)などなど。川にごみを投げ捨てる人もいたっけ。そうしたふつうのごみと混在していた。したがって、格別不審に思うことはなかった・・・のではないか。

〇もう一つ、当時、地球は限りなく大きかった。《あこがれのハワイ航路》という流行歌が流行ったのは昭和20年代。あこがれというくらい、当時ハワイでも行ける人はほとんどなく(連合国占領下では日本人の海外渡航は厳しく制限された。)、また、それも船便だったわけだ。いったい何日かかったことだろう。外国へ行くなどということは、もう二度と日本へは帰れないという悲壮な覚悟を要した・・・。そんな人もいた。

 ショッキングだったのは昭和38年。人工衛星を使った初の宇宙中継が予定されていた。わたしは早起きして見たが、それがなんと臨時ニュースで、ケネディ大統領暗殺の悲報だった。アメリカで起きたことが瞬時に日本に伝わるという、そのことも驚きだったが、その最初が暗殺とは・・・。驚きは何倍にもなった。

 今ならリオオリンピックで興奮したように、地球の裏側のことも瞬時に伝わるのにね。《宇宙中継》しているが、それがあまりにも当たり前になったため、この言葉は死語になってしまった。隔世の感がある。

 と、まあ、そんなわけで、当時の人々の意識は、限りなく広大な地球。だから、悪臭も汚水も拡散し続けて薄まり、やがては消えてなくなる・・・といったものではなかったか。

 さあ。それではそれを、現代に生きる子どもたちにどう教えるか。それも1時間で。

 内容精選はせざるを得ないが、それでも、問題解決学習は無理だろう。しかし・・・、子どもたちの思いは切実だ。

 それで、いろいろ考えたが、冒頭は子どもの思いを大事にし、それに応える意味でも、問題解決的に進めることにした。

 まず空襲を受けた大都会の焼け野原の写真を見せた。
「みんなが問題にした教科書の昭和35年の写真から何年前の姿だろう。」
「戦争が終わったのは昭和20年だから、15年前だ。」
「そう。そうだよね。15年前のこの写真の時、空や川はどんな様子だったかな。」
「家はほとんど燃えてしまったから、すごい煙だっただろう。」
「川もがれきなんかがいっぱい流れてよごれていたのではないか。」

 これには参った。工場などはみんな操業できないから、青空で川もきれいだというだろうと思ったら、まったく逆の反応になってしまった。

 問題解決学習ではよくあることだ。わたしはこまりながらも、何か子どもたちの表情を見ていて、なつかしさを覚えた。

 それで、焼け落ちた工場の写真も使うことにした。
「特に飛行機や船など、戦争に役立つものを作っていた工場はもちろん、どの工場もこうして空襲にあってしまったから、生産活動は途絶えてしまった。」
わたしの方からそう投げかけた。
「そうか。工場は物を作れなくなってしまったから、煙突から煙は出ないし、だから、空気はきれいだったんだ。」
「賛成。空襲にあったときは家や工場は全部燃えるから、すごい煙だったろうけど、焼け野原になってしまってからは、空気はきれい。」
「川も同じ。がれきはずっとは流れないから、すぐ川はきれいになっただろう。」
「それに、家や工場が燃えた残骸ががれきで、がれきに毒はないからね、そういう意味ではきれい。」
 ああ。ちょっとほっとした。

 学習は進み、むかしと今と、同じ澄んだ青空ときれいな川と言っても、

〇戦争直後は、工場は壊滅的な破壊を受けて、操業できていない。人々の多くは働く場所がない。だから、お金になるものを持って田舎へ行き、食べ物と交換してもらった。みんな貧しくて飢えていた。

〇でも、同じ青空であっても現在は、技術開発が進み公害を克服したので、工場はフル操業しているが有毒なガスは出ない。人々は健康で豊かさを享受している。
 
 そのような大きな違いがあることをとらえた。そう。そう。子どもから、今は平和だという意見も出た。

 また、
・リオオリンピックのように、地球の裏側の出来事も瞬時に映像付きで報道されること。
・かつて空気や水が汚かったころは公害病が多くの地域で発生し、多くの人が苦しみ、死者も出たこと。それらの人は地域の人からなかなか理解してもらえず、差別に苦しんだこと、
もとらえた。

 正直に言わせていただこう。後半はもう、わたしからの一方的な教え込みに近くなってしまった。でも、子どもたちはよく食いついてきてくれた。主体的に学ぶという姿勢はもち続けてくれた。それはそれでうれしかった。

 にほんブログ村 教育ブログへ

 ninki


 公害は我が地域にもありました。Cぜんそくが有名でしたね。隣接する小学校に勤務したことがありますが、その学校には、全教室巨大な空気清浄機がありました。

 もうそのとき公害は克服されていましたが、かつて空気が汚染されていたころを忘れないという意味で、保存されていました。

 さあ、それでは次回ですが・・・、本記事でも若干の考察は加えていますが、問題解決学習についてのtoshi的考察を述べてみたいと思います。
 


rve83253 at 04:58│Comments(0)TrackBack(0)社会科指導 | 問題解決学習

トラックバックURL

コメントする

名前
URL
 
  絵文字