2005年12月13日

心の教育(2)

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心の教育(2)を、こんな内容で書くことになるとは、思いもしなかった。

 と言うのは、Princip校長先生の『小学校長のお仕事』ブログを読ませていただいていて、ある塾の先生の、「(受験の時期になったら、)学校を休ませてしまえば」と、いわば、『ずる休み』を奨励するようなブログに到達したからである。

 これはまあ、すごい。内容的にも、かなり過激な、勇気ある(?)記事だ。

 わたしは、6回、6年生を担任したが、こういうことを言う塾の先生がいることは知っていた。子どもが学校で言うからだ。

 しかし、これまではあくまで陰の声。表立って公然と言われることはなかった。それがブログに登場するとは。やはり、現代という時代がどんな時代なのかを考えざるを得なかった。

 わたしの担任歴のなかで、一回だけ、こういうケースに出っくわしたことがあった。受験の約半月前から、Aさんが、『風邪』ということで休み出した。『今は大事な時期だから、どうぞ、気をつけて。』ということでいたら、3日後くらいだっただろうか、子どもたちの間で、変なうわさが立ち始めた。

 「先生。Aさん、風邪でお休みって言っていたでしょう。でも、それ、違うよ。昨日、道で会ったもん。元気だったよ。」

「そうだよ。ぼくも会った。買い物って言っていたよ。風邪なんかひいてないって。」

「ずる休みだよ。受験のためにお母さんが休ませているんでしょって、うちのお母さんが言ってたよ。」

「そうまでして、受かりたいのかね。いやあだ。」

そうした子どもたちのやり取りを聞いていて、これはまずいことになったと思った。


 それまで、わたしは、折にふれ、以下のような指導をしていた。

「この時期になると、とかく受験する子と、しないで公立中学校へ進学する子とで、ギスギスした関係になることがあるものだが、君たちはまったくそういうことがないね。
 それどころか、そんなことは関係ないというくらい、みんな仲良しだ。ますますこの学級は一つにまとまっていく。きっといい卒業式を迎えるだろう。

 そのまとまりについてだが、受験しない子たちが、受験する子たちに対し、
『がんばっているね。』
『受かるといいね。』
と、言葉をかけ、応援してくれる。それがわたしはなんとも言えずうれしい。

 そして、受験する子たちが、学校生活や学級生活を手抜きせず、これまで通りがんばりぬいている。それは、委員会活動、クラブ活動、下級生の世話など、いろいろなところで言えることで、多くの先生が、すごいと言って感謝してくれている。この学級の係り活動でも、それは言えるよね。

 要するに、お互い様なのだな。受験する子たちがそうやって手を抜かない。だから、受験しない子が応援してくれているとも言えるし、受験しない子たちが応援してくれるから、受験する子たちが手を抜かないとも言える。

 お互いに、いい影響を与え合っていることが、わたしにとっては最高にうれしいことだ。

 だから、わたしも、受験する子たちみんなが、目標の中学校に受かってくれることを祈っているのだ。」


 そうした雰囲気、学級のまとまりを崩しかねない、いわゆる『ずる休み』。わたしはさっそくAさんのお母さんに学校へ来ていただいた。

 「合格させたいという、親心。それはよく分かります。しかし、学校のことを一切しないで、受験に専念するというお子さんの行動は、今、クラスの子みんなが持っている温かい心、連帯感に、どろをぬっているかのようです。

 ずる休みと言って批判し出している子たちは、Aさんから心がはなれていくでしょう。
 合格したら、『ずるしたからだ。』と思うでしょうし、不合格だったら、『ずるしてもだめだったか。』と冷ややかになるでしょう。
 もちろん、そうならないように全力は尽くしますが、できれば、学校へよこしてほしいのです。」

 お母さんは、涙を流しながら、
「申し訳ありませんでした。配慮が足りませんでした。塾の先生の言いなりになってしまいました。」
と謝罪してくれた。

 翌日は無理だったが、5日目くらいからだったかな。登校させてくれるようになった。わたしも事前に指導を行い、学級のみんなは、以前と同様に、Aに接してくれたので、この点はほっとした。


 さて、受験結果はどうだったか。

 半数は合格した。オープンなので、子ども同士は、もう情報が行きかい、分かっている。それで、『合格おめでとう。』とみんなから祝福され、拍手を受けていた。
 不合格の子に対しては、『がんばったのになあ。残念だったね。でも、みんなと一緒に公立中学校でがんばろうよ。』と、手を差し伸べていた。

 Aは、不合格になってしまった。子ども同士は何のわだかまりもなかったが、お母さんには、公立中学校は避けたいと思う心理がはたらいてしまったようだ。いわゆる『ずる休み』は、母親の心に傷をもたせたのである。第二、第三と受験しまくり、結局、希望とははるかに異なる私立へ進学した。

 心に傷を与えてしまったのは、第一は、やはり塾の先生だろう。しかし、このわたしにしても、ちょっとはっきりものを言い過ぎたかな、でもあのくらい言わないと、休ませ続けただろうなと、もやもやする思いを断ち切れなかった。


 ここで話を変える。

 わたしの感覚では、学級経営と中学受験は、反比例する。学級がまとまり、心が一つになると、
『仲良しのみんなと別れたくない。一緒の中学校に進学したい。』
という心理がはたらく。逆だと、『もうあの子たちの顔も見たくない。絶対公立中学校にはいかない。』という心理がはたらく。


 わたしの学級でも、ある母親が、
「4年生のときから受験を目指して準備しがんばってきたのに、最近になって、『公立中学校へ行く。受験はしない。みんなと同じ中学校へ行きたい。』と言い出すのですもの。もうがっかりです。」

でも、表情は晴れやかで、そんながっかりしているようでもなかった。

 もっとも、これには、あまりにも数多くの例外がある。必ずしも、反比例とばかりは言い切れない。地域の特性、保護者の考え、公立中学校の評判など、実にいろいろな要因があるからだ。


 今日の記事は、心の教育というには、ちょっと生々しすぎたかもしれない。しかし、上記の塾の先生が、書きたくなるきっかけを与えてくれた。


 ちょっと補足。受験にしろ、休ませるにしろ、決定するのは保護者。これは、上記ブログの塾の先生と一致している。

 塾から見れば、公教育はなまぬるく写るのかもしれない。それは甘んじて受けなければならないだろう。


 しかし、上記ブログの塾の先生が、『心の荒廃』などまったく考えたこともないと言うのは、驚きだ。

 そうか。中学受験合格が塾の絶対的使命であり、『心』など、考えている暇はないのか。

 もう一つ。受験に失敗した子が公立中学校へ進学することにより、心が荒廃するという話も聞いたことがある。いい意味の挫折なら、人生の栄養となるだろうが、荒廃ではね。

 いい意味の挫折とするか荒廃させてしまうか、そうした心にかかわる責任は、上記のような塾の先生にこそ、あるのではないか。いくら学校を休ませたって、全員を合格させることはできないのだからね。


   (3)へ続く。

rve83253 at 21:35│Comments(6)TrackBack(0)学級経営 | 保護者

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この記事へのコメント

1. Posted by 自称天才受験コンサルタント   2005年12月14日 00:07
TB,コメントありがとうございました。
一応、私の意見も書かせていただきます。ご不快であれば削除いただいてかまいません。
「受験勉強のために学校を休むこと」=「ズル休み」ではないと考えています。
『ずるい』か『ずるくない』かはあくまで保護者及びお子さんの内心の問題であり第三者が決めるものではないと思っています。学校側の視点のみで一義的に「ズル休み」と考えることに問題は無いのか?と思う次第です。
地域差もありますがこれだけ中学受験が一般的になった今、受験生への配慮を小学校側も考えていい時代になったのではないでしょうか?
2. Posted by toshi   2005年12月14日 05:53
早速のコメント有難うございます。おっしゃる通りで、私も先生と同様に考える部分があります。ですから、『 』を付けたり、『いわゆる』等という言葉を付けました。ただ、この場合は、『風邪』と称して休み出したということもあります。
 『学校は、とうの昔から、受験生への配慮をしてきましたよ。』と言う事も書いたつもりですけれどね。
 先生こそ、『心の事等考えたこともない。』等とおっしゃらず、受験生一人一人の心をしっかり見つめ、失敗しても『いい意味の挫折感』となるよう、子ども達を宜しくお願いします。
3. Posted by Hideki   2005年12月14日 10:11
横入り失礼します。
> 「受験勉強のために学校を休むこと」=「ズル休み」ではない
おっしゃるとおりですね。例えば、家族で旅行に行くから、学校を休むということもあります。これはズル休みとは言わないと思います。
ただ、問題は「受験勉強のために『うそをついて』学校を休むこと」なのではないでしょうか?これは、ズル休みなのじゃないかな?
また、ズルいかどうかは本人が決める事というのも疑問です。自分がズルい(悪い)と思わなければ、何をやっても良いという発想につながり、大変危険な考えかたと言えないでしょうか?
ズルいかどうかは、決して本人や親だけが決める問題じゃない。少なくとも「物事を子どもに教える立場」にある、学校がそれを指導するのは当然ではないでしょうか?
4. Posted by princip   2005年12月14日 18:23
こんばんは
トラックバックありがとうございました。
toshi先生の記事は、いつも胸に落ちる内容で、読み応えがあります。
5. Posted by toshi   2005年12月14日 23:31
Hidekiさん。コメント有難うございました。わたしの言い足りなかった部分をおっしゃって下さり、感謝しています。むかしのことで、書きながらもなつかしい感じがしました。
6. Posted by toshi   2005年12月14日 23:35
 Princip先生。ありがとうございました。さらに、努力していこうと思いますので、宜しくお願いします。

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