2006年08月01日

いわゆる『学力低下論』について4

4b6fcead.JPG 我が地域では、むかしから、学力検査を行っている。全国各地で学テ裁判があったころも、実施していた。

 それは、この検査の目的を、明日の指導に役立たせるため、自分の指導の的確性を探るため、別な言い方をすれば、『子どもの学力の把握なくして指導なし』の精神で一貫させてきたからである。

 たとえば、一人一人の子どもの学力の傾向を見る。
学習内容の把握度で、あるいは、思考と知識理解というように観点で、など、など。


 ここまで書いて、苦々しく思い出すことがある。

 若いとき、自分の指導の反省を強く迫られたことがあった。

 算数の帯グラフの学習で、『その他』以外は、『多い順に左から書く』ということの押さえをうっかりした。そのため、自分のクラスだけ、この正答が極端に落ちたことがあった。

 我が地域の学力検査は、こういうことの反省のためにもあったと言えよう。


 逆に言えば、子どもの学力の推移を見るとか、学級、学校の平均点を出すとか、そういうことを目的としてはいなかったので、長く実施できたのだと思っている。(時代は変わってきた。最近、国は、全国で検査を実施し、学校ごとのランキングを作ると言ったこともあった。)

 だから、同じたぐいの問題を出し続けることはほとんどなかった。そのときそのときの作問に携わる教員が、真の学力を把握するためにベストと思われる問題を考え、出し続けてきた。

 わたしは社会科の人間だが、この作問の仕事に携わったことがある。もう、四半世紀も前だから、どんな作問をしたか、ネタをばらしてもいいだろう。一つだけ例示する。

 マグロのはえなわ漁。一回の漁で、平均何尾マグロがかかるか。この割合を釣獲(ちょうかく)率と言ったが、当時で確か4%。年々低下していた。
 それが一回あたりの航海日数をふやすことにつながる。当時で1年くらいの漁はふつうだった。それが、冷凍技術の改良をもたらす。働き方も変化させる。
 そうしたことを結びつけて、問題とした。資料を4つくらい用意し、互いに関連づけて解けるようにした。もちろん、これは思考問題である。

 それ以外でも、知識・理解の問題、関心・意欲・態度を見る問題など、学力を多面的に見られるよう配慮した。そういう努力は今の作問に携わる教員ももちろんやっている。


 大変失礼だが、国のテストは、一面的で安易だ。おそらく、ほんの数回会合をもっただけで、問題を作ってしまっているのではなかろうか。
あぜんとしたのは、2・3年前。社会科の誤答分析として、次のような記事が新聞に載った。

「アメリカをはじめとする3カ国の読みとりができなかったため、誤答が多かった。」
 それならこれは、国語の問題にした方がよい。単なる文章の読み取りではないか。
 また、単なる円グラフの読みとりもあった。これだと、算数の問題である。

 こんな問題で、(社会科の)学力がどうだこうだと言われたのでは、現場はかなわない。


 さて、そこまで述べて、いよいよ、学力低下はあるのかどうかの話に移る。

 わたしの現職最後の年、世間では、学力低下論が渦巻くようになり、それなら、我が学力検査を使用して、見られるだけ見てみようではないかということになった。ここ30年くらいの変遷を見るために、5年ごとに抽出した。

 もとより、学力推移の全体像を見ることはできない。先に述べたように、学力の経年変化を見るようにはできていないからだ。
もちろん、過去の問題と今の問題との分析はした。しかし、学力の推移を見るにあたって、どこまで客観性があるかは、議論の分かれるところだった。

 また、以下述べるケースは、学力検査を実施した我が地域だけに言える特性かもしれない。

 それを前提として、判断を下せたと考えたものの一部を、ここに述べることにする。


1. 生活経験にないことは、明らかに低下している。

 たとえば、理科の『てこ』の問題。わたしたちが子どものころは、そして、もっと後でも、てこの原理を利用した作業場面は、まちでふんだんに見られたと思う。また、シーソー遊びなどでは、遊びながら自然につり合いなどの知識を身につけたと思う。
 そうした生活経験の上に、理科の学習があった。しかし、今は、経験が乏しいから、学習内容も、基礎・基本中の基礎・基本となっている。

 こういう場合は、明らかにむかしより正答率が落ちる。

2. 計算、漢字などは、よこばい。低下したと見られる根拠はない。

 これは、各教員が、大切な学習と位置づけ、ぜひとも身につけさせたいと思って授業に取り組んでいるからだと思う。
 今の初任者も、おしなべて、力を入れている。漢字など、時間はないと言われるなかで、『大丈夫かな。こんなに漢字学習に時間をかけて。』と思うくらいやっている。
 先日、今日さんがご自分のブログに書かれた、「漢字の指導は、文づくりと関連させて」も、やっている。
 
 ただし、こだまさんが指摘される反復練習の弊害は、他地域ほどではないにしても、懸念はある。(ごめんなさい。他地域をそれほど知っているわけではありません。ブログを読ませてもらったり、何度か授業を見せてもらったりした経験から書きました。)
 
 
 これらは、別な問題なので、後日また記事にしよう。

3. 学力が上がっていると思われるものも。

 こんなに学力低下が叫ばれている今だが、少なくとも分析する限り、上がっていると思えるものもある。
 一番顕著なのは、社会科の思考問題。
 むかしは単純な資料で考えさせていたが、今は、一つの資料に、2・3の要素を盛り込むような、複雑化した資料で問題を作る傾向がある。それでも、正答率は、ほとんど変わらない。これは、子どもの思考力が伸びたと言えるだろう。

 よけいな事ながら、一言。わたしが知る限り、国の学力検査に、こういう問題はない。
 ここでも、単に知識や資料の読み取りだけを根拠として学力低下と言われたのではかなわないという思いがある。

4.それでも、社会科はすべてオーケーとはいかない。

 ただ、社会科全体としてみると、明らかな下降線を見せているものもある。
たとえば、4年生。自分の居住する都道府県内における地名とその土地の特徴を記した文と地図上における位置を結びつける問題。これはやはり問題性を感じる。

 ある校長が言った。
「わたしは常々感じているのだが、今、中学年の教室を見ても、市内、県内の地図が、常時掲示してある教室は少ないのではないか。どうも、地図指導が弱いように思う。だからわたしは、口を酸っぱくしてうちの教員に言っている。」

5. もう一つ。

 国語で、修飾と被修飾の関係を問う問題も、むかしと比べると、できていないようだ。
 今は、文章を単純化して出題しているという。問題を分析すると、確かにその通りだ。これで正答率が上がっても、比較することはできない。しかし、問題を作る側が、『今は単純化して出題しないと、〜。』と思っていることは確かだ。

 いかがだっただろう。冒頭述べたように、ここでは、委員の思いが一致したもののなかから、さらにその一部を載せた。もやもやとして結論を下せなかったものや、委員の判断がいろいろ分かれたものは、省かせてもらった。


 最後に、しつこいようだが、国に一言。

 国は、学習指導要領で、『調和のとれた児童の育成』『自ら学び自ら考える力の育成』『個性を生かす教育の充実』『人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念』『豊かな心』『未来を拓く主体性のある日本人の育成』とも言っている。

 それらをすべて学力検査ではかることはできないが、しかし、受験学力をはかっているとしか思えない検査で事たれりという姿勢だけは、改善してほしい。まじめに努力している学校が報われる検査、上記指導要領の精神を身につけた子どもが、『学力あり』と診断されるような検査を作成するよう、全力を尽くしてほしい。

 それが学校現場を落ち着かせることにつながる。


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 ただ、全体的視野からの結論は出なかったというのが実情です。はぎれが悪くてすみません。

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この記事へのコメント

1. Posted by 今日   2006年08月01日 06:39
教育の再生の為にいつも、真剣に取り組まれている貴グロブ、学ばせていただいています。

本日の企画、これからの教育問題の中心になっていく課題です。

僕は、これまでの続きで、これに関する事を書きました。

それをTBさせて戴きます。皆様がお考えになります資料になれば、うれしいです。
2. Posted by atsumaru   2006年08月01日 08:05
5 学力低下論についてとても勉強になります。

「国語で、修飾と被修飾の関係を問う問題も、むかしと比べると、できていないようだ。」

とおっしゃっていますが、高校現場でもよく感じます。

 英語は品詞を見分けられることが大切です。しかし、そもそも品詞がわかっていない生徒が多いです。

「形容詞は、名詞を修飾する」という意味がわからないのです。そのため、語順がバラバラな生徒が多いです。

 基礎の部分がこんなにできないのかと悶々としています。
3. Posted by toshi   2006年08月01日 13:09
今日さん
 いつもありがとうございます。
 たまたま一緒に同じような趣旨の記事を掲載していましたので、驚きました。TBさせていただきました。よろしくお願いします。
 わたしのは、資料というには、ネタが少なくて、お恥ずかしい限りです。
4. Posted by toshi   2006年08月01日 13:18
atsumaruさん
 高校生の学力については、マスコミ等の論調でしか、知る機会はないのですが、何となく分かる気がします。
 あっ。そう。そう。現職のとき、組合の研修会に呼ばれ、高校の実態を知る機会はありました。ピンからキリまでといった感じでした。小学校段階から学び直すなどという話も聞きました。
 むかし、組合は高校全入運動を繰り広げていました。
 わたしは、『違うのではないか。高校へ行かなくても、人格によって正当に評価される世の中にする運動をすべきなのではないか。』と言ったことがありました。
 でも、今、現場の教員のご苦労は並大抵ではないでしょうね。 
5. Posted by flatheat   2006年08月05日 10:39
こんにちは、はじめまして。
高校生の学力低下の原因は中学校での学習内容削減にあると考えてきましたが、ここにあるようなていねいな実態把握を経て指導を具体的に反省することが必要であると気づきました。この夏にオーラルの取り入れ方を研究しますが、合わせて基礎基本の定着方法も考えなければならないでしょう・今それ以上に切実なのは圧倒的に広がる学習拒否状況だと思っています。ぜひ、私のサイトにもお立ち寄りください。では、また。
6. Posted by toshi   2006年08月06日 03:38
flatheatさん
 コメントをいただき、ありがとうございます。
 あまり丁寧ではないのです。お恥ずかしいです。
 とは言っても、こういう資料は、全国にあまりないでしょうね。学力検査なるものが、かつてはほとんど実施されなかったからです。いえ。そういう時期があったということですね。
 圧倒的に広がる学習拒否状況、確かにこれこそが問題ですね。高校でも、学ぶ意欲、興味、関心を培うことを第一に考えなければいけなくなったということでしょうか。
 貴サイトを少しのぞかせていただきました。楽しいサイトですね。パソコン教室の先生が、10分のテレビを見て、『あっ。これ、今、すごい人気なんですよ。』って言っていました。

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