2007年01月13日

温故知新(5) 父の実践から

0b13937b.JPG 温故知新シリーズの(1)から(4)まで、昭和24年当時のA小研究紀要を軸に、コアカリキュラムの理論について、掲載してきた。ある部分は、紀要を原文のまま掲載し、ある部分はわたしの解釈をまじえながら、つづってきた。現代の、生活科や総合的な学習の時間と比較検討したものもある。

 当時、発足したばかりの社会科であったが、先人が、いかに子どもの思いを大切にしていたか、それは子どもの生活を大切にしたということでもあるのだが、民主主義教育の原点を見る思いでつづってきた。

     温故知新 (1) (2) (3) (4)

 本編からは、その実践編に移る。

 とは言っても、我が亡父(B)の実践であり、掲載するにはいささか面映さもあるが、他にあまり当時のこの種の記録を見ないので、お許しいただきたい。ほぼ、原文どおり忠実に記録している。

 ちょっとお断りしたいのだが、ここには、当時の家庭教育のなさ、放任しっぱなしにかかわる記事もある。

 何度も言うようで恐縮してしまうが、当時は、焼け野原に掘っ立て小屋のような家があったに過ぎず、雨漏りは絶えず、すきまっ風がピューピューうなっているような有様。
 雨が降れば学校を休む子もいる。かさがないから。
 その日暮らし。食料の確保に神経をすり減らしていたのだ。そんな親に、子育てなど考えている余裕はない。それがふつうのことだった。
 そういう点への斟酌がなく、あけすけに書いているのは、申し訳なく思う。息子であるわたしから、お詫び申し上げたい。

 ただ、ここでは、戦後わずか4年にして、こういう実践があったことを誇りに思う。
 基本的には、教え込みの教育しか知らなかった日本人。それも、軍国主義はなやかだった、『ほしがりません。勝つまでは。』『鬼畜米英』『大東亜共栄圏』『天皇陛下。万歳。』の時代から、わずか4年なわけだ。

 そこに、もう、子どもの生活を正面から見つめ、子ども主体、真に民主主義を背負って立とうとする教育が行われていたことを誇りに思うのだ。
それを主張したい気持ちが、山ほどある。

 なお、下記実践では特にふれてはいないのだが、このA小学区は、当時、進駐軍(アメリカを中心とした連合国の占領軍)の保有する広大な土地に隣接していた。





電車ごっこ展開の計画と実践    A小   B

上 単元の展開計画

1.作業単元  電車ごっこ  一学年  (作業単元の概念については、『昭和23年小学校社会科学習指導要領補説 第二章 作業単元の基底』にリンクさせる。)

2.期  間  昭和24年10月15日より12月7日まで8週間

3.この単元までの経過

 4月5日の入学の当初には、日常の学校生活になれるように、個々の児童のしつけの指導に主力をそそいだ。6月に入って、おいおい集団的な遊び、学級としての共同の生活になれさせるしつけを意図して、ままごと遊びを行った。9月には、運動会を主題として、身体的な生活が主となる生活によって、統制ある学級活動をしたのであるが、運動会もその反省も終了するに及んで、この単元へと移行したのである。

4.この単元を設定した理由

(1) 児童の興味関心という点から

イ 五月ごろから計画して、私は学級文庫の本を整備しているが、一学期、引き続いて児童が欲求した本は、電車・自動車や汽車などの乗り物絵本である。そして、これらがもっともよく読まれ、もっとも関心を集中するものであるようだった。

ロ 何の絵をかこうかな、と当たってみると、電車をかこう、自動車がいい、船をかきたいという欲求を示す。男子は特に多いが、女児も相当多数にのぼっている。

ハ こういう興味は日常の話題によってもうかがうことができる。

ニ 大きくなったら運転手や車掌になりたい。とあこがれる心もまだ相当に見られる。

(2) 児童の経験からみて

イ この学区域に市電やバス路を縦貫させている本校の区域は、大多数の児童にたびたび乗車の経験を与えている。市電に乗っていった経験を話すことはもっとも得意とするところであり、その記憶も他のものよりも確実である。

ロ 電車ごっこの経験はほとんど全部である。特に、運転手、車掌などには、いち早くなりたがって、その役を争奪するようである。

ハ 玩具店で、紙製の車掌鞄を買った経験もある子がいるし、時おり、遊戯用の美麗な電車切符、回数券等を学校へ持ってくる子もある。

(3) 児童の発達段階によれば

 未分化の時代であるから社会性はきわめて希薄である。ただわずかに認められるものは対人関係についてである。いわゆる仲間遊びをするようになる。しかし、

イ その仲間と数人で一緒に遊んだとしても、多くはそのなかの一人二人を相手に交渉するという関係をもつだけで、他はその場に近接していたという意識しかないのである。

ロ また、少し早生な子は、数人のグループ化への傾向に向かうけれども、時に腕力の強い、体の大きい子に従属するという傾向もこの学級に見受けられるようになってきた。

 それゆえ、こういう状態を有効に導いていくには、集団で遊ぶという活動をできるだけ多くして指導する必要がある。
 前単元のままごと遊びでは、家族グループを作っても、その集団のなかで個別的活動が行われやすいし、大きい子や出しゃばりな子がしばしば父や母の役を取って、従属的な関係への傾向をいっそう助長しやすくなり、集団の一成員としての協力的な対等な活動ができにくいのである。
 電車ごっこなら、全員がいやでも一緒に行動せねばならないし、みなが等しく交互にその位置を守って協力しなければ遊べないという場を作ることができるものであるから、この単元活動が望ましいとみたのである。

(4) 社会の実態からみて

 学区域の実態調査の一つに、本市のような新興都市は、市民の協力態勢が非常に浮薄であるとし、また長い歴史がもつ封建社会の慣習は民主的な社会性にことに欠けているという一般的傾向が指摘されている。さらに、本校学区はその半数近くが多忙を理由にして子弟の家庭教育に適正を欠くものがあり、学校以外の生活はきわめて放任の状態にあるので、品性の醇化、道徳的な行動の修練はどうしても学校生活の秩序にまたなければならないので、社会科の学習では集団的協力的ごっこ遊びによる経験の指導の機会を特に多く必要とするものである。

(5) 生活指導の立場から

イ 一学期の初頭はどの子もおとなしかった。五、六月となれてくるに従って、友達ずれのしてきた子は、その腕白ぶりの本性を発揮してけんかが多くなり、やかましく騒ぎ立てる子が増加してきた。かように不安な状態になったが、子どもにはまだ社会意識も協力の態勢もできていないから、その乱れだした行動は、しだいに奔放さを加えてきて、わがままが主となる無統制ぶりに追い込まれようとする。従ってこの時期に集団共同生活のしつけを団体遊びの経験指導によって強力におし進める必要がある。

ロ 家庭のしつけが不十分なためか、一学期に苦心したしつけも夏休みを終わるとすっかりもとの野性に立ちかえっている。秋に入って身体活動がますます旺盛になり、これに加えて運動会の練習やらで、落ち着かない一ヶ月を送ったので、いっそう粗暴さが見えてきた。そこでこの運動場せましと駆け回っている野性的な子の活動意欲をそのままにし、おさえないようにして、これをしだいに集団的な学習生活の態勢へとうまく引き入れて、粗暴性だけを取り除いていく方法をとりたいと思案した。これは教室に静坐してできる単元活動などでは、到底達せられない。電車ごっこの単元なら、この活発な活動を全面的に展開させながら、社会生活へのしつけへと導くことができるから、というので設定したものである。

(6) 前単元の反省から

 作業単元「ままごと」の反省によると、

イ よその家庭グループをあらして、遊び道具を取ったりいじめたりなぐったり、けんかをしたりという行為もだいぶ少なくなったのであったが、それでもまだその残滓が相当にある。

ロ 一つの家庭グループがよく遊べるようになってくると、一方に閉鎖性をもつようになった。なかにはA家庭とB家庭の対立や、好きな人だけと家庭を作って、気にくわない者を拒否する態度もかえって増加したようだ。電車ごっこをして、乗客をしばしば変えたりすることによって、誰とでも、愉快なグループが作れ、協調する活動ができるように導いていかなければならないという段階にきた。

ハ 父、母の役を輪番に変えても、封鎖的な一家庭グループでは勢力ある子が依然支配権をもつようになる。ある子は、きわめて虐待された主人公となる場合もある。ままごとで醸成されたこういう空気も除かなければならない。

5.この単元の目標

(1) 単元の主要なねらい

〇 電車ごっこをすることによって、友達と共同し、協力して愉快な生活ができるように集団生活のしつけをする。
〇 運転手・車掌・駅員等分担された位置について、友達のためになるようにその仕事をすることによって、互いに他を尊重し合うという態度を養う。
〇 日常見なれた乗り物や、その乗降、交通整理等についての理解を深め、交通道徳を身につける。
〇 交通機関に従事する人々の仕事を理解させ、これらの人々に感謝し協力する態度を養う。

(2) この単元で学習することを期待する経験要素

イ 個人的な諸能力を発達させるために、

・ 車掌・運転手・保線夫・駅員等、自分がついた役目の重要性を知り、その責を果たす。
・ 遊び道具の使い方がうまくできるようにする。
・ 遊び道具の準備や後始末をする。
・ いっそう愉快な遊び方ができるように工夫する。
・ 路線系統札・切符・駅名看板等を美しく色ぬりして作る。
・ 毎日電車ごっこの記録が書けるようにする。

ロ 対人関係を調整する能力を養うために

・ 乗客が迷惑しないように速度を加減して走らなければならない。
・ 乗客は他の乗客や電車のいろいろな係りの人が困らないように注意する必要がある。
・ 運転手・車掌はよくサービスすれば、大勢乗ってくれる。
・ みんなで楽しく遊ぶには、よく話し合い、わがままをしないようにすればよい。
・ ごっこの道具を独占しないようにする。
・ 友達のえり好みをしない。
・ けんかをしないですませるように研究し、調整する。

ハ 社会事象に適応する能力を養うために

・ 近所で見かける乗り物の種類や名称やその働きを知る。
・ 電車を運行させるには、いろいろな役目の人がいる。
・ 電車には切符がいる。
・ 交通整理をしなければ不都合が起きる。
・ 愉快に遊ぶには約束規則が必要である。
・ 共通に使う諸道具は特に注意してこわさないように使う。
・ 遊ぶために決めた規則は必ず守る。
・ 交通整理をする。交通信号を見分ける。
・ 仕事を分担し、共同して道具を作る。
・ 右側通行をする。

にほんブログ村 教育ブログへ

 いかがだったでしょう。今と多少言葉づかいの違う点もありますが、平易な文ではあるので、その点は読みやすかったのではないでしょうか。

 次回は、『本単元展開の記録』を掲載します。

 それでは、今日も、1クリック、お願いできますか。


人気blog ランキングへ
 
 こちらも、どうぞ、よろしく。

    温故知新(6)へ続く。

rve83253 at 14:50│Comments(2)TrackBack(0)指導観 | 社会科指導

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by tamasige   2007年01月15日 05:25
ごっこ遊びにこんなにたくさんのねらいや、目標があるのですね。丁寧な工夫された教材研究で、子どもの生活の身近なテーマで感銘を受けました。
前単元の反省の元に次の目標設定、当たり前のことでしょうがすばらしい。私もお父上の歳をとうに過ぎておりまして、恥ずかしい限りです。看護教育の世界でも真似なければいけないことがあります。どう、生かしていくか考えております。
2. Posted by toshi   2007年01月15日 20:58
tamasigeさん
 最後の、
〜看護教育の世界でも真似なければいけないことがあります。どう、生かしていくか考えております。〜
に感銘を受けました。
 自分ではどう生かされるのか見当もつきませんが、そうおっしゃっていただけることを、とてもうれしく思います。
 目標については、わたしも同じ思いをもっています。今、これだけ一つの単元で具体的に目標を吟味し、設定するということは、ないように思います。わたしが学んだ点でもあります。
 これから、いよいよ、単元展開の具体に入ります。どうぞ、よろしくお願いします。

コメントする

名前
URL
 
  絵文字