☆☆☆☆☆(5.0 システム開発の関係者、必読!(現職SEを除く))
ウチのシステムはなぜ使えない SEとユーザの失敗学 (光文社新書)
システム開発の発注側、SEの顧客にあたる人であれば必読。本書を読めば、システム開発の業務の構造や、SEのやっていることがよく分かるだけでなく、発注の際に注意すべきことも学ぶことができる。
特に注目すべきは、上流工程の重要性。システム開発の成否は発注段階にかかっている。本書では、
具体的なシステムの設計図は、すべてこの要件定義書を基に作られるので、このフェーズで手を抜くことは許されない - p.92
要件定義段階での修正コストを一とすれば、実際に製品ができ上がってしまってからの修正コストは軽く一〇〇を超えるだろう - p.93等の指摘がされている。これらは失敗を避けるための策であるが、同時に、成功のための必要条件でもある。
松井博『僕がアップルで学んだこと』には、
優れた製品やサービスを開発するには、上流の工程にフォーカスする必要があります。 - 『僕がアップルで学んだこと』p.55
もしも製品のコンセプトやデザインが誤ったものであったなら、その後でどんなに開発や製造、品質保証部門が頑張ってもよい製品が出荷されることはありません。 - 『僕がアップルで学んだこと』p.56とある。上流工程に注力することで、研究開発費を抑えられる(p.76)との指摘も興味深い。
このように、本書は役に立つという面でも優れた本だが、それ以上に読んでいて楽しい。システム開発の世界の住人達の生態を観察することは、言い方は悪いが、珍獣を眺める楽しみに近い(そのため、現職のSEは気分を害する可能性が高い)。たとえば、以下のくだり。
(システムの運用業務が)どのくらい過酷かといえば、自動販売機を上手く製造できなかったので、中に人を入れて見かけ上動いているように見せかけようとするのに匹敵するほどの過酷さである。 - p.18非常に笑えるのだが、実際の業務の状況を考えると全然笑えない。
今年の7月25日、Mac OS Xの無償アップグレードプログラムで、アップグレード用のプロダクト・コードが届かないという不具合が発生した。私も不具合に巻き込まれ、手続き後24時間以内(ほとんどの場合は15分程度)で到着するはずのプロダクト・コードが、48時間待っても届かなかった。
当時の対応は混乱を極めた。私のもとには、7月28日、プロダクト・コードを記載したメールが2通届いた。それぞれ別のプロダクト・コードが記載されていた。このメールの送り主、「自動販売機」ではなく、「中の人」だったのかもしれない。