先日ツイッターでこのようなつぶやきをしました。以下コピペ。

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ある日の某老舗ジャズセッションでの出来事。ステージに上がったギタリスト。セレクトした曲はAll The Things You Are。弾き始めると「お!?巧いな」という印象。でも何となく既視感。そう、彼はPat Methenyのコピーをそのまま弾いていたのです。でもそれを知らない会場にいたみんなからは大きな歓声。

Methenyのフレーズを一通り弾き終えた彼は安堵した表情で伴奏に回ろうとしました。ところがホストミュージシャンのみんなは流石でしたね。「もっとやれ!」的なゼスチャー。みるみるうちに彼の顔は紅潮。そのまま固まってしまいました。

でも、これって難しい問題ですよね。知らない人から見たらめっちゃ巧い訳ですよね(実際巧く弾いていた)でも、それはジャズなのか否か。その方が、Methenyのフレーズを弾き終えた上で更に発展させていたら本当に素晴らしかったのですが。

以上コピペ
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思いのほか、みなさまから反応をいただいたので、今回はこの事についてもう少し深堀りしていこうと思います。

この話は実話で、ライブやレコーディング、講師の仕事など、プロとしてのキャリアを積み始めた頃、久し振りにセッションに参加した時の話です。

話に挙げられたギタリストは本当に巧く弾いていました。私自身ですら、途中まで「すげー!!」と驚愕と嫉妬の渦の中にいました。

ところが、途中から何か聴いたことのある感じ。そう、彼は、Pat Methenyのアルバム『Question and Answer』の中に収録されている『All the Things You Are』の演奏をそのまま弾いていただけだったのです。



コピーした労力、それを演奏できるだけの技術力、生の演奏でそれを実践できるだけの技術とメンタル。それだけでも素晴らしいものですが、果たしてそれはジャズと言えるのでしょうか?

少なくとも会場にいた多くの参加者はそう思ったかも知れません(実際バレるまでは盛り上がってました)でも、私や、プロのサポートミュージシャンの方々にはそう映らなかったし、実際Pat Methenyがその場にいたら(想像の範疇ですが)激怒していたことでしょう。※そう思う根拠は、こちらの記事を参考にしてみてください(英語の記事です)

Pat Methenyのソロを弾き終えた後、そのアンサーとして彼独自のインプロヴィゼーションが展開されていったら面白かったのですが、残念ながらそこまでには及びませんでした。そもそも、セッションの場において、コピーをそのまま全部弾くというのはいかがなものでしょうか。改めてセッションの意義を考えてしまいました。

私は、セッションに限らず、演奏の場においては、一方向ではなく双方向でありたいと考えております。先述した彼の演奏は明らかに一方向。カラオケがバックでも、CD音源がバックでも、またはバンドのメンバーが変わったとしても大きな差は出てこないかと思います。

Pat Methenyのコピーをちゃんと弾ききれるだけの技術はあるのですから、練習方法や、演奏に対する意識を変えていけば、きっと立派なジャズギタリストになるかと思います。もしくはこの経験を機に研鑽を積んで立派なジャズギタリストになっているかも知れませんね。いずれにしても、彼にとっては、この日の経験が苦い薬になったかと思います。そういう意味では、やはり人前で演奏するということは大事なことなのですね。

とは言え、やはり初心者のうちは、自分の演奏に精一杯で、まわりの演奏に耳を傾ける余裕がないかと思います。また、ある程度経験を積んで、色んなスキルが身につくと、ついつい独りよがりな演奏になりがちです。そう言えばたまたまDavid T. Walkerの動画を見ていたら良いことを仰ってました。



全部見ていただきたいですが、私が良いなと思ったところは1:10くらいからです。

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【Interviewer】
「今回のライブで演奏する気持ちは?」

【David T. Walker】
「他の人と一緒に演奏をする時はいつもどんな音楽であれ状況にあった演奏をするようにこころがけてるんだ」

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いかがでしょうか?David T. Walkerが言うだけにとても説得力のある言葉ですね。スキルの差、得手不得手、好みの違いなどそれぞれあるので、仲間同士ならまだしも、セッションの場においてはなおさらホスピタリティな精神が必要になってきますね。

余裕がない方は、無理をすることはありません。自分のスキルでできる範囲でそれを行えば良いのです。自分の音だけでなく、周りの音にも耳を傾けてみてください。余裕ができたら、まわりのメンバーの姿や、観客にも目線を配ってみてください。いつもと違う感覚が掴めるかと思います。

ジャズに限らず、演奏する醍醐味は『双方向のコミュニケーション』だと思います。指導者として、演奏家として、その楽しさを伝えるべく、今後も情報発信といい演奏を心がけます。よろしくお願いいたします。