代表質問始まる 党派超え危機克服せよ
<東京新聞社説>
2021年1月21日 07時59分

 菅義偉首相の施政方針演説に対する各党代表質問が始まった。新型コロナの感染拡大により国民の暮らしが脅かされる非常時だ。与野党の枠を超え、議論を通じてよりよい政策を決定すべきである。

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中で始まった与野党論戦だ。国民の命や暮らし、雇用は危機にさらされており、菅政権の対応のまずさは否定できない。

 感染をどうやって抑え込み、暮らしを守るのか。与野党が緊張感を持って積極的に論戦を展開するよう、まずは望みたい。

 最初に質問に立った立憲民主党の枝野幸男代表は、質問時間の半分以上を新型コロナ関連に充て、「GoTo」事業の停止や緊急事態宣言の発令が「なぜこんなに後手に回っているのか。判断の遅れを認め、反省することから始めるべきだ」と政府対応を批判した。

 こうした声は、野党のみならず国民の多数の思いではないか。

 これに対し、首相は「対応が遅れたとは考えていない」とし、緊急事態宣言の発令時期についても「専門家の意見を伺いながら判断した」と答弁した。責任は専門家らにあり、自分にはないかのような口ぶりだ。責任逃れを続けるような首相が何を言っても、国民の胸に響くわけはない。

 枝野氏の質問で評価したいのは政府批判にとどまらず、新型コロナの感染拡大を抑えるための「三つのプラン」を提案したことだ。

 三本柱として
「医療機関・従事者への支援拡充」
「感染者の早期把握と確実な隔離」
「倒産や廃業を防ぐ補償と生活支援」


を掲げ、感染者受け入れ病院の減収分の全額補填(ほてん)や、医療従事者らの公費による月二回のPCR検査実施など具体策の受け入れを迫った。いずれも妥当で実現可能と考える。

 枝野氏に続いて質問した自民党の二階俊博幹事長は「政治の真髄(しんずい)は国民の命を守ること」「各党はこの危機を乗り越え、国民の命と暮らしを守り抜くため幅広く政治の力を結集しよう」と訴えた。

 ならば、二階氏が率先して野党の意見に耳を傾け、野党案の検討を政府に促してはどうか。

 今国会は、秋までに行われる衆院選をにらみ、与野党舌戦の激化が想定される。議論の活性化は歓迎したいが、最も重要なことは国民の命と暮らしを守ることだ。

 そのためには、互いに批判すべきは批判すると同時に、政策を競い合う論戦とすべきだ。どちらが優れているか、それを選ぶのは主権者たる私たち国民である。


バイデン米政権の発足 新思考で国際秩序の再生を
<朝日新聞社説>
2021年1月21日 5時00分
キャプチャ
ワシントンの連邦議事堂前で19日、
バイデン新大統領就任式に備え警戒待機する兵士たち=ロイター

 米国の新政権が、これほどに沈鬱(ちんうつ)な雰囲気のなかで発足した事態があっただろうか。

 いつもであれば、就任式典は民主主義の原点を確認する祝祭の場だった。国際社会は超大国の新リーダーの言葉に、世界の針路を見いだそうとした。

 その米国が今、コロナ禍に加え、国内の著しい分断と威信の低下にあえいでいる。

 トランプ政権が去っても、国内外に山積する難題は変わらぬまま、見通しは立たない。

 合衆国の再統合と、国際秩序を再生する指導力を発揮できるか。ジョー・バイデン大統領が波乱含みの船出を迎えた。

 ■分断の克服が急務

 首都ワシントンは今も議事堂襲撃事件の衝撃の中にある。

 式典の厳戒態勢で投入された米兵は最大2万5千人。イラクとアフガニスタン、シリアでの現在の駐留総計を上回る。

 前大統領トランプ氏は、式典をボイコットした。前職の欠席は、南北戦争後の1869年以来のことだ。

 米国の政争は、まるで冷戦思考を国内に持ち込んだかのように、社会を切り裂いた。国民の3分の1はバイデン氏を正統な大統領と認めていない、という調査結果もある。

 一方、コロナ禍による米国の死者は40万人を超えた。社会の分裂と同時進行する多数の命の喪失は、19世紀の南北戦争を想起させるともいわれる。

 この難局の下、米史上最高齢の78歳で就任するバイデン氏の強みは共感力だ。

 青少年のころは吃音(きつおん)に悩み、「人々の痛みへの洞察力が身についた」。政治家になってからも家族を事故や病魔で失う悲劇を乗り越えてきた。

 コロナ禍のなか、「他者」に共感できる指導者像を国民は待望した。女性初の副大統領ハリス氏をはじめ、多様性に配慮した政権の布陣は、分断の傷を癒やす意思表示と期待したい。

 ■自国第一に歯止めを

 ただ、民主主義の規範をかき乱した前政権の後だけに、穏健なバイデン氏が消極的に選ばれた、という側面も否めない。

 副大統領や長い議会経験などは確かに強みになろう。だが、直面する諸課題は、過去の踏襲で対処できるものではない。むしろ、歴代政権の間に社会の深層に沈殿してきた問題に光をあてる作業こそが求められる。

 産業構造の転換で細った中間層の厚みをどう取り戻すか。米国の強みだった寛容な移民政策をどう支え、社会の活力や技術革新を強めていくか。

 格差を放置していては、トランプ的ポピュリズムの再来を防ぐことはできないだろう。様々な分断を克服する包摂力のある統治が求められる。

 国際的な視点に立てば、冷戦終結から続いた米一極支配は、前政権の下で完全に終わった。「大国間競争」への回帰がいわれ、米中の覇権争いに再び「冷戦」の言葉が飛び交う。

 しかし、ここも古い思考に陥ってはなるまい。グローバル化で相互依存が進む現代は、二項対立では捉えられない。

 バイデン政権は、旧来の国単位の安全保障観から転換するべきだ。相対的に米国の存在感が陰る流れは変えられそうにないが、その分、民主主義の価値観を共有する国々との連携を強めるのは合理的な選択だ。

 気候変動や感染症対策、貿易や租税の枠組みづくりなども含め、今ほど国際協調を必須とする時はない。世界的な「自国第一」と権威主義の蔓延(まんえん)に歯止めをかけ、国際社会全体の秩序を再構築する重責が、バイデン氏の双肩にかかっている。

 その意味で、気候変動をめぐるパリ協定への復帰などで即座に動いたことは評価したい。欧州などとの同盟関係を修復し、人権や法の支配を重んじる国際世論を強めていくべきだ。

 ■アジア関与策を描け

 米国は、21世紀を形づくる地域といわれるアジアとの関与を真剣にめざすべきだろう。

 トランプ氏は東アジアサミットを4年連続で欠席した。中国との対決を強調し、北朝鮮首脳との蜜月を演出したが、周到で長期的な戦略を欠いた。

 バイデン氏は、太平洋国家としての米国のアジア重視政策を練り直し、本格的な連携網づくりに着手してはどうか。

 米中の競合は続くが、その衝突はだれも望まない。中国の平和的な発展への誘導と、アジアの安定した繁栄をもたらすことは、世界の利益に直結する。

 北朝鮮に核を放棄させるための多国間枠組みを立て直す検討も始めるべきだ。朝鮮半島を安定させるには、米国の一貫性ある関与が必要だ。

 地域の「公共財」としての日米同盟の役割は増大していくだろう。ただ、首脳同士の個人的な関係に頼るのではなく、日本が主体的に地域の和平を描く外交構想を立てねばなるまい。

 米国が秩序を壊す嵐はいったん止(や)んだとはいえ、もはや特定の大国に頼りきる時代は去ったことを、日欧を含む各国首脳は自覚しておいたほうがいい。


政府の脱炭素化戦略 大変革に見合う対策必要
<毎日新聞社説>
2021年1月21日 東京朝刊

 「世界に先駆けて脱炭素社会を実現する」。菅義偉首相は意気込みを示すが、それを裏打ちする戦略はできているだろうか。

 2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするのが目標だ。首相の指示を受けて、政府は脱炭素化と経済成長の両立を目指す「グリーン成長戦略」を策定した。

 日本は電力の約8割を二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電に依存する。この現状を改め、50年に再生可能エネルギーの比率を5~6割に高めるという。

 電気自動車の普及や大容量蓄電池の開発、CO2回収方法の確立など14の重点分野で、企業の技術革新を促す。それを支援するために2兆円の基金も設ける。

 自民党政権は長年、「経済成長の足かせ」と見て、脱炭素化に熱心ではなかった。だが、欧州をはじめ世界で取り組みが加速した。日本が「周回遅れ」のままでは企業の海外ビジネスにも打撃となる懸念が高まり、方針転換した。

 ただ、技術革新頼みでは脱炭素化の道筋はつけられない。経済のデジタル化で電力需要は増えると見られる。企業や家庭に省エネを促す施策を導入する必要もある。

 電気自動車へのシフトはガソリン車中心の自動車産業にとって厳しい構造転換となる。下請け企業を含めた雇用対策も重要だ。

 再エネ拡大にも課題がある。今冬は断続的な寒波で暖房需要が急増し、電力需給が逼迫(ひっぱく)した。天候不順で太陽光発電の出力が落ち込んだためだ。火力発電の稼働率アップでしのいでいるが、これを続けていては脱炭素化に逆行する。

 政府内ではCO2を排出しない原発の活用を求める声も根強い。このため、成長戦略は原発について「可能な限り依存度を低減する」としつつ、「引き続き最大限活用していく」と矛盾に満ちた記述となった。

 しかし、福島第1原発事故を起こした原子力への不安は強い。安全対策で発電コストも高まった原発への回帰は現実的ではない。

 異常気象や自然災害など気候危機が深刻化する中、脱炭素化は不可欠だ。政府は国民の声を聞きながら、社会の大転換に見合う対策をつくる必要がある。目標を「絵に描いた餅」にしてはならない。