「異例づくし」の首相ぶら下がり 
露骨ないら立ち、番記者の分析
毎日新聞 2021/3/1 08:00
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新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を終え、記者団の質問に答える菅義偉首相(右)=首相官邸で2021年2月26日午後6時55分、竹内幹撮影

 菅義偉首相が感情をあらわにし、語気を強める――。2月26日午後6時53分から首相官邸のエントランスで実施された、記者が首相を囲む「ぶら下がり」取材は、これまでにない「異例づくし」となった。

通常は数分の取材時間がこの日は約18分間に及び、記者会見やぶら下がりで感情を表に出すことが少ない首相が露骨に「いら立ち」を見せていた。なぜ異例づくしのぶら下がりとなったのか。参加した首相番記者の一人として振り返る。

立ったまま18分間、「私も時間がありますから」で打ち切り

 「私も時間がありますから。でも大体皆さん、(質問が)出尽くしているんじゃないでしょうか。先ほどから同じような質問ばっかりじゃないでしょうか」


キャプチャ.PNG--222 26日午後7時11分、首相はいら立ちを隠そうともせず、「よろしいでしょうか」と言ってぶら下がりを打ち切ると、官邸を後にした。

約18分間の記者団による「ぶら下がり」で質問を打ち切り、首相官邸を出る菅義偉首相=東京都千代田区で2021年2月26日午後7時10分、竹内幹撮影

 私が聞いた「今度の会見では最後まで、質問の打ち切りなくお答えいただけるのか」との問いかけが最後となった。細かいやり取りも含めると、立ったままのやり取りは32問目となっていた。

 2020年9月の就任以降、首相が感情をあらわにするのは珍しい。しかし、最初からいら立ちを見せていたわけではなかった。

 この日は内閣記者会(官邸記者クラブ)として、事前に4問の質問案を示した上で、官邸側にぶら下がりを要請していた。

1問目は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の一部解除の理由と、残る首都圏4都県の見通しについて。

2問目はこの日に予定していた首相の記者会見を開かなかった理由について、会見の司会を務める山田真貴子内閣広報官が、首相の長男正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」から高額接待を受けていたことが影響したのではないかとの疑問を、首相に直接聞くものだった。

 「山田広報官のことは全く関係ありません」。首相はやや語気を強めつつ、3月7日までの宣言期間中の感染防止策の徹底に触れ、「最後までの状況を見極めた上で判断を行った後に、緊急事態宣言の全体について、きちんと会見を行うべきだと、そういうふうに考えています」と続けた。

 この時点ではまだ首相の表情には余裕があった。続く山田氏の広報官続投と、総務省や農林水産省で相次いだ接待問題に関する質問でも、紙を見ながら淡々と答えていた。しかし、事前通告はここまで。その場でのやり取りとなる5問目以降、首相の表情は徐々に変化していく。


通告なし質問から表情に変化

 5~10問目は会見延期に質問が集中した。内閣記者会の幹事社による会見要請に応じなかった点を問われると、質問にかぶせるように「いや、ですから、全体として全国(での宣言解除)が視野に立って(会見を)行うときというのは、そんなに時間が待たなくてあるわけでありますから、そうしたときに、やはりしっかりとお答えをすることが大事だと思います」と答え、ややいら立ちが見え始める。
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新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を終え、記者団の質問に答える菅義偉首相=首相官邸で2021年2月26日午後7時4分、竹内幹撮影

 首相の感情があらわになったのは17問目。朝日新聞の記者が「本日の諮問委員会でも感染者の再拡大に相当強い懸念が示されている。かねて専門家の意見を重視するという発言あったと思うが、その点についてはいかがお考えか」と質問したときだった。

首相は眉間(みけん)にしわを寄せ、両腕を振り下ろしながら「いや、ですから、基準決めてるわけですから。基準はクリアしてるわけでありますから」と声を張り上げた。

 この日の32問をテーマごとに大きく分けると、
記者会見9
▽総務省幹部らの接待問題8
▽緊急事態宣言や経済支援など新型コロナ対策6
▽新型コロナワクチン5
▽その他の短いやり取り4。
当然、その折々に記者が重要と考えるテーマに質問は集中するため、会見延期と山田氏らの接待問題が中心となった。

 さらに首相の場合、前述のやり取りでも分かるように、質問と答えがかみ合わないことが多く、記者は答えを引き出そうと、角度を変えながら同じテーマで質問を繰り返すことになる。

 この日も、接待問題で他の省庁も含めた第三者委員会を設置する考えがないかとTBSラジオの記者が問うたのに対し、首相は「いずれにしろ(国家公務員)倫理法で決まってますから、そこの順守というのは、いろんな会の中でしっかりと徹底をする、そうしたことということは当然のことじゃないでしょうか」と答えた。

第三者委を設置するかの是非に明確に答えていないため、「現状で問題が出ていることについては、改める必要がないということか」と角度を変えた二の矢が飛んだ。これに対しても首相は「いや、徹底して行うという、この倫理法に基づいて順守するということは、やっぱり徹底をすることが大事なんじゃないでしょうか」と語った。


かみ合わないやり取り、再質問にいら立ち

 こうしたやり取りを、首相は「同じような質問」が繰り返されていると感じ、いら立ちを募らせていったのかもしれない。しかし、記者の側からすればゼロ回答の「同じような答弁」が繰り返されている印象だ。記者として当然、再質問せざるを得ない。
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新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を終え、記者団の質問に答える菅義偉首相(左奥)=首相官邸で2021年2月26日午後7時4分、竹内幹撮影

 にもかかわらず、首相がそう感じる要因の一つに、記者会見とぶら下がりの違いも関係しているかもしれない。

 官邸で開かれる首相の記者会見は、内閣記者会に所属する記者のうち、主に現場の取りまとめ役を担う報道各社のキャップらが参加する。質問は「1社1問」が慣例となっており、首相の回答が不十分でも、再質問をすることはほとんどない。仮に再質問をしようと自席から発言すると、司会役の山田氏が制止している。

 これに対し、主に若手が多い首相番記者が首相を囲むぶら下がり取材は、記者会見とは全く別ものだ。司会者はおらず、首相は事前に記者側が提示した1、2問の代表質問に答えるだけで立ち去ることが多い。

 しかし、年末ごろから、首相は自らの発信力不足を指摘されることを気にしてか、徐々に事前通告した質問以外にもその場で答えるようになっていた。特にこの日は、緊急事態宣言の一部解除に伴って予定していた記者会見の代わりとの位置付けだったため、取材時間は異例の18分間に及ぶことになった。


丁寧な説明尽くさず、政府関係者「会見した方がよかった……」

 だが、記者会見とは異なり、ぶら下がりで1社1問という慣例はない。貴重な首相への取材機会を逃すまいと、各記者は何度でも質問するし、答えに納得ができなければ当然、再質問を繰り返す。
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新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を終え、記者団の質問に答える菅義偉首相=首相官邸で2021年2月26日午後7時10分、竹内幹撮影

 そこに不満もあったのだろう。首相は12問目に北海道新聞の記者が経済支援についてただそうとすると、「他の方よろしいですか」と言い出し、記者が「順番に」と言いかけると「いや2回目だから」と遮った。

結局、質問には応じたものの、その姿は一国の指導者として国民に丁寧な説明を尽くすというよりも、追及をかわすことに主眼を置いたように感じた。守り重視で「鉄壁」とも言われた官房長官時代をほうふつさせた。

 ぶら下がりの後、ある政府関係者は「記者会見をした方がよかったのでは……」と漏らした。

国民生活に直結する新型コロナ対応はもちろん、政府の相次ぐ不祥事に関しても国民の信頼を取り戻そうと本気で考えるならば、きちんと記者会見を開き、腰を据えて丁寧に説明した方が良かったのではないだろうか。【佐野格】