山田広報官辞職 疑問に答えぬ不誠実
<東京新聞社説>
2021年3月2日 07時00分

 山田真貴子内閣広報官が辞職した。体調不良が理由であり、高額接待の責任を取ったわけではない。衆院予算委員会にも欠席した。国民の疑問に答えぬままの退場は、あまりに不誠実ではないか。

 現職の総務審議官当時、菅義偉首相の長男・正剛(せいごう)氏が勤める放送事業会社「東北新社」から七万四千円超の高額接待を受けていたとなれば、内閣広報官としてもはや適任とは言えない。とはいえ、辞職したり、給与の一部を返納したりすれば済む話でもない。

 山田氏を含む総務省幹部への一連の接待が、国家公務員倫理法に基づく倫理規程に反するのは当然としても、さらに追及すべきは東北新社への便宜の有無である。

 接待時期が、同社関連の放送事業の許認可時期と重なるのは、単なる偶然なのか。その点を明らかにすることなしに、この問題に終止符を打つことはできない。

 山田氏は先月二十五日に続き、きのう一日の衆院予算委員会への出席も求められていた。当初は自ら辞表を提出することはないと言いながら、一転して、委員会直前の辞職と国会欠席である。

 この間、何があったのか、体調不良だけが理由なのか。山田氏と任命権者の首相は国民に説明する義務から逃れられない。

 そもそも首相は緊急事態宣言の六府県での先行解除を発表した二十六日、記者会見を見送り、官邸玄関で取材を受けるにとどめた。

 首相が会見の場で一部解除の理由を説明し、引き続き感染防止への協力を呼びかけるべき局面だ。にもかかわらず、会見を見送ったのは、司会を務める山田氏を、追及の矢面に立たせないためと受け止められても仕方があるまい。

 山田氏は月額給与の十分の六相当額を自主返納したが、総務省を退職したとして倫理規程に基づく処分も受けていない。今回の辞職も体調不良が理由で、高額接待を受けた責任問題はうやむやだ。

 国会は、山田氏の体調が回復次第、参考人か証人として出席を求め、接待の詳細について引き続き追及すべきである。

 接待問題が発覚しながら山田氏を続投させた首相の責任も重大だ。後手の対応は政治への不信を募らせ、国会審議にも影響も与えた。

 長男は別人格とはいえ、首相との関係が、接待の申し出を断りづらくした面はないのか。

 森友・加計両学園や「桜を見る会」の問題と通底する、政権中枢に近い者を優遇する政治の在り方そのものが問われている。


柔道パワハラ 山下会長の見識を問う
<朝日新聞社説>
2021年3月2日 5時00分
キャプチャ
幹部職員のパワハラ問題について説明する全柔連の山下泰裕会長
=2021年2月26日、東京都文京区の講道館で、波戸健一撮影

 一競技団体の振る舞いとしても不適切極まりない。ましてそのトップが日本オリンピック委員会(JOC)の会長とあっては、日本スポーツ界の後進性を世界に発信することになる。直ちに対応を見直すべきだ。

 全日本柔道連盟の幹部職員がパワハラと疑われる行為を繰り返していたことがわかった。ところが山下泰裕会長は連盟のコンプライアンス委員会から調査結果の報告を受けながら、懲戒のための手続きを進めず、この幹部の自己都合による退職を認めた。理事会にも調査結果は示されず、職員らへの説明も行われていないという。

 会見した山下氏らによると、この措置は正副会長5人だけの協議で決めた。およそ社会に理解される行いではなく、組織の長としての見識が疑われる。

 全柔連では約8年前、女子の代表候補15人が指導者のパワハラを告発し社会問題になった。選手側は、連盟には隠蔽(いんぺい)体質があるとしてJOCによる調査を要望。
信頼関係がないことが明らかになり、公益法人改革に取り組む内閣府が事実上の体制一新を勧告する事態に発展した。

 その後再建が図られ、17年6月には山下氏が副会長から会長に昇格した。だが昨年2月、不祥事の公表基準を大幅に後退させる方針を打ち出し、批判を浴びた。今回の判断もその延長線上にあるといえよう。スポーツ団体にも適切な情報開示が強く求められる時代に、いったい何を考えているのか。

 深刻なのは、これが「全柔連の相変わらずの混乱」では片づけられないことだ。

 五輪招致をめぐる買収疑惑で竹田恒和氏が19年6月にJOC会長を辞任し、その後を継いだのが山下氏だ。国際オリンピック委員会の委員でもある。情報公開への取り組みも含め、全柔連は五輪に参加する国内競技団体の手本にならなければいけないはずなのに、やっていることはまるで逆だ。ここでも五輪イメージは大きく傷ついた。

 ふり返れば山下氏はJOC会長に就任してすぐに、反対を押し切って理事会を全面的に非公開とする決定をし、先月の東京五輪組織委員会の後任会長選びでも、候補者検討の協議を秘密で行うことを主導した。

 いずれについても自由な議論を保証するための非公開だと説明する。密室でなければできない議論とは何なのか。そんな姿勢で、東京五輪への懐疑的な見方を押し返し、逆に理解と共感を広げることができるのか。胸に手を当てて考えるべきだ。

 選手時代の実績もあり、氏の一挙手一投足に注目が集まる。リーダーとしての自覚を持って行動するよう、強く求める。


山田内閣広報官が辞職 対応はまた後手に回った
<毎日新聞社説> 2021/3/2 

 遅すぎる判断だったというしかない。ここまで放置してきた菅義偉首相の責任は極めて重い。

 首相の長男が勤める放送事業会社「東北新社」から7万円余の接待を受けていた山田真貴子内閣広報官がきのう、辞職した。

 山田氏は体調不良で入院し、「広報官としての職務を続けられない」と辞表を提出したという。

 しかし実態は、世論の批判が収まらず、追い込まれた末の引責辞職である。

 一般常識をはるかに超える高額接待だっただけではない。山田氏が当初、会食の「記憶はない」と説明していた点も看過できない。総務省が会食を調べた報告書をまとめると、一転して認めて謝罪したものの、その後も詳細については曖昧な国会答弁を繰り返した。


 政府の政策を国民に説明するのが内閣広報官だ。それがこの姿勢では政府全体への信頼を失う。

 同時に菅首相も「女性の広報官として期待している」と、山田氏を続投させる考えを示し続けた。これも理解できない対応だった。

 菅首相は総務相時代から山田氏に期待してきたという。今回の辞職後も、首相は「残念だ」と言うだけだ。首相の任命責任を問われても答えをはぐらかした。


 本当にこのままで乗り切れると考えていたのだろうか。だとすれば、全く感覚がずれている。

 新型コロナウイルス対策と同様、今回も対応が後手に回った。首相への不信や不満がいっそう広がるだろう。

 菅首相は先週、緊急事態宣言の一部解除にあたって記者会見を開かなかった。会見の司会役である山田氏を隠すためではなかったかとの疑念は消えない。


 しかも会見に代わって行われた記者団の取材では「同じような質問ばかりではないでしょうか」といら立って質問を打ち切った。冷静さを失っているのではないか。

 総務省の接待問題では、東北新社が放送事業に関して何らかの優遇措置を受けたのではないかという疑惑の核心がなお未解明だ。

 山田氏が入院したことで、国会への招致は見送られた。だが体調が回復したら、国会できちんと説明すべきだ。逃げたり、ごまかしたりしないことが、菅政権にとって信頼回復への一歩となる。