文大統領演説 日韓対話再開の契機に
<東京新聞社説>
2021年3月3日 08時06分

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が演説で、日本と対話の準備があると表明した。具体的な提案はなかったが、関係改善に向けた決意を示したものだ。日本側も呼び掛けに応じ、対話再開の契機とすべきだ。

 文大統領の演説は、対日抵抗運動を記念する「三・一独立運動」の式典で行われた。

 歴代大統領は演説で日本に対して厳しく言及しており、文大統領も二〇一八年の式典では、元慰安婦問題に関連し「加害者である日本政府が『終わった』と言ってはいけない」と、強い表現を使ったことがある。

 文大統領は今回、慎重な言い回しに終始し、日本は経済、文化、人的交流で重要な隣人と認めたうえで、過去の問題は切り離して解決する姿勢を強調した。

 韓国政府はもともと対日政策で過去の問題と、経済・安保協力とを分離する「ツートラック原則」を掲げている。理由やタイミングはともかく、大統領がこの原則を再確認したことには意義がある。

 ただ、元徴用工や、元慰安婦問題の解決に向けた具体策には踏み込まず、被害者中心主義で解決を図ると述べるにとどめた。

 日本政府は韓国側が解決策を示すべきだとの立場を変えていないが、突き放した外交姿勢では、解決の糸口はつかめまい。

 今夏には東京五輪・パラリンピックが予定されている。文大統領が演説で言及したように、北朝鮮と日米韓三カ国との間で対話再開の機会になる可能性もある。その際、韓国の協力は欠かせない。

 また、バイデン米政権は中国や北朝鮮を意識し、日米韓の協力関係の強化を強く求めている。

 日韓関係の悪化が続けば、米国が仲介に乗り出す可能性もあり、日本側も譲歩を求められるかもしれない。

 膠着(こうちゃく)した状況を打開するには対話しかない。まず外相会談を開いて意思疎通を図ってはどうか。

 日本政府が一九年、韓国に行った輸出規制強化の解除を検討することも事態打開には有効だろう。この措置には、歴史問題を経済に結びつけたとして韓国側が強く反発し、日本国内でも批判があった。

 経済産業省はこの措置を取った理由の一つに、両国の信頼関係が失われたことを挙げていた。

 韓国の大統領が、日韓関係の重要性に明確に言及し、関係改善の意思を示した新たな局面である。日本政府は対話再開の好機を自ら見逃すことがあってはならない。


菅首相の政権運営 官邸の機能不全が心配だ
<毎日新聞社説>
2021/3/3 東京朝刊

 新年度予算案がきのう衆院を通過した。

 新型コロナウイルスの対策費などが盛り込まれ、野党は成立を遅らせる国会戦術をとっていない。だが、多くの問題が積み残され、菅義偉政権の機能不全を疑わせる事態も相次いでいる。

 新型コロナ対策では、GoToキャンペーンにこだわり、政府の対応が遅れた。

 緊急事態宣言の再発令も、年末年始の感染急拡大を受け、知事らに押されて出したものだ。

 感染の「第3波」は昨年11月に始まっていたのに、臨時国会を12月初旬に閉じた。今国会では唐突に、罰則を含む新型コロナ関連法の改正案を提出した。


 その最中に、与党議員が深夜に東京・銀座のクラブに出かけていたことが相次いで発覚し、政権の危機意識の欠如を露呈した。

 総務省幹部らが放送事業会社「東北新社」に勤める首相の長男らから接待を受けていた問題では、首相は「長男は別人格だ」と人ごとのように答弁した。一方で、自身が抜てきした山田真貴子前内閣広報官は続投させようとした。


 国民の政治不信を理解できていれば、起こりえなかった対応だ。

 首相は人事権で官僚や議員を動かす政治手法を駆使してきた。異論に耳を傾けない強権的な手法が、進言しにくい空気を生み出しているのではないか。

 深刻なのは、首相に対して率直にものを言う人物が、官邸や与党に見当たらないことだ。

 官房長官には、自身の下で官房副長官を務めた加藤勝信氏を据え、秘書官には官房長官時代の秘書官らを昇格させた。自身に異を唱えることが少ない顔ぶれで周辺を固めている。


 新型コロナ対策は正念場を迎え、ワクチン接種のスケジュールも当初の想定より遅れそうだ。東京オリンピック開催問題などの判断も早々に迫られる。

 首相は専門家の意見を尊重し、国民の不安に応えながら慎重に判断をしていく必要がある。

 野党の提案も立場を超えて柔軟に取り入れるべきだ。

 権力は抑制的に行使する必要がある。首相は国民からの信頼を力にして政策を進めるべきだ。それが政権立て直しの第一歩になる。


山田広報官辞職 疑惑は残されたままだ
<琉球新報社説>
2021年3月3日 06:01

 これで幕引きとはならない。総務省に対する接待攻勢の裏に何があったのか疑惑は残されたままだ。

 放送事業会社・東北新社に勤める菅義偉首相の長男正剛氏側からの高額接待を批判された山田真貴子内閣広報官が辞職した。体調不良が辞職の理由だが、事実上の引責辞任である。それでも高額接待の責任を取ったとは言えない。

 接待問題で総務省は幹部ら9人を減給や戒告の懲戒処分にするなど11人を処分した。ところが、武田良太総務相は処分対象者のほとんどを現職に留め置くなど身内に甘い処分だった。

 菅首相が広報官に抜てきした山田氏への対応も誤った。山田氏が辞任する用意があると伝達していたのに官邸は続投で乗り切れると判断した。首相の任命責任が問われる事態を避けたかったのだろう。官邸側の保身によって対応は後手に回り、傷口を広げた。

 今後、東北新社の接待攻勢が何を目的としたものなのか、放送行政がゆがめられなかったかが明らかにされなければならない。

 東北新社と総務省幹部らの会食は2016年7月から20年12月にかけ延べ39件行われた。この間の東北新社に関する許認可への影響の有無について具体的に調査し、解明すべきだ。内部調査で明らかにならなければ、第三者機関による調査も必要である。

 菅正剛氏の存在や果たした役割についても明らかにするべきだ。菅首相が総務相時代、正剛氏は秘書官を務めていた。その後の東北新社への就職は「天下り」と見られても仕方ない。

一連の問題で菅首相は「私と長男は別人格」と抗弁したが、ほとんど説得力を持たない。首相は接待問題について自らの言葉で明らかにすべきだ。

 菅首相は総務相時代、自身の政策に異議を唱えた課長を更迭した過去がある。今も総務省に対し影響力を及ぼしているみられている。強権を誇る首相と忖度(そんたく)する官僚という構図が問題の背景にある。

 昨年9月に菅政権が発足して以来、疑惑や不祥事が次々と判明した。ところが菅首相は疑惑を明らかにし、国民の信を取り戻そうという姿勢からほど遠い。

 「桜を見る会」の前夜祭会場だったホテル側が作成した明細書が明らかになり問題が再燃したが、菅首相は再調査を拒んだ。吉川貴盛元農相が在任中、広島県の大手鶏卵会社前代表から現金を受領し、収賄罪で在宅起訴された問題でも菅首相は「大変残念」と述べるだけで実態解明には踏み込まなかった。

 田中氏の問題でも菅首相は先月26日、緊急事態宣言一部解除を受けた会見を開かず「山田氏隠し」と批判された。

 菅首相の態度は責任回避に終始するものであり、国民の不審は高まるばかりだ。今回も山田氏辞職で済む話ではない。説明責任を果たすべきは菅首相である。


予算案の衆院通過 国民の苦難打開へ姿勢改めよ
<しんぶん赤旗主張> 
2021年3月3日(水)

 2021年度政府予算案が、自民・公明などの賛成多数で衆院本会議で可決され、参院へ送られました。感染が収束しないコロナへの対策は全く不十分で、国民の命と健康、暮らしを守るには程遠い冷たい予算です。

衆院採決の際、日本共産党と立憲民主党は組み替え案を共同で提出しました。参院での徹底審議を通じ、抜本的な組み替え実現が不可欠です。

コロナ対策は無為無策

 21年度予算案は、一般会計総額が106兆6097億円と過去最大規模です。菅義偉政権は1月末に成立した20年度第3次補正予算と合わせて、「15カ月予算」と位置付けています。

 重大なのは、最大の緊急の課題であるコロナ対策で、21年度予算案は5兆円の予備費以外にすぐに対応できる予算がほとんどないことです。必要な対策は補正予算に計上したという政府の言い分は通用しません。

補正予算は基本的に3月末までです。それまでにコロナが収束することはありえず、21年度予算案に、十分な対策費を具体的に盛り込むべきです。

 巨額の予備費で対処するのは、国の歳出は国会で議決するという財政民主主義からも問題です。野党共同の組み替え案は、予備費の積み上げをやめ、医療機関の減収補填(ほてん)などの経済支援、感染再燃防止のための検査拡充、生活困窮者への1人10万円の給付金、持続化給付金の再給付など切実な要求を提起しました。真剣に検討し、実施すべきです。

 21年度予算案に計上されたマイナンバーカードの普及促進などのコロナ対策に便乗した項目や、成長戦略に基づく大型開発事業推進など不要不急の予算は、根本から見直す必要があります。3次補正予算で費用が追加された「Go To トラベル」事業は、感染抑止に逆行するもので、きっぱり断念すべきです。

 国民に「自助努力」を迫る菅首相の冷たい姿勢を反映し、社会保障費は高齢化に伴う自然増さえ1300億円も削減しました。年金も0・1%のマイナス改定です。

軍事費は9年連続の増額で、過去最大の5兆3422億円にのぼります。新型イージス艦取得や長距離巡航ミサイル、戦闘機の開発などに拍車をかける姿勢はあまりに異常です。

 国民の税金で賄われる予算は、もともと所得の再配分や景気の調整など、国民の暮らし向上に使われるべきものです。コロナ対策には無為無策で、国民の苦しみをよそに、大企業のための事業や軍事費に巨額の税金を使うのは、本末転倒です。

 世界的なコロナ感染拡大の中で、日本の消費税にあたる間接税を減税する動きが50カ国余りに広がっています。予算案が消費税5%への引き下げにも背を向けているのは大問題です。消費税のこれまでの税収は、大企業や大資産家向けの減税で消えています。消費税を減税するとともに、大企業や富裕層への応分の負担が求められます。

菅政権への追及さらに

 総務省や農林水産省で相次いだ接待疑惑はあいまいにできません。公務員の倫理規程に違反するだけでなく、行政をゆがめた贈収賄としても徹底追及が必要です。参院段階での予算審議に合わせ、国民の声に逆らう菅政権を追い詰めることがますます重要です。
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