「国葬」の検証 分断の禍根 浮き彫りに
朝日新聞社説 2022年12月16日 5時00分
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安倍元首相の「国葬」=2022年9月27日、東京都千代田区の日本武道館、代表撮影

 安倍元首相の「国葬」が世論の分断を招いたという基本認識は共有した。しかし、その法的根拠や政府の説明に対する評価、今後に向けた対象者のルール化などについては、様々な意見の羅列にとどまった。政治家を国葬で弔うことがはらむ、根本的な問題点が改めて浮き彫りになったといえる。

 衆院の議院運営委員会に設置され、安倍氏の国葬を検証していた与野党の代表者による協議会が、臨時国会の最終日に報告書を公表した。計5回にわたり、政府の説明や有識者の見解を非公開で聴き、意見交換をした概要をまとめた。

 冒頭、「基本的な認識」として、国葬は戦後、慣例の積み重ねがなく、国民の間で共通認識が醸成されていなかったことが、「世論の分断」につながったと総括した。

 確かに、首相経験者の国葬は55年前の吉田茂以来だった。しかし、賛否が二分されたのは、安倍氏の在任期間が憲政史上最長の8年8カ月に及ぶ一方で、その実績に対する評価が割れていたことの反映に他ならない。安倍氏の政治手法や、森友・加計・桜を見る会といった「負の遺産」に対する批判があったことも忘れてはならない。

 「国民の幅広い理解」を得るために、「国会による何らかの適切な関与が必要」という点では、おおむね一致したが、具体的な方法をめぐってはバラバラで、集約には程遠かった。

 国会の承認を要件とすべきだとの意見に対しては、故人の評価をめぐる議論が政治問題化するなどの懸念が示され、委員会などへの報告にとどめる、両院議長への報告・相談を経るなどの案も出たという。

 対象者の基準づくりについても、賛否が分かれた。国民の理解に資するという一方で、事前に設定するのは難しく、時の内閣が責任をもって判断すべきだとの両論が併記された。

 結局のところ、政治家の功績に対する評価は一様でなく、党派性が避けられないという問題に行きつく。報告書には、「政治家の国葬は認められない」「他の形式で故人を偲(しの)ぶ方法もある」との意見も記録されているが、そもそも国葬を行う目的は何か、政治家はふさわしいのかという大本の議論を避けたと言わざるを得ない。

 国会と並行して進めていた政府の検証結果はまだ出ていない。岸田首相は「一定のルール」を設ける意向を表明しているが、手順さえ定めれば問題が解消されるわけではない。独断で国葬を決めた深い反省に立って、国民の分断を二度と繰り返さない方策を打ち出せるかが問われる。