出生数80万割れ 少子化克服へ覚悟示せ
東京新聞 2023年3月18日 08時31分
少子化が危機的段階に入った。
厚生労働省の人口動態統計速報によると二〇二二年に生まれた赤ちゃんの数は七十九万九千七百二十八人。一八九九年の統計開始以来初めて八十万人を下回り、政府の推計より十一年も早い。
国内に住む外国人などを除き、日本在住の日本人に限れば約七十七万人に落ち込むとみられる。
少子化を克服するには、若い世代の結婚・出産・子育てを阻んでいる課題と向き合い、将来に希望を持てる社会に変えるため、効果が見込まれるあらゆる政策を講じる政治の覚悟が必要だ。
岸田文雄首相は十七日、政府が取り組む少子化対策の方向性を示した。具体的な対策のたたき台は三月末までにとりまとめる予定だが、首相の説明はこれまでの考え方の繰り返しにとどまり、どういう社会を目指すのか、最も重要な方針を踏み込んで語らなかった。
首相は若い人の所得増、社会全体の構造・意識の変化、すべての子育て世帯に切れ目ない支援との三つの理念を表明した。だが、具体策に乏しい。国会の論戦でも、明確な説明を避け続けた。
児童手当の所得制限撤廃や、倍増を表明した子ども予算額も明示しなかった。これでは少子化への政権の危機感を疑われて当然だ。
政府が掲げる対策の多くは主に子育て世帯にとどまる。子育て以前に結婚・出産を控える若い世代にとっては、経済的基盤を安定させる雇用対策が優先課題だ。
首相は若者の所得増を目指すと言うが、今春闘以降も継続的な賃上げが実現しなければ生活を安定させることはできない。政府と経済界はその責任を自覚すべきだ。
いったん非正規雇用になると抜け出しにくい労働市場の改革にも知恵を絞る必要がある。正社員との待遇格差を是正しつつ、成長産業に転職しやすくする職業訓練の充実などを進めねばならない。
若い世代が結婚・出産をためらうのは、子育てや教育に費用がかかりすぎることが主な理由だ。
負担の大きな支出は教育費と住宅費である。子どもを持つか住宅を買うかで悩むような社会では、とても子どもを産み、育てたいと思えないのではないか。
幼児教育・保育の無償化の拡充や給付型奨学金の充実、低廉な住宅供給など、社会全体で子育てを支える対策を講じ、若い世代の期待に応えたい。