NHK違反予算 国民への背信は重大だ
東京新聞 2023年6月2日 07時48分
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 NHKが番組のインターネット配信を巡り、規則に違反して九億円を予算計上していた。理事会に諮らないまま一部理事らが決裁しており、企業統治の機能不全を示すだけでなく、国民に対する極めて重大な背信行為である。

 規則違反が明らかになったのは二〇二三年度予算に計上された同時配信サービス「NHKプラス」にBS番組を加えるための設備費用。NHKのネット配信は総務相が認可した「インターネット活用業務実施基準」で地上波のみに限られており、BS関連の予算計上は規則に反する。

 BS関連の費用について、NHKは前田晃伸前会長時代の昨年十二月、一部理事らが稟議(りんぎ)書を決裁して予算案に計上。最高意思決定機関である経営委員会の議決を経て、三月に国会で承認された。

 テレビ離れが進む中、ネット配信拡大を目論(もくろ)み、規則違反と知りつつ予算を盛り込んでBS番組のネット配信を既成事実化しようとしたのなら到底容認できない。経営委や国会がなぜ違反を見抜けなかったか検証する必要もある。

 NHK内部では四月に問題が発覚し、予算執行を停止したが、規則違反が経営委に報告されたのは五月に入ってから。他のメディアが報道した後、記者会見で事実関係を認めた。億単位の予算を稟議書を回すだけで決裁したこと自体が非常識である上、発覚後の情報開示を巡る対応も不誠実だ。

 NHKのネット配信拡大には民業圧迫との批判が強い。毎年六千億円以上の受信料収入を得るNHKが本格参入すれば民間放送は太刀打ちできず、公正な競争は著しく損なわれる。いずれスマホなどネット端末にも受信料を課す布石では、との警戒感も強い。

 総務省の有識者会議がNHKのネット配信の在り方を検討中だが、違反があった以上、業務拡大は凍結すべきだ。ネット端末からの受信料徴収はもはや論外だ。

 NHKは稲葉延雄会長の下に弁護士らも入った検討会を設置し、企業統治の改革に着手するが、外部の専門家による第三者委員会が徹底的に問題点を洗い出さなければ、組織改革がかけ声倒れに終わる可能性は否定できない。

 災害などが起きた際、NHKの情報が人々の命と暮らしを守れるのか。自己の業務や利益の拡大ではなく公共性こそが存在意義であることをNHKは自覚すべきだ。