総裁選と原発 幾多の難題 素通りか
朝日新聞社説 2024年9月25日 5時00分
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自民党総裁選の演説会が終わり、並ぶ候補者ら
=2024年9月15日、福島市、酒本友紀子撮影

 自民党総裁選で争点になっていない重要テーマがある。原発・エネルギー政策だ。岸田政権は国民的議論を経ずに原発の最大限活用にかじを切った。大半の候補がこれに追随する「現実路線」で一致するが、理にかなうのか。幾多の難題を無視した「なし崩し」は、許されない。

 候補者の一人の河野太郎氏は、前回21年の総裁選では核燃料サイクルを「早く手じまいすべきだ」と主張した。当時、河野氏を支援した小泉進次郎氏とともに脱原発を指向していた。しかし今回は、デジタル化に伴う電力需要の増加で前提が変わったとして、両氏とも原発の新増設も容認する考えを示している。

 だが、中長期的な電力需要の見通しは、研究機関によってかなり幅がある。消費電力を抑える技術の開発競争も進んでいる。他方、河野氏もかつて指摘したように、核燃料サイクルは技術、コスト、核不拡散の各面で様々な欠点を抱え、行き詰まっている。

 両氏が姿勢を根本的に変えるのであれば、より具体的な根拠が必要なはずだが、十分な説明はない。

 他候補では石破茂氏が再生可能エネルギーの推進で「原子力依存度を下げられる」としたが、高市早苗氏が「次世代革新炉にしっかり投資していく」と述べるなど、現政権の政策転換の延長上で、原発を重視する意見が目立つ。

 ただ、福島市での演説会では原発の再稼働や新増設に言及する候補者はいなかった。日本のエネルギー政策を考える出発点は、東京電力福島第一原発事故の経験だ。重大な被害をもたらし、廃炉作業もままならない。その地元で原発政策を語らずに、現実を直視しているといえるのか。

 災害大国の日本では、原発の安全性や避難の実効性の問題は特に大きい。経済優位性は揺らぎ、新増設に向けて新たな国民負担も浮上する。軍事標的になるリスクもある。「核のごみ」の最終処分も未解決だ。山積する課題を素通りする候補者ばかりなのは、残念というしかない。

 新政権は年内に、将来の電源構成を示すエネルギー基本計画の改定に臨む。民間では35年に再エネ比率を80%にしても、安定供給可能で経済性もあるとの提言も相次ぐ。耳を傾けるべきだ。最低限、歴代政権が維持してきた「原発依存度を低減する」方針は堅持する必要がある。

 立憲民主党代表には野田佳彦氏が就いた。原発ゼロ社会の実現を綱領に掲げつつ、政権交代をめざす党として、どのような政策を示すのか。こちらにも問われている。