核兵器禁止条約の会議 石破首相は参加へ決断を
毎日新聞 2025/1/16 東京朝刊

ノーベル平和賞を受賞した日本被団協の田中熙巳さん(左から3人目)らとの写真撮影を終え、席を勧める石破茂首相(同4人目)=首相官邸で2025年1月8日、平田明浩撮影
国際情勢が緊迫化して核使用のリスクが高まる中、唯一の戦争被爆国として、核廃絶に向けた一歩を踏み出す時だ。
核兵器禁止条約の締約国による会議が3月に開かれる。条約発効から4年を迎え、73カ国・地域が批准している。しかし、米国をはじめとする核保有国は加わっていない。
条約は核の保有、使用、威嚇などを全面的に禁じているため、米国の「核の傘」に守られている日本は、現状では締約国となることができない。米国への配慮などから、締約国会議へのオブザーバー参加にも背を向けてきた。
だが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国で米国の「核の傘」の下にいるドイツなどは、オブザーバーとして参加している。核抑止の必要性を明言する一方で、核廃絶に向けて締約国と協力する姿勢も打ち出してきた。
東アジアにおいても、安全保障と核軍縮の取り組みを両立させることは可能なはずだ。
石破茂首相は締約国会議に向けて、ドイツなどの対応を検証しているという。そうであるならば、政治指導力を発揮し、オブザーバー参加を速やかに決断すべきだ。
米国では間もなくトランプ新政権が発足する。首相はトランプ氏に対しても、日本の立場を粘り強く説明する必要がある。
国会が果たすべき役割も大きい。立憲民主党などの主要野党や与党の公明党は、オブザーバー参加を求めている。
衆院で多数派を占める野党は、外交政策についても、これまで以上に重い責任を負う。次期通常国会で党派を超えて結束し、首相の決断を強く後押しすべきだ。
ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核を威嚇に使い、中東では事実上の核保有国であるイスラエルと敵対国・勢力との抗争が続く。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞したのは、核リスクに対する国際社会の危機感の表れだ。
今年は戦後80年の節目である。被爆の実相を踏まえ、核軍縮を前に進める方策を各国と共に模索する。そうした姿勢こそが、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を果たすことにつながるはずだ。