殺傷兵器輸出 なし崩し拡大 許されぬ
朝日新聞 2023年12月24日 5時00分
地対空ミサイル「パトリオット」の対米輸出が決まった。
写真は自衛隊のパトリオット発射装置=2017年12月22日、長崎県佐世保市
写真は自衛隊のパトリオット発射装置=2017年12月22日、長崎県佐世保市
岸田政権が殺傷能力のある兵器の完成品の輸出に道を開いた。さらなる拡大に向けた検討も続ける。平和国家の根幹として維持してきた武器輸出への厳しい自制を、国民的議論もないまま、なし崩しに転換することは許されない。
政府が「防衛装備移転三原則」と運用指針を改定した。与党の自民、公明両党が、現時点で合意できるものをまとめた「第一弾」の提言を反映したものだ。
最大の柱が、他国の企業の許可を得て、日本企業が国内で製造する「ライセンス生産品」の全面的な輸出解禁だ。従来は、米国企業がライセンス元の武器の部品のみを認めていたが、今後は、完成品を含め、ライセンス元の国へなら、どこにでも輸出できることになった。
政府は早速、その第1号として、自衛隊が保有する地対空ミサイル「パトリオット」の米国への輸出を決めた。ウクライナへの提供などで在庫不足に悩む米政府からの要請を受けたものだという。
米国から第三国に渡ることはないというが、ウクライナへの間接的な軍事支援につながることは否定できまい。地雷除去やインフラ・産業の復興など、首相が繰り返し表明してきた「日本ならではの支援」が、揺らぐことのないよう求めたい。
ライセンス元の国から第三国への輸出自体は、日本の事前同意があれば認められる。ウクライナやイスラエルを念頭に、「現に戦闘が行われていると判断される国」は除外すると運用指針には明記されたが、パトリオットの例のような「玉突き」が生じれば、場合によっては、国際紛争を助長する懸念もあろう。
今回の改定では、武器輸出を認める「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型について、機雷掃海用の機関砲など、その業務や自らを守るのに必要であれば、殺傷能力のある武器を搭載しての輸出も認められることになった。
5類型そのものの見直しと、次期戦闘機を念頭に、国際共同開発した武器を日本が直接、第三国に輸出できるようにするかどうかについては、自公の溝が埋まらず、継続協議となっている。政府は来年2月末までに結論を出すよう求めているが、このまま殺傷兵器の輸出拡大に突き進むことは認められない。
武器輸出の緩和は、国の大方針の見直しであるにもかかわらず、与党の少人数の実務者による「密室」協議で事実上決められている。国会をはじめ、開かれた場での議論はないままだ。これでは幅広い国民の合意は得られない。