東電の事故から15年
脱原発の土壌 再エネをさらに
脱原発の土壌 再エネをさらに
朝日新聞社説 2026年3月12日 5時00分
原子炉建屋が爆発した東京電力福島第一原発4号機
=2012年5月、福島県大熊町、本社ヘリから
=2012年5月、福島県大熊町、本社ヘリから
思い出してほしい。東京電力の過酷事故で恐ろしい思いをした日々を。炉心溶融、建屋の爆発、原発の暴走を抑えられなかった。首都圏を含む広い地域で、避難が必要になるとも指摘された。
あれから15年、政府は忘れたかのように「原発回帰」に前のめりだ。事故後の2011年7月、朝日新聞は社説特集で「原発ゼロ社会」を提言した。拡大を訴えた再生可能エネルギーは15年で格段に増え、政府も主力電源化を掲げる。脱原発と再エネ拡大を、着実に進めるべきだ。
■「原発ゼロ社会」のいま
原発を一気にゼロにすれば生活や経済が打撃を受ける。提言では、無理せず着実に減らすことが現実的として、ゼロの時期は「20~30年後がめど」とした。分散型で地域密着の電源として「希望の星は自然エネルギー」と訴えた。しかし、政府は原発の活用へと舵(かじ)を切り、60年超運転を認める制度もつくった。
5年後の原発ゼロは難しいが、前進はしている。
再生可能エネルギー(大型水力をのぞく)の電源構成に占める割合は、震災前の約2%から、23年度に約15%まで拡大した。事業用太陽光発電の買い取り価格は、12年度の1キロワット時あたり40円が十数円に低下した。政府は40年度の電源構成で再エネを最大の4~5割と掲げる。拡大の土壌は育っている。
災害が多い日本の原発リスクは大きい。ひとつは予想外の災害が起きることだ。警戒度が高くない地域で大地震が起き、原発は想定を超える揺れに見舞われた。インフラ老朽化など社会変化も新たなリスクとなる。1基で大量の電力を供給する原発頼みでは、止まった時の影響も大きい。
さらに、原発を動かす事業者にリスクを真摯(しんし)に受け止めない体質が残る。中部電力浜岡原発で、想定する最大の地震の揺れを示すデータの不正が発覚した。運転させるのに都合がよいデータの解釈は続き、業界の病巣は根深い。
■非現実的な回帰政策
震災の前年、政府はエネルギー基本計画で原発の活用を進め、原発や再エネなど二酸化炭素を出さない電源比率を「30年に70%」と掲げた。事故後に大幅に見直し、昨年策定の計画は原発の割合を「40年度に2割程度」とした。
この2割の達成には、地元が一部廃炉を求める東京電力の柏崎刈羽原発の全基と、地震リスクから原子力規制委員会が不許可にした敦賀2号機を動かし、建設中の大間原発や東通原発などの完成が必要だ。長期運転も常態化する。現実的な目標と言えない。
安全確保の砦(とりで)である原子力規制委員会の変質ぶりも気になる。60年超運転では政府の方針に沿って性急に制度を変えた。テロ対策施設では事業者側の事情で、設置期限を延ばそうとしている。
自然災害と原発事故の複合災害が起きた際の避難対策など、様々な課題が置き去りのままだ。ウクライナで顕在化した原発への武力攻撃のリスクも未解決だ。「核のごみ」の最終処分が見通せないことは、15年前と変わらない。
足元の中東情勢の悪化はエネルギー自給の重要さを再認識させた。当面は天然ガスなど旧来のエネルギーに頼らざるを得ない。欧州では脱原発の機運がしぼむ動きもあるが、需給の逼迫(ひっぱく)を原発回帰の理由とせず、将来を見通した施策を練る機会とすべきだ。
世界の投資の潮流は再生可能エネルギーだ。輸出も含めて原発を推進しているのはロシアと中国などに限られる。
■将来の危機を防げ
原発も石炭火力発電も今ある設備を使い続ければ、帳簿上は電力会社の利益につながり、「安価な電力」として生活や産業を支援することにもなる。しかし、問題とコストの先送りに過ぎない。安全を確保し、子孫に負担を先送りしないことが重要だ。目先の利益を優先すべきではない。
再エネは、政策の誘導で拡大の余地は十分にある。潜在的な供給量は、予想される40年度の電力需要を上回る規模がある。すべて活用できると限らないが、いまは送配電や蓄電の問題から、使える再エネさえ無駄にされている。
持続可能な社会をめざす一般社団法人「プラチナ構想ネットワーク」は2月、「50年の全エネルギー需要の8割を再エネでまかなうのは技術的に可能」で、経済的にもメリットがあるなどとする構想をまとめた。他にも複数の民間団体が、原発ゼロや再エネの主力化を提言する。
再エネという純国産資源の活用を広げ、脱炭素とエネルギー自給、世界に売り出せる技術開発で経済も後押しする。この好循環を生み出すことこそ、政治の役割だ。
15年前の弊紙提言は「好きなだけ電気を使う生活を楽しんできた」としてエネルギー政策の国民的議論も訴えた。
事故後、家庭でも街でも節電の知恵を絞った。その認識は薄れ、世論調査で原発再稼働の賛成が多数となった。国民的な議論も進んでいない。
電気を使う誰もが自分の問題と考え、声をあげ、行動していくことが欠かせない。














