「潰れるね」創設者が嘆く維新の戦略
正念場の吉村・前原体制
正念場の吉村・前原体制
毎日新聞 2025/5/14 07:00

自民、公明、日本維新の会の3党での党首会談を終え、記者の質問に答える日本維新の会の吉村洋文代表(左)。右は前原誠司共同代表=参院議員会館で2025年2月25日午後6時56分、平田明浩撮影
日本維新の会が焦りを募らせている。少数与党の国会で「政策実現」をアピールする戦略が奏功せず、党勢は上向かない。吉村洋文・大阪府知事の代表就任から6月1日で半年となるが、党内に不満が渦巻く。7月の参院選で結果を残せるか、正念場を迎えている。
誤算
12日の衆院予算委員会で、維新の前原誠司共同代表の側近である斎藤アレックス衆院議員が石破茂首相に強く迫った。
「なぜこの国会で補正予算を組んで経済対策を行わないのか」

日本維新の会の前原誠司共同代表(中央左)から経済対策の提言を受け取る林芳正官房長官(同右)=国会内で2025年4月11日午後5時13分、平田明浩撮影
首相は補正見送り理由について正面から答えず、「物価高対策を講じながら国民生活の安定に寄与していく」と述べ、現状では経済対策の策定にとどめるとの見解を示しただけだった。翌13日、自民、公明両党の幹事長らが会談し、補正予算案を今秋に編成する方針で一致した。
1カ月前の光景は違っていた。4月11日、前原氏ら国会議員団幹部が首相官邸を訪れ、食料品の消費税率を2年間ゼロに引き下げるなどの提言を、林芳正官房長官に手渡した。前原氏は記者団に、林氏から「仮に補正予算が組まれることになれば、また相談に乗ってほしい」と言われたと強調。補正予算案編成を念頭に協力を求められた前原氏は、満足げな表情を浮かべた。
前日には「ライバル」の国民民主党の玉木雄一郎代表も官邸で提言を渡していた。だが、玉木氏は林氏から「補正予算の編成は考えていない」と言われたと説明。看板政策の高校授業料無償化の実現と引き換えに2025年度当初予算に賛成した維新に対し、「年収103万円の壁」見直しで折り合えずに当初予算に反対した国民民主との待遇差がうかがえた。
3党協議は自公ペースに
しかし、参院選を目前に野党の協力を確実に得られるのか不安視する意見が政権内で強まり、今国会での補正予算案提出は見送られることとなった。予算案への賛成をてこに、野党の政策実現を迫る戦略は使えなくなった。
日本維新の会を巡る最近の主な経緯
前原氏は「補正見送りの相談はなかった。我々の投げたボール(政策)が高かったのだろうか」と周囲に落胆した様子を見せた。
補正見送りは、維新と与党の政策協議にも波及した。維新の当初予算賛成を受け、自民、公明両党と①社会保障改革②教育無償化③ガソリンの暫定税率廃止――の3テーマで協議体をそれぞれ設置した。だが、当面は野党の協力が不可欠なテーマがなくなり、与党ペースで協議が進む。
例えば、ガソリン暫定税率の協議で維新は「今夏までの廃止」を要求する。これに対し、与党側は「最も早ければ26年4月以降」に廃止が可能と結論を急いでいない。財務省関係者からは「円高傾向でガソリン価格は下がる。廃止を急ぐ必要はない」との声も漏れる。
「先を越された」
維新の青柳仁士政調会長は今月9日の協議で「今夏からやるなら、今国会で(関連)法案を通す必要がある。今月末が(結論の)デッドラインだ」と焦りをにじませた。

ガソリン暫定税率廃止に向け協議する自民、公明、日本維新の会の実務者ら=衆院第2議員会館で2025年4月24日午後3時、平田明浩撮影
吉村代表は「公約の実現」へのこだわりが強く、与党との協議を通じて政策を前に進める「実績」を重ねる狙いがあったが、誤算が生じている。
状況の変化に対して柔軟に対応できない場面もあった。前原氏は4月上旬、執行部と距離を置く馬場伸幸前代表、遠藤敬前国対委員長、藤田文武前幹事長と会食した。馬場氏らは暫定税率廃止にこだわらず、生活に寄り添った政策を幅広く提案すべきだと訴えた。
その直後の4月4日、国民民主はガソリン価格引き下げに向けた補助金の拡充で与党側と合意した。暫定税率廃止が実現するまでの先行措置として、22日には首相が引き下げを表明した。会食に出席した一人は「まんまと先を越された。うまく方向修正しないと、協議を長引かせるだけで何もできない党というイメージになる」と突き放した。
毎日新聞の4月の世論調査によると、維新の政党支持率は3%で、同じ「第三極」の国民民主(15%)との差は大きい。党内には「当初予算に賛成して政策を実現しても支持されない」「存在感を出せなければ『改革政党』はただのスローガンで終わる」などと不満が募る。
吉村氏「党運営の力が不十分」


衆院本会議で日本維新の会の馬場伸幸前代表と言葉を交わす前原誠司共同代表=国会内で2025年5月8日午後1時40分、平田明浩撮影
維新創設者の一人である松井一郎元代表は4月下旬、ユーチューブに「このままだと維新の会は潰れるね」と題した動画を投稿。「はっきり言ってガタガタ。何をしたいか見えない。党内の混乱も見受けられる」と苦言を呈した。
吉村氏は4月30日の記者会見で、不満を持つ地方議員の離党が相次ぐ事態を問われ「党運営の力が不十分なところがある。一致団結できるようしっかり頑張りたい」と厳しい表情で語ったが、打開策は見えてこない。【園部仁史】