No Nukes 原発ゼロ

初代「No Nukes 原発ゼロ」 の後続版です。 政治・原発問題などを中心に、世の中の「気になる動き」をメモします。

朝日新聞

米イラン合意 不信を解き戦争終結を
朝日新聞 2026年4月9日 5時00分
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米シアトルでは停戦合意が明らかにされた7日夜も、反戦を訴える人びとが集まった=ロイター

 武力の応酬に歯止めがかかるのであれば、安堵(あんど)する。ただ、重要なのは恒久的な戦争の終結だ。根深い相互不信を乗り越えるための真摯(しんし)な交渉が求められる。

 ひと月あまり戦闘を続けてきた米国とイランが、2週間の停戦で合意した。イランはホルムズ海峡の安全な航行を認めるという。10日から仲介国パキスタンで最終合意に向けた交渉を行う見通しだ。

 世界の主要なエネルギー供給地であるペルシャ湾周辺で甚大な被害が広がることは避けられた。攻撃が激化すれば、民間人の犠牲が際限なく増え、世界経済への影響も長期化しかねなかった。

 米イスラエルとイランは昨年6月にも12日間にわたり武力衝突した。攻撃の応酬は2月末に再燃した。時限的な停戦で中東に平和と安定が訪れないことは明らかだ。

 中東各地には親イラン武装勢力があり、紛争は容易に広がる。それだけにイスラエルが停戦を支持しながら、レバノンを範囲外としていることが気がかりだ。交渉にかじを切った米国は、イスラエルを抑える責務がある。

 イランに対し、「石器時代に戻す」「文明が滅び、決して復興しない」などと発言したトランプ米大統領には暗然とさせられた。民間インフラへの攻撃を禁じた国際法を無視する姿には、足元の与党・共和党からも「重大な誤り」との批判が上がった。民主党は「第3次大戦の危険」を指摘して終戦を求めた。

 欧州の同盟国は米国の軍事作戦に距離を置き、ホルムズ海峡への艦船派遣の呼びかけにも応じなかった。メローニ伊首相は「市民が指導者の罪の代償を払うべきではない」と苦言を呈し、マクロン仏大統領も戦争の拡大を戒めた。

 欧州は、戦争にもルールがあるという「法の支配」の防波堤の役割を果たしたといえる。日本はどうか。
木原稔官房長官は、停戦合意を「前向きな動きとして歓迎」とした。一方、トランプ氏がホルムズ海峡の安全確保について「日本は助けてくれなかった」と不満を口にしたことにはコメントを避けた。

 政権は、戦争の当事国に何を求め、国際社会でどんな役割を担おうとしているのか見えてこない。高市早苗首相は停戦合意後、イラン大統領と電話で協議した。米国への働きかけも含め、事態の沈静化に向け、率先して行動できるかが問われている。

 原油輸入量の9割超を中東に依存する日本にとって、地域の安定は死活的に重要だ。いつまでも受け身の外交を続けるわけにはいかない。

戦争反対の声 「デモできる社会」の意義
朝日新聞 2026年4月2日 5時00分
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国会前で、改憲やホルムズ海峡への自衛隊派遣に反対を訴える人たち
=2026年3月25日午後8時11分、東京都千代田区、筋野健太撮影

 戦争が嫌だ。怖い。そう声を上げる人々が街頭に集まり始めた。一方でそうした声を塞ごうとする風潮も広がる。だが意思を表明する自由は、主権者が手放してはならない民主主義の基盤だ。失ってから気づくのでは、遅すぎる。

 国際的規範を無視した理のない戦いが中東などに広がる中、デモが相次いでいる。3月25日には国会前に主催者発表で2万4千人が参加し、日本各地でも時間帯をあわせて人々が集った。週末にも「オタクによる反戦デモ」や音楽家ら主催のイベントなど様々な形で声が上がった。ここまでのうねりは、安保法案で揺れた2015年以来だろう。

 現場で耳を傾けると、戦争反対の旗の下に集う人たちの関心が、目下のイラン情勢や改憲にとどまらぬことに気づく。急な衆院解散や予算案審議に表れる政権の強引さ、社会保障への不安。排外的な外国人政策にも及ぶ。

 同じ週末、全米で800万人超とされる人々が「ノー・キングス(王はいらない)」の声を上げた。こちらも、訴えは米国のイラン攻撃だけでなく、強引な移民取り締まりや物価高など多岐にわたる。

 法の支配を重んじる。意見の異なる相手と対話し合意点を探る。説明責任を果たす。保守、リベラルといった政治信条にかかわらず一昔前は当たり前だった道理を権力者が軽んじる。民主主義の底が抜けるという切迫感が、人々を街頭に駆り立てるのだろう。

 戦争反対というシンプルな言葉のもとに人々がなぜ集まるのか。その警鐘に政府は耳を傾けているだろうか。

 懸念されるのは、戦争への率直な忌避感を表明するだけで誹謗(ひぼう)中傷を浴びる風潮だ。SNSでは「戦争がなくなりますように」といった言葉を添えたイラストが批判され、削除に至る事態も起きた。一方、連帯を示す絵をSNSやデモで掲げる動きも広がる。

 市民が声を上げると、「知識や解決策がないのに口を出すな」と軽んじられることもある。しかし、為政者は「現実的」で市民は無知、などと決めつけられるのか。米大統領らの行きあたりばったりの言動を見ていると、とてもそうは言えないだろう。

 国会周辺の歩道に、様々な人が集まって声を上げる。このデモの形は東京電力福島第一原発事故以来、特定秘密保護法や安保法制への反対などを経て、今に根付いている。

 憲法には、言論の自由や集会・結社の自由が記されている。権利は行使することで具体的な姿を現す。デモをする意義は「デモをできる社会」を絶やさないことにもある。

中国大使館侵入 対応のまずさが目立つ
朝日新聞 2026年3月31日 5時00分
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自衛官とみられる男が侵入した中国大使館=2026年3月24日午後、東京都港区元麻布3丁目、長妻昭明撮影

 現職の自衛官(23)が刃物を持って中国大使館の敷地内に侵入した疑いで逮捕された。

日中関係が冷え込んでいる中、両政府の反応に大きな開きがある。中国側の過剰な非難には首をかしげるが、日本政府の対応にも問題がある。

 宮崎県のえびの駐屯地に配属されたばかりの3等陸尉が24日、中国大使館の敷地内に入った。捜査に「中国に強硬発言を控えてほしかった」と動機を説明し、大使に意見を伝えて受け入れられなければ自決するつもりだったとも話しているという。

 ウィーン条約で約束されている大使館の安全が脅かされた。しかも、容疑者は現職の自衛官。中国側の厳しい反応は理解できるが、「神の名のもとに中国外交官を殺す」と脅したという中国側の説明は日本側と食い違う。

 中国外務省の報道官は「日本国内の極右思想と勢力がはびこり、新型軍国主義が勢いを増して災いのもととなっていることを改めて反映した」と発言した。誇張がすぎる。慎重な言動を求めたい。

 とはいえ、こうした反応を招いた背景には、日本側の対応の鈍さがある。

 木原稔官房長官は25日の記者会見で「遺憾」と述べた。遺憾とは本来、思い通りにならず残念という意味だ。ことを起こしたのは日本側で、政府の一員による犯罪なのだから、適切な表現ではなかったと言わざるを得ない。

 小泉進次郎防衛相が記者会見で事件に言及したのは、27日。遅きに失した。しかも、その発言は「まことに遺憾です」というものだった。

 これでは中国側への配慮が欠けていると批判されても仕方ない。謝罪の言葉のほか、警察の捜査を待つ必要はあるが、事件を検証する姿勢も示すべきだった。

 北京の日本大使館に中国軍人が刃物を持って入ってきたら、と考えてみれば事件の重さは想像がつく。2024年に中国・深センの日本人学校に通う児童が刺され死亡した事件で、当時の岸田首相が「重大で深刻な事案だ」として事実関係の説明と再発防止を求めていたことも想起したい。

 潔さを欠く日本側の対応は、昨年11月にあった高市首相の「台湾有事」答弁で悪化した日中関係の延長線上にある。放置すれば、中国側が日本を非難するカードに使い続けるかも知れない。

 日本政府には、対応次第で関係を修復するきっかけにできた可能性もあったはずだ。きちんと非を認めるべきところで、あいまいな姿勢をとり続ければ、傷口を広げることになりかねない。

東電の事故から15年
脱原発の土壌 再エネをさらに
朝日新聞社説 2026年3月12日 5時00分
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原子炉建屋が爆発した東京電力福島第一原発4号機
=2012年5月、福島県大熊町、本社ヘリから

 思い出してほしい。東京電力の過酷事故で恐ろしい思いをした日々を。炉心溶融、建屋の爆発、原発の暴走を抑えられなかった。首都圏を含む広い地域で、避難が必要になるとも指摘された。

 あれから15年、政府は忘れたかのように「原発回帰」に前のめりだ。事故後の2011年7月、朝日新聞は社説特集で「原発ゼロ社会」を提言した。拡大を訴えた再生可能エネルギーは15年で格段に増え、政府も主力電源化を掲げる。脱原発と再エネ拡大を、着実に進めるべきだ。

 ■「原発ゼロ社会」のいま

 原発を一気にゼロにすれば生活や経済が打撃を受ける。提言では、無理せず着実に減らすことが現実的として、ゼロの時期は「20~30年後がめど」とした。分散型で地域密着の電源として「希望の星は自然エネルギー」と訴えた。しかし、政府は原発の活用へと舵(かじ)を切り、60年超運転を認める制度もつくった。

 5年後の原発ゼロは難しいが、前進はしている。

 再生可能エネルギー(大型水力をのぞく)の電源構成に占める割合は、震災前の約2%から、23年度に約15%まで拡大した。事業用太陽光発電の買い取り価格は、12年度の1キロワット時あたり40円が十数円に低下した。政府は40年度の電源構成で再エネを最大の4~5割と掲げる。拡大の土壌は育っている。

 災害が多い日本の原発リスクは大きい。ひとつは予想外の災害が起きることだ。警戒度が高くない地域で大地震が起き、原発は想定を超える揺れに見舞われた。インフラ老朽化など社会変化も新たなリスクとなる。1基で大量の電力を供給する原発頼みでは、止まった時の影響も大きい。

 さらに、原発を動かす事業者にリスクを真摯(しんし)に受け止めない体質が残る。中部電力浜岡原発で、想定する最大の地震の揺れを示すデータの不正が発覚した。運転させるのに都合がよいデータの解釈は続き、業界の病巣は根深い。

 ■非現実的な回帰政策

 震災の前年、政府はエネルギー基本計画で原発の活用を進め、原発や再エネなど二酸化炭素を出さない電源比率を「30年に70%」と掲げた。事故後に大幅に見直し、昨年策定の計画は原発の割合を「40年度に2割程度」とした。

 この2割の達成には、地元が一部廃炉を求める東京電力の柏崎刈羽原発の全基と、地震リスクから原子力規制委員会が不許可にした敦賀2号機を動かし、建設中の大間原発や東通原発などの完成が必要だ。長期運転も常態化する。現実的な目標と言えない。

 安全確保の砦(とりで)である原子力規制委員会の変質ぶりも気になる。60年超運転では政府の方針に沿って性急に制度を変えた。テロ対策施設では事業者側の事情で、設置期限を延ばそうとしている。

 自然災害と原発事故の複合災害が起きた際の避難対策など、様々な課題が置き去りのままだ。ウクライナで顕在化した原発への武力攻撃のリスクも未解決だ。「核のごみ」の最終処分が見通せないことは、15年前と変わらない。

 足元の中東情勢の悪化はエネルギー自給の重要さを再認識させた。当面は天然ガスなど旧来のエネルギーに頼らざるを得ない。欧州では脱原発の機運がしぼむ動きもあるが、需給の逼迫(ひっぱく)を原発回帰の理由とせず、将来を見通した施策を練る機会とすべきだ。

 世界の投資の潮流は再生可能エネルギーだ。輸出も含めて原発を推進しているのはロシアと中国などに限られる。

 ■将来の危機を防げ

 原発も石炭火力発電も今ある設備を使い続ければ、帳簿上は電力会社の利益につながり、「安価な電力」として生活や産業を支援することにもなる。しかし、問題とコストの先送りに過ぎない。安全を確保し、子孫に負担を先送りしないことが重要だ。目先の利益を優先すべきではない。

 再エネは、政策の誘導で拡大の余地は十分にある。潜在的な供給量は、予想される40年度の電力需要を上回る規模がある。すべて活用できると限らないが、いまは送配電や蓄電の問題から、使える再エネさえ無駄にされている。

 持続可能な社会をめざす一般社団法人「プラチナ構想ネットワーク」は2月、「50年の全エネルギー需要の8割を再エネでまかなうのは技術的に可能」で、経済的にもメリットがあるなどとする構想をまとめた。他にも複数の民間団体が、原発ゼロや再エネの主力化を提言する。

 再エネという純国産資源の活用を広げ、脱炭素とエネルギー自給、世界に売り出せる技術開発で経済も後押しする。この好循環を生み出すことこそ、政治の役割だ。

 15年前の弊紙提言は「好きなだけ電気を使う生活を楽しんできた」としてエネルギー政策の国民的議論も訴えた。

 事故後、家庭でも街でも節電の知恵を絞った。その認識は薄れ、世論調査で原発再稼働の賛成が多数となった。国民的な議論も進んでいない。

 電気を使う誰もが自分の問題と考え、声をあげ、行動していくことが欠かせない。

強引な予算審議 議会政治 根幹揺るがす
(朝日新聞社説) 2026年3月10日 5時00分
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衆院予算委の集中審議で、中道改革連合の小川淳也代表の質問に答弁する高市首相=2026年3月9日、岩下毅撮影

 高市首相がめざす新年度当初予算案の年度内成立を実現するため、与党が週内の衆院通過に向け、「数の力」を頼みとした強引な国会運営を続けている。

 前例のない審議時間の短縮で、国民の代表である国会のチェックが尽くされない事態は、議会制民主主義の根幹を揺るがすものだ。あしき前例にもなりかねない。与党は今からでもスピード優先を改め、国民生活への影響回避と熟議の両立を図るべきだ。

 首相が出席する衆院予算委員会の集中審議がきのう開かれた。首相はあくまで予算案の年度内成立をめざすとして、暫定予算案の編成を否定した。一昨日は日曜にもかかわらず地方公聴会が行われ、きょうは採決の前提となる中央公聴会が開かれる。

 一連の日程は、自民党の坂本哲志委員長が、野党の求めを顧みず、職権で決めた。首相が出席する集中審議は例年なら数日間は開催されるが、今回は今のところ、きのう午後の半日のみだ。
首相は予算成立を急ぐ理由として、「国民に支障が生じないよう」と繰り返すが、自身が答弁に立って、野党の追及を受ける機会を極力減らしたいという思惑も透けて見える。

 予算委は、予算案の具体的な中身にとどまらず、政権の方針や政治姿勢全般が俎上(そじょう)にのぼる場である。衆院選圧勝をもたらした首相の力は強まっており、その考えを直接ただす機会をせばめることは、国会の行政監視機能をないがしろにするものだ。

 社説は、予算案の早期成立を後回しにした通常国会冒頭での衆院解散を、国民生活より政権基盤の強化を優先するものだと批判した。今回の駆け足の審議にも、冒頭解散の正当化や説明責任の回避といった「自己都合」があるのではないか。

 政権の予算審議軽視は、首相の出席を減らすだけにとどまらない。分野別に詳細な審議を行う「分科会」は、このまま開催されなければ37年ぶりだ。

坂本委員長自身、かつてブログに「きめの細かい質問が集中的になされる」とその意義を強調していたにもかかわらずである。また、先週3日間行われた省庁別審査には、予算案の主管大臣であるのに、財務相は一部しか出席しなかった。

 首相は施政方針演説の冒頭、「様々な声に耳を傾け、謙虚に、しかし、大胆に、政権運営に当たる」と述べた。「謙虚」というのは言葉だけなのか。強引な予算審議は決して「大胆」などではなく、議会政治を傷つけるだけだと知るべきだ。

イラン最高指導者殺害 外交より武力頼みの危うさ
朝日新聞社説 2026年3月2日 5時00分
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イランの首都テヘランで3月1日、米イスラエルの共同作戦で殺害されたハメネイ最高指導者を悼む市民=AFP時事

 自分の意に沿わない国家元首は武力で排除する。こんな無法がまかり通れば、対等な主権国家が共存する国際社会の秩序は成り立たない。

 米国とイスラエルが共同作戦でイランを攻撃し、ハメネイ最高指導者を殺害した。日本の4倍以上の面積と約9千万の人口を持つ資源大国で権力の空白が生まれかねない。

 火薬庫ともいわれる中東が流動化すれば、世界の安全や経済の行方も見通せない。国際社会は事態の沈静化に最大限努めなくてはならない。

 ■許されぬ予防戦争

 トランプ米大統領は、イランの長距離ミサイルが「差し迫った脅威」と主張した。しかし米情報当局は、米本土を攻撃可能だとの評価には慎重だったとされる。

 先制攻撃は自衛の範囲を超える予防戦争である。国連憲章は武力による紛争解決を、攻撃を受けた際の自衛か、安全保障理事会の承認を得た場合に限定している。今回の攻撃は、その要件をどちらも満たしていない。

 昨年6月のイスラエルによるイラン攻撃に続き、またも外交交渉の途中での武力行使となった。米国とイランを仲介したオマーンの外相が「大きな前進があった」と評価し、2日からは専門家による会合が予定されていた。

 トランプ氏はイランに核兵器を持たせないための交渉だとしていたが、攻撃後にはイラン国民に「政権を奪い取れ」と体制転換を促した。協議は、米軍が中東に戦力を展開する時間稼ぎだったと見られても仕方ない。

 交渉の席に着いても最後は力で覆されるのなら、米国との対話への信頼は損なわれる。法秩序を軽んじる大国の行動は、他国に武力行使や核開発の口実を与えかねない。

 ■世界への影響懸念

 イランでは昨年末から今年1月にかけ、生活苦をきっかけとした体制批判のデモが全土に広がった。治安当局の取り締まりで、デモ参加者数千人が死亡したとされる。

 米国とイスラエルは、これを体制弱体化の好機ととらえたに違いない。イランの人権弾圧はとうてい容認できない。とはいえ、外国の武力介入で政権が倒れたとしても、混乱が続くだけだ。

 米英などがフセイン体制を倒した後のイラクは泥沼化し、10万人以上の民間人と5千人近い米兵が死亡した。北大西洋条約機構(NATO)軍が空爆し、カダフィ政権が崩壊したリビアは東西に分裂し、いまも内戦が続く。歴史の教訓に学ぶべきだ。

 イランは、イスラエルに加え、湾岸アラブ諸国の米軍基地などを報復攻撃し、ペルシャ湾の緊張は高まっている。シリア、レバノン、イラク、イエメンなどの親イラン武装組織の加勢も懸念される。

 地域全体を巻き込む戦争に拡大させず、できるだけ早く収拾することが求められる。

 ペルシャ湾の出入り口ホルムズ海峡は、世界の海上石油輸送の約4分の1を支える要所だ。攻撃の応酬により、船舶の航行は事実上止まっている。この状態が長引けば、原油価格の高騰など世界経済に大きな打撃となろう。

 中東に原油の9割以上を依存する日本は、影響を免れない。約240日分の石油備蓄があるが、ガソリン価格の上昇も心配される。先を見通した冷静な対策が求められる。

 薄氷の停戦が続くパレスチナ自治区ガザの和平へも悪影響が予想される。

 ガザの暫定統治を担う平和評議会に、米国以外の主要7カ国(G7)が参加していない。議長を務めるトランプ氏が国連に取って代わる機関とする野望があるのでは、との疑念からだ。

 国連や国際法を無視した今回のトランプ氏の振る舞いで、各国はさらに二の足を踏むだろう。評議会の中核となっている中東、イスラム諸国がイスラエルの独善に反発することは必至だ。評議会は機能不全に陥りかねない。

 ■法の秩序を壊すな

 今年は、力に頼む米国の暴挙で幕を開けた。米軍が南米ベネズエラで軍事作戦を実施し、大統領夫妻を拘束して米国に連行した。2カ月もたたないうちに、今度は中東で国家元首を殺害した。

 法による秩序が力で壊される弱肉強食の世界に戻してはならない。国際社会は危機感を共有する必要がある。

 ただ、各国の対応は割れている。英国は「紛争拡大は望まない」と表明、フランスは交渉による解決を求めた。欧州連合(EU)は、国際人道法の順守を訴えた。

 一方で、カナダのカーニー首相が米国支持を打ち出したのは、きわめて残念だ。ルールに基づく国際秩序の衰えを指摘し、大国の横暴に対抗する中堅国の結束を訴えたのではなかったか。

 日本は米国の同盟国でありながら、イランとも長く友好関係を維持する独自の立場にある。トランプ政権1期目には、緊張緩和のため当時の安倍首相がハメネイ最高指導者と会談した。邦人保護に全力をあげるとともに、戦争を終わらせるための外交努力も怠ってはならない。

衆院選 語らぬ首相 拭えない逃げの姿勢
朝日新聞 2026年2月6日 5時00分
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首相が遊説で訴えた政策テーマ

 自身が首相で良いのか、国家経営を託してもらえるか。「重要政策の大転換」を進めるという高市首相が、「国民の皆様に決めていただく」と始めた選挙は終盤に入った。

 しかし首相の言動は肝心の説明を避け続け、逃げの姿勢という印象が拭えない。国民に対して不誠実だ。衆院解散を決断した理由の一つに「逃げない」を挙げた自身の言葉を忘れたのか。説明責任を置き去りにしてはならない。

 首相は解散表明の会見で、「国論を二分するような大胆な政策、改革」として、財政や安全保障政策、スパイ防止法を含むインテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化を挙げた。

 だが、公示後に有権者に向けて語る内容はごく一部にとどまる。「悲願」とする飲食料品の消費税率ゼロ政策でさえ、「検討を加速」するとした自民党の公約より踏み込んで新年度中の実施をほのめかしながら、街頭演説では語ろうとしない。

 「輸出産業にとっては大チャンス。外為特会(外国為替資金特別会計)の運用、今ほくほく状態です」という円安に関する発言も同じだ。物価高など欠点には触れず、様々に疑問の声が挙がると、SNSへの投稿で「一部報道機関で誤解がある」「『円安メリットを強調』した訳ではありません」などと反論。だが、自らの口から説明はない。

 安保政策の強化として増額する方針の防衛費の財源や、スパイ防止法の内容など、ほかの「重要政策」の核心部分も言及は限られる。

 一方、報道各社の情勢調査で自民党優勢がそろって報じられると、「実力組織として位置づける」自衛隊の憲法への明記を訴えた。憲法改正はまさに「国論を二分」するテーマだ。しかし、実力組織の内容やどの条文なのかなど、具体的な考えは示さない。

 全容解明にほど遠い裏金問題は、関与した議員への公認や比例での重複立候補が認められた。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の内部文書には、首相の名前が多数回登場する。どちらも率先して説明していない。問題から逃げているようにしか見えない。

 1日には、与野党の党首による討論番組の出演を「手を痛めた」として突然欠席し、その後遊説に出かけた。疑問や問いに直接答える、数少ない判断材料の場が失われた。体調が回復したのなら、今からでも首相から討論の設定を呼びかけてもいいはずだ。

 説明責任を果たそうとしない党首や候補が「私たちの代表」にふさわしいのか、吟味して一票を投じたい。

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