ノーリグレット、ノーライフ。

ネズミハナビより、感情の泡をお届けします。

人生は複雑だ

だいぶ久し振りになってしまうけれど、

とにかく書いてみよう。
半年以上、間隔があいてしまった、
このブログを。



今は2020年7月19日、
日曜日の朝6時。

起きたのは早朝の4時だった。


IMG_3858




昨日は酒を飲まなかった。

メキシコ人の友人に勧められたのと、元々自分の中でも少し考えていたので、
2週間前から、
少しずつ酒量を減らしている。

この2週間で、
これで6日目の断酒成功。


6÷14=42.9%の成功率。

コービー・ブライアントのシュート成功率ぐらいだな、
と、目の前のテレビを見ながら思う。

流れているのは2009年のNBAプレイオフ、レイカーズ対ロケッツの試合だ。



IMG_5630




バスケットボールが大好きで、
中学校時代は毎日、
部活の日々だった。

最後の大会、都大会3位でギリギリ関東大会まで行ったんだけど、、
惜しくも一回戦で負けてしまった。

俺は思いっきり補欠だったけれど。






テレビでは、
半年前に急逝したレイカーズの大スター、コービー ・ブライアント、スペイン人のビッグマン、パウ・ガソル。

対するロケッツには身長229cmのヤオ・ミン、実力派の奇人ロン・アーテスト、
そして今やスタープレイヤーの若き日のカイル・ラウリーもベンチから出てくる。



IMG_4246



話を戻そう。

今年の3月初頭、コロナウイルスの世界的パンデミックによって、
日本が、世界が大きく変わった。




子供たちの学校や保育園は休みになり、国からはステイホームを命じられ、
僕たちのバンドは三ヶ月もスタジオに入ることが出来なかった。




急遽、僕は録り溜めていた新曲たちに
「You won't lose if You fight(闘っていれば、負けないのです)」
というタイトルを尊敬する作家、坂口安吾の言葉から拝借し、
6曲入りアルバムとして初のデジタルリリースをした。

ネズミハナビとしては、
10枚目のアルバムである。

(ソロ名義の「短編集」と、漢字表記時代のアルバムは除いて)



IMG_4102




三ヶ月もスタジオに入れなかった僕は、居てもたっても居られず、
ネット配信の弾き語りライブを週六日のペースでやった。

大袈裟ではなく、
80回やったのだ。

毎回のように見てくれる日本のファンの方の存在は本当に嬉しかった。
しかし、
不思議と外国のファンや友達が沢山できた。


勉強法は完全に自己流だけど、
最低限の英会話もできるようになった。
(と言っても、見てくれている方の母国語だって、英語ではない事も多い)

IMG_5393



たぶん歌える、ギターが弾ける、という部分が大きいのだと思う。

そこに自信がないと、
付け焼き刃の英語だけでコミュニケーションを取るのは凄く勇気が要る。


最近は新しいベーシストの優太と、ようこちゃんとの三人でスタジオも再開していて、

その時間が何より楽しい。


半年振りのこのブログは、
さぞまとまりの無い文章になっているであろうが、
やっぱり長い文章を書くということは、

今の時代、
回数が減っているから
逆に大切なんだと思う。



FullSizeRender


だから、
また書きます。



裸の君の笑顔を、さ。

「十年先もきっと 僕は
自分の事ばかり

誰かの幸せを願って歌えるのなんて
何百年先だ
修行が足りないな」

(アルバム「BOY」収録
ネズミハナビ/裸の君の笑顔をもう一度メチャクチャにしてやりたい)


IMG_0350



十年、経った。







2020年のことなんて、
この唄を作ったとき、
本気で想像していなかった。




FullSizeRender






燃えるような激しい恋をして

自分で勝手に不安になって

壊して
切なくなって。




時には、
別れの後もずるずると逢い続けることもあった。



もう、
別の恋人が居るひとと、
どうしても、
お互い抑えられなくて、寝て。

そして、
二人して泣いて。

そういうこともあった。



FullSizeRender





こんな事、

立場上、書くべきじゃないのは、
じゅうぶん分かってる。

でも、書く。


かつて愛してくれた昔の恋人たち。
大好きにさせてくれた人たちのことは、
十年経った今でも、

素敵な子だったな、
最高にいい奴だったな、
って思っている。




相手は・・・
そう思ってない人の方が多いかもしれない、とは思うけれど、ね。笑





昔、
道ならぬ恋に悩む俺に、数少ない女友達が

「どんな時でも、
人を好きになるのは素敵なことだよ」

と言ってくれた。

この言葉には、
苦しい時に随分救って貰った。





大好きだったのにな。

何も、あげられなかったな。

辛い思いを随分させたよなあ。

こんな俺を、たとえ少しの間でも、
好きになってくれて本当にありがとう。




思い出すだけでも、
泣けてきてしまうような恋愛が、俺にだって、ある。


あるさ。




FullSizeRender





俺にはバンドで成功する才能は無いのかもしれない。

最近いつも不安になる。

・・・最近、ではない。

15年間、ずっと不安だよ。



そんな時こそ、
「君なら大丈夫だよ」
って、
思い出の中のあの子が、
言ってくれたりして。


やっぱ、
十年先も、
自分の事ばかりだな。


苦笑いで泣く。


そんな気分です。





IMG_9225


「トーキョー ・ベイ 5」

 

 

 年老いたキヨミは今、刑務所での日々を思い出すことは殆どない。家族を失った、全てを失った、という感慨のようなものも、最早なかった。

 

 何十年もかけて、伯父に犯され続けていた時の虚無感を再び取り戻した―これが自分に与えられた運命だったのか、と思うことはあっても、もう涙など出ない。

 

 出所後は、人目を避けるように、誰とも深く関わらないように―もうこれ以上、幸せの幻も、悲しみも、この人生に訪れないように、と思い生きた。

 

 それでも、裕太のことを思い出さない日は無かった。

 この、ろくでもない運命に惑わされた人生で、唯一自分がこの世界に残した―たった一人の、息子。

 

 爪に火をともすような一人での生活の中、倹約して溜めた金でキヨミは興信所に調査を依頼した。

 裕太が結婚し、女の子が生まれていること、その子は千葉県にある衣料品店に勤めていること。

 興信所のレポートには、裕太の娘、キヨミの孫の名前は、

「響子」と記されていた。

 

 

 ㉜

 

 

 「ぐだぐたになっちゃったね」

 サツキが、悪戯っ子のような顔で、笑いながら言った。

 くしゃくしゃの掛け布団と、真っ白なシーツの間で、僕らは裸のまま笑った。

 

 「だって、どうしてもしたくてしょうがなくなっちゃったんだもん」

 サツキがそう言ったので、僕は意地の悪い質問をしてみたくなった。

 「誰とでもよかったの?ムラムラしちゃっただけ?」

 サツキは笑いながら、僕を叩く真似をした。

 「シンジとしたかったに決まってるじゃない」

 「本当かな・・」

 僕は笑いながら言った。

 

 サツキが体を寄せてきた。裸の胸が、僕の腕に当たる。性懲りもなく僕の下半身が、少しずつ反応する。

 見慣れた天井を眺めながら、僕は何故だか、

 なるようになるさ、と思った。

 

 

 

 ㉝

 

 サツキのマンションを出て、最寄り駅まで着き、電車に乗る。

 彼女が明日はお店のオープンからのシフトだったことを知り、泊まりたい、とは言い出せなかった。

 相変わらず千葉の部屋までの電車は長い。

 しかし、さっきまで感じていたサツキの体の温もりを思い返していれば、永遠にだって電車に乗っていられそうな気がした。

 

 サツキの肌の柔らかさ。

 中に入った時の、あの感触。

 行為の後、抱き締めた時の温かさ。

 

 最寄り駅まで見送りに来てくれたサツキを、別れ際に強く抱き締めた。

 

 ――また、連絡する。

 ――うん、わたしも、連絡するね。

 

 それだけ言葉を交わして、別れた。

 

 果たしてこの先、僕たちはどうなっていくんだろう。

 不安が頭をよぎる度に、サツキの優しい声を思い出して、振りほどく。

 

 なんとか家に辿り着くと、もう夜の十一時を過ぎていた。

 僕は随分疲れていたようで、着替えもせずに気付いたらベッドの上で眠っていた。

 

 

 翌朝、僕は午前中のうちに「グリーンモール・トーキョー・ベイ」へと向かっていた。

 夏が随分近づいているようで、毎日の気温が段々と上がっている。僕の部屋にもクーラーはあるのだが、まだ今年に入って使ったことは無く、その為もあってか一日中快適な温度のショッピングモールへと足が向いた。

 いつもであれば、モール内のフードコートで本を読んだり、レポートを書いたり、音楽を聴いたりして過ごすのだが、その日は雑貨店や衣料品店を見てまわった。

 

 来週が、サツキの三十七歳の誕生日だ。

 お金の無い学生の僕なりに、サツキに喜んで貰えるようなプレゼントを贈りたい。

 そう思い、モール内に幾つかある洒落た雑貨屋を見るのだが、なかなか、これだ、と思える物に出合えない。

 モール内を更に歩き続けていると、有名な衣料販売店があった。

 いわゆるファストファッションと呼ばれる店で、コストパフォーマンスの良さそうな衣類が店内に沢山並んでいた。

 ここには誕生日プレゼントに適した商品は無さそうだ、と思ったが、とりあえず店内を見てみることにした。

 

 

 

        ㉞

 

 

 平日のモールは、相変わらずお客さんが少ない。

 響子はフロアに出て商品の陳列を整えながら、来週から始まるセールに向けて、電子端末を使って発注をしていた。

 

 ふと、レディース向け商品のエリアを見ると、大学生とおぼしき男の子が所在無さげに歩いているのが目についた。彼女へのプレゼントでも探しているのだろうか。

 どことなく繊細そうな彼の雰囲気を察し、敢えて別の商品の棚の方向を見ながら、

 

 「いらっしゃいませ、どうぞお手に取ってゆっくりとご覧下さい」

 と、声を出す。

 

 「すいません」

 意外なことに、その男の子の方から話し掛けてきた。

 響子は笑顔で、彼の方を向く。

 

 「女性へのプレゼントで、何か良いものってありますかね・・?」

 少し照れ臭そうに、しかしはっきりとした口調でそう訊いてくる男の子が、なんだか可愛かった。二十歳前後ぐらいのその青年は、

 

 「初めてなんで、何をあげたらいいのか全然分からなくって」

 と、続けた。

 「彼女への」とか「恋人への」という尋ね方ではなくて、「女性へのプレゼント」というその尋ね方が、更に可愛く思えた。

 しかし、このお店の商品で、女性へのプレゼントに向いているものなんて、あるだろうか。

 響子は少し考えた後に、

 

 「凄く着心地の良い女性用のパジャマがあるんですが、いかがでしょうか?」

 と言って、パジャマの陳列されている辺りにその青年を案内した。

 

 「コットン100%なので、すごく肌触りが良くて、女性の方に好評ですよ」

 「ありがとうございます」

 

 ――女性への、というだけで、恋人へのプレゼントだと決めつけて、パジャマを勧めてしまったけれど、大丈夫だろうか――

 

 一瞬、響子は心配になったが、水色とピンクの二色が有るそのパジャマを手に取って、真剣な面持ちで選んでいる青年を見て、少し安堵する。

 響子はフロアで発注作業を進めながら時折彼の方を見たが、どうやらピンクの方に決めたようだ。自分が勧めた商品を、大事なプレゼントに決めてくれたことが、響子にとって凄く嬉しかった。

 

 

           ㉟

 

 

 「ありがとうございます。では、プレゼント用のお包みでよろしいでしょうか?」

 響子はレジで、いつもより朗らかな声で彼にそう尋ねた。

 

 「あ、はい。お願いします」

 響子は綺麗な笑顔で頷き、

 「お包みに付けるリボンの色を、ピンクか水色からお選び頂けるのですが、どちらがよろしいでしょうか?」

 そう口に出して尋ねてから、勧めたパジャマの色と同じ二択であることに気付く。

 青年は数秒、少し困ったように考えて、

 「・・どっちが、いいんですかね?ある程度大人の女性へのプレゼントとしては」

 と言った。

 

 「失礼ですが、こちらは・・例えばお誕生日プレゼントといったものでしょうか?」

 そう尋ねると、

 

 「そうなんです。

  彼女にあげる、初めての誕生日プレゼントで・・」

 響子はなんだか嬉しくなって、

 

 「素敵ですね。実は、私も明日が誕生日なんです。

  私だったら、とっても嬉しいです。

  きっと、恋人の方も凄く喜ばれると思いますよ」

 と言った。

 

 「ありがとうございます。

  あ、それに、おめでとうございます」

 

 「とんでもございません。

  こちらこそ、本当にありがとうございます」

 不思議なやりとりになり、二人とも少し笑う。

 一呼吸置いて、

 

 「プレゼントのパジャマも可愛らしいピンクでしたし、

  お包みのリボンもピンクで統一されるのも、素敵かと思います」

 と、響子が言った。

 青年は少し照れながら、

 

 「じゃあ、それでお願いします」

 と、答えた。

 

 商品をラッピングしながら響子は、もし次に恋愛なんていうことが出来るなら、このぐらい真面目そうな人が良いのかもしれないな、と思った。

 

 

 

        ㊱

 

 

 良いプレゼントが見つかって、嬉しい。

 着るものをあげるのって難しいけれど、パジャマっていう選択肢もあったんだな。

 僕はフードコートの椅子に座りながら、そんな事を考えていた。

 

 あの店員さん、綺麗で感じの良い人だったな、

 勇気は要ったけど、女の人に訊いてみて本当に良かった。

 

 「お兄さん、ごめんね。ちょっと尋ねてもいいかい?」

 

 突然、手押し車を押しているお婆さんが声を掛けてきた。

 見た目よりも随分としっかりした芯の有る声で話し掛けられたので、驚いてしまった。

 

 「はい」

 

 と警戒しながら答えると、老婆はそれまでとは打って変わってにっこりと笑った。

 

 「お兄さんは・・・ハタチぐらいかねえ」

 

 「はい。もうすぐ十九歳です」

 

 「最近の若い人はみんな、背が高いねえ」

 

 老婆は的外れなことを言ったあと、少し沈黙した。

 やっぱり変な人かな、と思ったその時、老婆が口を開いた。

 

 「今度、二十七になる孫娘が居てね。

  誕生日のお祝いに何をあげたら喜んでくれるのか、分からなくてね・・

  あんまり大袈裟な物だと、驚かせちゃって貰ってもらえないだろうし・・」

 

 と、照れ臭そうに、早口で老婆が言った。

 

 

 

          ㊲

 

 

 

 店舗内のメンズコーナーで、響子は中年の男性客を見て、自分の父と同じくらいの年頃かな、とふと思った。

 

 「お父さんの育ったのは田舎でさ・・沢山引っ越しをしたんだけど、どこにもこんなに立派な建物なんてなかったんだよ」

 

 響子が幼い頃、子煩悩の父はよく色んなところに遊びに連れて行ってくれたが、どこに行っても父がそう言うので、

それはもう聞き飽きたよ、と小さな頃から思っていた。

 

 お父さんのお父さん、おじいちゃんは田舎に一人で住んでいる。お父さんのお母さん、私のおばあちゃんに当たる人は、お父さんが小さい頃に亡くなったらしい。

 お父さんも、おばあちゃんのことはあんまり覚えていないみたいだ。

 

 休憩に入ると、すぐ後に遅番で出勤してきた誠が入ってきた。

 一瞬どきっとしたが、大丈夫、何があっても大丈夫なんだ、と、自分に言い聞かせる。

 

 お疲れさまです、と、どちらからともなく、声を掛ける。

 

 昨日のズル休みで出逢った、二人の子供たちの顔を思い出した。

 

 何があっても、大丈夫。

 

 休憩時間が終わり、売り場に出る。

 

 今朝、握手をした老婦人がフロアの遠くから歩いてくるのが見えた。

 

 老婦人もこちらに気付いたようだ。

 

 彼女が手提げ袋を持ったまま、響子に向かって、微笑むのが見えた。




(完)






FullSizeRender


「トーキョー ・ベイ 4」

 

 ㉓

 

 

 朝から一歩も外に出ずに過ごしたせいか、少し外出しようかな、という気になって、響子は夕方近くになってようやく部屋着から着替えた。

 一番気に入っている服を着ることにした。もちろん、勤め先のブランドのものではない。今年の春、給料日の後に思い切って買った、ミナ ペルホネンのワンピース。鮮やかで少し派手な色使いだがとても気に入っていて、休みの日や遠出する時に、大切に着ていた。

 窓を開けて外の気温を確認し、ワンピースの上にカーディガンを羽織る。

 カーディガンは西武新宿の駅ビルで買ったものだ。安物だけれど可愛くて、気に入っている。

 ドアを開けて外に出て、鍵を閉める。マンションの階段を降りて建物の玄関を出ると、真夏なのに秋のような心地良い風が吹いた。

 

 響子の住むマンションの最寄り駅には、比較的新しく出来た小振りのショッピングモールがある。

 「グリーンモール・トーキョー・ベイ」のような郊外型の巨大なモールではなく、店舗数はその十分の一ほどだが、郊外型の巨大なモールとは違い、少し都会的な雰囲気がある。何より響子がこのモールで一番気に入っているところは、勤め先の衣料品店が入っていないことだ。

 小気味良い造りの外階段の隣にあるエスカレーターを昇って、屋上に上がる。屋上と言っても四階で、そこは庭園のあるテラスになっている。

 駅前なので、テラスから眼下に線路や電車が見える。いつも花壇が手入れされていて、整然とした空間になっている為か、ここはとても居心地が良い。

 若い家族が多い街なので、週末になるとこの屋上はいつも、小さな子供とその親たちで賑わっている。平日の今日は、もう日が暮れかかっていることもあり、子供たちの声は聞こえてこない。

 響子はテラスの白い椅子に腰掛けた。テーブルの上にバッグを置いて夕暮れの空を見ようとしたら、庭園の中に二人組の小さな子供が居るのが見えた。兄妹だろうか。五歳ぐらいの女の子が泣いているのを、七歳ぐらいの兄とおぼしき男の子が、必死に慰めている。

 あの日、誠の妻の後ろに居た男の子のことを思い出して、胸が苦しくなった。

 女の子はずっと泣き止まない。どんどん、泣き声と嗚咽の声が大きくなってくる。周りには、母親や父親らしき人の姿は見えない。

 

「どうしたの?お母さんとはぐれちゃったのかな?」

 

 気付いたら、子供達に歩み寄り、屈んで同じぐらい高さの目線になって、声を掛けていた。いつもの響子なら間違いなく躊躇していたはずだが、その時は何故だが迷いなく、自然と言葉が口から出てきた。

「お母さんが、お仕事が終わる時間なのに、まだ来ないんだ」

 男の子の方が、はっきりした口調で答えた。妹らしき女の子の方は、涙で頬を濡らしたまま、不思議そうな顔でこちらを見ている。

「お母さんは、どこでお仕事してるの?」

 そう訊くと、男の子が、

「ここの下の、美容院」

 と言った。

 響子は、このモールの三階に小さな美容室が入っていたことを思い出した。

 女の子が、さっきより少しだけ落ち着いた様子で

「おねえちゃん、美容院の人?」

 と、聞いてきた。

 「ちがうよ。でも、一緒にお母さんの美容院まで、

 見に行ってみようか」

 そう答えて、響子は女の子の手を握った。

 柔らかくて小さい、すべすべした手だった。

 

 エスカレーターは使わず、三人で美容室の前まで手を繋いで歩く。なんだか、不思議な気分になった。

 ガラス貼りの美容室の前に着き、店内を覗き込む。

 子供たちの背丈ではカットやパーマの値段が書かれたガラスしか見えず、二人とも不安そうに響子の方を見ている。

 

 美容院の奥には二人の美容師が、それぞれ担当している客の後ろに立ち、髪を切っている。

 一人は五十代前半ぐらいの女性で、ベリーショートのいかにも美容師らしい容貌だ。

 もう一人は、響子とさほど年齢が変わらなさそうに見える、利発そうな女性だった。

 

 「お母さん、いた?」

 妹の方の子が、居てもたってもいられず、という様子で聞いてきた。

 「お母さんさあ、髪の毛が茶色で、ふわふわしてる?」

 「うん!」

 二人とも同時に大きな声を上げた。

 少しだけ待っててね、と二人に伝えて、美容院の入り口にある自動ドアのボタンを押す。

 いらっしゃいませ、という声が店の奥から聞こえた。

 

 

 ㉔

 

 母親である美容師の女性が、担当してる客に声を掛けて、入り口のドアへ小走りで向かう。自動ドアが開いた瞬間、子供たちは揃って歓喜の声を上げた。

 

 子供たち二人を待合スペースのソファに座らせ、いい子にしててね、と母親が伝える。

 踵を返すと、女性は響子に深々とお辞儀をして、お礼の言葉を述べた。響子は恐縮して、はにかむことしか出来ずに美容院を出た。

 女の子がガラス越しに、バイバイ、と口を動かして手を振っている。手を振り返しながら、響子は少し早足で、美容院から逃げるように歩き去った。

 

 歩きながら、涙が出てきた。

 止まらない。体が熱くなってくるのが分かる。泣いている自分が可笑しくなって、泣きながら少し笑った。きっと、周りの人から見たらますますおかしく見えるだろう。そう思うとさらに可笑しくなった。

 

 明日は、仕事に行ってみよう。

 何食わぬ顔で、いつも通りやってみよう。

 何があっても、大丈夫。

 響子はそう思った。

 

 

 ㉕

 

 昭和四十年代になる頃には、キヨミは千葉の海沿いの町での生活にすっかり馴染んでいた。

 売春宿に移り住んだときからずっと、歓楽街の人々は、キヨミのこれまでの生き方、出身、家族のことには一切触れなかった。

 この町では人の出入りが激しく、昨日まで一緒だった同僚が、朝目覚めたら全ての荷物と一緒に消えていた、ということも日常茶飯事だった。そんな町だから、人の過去にまでいちいち深入りしてもしょうがない、という理由もあるのだろうが、それは日陰を歩いてきた者同士の心遣いでもあった。

 そんな町で、一年、二年、と住み込みで勤め続けるうちに、宿の女将や近くの食堂の大将はキヨミに愛着を持ち、可愛がってくれた。

 タチの悪い酔客から殴られて、乱暴に襲われそうになったとき、宿の女将は血相を変えて飛んできて、命懸けで酔客を追い出してくれた。

 キヨミが三十歳をとうに過ぎ、歓楽街での生活も長くなったある日。

 女将から、キヨちゃん、話がある。と呼ばれた。

 「あんたももう、いい年だ。商売を変えた方がいいよ。あんたはそこそこ美人だし、気立てもいいけれど、これはいつまでもやる仕事じゃあないんだ。大将に話、つけといたからさ。あんたはいずれは、小料理屋の女将だよ」

 

 そう言ってくれたとき、キヨミは飛び上がるほど嬉しかった。体を売る以外の仕事ができるなんて。

 涙が止まらなかった。

 

 小料理屋での仕事も段々と板についてきた頃、キヨミを見初めて、結婚を申し込んでくれた男性が現れた。

 勝という名の腕の良い料理人で、優しい男だった。

 

 結婚して二年後に、息子が生まれた。

 四十歳近くの自分に子供が出来ると思っていなかったキヨミにとって、息子の誕生は本当に嬉しい出来事だった。

 勝と息子の裕太との三人で、勝の実家の近くの長野県の小さな町に引っ越して、家を建てた。

 つつましくも、温かい家庭だった。

 キヨミは今までの人生の中で、一番の幸せを感じながら毎日を過ごしていた。

 

 あの事件が起きるまでは。

 

 

 ㉖

 

 

 手紙を投函してもうすぐ一週間が経つが、母からは電話も手紙もない。

 勇気を出して投函した手紙に対して、慌てて母から連絡が来るだろう、と身構えていたのだが、こう連絡がないと、逆に気になってくる。

 

 今まで母に恋愛の相談なんて、一度もしたことはなかった。むしろ母から

「クラスに好きな女の子とか、いるの」

 などと聞かれると、体中から嫌悪感が湧いてきて、たちまち僕は不機嫌になった。第一、人に話すほどの恋愛なんて、北海道に居た時は一度もしてこなかった。

 母もそんな息子が突然打ち明けた大恋愛について、色々考えているのかもしれない。

 とにかく、何も言わないでいてくれることが、今の僕にとっては有難かった。

 

 サツキに会いたい。

 滋賀に居るという、サツキと遠距離恋愛中の―恋人。

 その存在を思うと胸が苦しくなり、暴れ出しそうな気持ちになる。それでもその男について、かさぶたを剥がす様に痛みを感じながらも考えずにはいられない。

 恐らく年齢は、サツキと同じ四十歳前後―やはり、僕の倍の歳だ。人生経験や、収入や、社会性や、包容力はとても敵わないだろう。

 

 セックスは、どうだろう。

 二週間前にその男の存在を知って、ひとり部屋にこもるようになり、様々な哀しい妄想をした。深く自分を傷つけるその妄想の世界で、サツキはその男に抱かれていた。

 ―ミツルくん、とその男の名前を呼びながら、一糸纏わぬ姿で、恍惚の表情を浮かべて男にしがみついている―

 そんな妄想をしている自分を恥じて、サツキへの想いを捨てられない自分を恥じて、そして認めたくない言葉だが、―二股をかけられていた自分を、恥じた。

 

 恥の感覚を壊したくて堪らなくなった。

 僕にとって初めての相手で、唯一交わった女性であるサツキを、もの凄く抱きたくなった。めちゃくちゃに、気持ち良くさせてやりたくなった。愛情と、嫉妬と、性欲と、心の奥に有る暴力性のようなものが爆発しそうで、堪えられない。

 携帯電話を手に取った。

 

 「少し話したいことがあって。サツキの家に、今から行ってもいいかな?」

 そうメールを送って、十五分ほど経っただろうか。

 机の上の携帯電話が震えた。

 

 「久し振り。連絡ありがとう。今、部屋が散らかってるから・・夕方以降なら、大丈夫だよ」

 

 突然の連絡にも関わらず受け入れてくれたことで、気持ちが明るくなると同時に、体が、下半身が、異常なまでに熱くなった。興奮で呼吸が浅くなる。ほんの二、三週間前まで、恋人としてのサツキに抱いていた温かく優しい性欲とは全く違う、激しい欲求を抑えきれない。

 

 「ありがとう。じゃあ、ちょうど夕方頃に着くように家を出るよ。また、近くなったら連絡するね」

 そう返信して、時計を見ると午後三時を少し過ぎている。

興奮する体を抑え込むように、ベッドに仰向けになった。千葉のこの部屋から、世田谷のサツキのマンションまでは、一時間半近くかかる。

 ベッドの上に体を横たえて、目を瞑る。

 サツキを、めちゃくちゃにいやらしく抱きたい。

 拒否されるだろうな。そう思った。その時、どんなに惨めな気持ちになるのだろう。でも、もしサツキが僕の衝動を受け入れてくれたら―

 行ったり来たりする煩悩の塊を振り払うように、僕はゆっくりと体を起こし、少し考えてから鞄の奥に、一日分の着替えを、下着だけ詰めた。

 もしまた、サツキと抱き合って眠れたら―

 そんなことを考えながら。

 

  ㉗

 

 最寄駅から総武線に乗って、新宿方面へ向かう。

 千葉に住んでいると、東京のどこに行くのにも、電車での時間が長い。だからいつも、必ず文庫本を鞄に入れて出て読みながら過ごすのだが、今日に限って本を持ってくるのを忘れてしまった。

 時折、ぐらりと揺れる電車の中で、サツキのことを思う。

 ついさっきまで、あれほど抱きたいと思っていた感情は、不安に変わっていた。久し振りの再会で、サツキはどんな表情で僕のことを迎えてくれるだろうか。

 体を求めて、拒否されたら―いや、本来いまの状況では、拒否されて当然だ。そうなったら、もう、二度と会えないのではないかー

 頭の中で、悪い考えがぐるぐると回り始める。

 それとも、会った瞬間、僕はもしかしたら泣き出してしまうのではないだろうか。そんなことを考えながら、電車の窓から外を見た。空はオレンジ色で、夕日が見え始めていた。

 電車に乗っている時間が、いつもよりずっと長く感じた。

 

 サツキの最寄り駅に着いた時には、空はもう暗くなっていた。駅の近くにある、小振りだがまだ新しいショッピングモールに、季節外れのイルミネーションが灯っている。

 

 「グリーンモール・トーキョー・ベイ」よりも、ずっと小さくて、ずっと洗練されて見えるそのモールの灯りを感じながら、サツキの部屋へ向かって、緊張と不安を引き連れて歩く。

 携帯電話を取り出すと、最寄り駅に着いた旨を伝えたメールの返信が届いていた。

 「わざわざ来てくれてありがとう。待ってるね」

 メールの文字を見て、安堵の気持ちが少し湧いてきた。見慣れた道を久し振りに歩く。商店街の灯りが綺麗に光っている。

 

 マンションの入り口に着いた。

 前回ここに来たのは、忘れもしないあの日だ。反射的にあのメールのことを思い出してしまい気持ちが暗くなるが、振り払うように顔を上げて、足を前に進める。

 オートロックの部屋番号のボタンを押した。

 指先が緊張している。

 呼び出し音が鳴った。サツキの声が聞こえるまでの間に、指先から体中に緊張が伝染していく。

 

 「はーい」

 サツキの明るい声が聞こえた。優しい声だ。

 「着いたよ」

 サツキの声に反応して明るさを咄嗟に取り戻す自分を、少し滑稽に思った。

 「はーい」

 サツキもそんな僕の返事を聞いて、インターフォン越しの声が、少し笑っているように聞こえた。

 

 ガラス扉の、オートロックのドアが開いた。

 エレベーターのボタンを押して待つ。つい数十秒前の暗い気持ちは、一体どこへ行ったのだろう。人間の気分なんて、本当にいい加減なものだ。

 僕を乗せた鉄の箱が、三階までゆっくりと上がっていった。扉が開き、サツキの部屋に向かって歩く。マンションの入り口に入った時とは裏腹に、足がスムーズに動いた。

 303号室の前に着いて、ドアの左上にサツキの名字が見えたとき、突然鼓動が早くなるのを感じた。

 ここまで来て、急に緊張してくる。

 

 意を決してチャイムを押そうとしたとき、ドアの向こう側で鍵の開く音がした。

 ドアがゆっくり開いて、ずっと見たかった顔が見えた。

 

 「やあっ」

 

 おどけたような、一点の曇りもない表情のサツキがそこに居た。

 「ありがとう」

 僕は嬉しくて、何に対してか分からない感謝の言葉を口に出して、玄関の中に入った。

 靴を脱ごうとしたとき、柔らかい感触に包まれた。

 気付くと、サツキの両腕で強く抱き締められていた。

 豊かな胸の感触を感じる。

 この間、僕の部屋に来た時の慈愛に満ちた抱擁とは違い、涙や悲しみの影は全く無かった。

 どうしようもなく、下半身が熱くなるのを感じる。大きく膨れ上がった僕を、サツキは優しくていやらしい手つきで触り、そっと先端を滑らすように握った。耳元でサツキの息遣いが荒く、激しくなっているのが分かる。

 サツキの唇に唇を重ねると、僕自身を触るサツキの手が、更にいやらしく動いた。

 

 こんなサツキは初めてだ。僕らは荒い息遣いのまま、舌先でお互いの口内を刺激する。

 サツキの手が僕のベルトを外し、ジーンズのボタンを外す。僕は我慢できずに、自分で下着ごとジーンズを下ろした。サツキの唇が、僕の唇から首筋へと移り、しゃがみ込んで僕自身の先端に舌先を這わせた。

 

 気持ち良さのあまり、深い溜息が漏れた。這っていた舌先を追いかけるように、サツキのあたたかい口の中が、僕自身を深く包み込んだ。

 思わず射精しそうになる。慌ててサツキの頭を抑えると、サツキは吸い付いた口をそのまま外して、すぽん、といやらしい音を立てた。

 僕のそれは大きく揺れて、サツキはいやらしい恍惚の表情をこちらに向けた。

 僕は堪らなくなって、靴を脱ぎ捨てて部屋に入った。もう一度サツキに唇を押し当てて、ブラウスのボタンを外していく。

 

 

 ㉘

 

 

 「グリーン・モール・トーキョー・ベイ」の開店は朝十時。響子たち社員は、早番の日はいつも九時までには出勤する。

 欠勤した昨日の夜に「明日は誰よりも早く出勤しよう」と決めていた。六時に目覚まし時計のアラームをセットしたのに、五時過ぎには目が覚めた。

 カーテンを開くと、もう明るくなってきていて、夏らしさを感じた。

 

 開店前の従業員通用口は薄暗い。社員証を首に掛けて、警備員に会釈をし、中に入る。

 この季節になってくると、モールの従業員用通路は少し暑い。しかし今日の響子は、暑さを感じても不思議と晴れやかな気分だった。

 

 十時の開店時間が近づくと、各テナントの前に従業員たちが、うやうやしく一列に並ぶ。開店と同時に入ってきた客が通る度に、深々とお辞儀をする。

 百貨店などでの、この「開店時のお辞儀」の習慣についての由来を響子は知らないが、モール内に来店を感謝するアナウンスと音楽が流れる十分ほどの間、こうして深々とお辞儀をするこの時間が、響子は不思議と好きだった。

 

 深々とお辞儀をした後に体を起こすと、見覚えのある年配の女性が、響子の前に居た。

 

 お婆さんは、人懐っこい笑顔で、

 「暑くなってきたねえ」

 と、響子に声を掛けた。

 この年配の女性のことは、前から時折見かけていたが、声を掛けられたのは初めてだ。

 なんとなく嬉しい気分で、

 「そうですね、もう夏も本番ですかね」

 と答えた。

 「ここの中は、夏でも涼しいし、冬は暖かいし・・いいよねえ、雨でも濡れないし。あたりまえだけど」

 老婦人は、はにかみながら言った。

 

 響子は、どことなく品があるこの老婦人に好感を抱いて、二言、三言、談笑をした。

 「体調を崩さないようにね、頑張り過ぎないようにしてね」

 そう言って、老婦人は右手を差し出し、握手を求めてきた。思いもよらない行為に少し驚いたが、響子はすぐに右手を差し出し、老女の手を握った。

 老婦人は顔をくしゃくしゃにして微笑み、

 「嬉しいわ、ありがとうね」

 と言って、手押し車を押して歩いて去っていった。

 響子の胸の中には老婦人の手の感触と、わざわざ自分に握手まで求めてきたことの不思議さが残ったが、それより一日の仕事を温かい気持ちで始められたことが、嬉しかった。

 

 

 

 ㉙

 

 昭和も五十年代に入っていた。

 キヨミと、勝と、裕太の三人が、勝の実家の近くにある長野県の小さな町で生活を始めてから、五年が経っていた。キヨミは、自身の過去について思い出すことも少なくなっていた。

 

 伯父に犯され続けた日々。目の前で起こった伯父夫婦の殺し合い。淫売呼ばわりされた日々。千葉の売春宿での生活。すべてが遠い過去の出来事のように思えた。

 

 ひとり息子の裕太は小学校では人気者のようで、学校帰りにいつも、友達と暗くなるまで遊んでいた。

 キヨミも、裕太の同級生の母親たちより年上であることに最初は不安もあったが、この土地での人間関係は良好であり、子育てに大変さを感じる気持ちよりも、一人息子の可愛らしさの方がずっと大きかった。

 夫の勝は町で一番繁盛している居酒屋の料理長を任され、

独立して自分の店を持つ夢に向かって働いていた。

 

 すべてが順調のように思えていたある日、キヨミが買い物から帰宅すると、郵便受けに差出人の名前が無い手紙があった。

 封を開けると、そこには古い新聞の切り抜きが入っていた。一瞥した瞬間、キヨミは恐怖で凍りついた。

 

 新聞の日付は昭和二十五年九月―一面には、

 

 「新宿で怪奇心中」

 「近親相姦の末の大惨劇」

 の文字が、大きく見出しに並んでいる。

 眠らせていた記憶が、生々しく蘇ってくる。体中から、血の気が引いていくのを感じる。封筒の中には、

 

 「どこに逃げても、汚れた血は消えません」

 

 とだけ、書いてある便箋が一枚、入っていた。

 

 キヨミは恐怖と怒りで震える手で、新聞も手紙もすべて破り、ビニール袋の中に何重にもして、外のなるべく遠くのゴミ箱に捨てた。

 ―一体、誰がこんな事を―

 不安と恐怖が増すばかりで、その日は学校帰りの裕太に会っても、仕事から帰宅した勝に会っても、いつも通りの表情を作ることで精一杯だった。

 

 その晩、キヨミは寝付けなかった。

 

 勝には、千葉の小料理屋で出逢うまでのことを全て隠していた。伯父夫婦の事件はもちろん、売春宿での仕事のことも、話していない。もし自分の過去を知ったら、結婚生活は確実に破綻するだろう。離婚されるかもしれない。

 そうなったら、裕太の人生はどうなるのだろう。

 

 忘れかけていた過去の苦い記憶たちに対して、怒りと情けなさと不安で、涙がとめどなく溢れて止まらなかった。

 

 ㉚

 

 嫌がらせは、それで終わりではなかった。

 その日以来一ヶ月に一度ほど、興味本位で書かれた、当時の新聞や雑誌の古めかしい記事が封入された手紙が、ポストに入るようになった。切手は貼られていないから、誰かが直接このポストに入れているということになる。

 

 夫を、息子を、やっと掴んだこの平穏な生活を―絶対に失うわけにはいかない。キヨミはそう強く願い、手紙は絶対に家族の目に触れぬようにし、必死に嫌がらせの犯人を探した。

 

 犯人は、あっけなく見つかった。

 近くに住む、義理の母ー勝の母が自宅のポストに手紙を差し入れているのを見たときは、愕然とした。

 義母は、勝とキヨミの結婚を、そして裕太の誕生を、誰よりも喜んでくれていた人だった。

 それなのに・・。

 

 義母はこの田舎の小さな町で生まれて、殆ど外の世界に出たことのない人だった。

 その義母が、どうしてか私の過去を知ってしまった。

 勝と裕太には、まだ知られていない。今のうちに、義母に会ってとにかく話さなくては―。

 

 キヨミは、義母と会う約束をして、小さな町の中でも、ひと際ひっそりとした場所にある喫茶店に向かった。

 

 

 鞄の中には、包丁とロープを入れて。

 

 

 

 




IMG_8537


「トーキョー ・ベイ 3」

 

 

 あの日、逃げるようにサツキのマンションから帰ったあと、すぐに電話がかかってきたが、出れなかった。

 

 携帯電話の画面をそのままにして出てきてしまったので、サツキはすぐに、僕がメールを見た事に気付いただろう。

 ここ数日、アルバイトも仮病を使って休んでいる。大学の授業にも全く行っていない。近所のコンビニに行くのが精一杯で、ずっと自分の部屋にいる。

 毎日、サツキから一回か二回、電話が掛かってくる。しかし、出ることが出来ない。

 怒っているのではない。怖いのだ。

 本当は会いたい。すごく。

 電話に出たら、何か言わなくてはいけない。うまく話せる自信が無い。そして、会ったら全てが終わりになってしまいそうで、怖い。

 

 サツキからは、電話は掛かって来てもメールは来ない。直接話したい、ということなのだろう。 

 その落ち着きに、寂しさを感じた。生きてきた時間の質や経験の数が、きっと全然違うのだ。

 サツキは、大人なんだ。僕とは違う。

 今までは考えもしなかった、年齢の差を初めて実感した。

 そして、あのとき見てしまったメールの内容を思い出した。本当は考えたくもないが、いくら現実から目を反らしても、起こった出来事は変わらない。

 

 メールの相手はおそらく、僕よりずっと年上の社会人だ。そして悔しいけれど、僕よりもずっと前から、サツキと親しかった人物だろう。

 今までの甘い日々を想うと、胸が苦しくなった。

 

 部屋に呼び鈴の音が鳴り響いた。

 

 この部屋に訪ねてくるのは、新聞の勧誘か、NHKの受信料の集金か、北海道の母からの宅配便かのどれかしかない。

 しかし、いまあのドアの向こう側に立っているのは、きっとサツキだろう、という予感があった。ベッドから体を起こし、台所と全く境目のない殺風景な玄関を見つめた。

 

 「シンジ」

 ずっと聞きたかった声がした。ドアを開けなきゃ、と思うのだけれど、体が動かない。

 「わたしです。開けてくれない?」

 鍵を開けるんだ、と自分に何度も指令を送り、やっと体が動いた。鍵を開けて、ドアノブを捻り、押した。

 

 数日振りに見るサツキの顔は、いつもより少し疲れているように見えた。その顔を見た瞬間、涙が溢れてきた。サツキは、そんな僕を黙ったまま抱き締めた。

 強く、強く抱き締めてくれている、その体が段々と熱くなって、震え出した。

 無言のまま、泣きながら抱き合った。

 どのぐらいそうしていただろうか。

 サツキが、涙を袖で拭って口を開いた。

 

 「ごめんなさい。ちゃんと話したいの」

 僕の涙はまだ止まらなかったが、頷いた。

 

 固く手を繋ぎながら部屋の中に二人で入る。

 涙はまだ止まらない。

 なんだか、馬鹿みたいだ。

 

 

 

 

 長野県のとある田舎町では二、三日に一回、地域の各地に設置されたスピーカーから、放送が流れる。

 

「この地域に、息子や孫の名前を騙った詐欺の電話が掛かってきています。注意して下さい」

「大雨洪水警報が発令されました」

 

 大抵はそういった内容なのだが、昨年のその日は違う放送があった。

 

 「一昨日の朝から、八十三歳の女性が、家を出たまま行方不明になっています。特徴は、身長百四十五センチぐらい、白髪で、茶色のセーターと黒い靴を身につけており、痩せ型です。

お心当たりの有る方は、警察署までご連絡下さい」

 

 高齢者の特徴としてはあまりに平凡で、印象に残らない情報だ。話題に乏しかった町内の住民は、数日のあいだ何かにつけて行方不明の老女の件を、話の種にした。

 しかし一か月もすると、殆ど誰もこの件について思い出すことはなくなった。

 

 それから一年以上の月日が経ち、警察も、この町で時たま起こる高齢者の徘徊による行方不明ということで処理を行った。元より老女は既に夫にも先立たたれており、子供はおらず、身寄りの無い状態とのことだった。

 行方不明であることをたまたま発見したのも、隣の部屋に住む若い夫婦だった。

 

 

 

 

 老女の名前はキヨミという。

 

 キヨミの行方不明は、計画的だった。

 

 決行する数ヶ月前に、キヨミは千葉県にある四畳半一間の、どうやら違法である身元を問わない貸アパートをインターネットで見つけた。入居を希望する連絡をし、入居費用の約十万円を振り込んだあと、周到に準備をした上で疾走を実行し、アパートに辿り着いた。

 

 アパートとも呼べない程の、予想以上に貧相な造りのその建物に最初は驚きもしたが、部屋は寝床としては申し分なく、キヨミはそこでひっそりと生活を始めた。

 身元を一切隠して生活を始められる場所は他になく、何よりも、目的地まで歩いて通える住まいは、そこしか無かったのだ。

 キヨミは、「グリーンモール・トーキョー・ベイ」に毎日通うようになった。

 

 

 

 

 僕の部屋は、サツキの住んでいるマンションに比べれば、遥かに殺風景だ。

 カフェでのアルバイトの給料のみで生活しているサツキは、朝の忙しい時間帯から、夜八時頃までの通し勤務でシフトに入ることがほとんどだ。付き合いだしてからは必然的に、サツキが僕の部屋に来ることよりも、授業にほとんど出ずに時間を持て余している僕がサツキの部屋に行く方がずっと多くなった。

 サツキと交わるときも、いつもサツキの部屋だった。

 

 だから今、殺風景な僕の部屋にサツキが居るということが、こんな状況であってもどこか嬉しく感じてしまう。

 みっともなく泣き腫らした顔が、ベッドの向こう側にある姿見に映る。僕は少し気持ちが落ち着いてきている自分に気付いた。

 サツキはそんな僕に笑顔を向けてみせた。

 

 「会いたかった。本当に」

 

 そう言うと、決意をしたかのようにいつもより凛とした表情になって、

 

 「本当にごめんなさい。嫌な思いをさせて、すごく傷つけたよね」

 と言った。

 

 僕は何も言葉を返すことが出来なかった。

 

 

 その後、サツキはゆっくり言葉を選びながら、自分の狡さを誠実に話し始めた。地元の滋賀に長く付き合っている公務員の男性が居ること。一年に二、三度、帰省する際に会う遠距離恋愛であること。

 そして、その男性とは結婚を前提に交際していること。

 

 「私はもうすぐ四十歳だから、もう子供が産めなくなるかもしれない。だから・・ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。勝手にシンジのことを好きになって、傷つけて。最低の女で・・ごめん」

 

 サツキは、涙を流していてもちゃんと最後まで僕に言葉を伝えることが出来る。やはり、大人の女性なのだ。シンジは、哀しみよりも、何故だかそんなことを思った。

 告げられた事実に対しては、意外にも緩やかに受け止めている自分が居た。一週間前、サツキの部屋でメールを見たときの方が、ずっと傷ついた。

 一通り話し終えると、サツキは静かに泣き続けた。

 部屋には掛け時計の音だけが響く。

 

 「俺と結婚しようよ」

 僕は、そう言った。

 

 

 日が暮れるより前に、サツキは帰った。

 セックスも、キスも、しなかった。帰り際に、最寄り駅の改札の近くで抱き寄せた。

 それだけで涙が溢れてしまいそうだった。

 

 駅から部屋まで帰るには、歩いて十分と少し。サツキを見送った後の帰り道は夕日がやけに綺麗で、坂の上から見える街は、いつもより美しかった。

 悲しいはずの心に、景色が美しく見えるようにと、脳が気を利かせてくれているのかもしれない。

 

 

 

 「ありがとう。すごく嬉しい」

 「けど、きっと・・それは無理だよ。シンジが大学を卒業する頃には、私は四十歳を過ぎちゃうよ。それに、その頃にはね、きっとシンジはもっともっと若くて、可愛くて、素敵な女の子と付き合ってるのよ。それでいいのよ。寂しいけど、それでいいの。そうであるべきなの」

 

 サツキの言葉を頭の中で反芻しながら、シンジは自宅とは別の方向に歩いていた。いつもなら自転車で来る場所まで、二十分ほど歩いた。歩くことが、少し気持ちを落ち着かせてくれた。

 

 「グリーンモール・トーキョー・ベイ」の中にある100円ショップでレターセットを買って、フードコートの空いている席に座った。

 

 今度は、イヤフォンも忘れずに持ってきた。

 

 

 

 響子は、誠の家の壁をネイルハンマーで叩き壊した次の日、仕事を休んだ。

 体調が悪く、休ませてほしい、という電話をするとき、誠が出るかもしれない、と思ったが、その時はその時、どうにでもなれ、とも思った。

 今回の一件が社内で、誠よりも上席にあたるエリア店長や本部長に伝わったら、相当な大ごとになることは分かっている。

 どう考えても異動だろう。もし刑事事件になったら、自主退職を促されるか、最悪、解雇かもしれない。

 

 幸い、店舗へ連絡をした際には、響子より一期後輩に当たる女性社員が電話に出た。響子を慕ってくれている彼女は、珍しい響子の当日欠勤に、よほど体調が悪いのだろうと心配してくれた。

 罪悪感に駆られたが、昨日のあの出来事の後で、誠の顔を見る気にはなれなかった。

 あの後、誠の妻は、すぐに警察に連絡しただろう。その前に、まず誠に連絡をしたかもしれない。

 どちらにせよ、ゆうべ自分がした行為は、器物破損の罪に問われるだろう。住居侵入罪にも当たるのかもしれない。ともかく、いまこの部屋にいつ警察が来ても、不思議ではない。

 そんなことを思いながら、響子はベッドに横になっていた。

 

 ネイルハンマーは、ゆうべ急いで誠の家の最寄り駅まで走ったとき、駅の近くのコンビニのゴミ箱に投げ捨てた。

 これから、私の人生はどうなっていくのだろう。

 今回の一件で誠の妻はすぐに、不倫について裁判所に訴えるかもしれない。その場合どうなるのかは分からないが、判決で慰謝料の支払いが命じられたら、払うしかないだろう。

 今の仕事を続けていけるなら、月々でも慰謝料を払っていくことも出来るかもしれないが、もし今回の一件でクビになったら、その支払いもどうすればいいのだろう。

 それ以前に、器物破損で有罪になったら、私はどうなるのだろう。前科一犯。執行猶予はつくのだろうか。

 考えていると憂鬱になってくる。響子は体を起こした。

 

 どうにでもなればいいじゃないか。

 誠の妻は、それなりに稼ぎの良い夫との離婚を避ける為に、誠に何も言わなかったのかもしれないが、これで少なくとも誠だって、無傷では済まないだろう。

 響子はその時初めて、誠に対して、憎しみとまではいかないものの、何かしら被害を被って欲しい、と思っている自分に気付いた。

 テレビドラマで、不倫関係を持った女が、男に対して早く離婚してくれるように迫ったり、奥さんに分かるようにわざと証拠を残していくシーンを見た記憶があるが、響子は、誠にそういった感情を抱いたことは一度もなかった。

 誠と結婚したいなどとは、一度も思わなかった。

 もちろん、今も。

 

 遊び、というのとも違う。そもそも「遊び」とか、「不倫」とか、そういう言葉が響子にとっては違和感の有るものだった。

 セックスは遊びではないし、快感や興奮を得ることはあっても、行為の最中や終わった後に、響子の中には何故

かしら不安感のようなものがいつも残った。遊び、というほど楽しかったことは、一度もなかった。

 不倫という漢字の字面も、改めて考えてみるとどうも腑に落ちない気がした。

 

 わたしだって、被害は受けてるよ。

 誠の妻からの、執拗な罵詈雑言のメールを思い出した。

 考えることをやめよう。今日は一日家でゆっくり出来る、貴重な日なのだから。

 横になったまま、響子は左手で自分の乳首を服の上から少し撫でた。右手で、性器の少し上の辺りを押さえる。

 疲れた時、嫌なことがあった時、響子は、ひとりでする。

 響子はセックスより、マスターベーションの方が好きだ。セックスでは、いったことがない。

 

 クリトリスを刺激して、充分に湿ってきたあとに、陰毛に沿って滑らすように人差し指を、中に入れた。

 

 

 

 

 物心ついてから、僕は母親に手紙を書いたことなんてない。

 幼稚園とか、小学校低学年とか、そのぐらい小さな頃はあったかもしれない。小学校の修学旅行先から、家の人にハガキを出すようにという課題で書いたこともあった気がする。

 そういうものを除けば、母親に手紙を書くなんて考えたこともない。それどころか、手紙というもの自体を書いたことが、ほとんど無い。

 それでもとにかく、母に手紙を書いてみよう。

 シンジは決意した。一行目には、こう書いた。

 

 「結婚するので、大学を辞めて、働きます。」

 

 

 

 

 キヨミは十三歳の時に、太平洋戦争の終戦を経験した。

 東京の下町に生まれ育ったキヨミは、東京大空襲で弟と両親を失い、伯父夫婦に引き取られることになった。

 

 

 

 戦後の東京は混沌としており、戦災孤児がそこら中にたむろしていた。同じ年頃である彼らは、いつも鋭い目を光らせて生きていた。

 大空襲の時には沢山の死体を見たが、戦後間もなくの東京でも、伯父の家のあった新宿で何度か死体を見た。

 伯父夫婦は優しい人達だったが、時折酷い夫婦喧嘩があり、伯父が伯母を殴った。

 食べる物が不足している時代だった。少しでもお金になることならなんでもやった。東北行きの列車になんとか乗り込んで食糧を仕入れてきては、新宿の闇市で売ると、幾らかの金になった。

 その頃は、食べ物ならなんでも売れた。

 

 伯父からの暴行が始まったのは、キヨミが十五歳の頃だった。

 伯母が留守の間に、力づくで犯された。

 最初は抵抗したが、実の子ではない自分を引き取ってくれた、という負い目もあり、誰にも言い出せなかった。伯父に犯される時、何故だかいつも、戦災孤児の鋭い目を思い出した。

 自分が女として汚れてしまった、と思うとやりきれない気持ちになり、いつも自殺することを考えていた。

 伯父からの暴行は、日に日に頻度を増していった。

 抵抗しても無駄だと悟ったキヨミは、何も考えないように、ただ行為が終わるのを待った。

 伯父の体臭が、本当に厭だった。犯される度に体に染みついていく気がして、周りの人たちはみんな、自分を臭いと思っているのではないかと思い、人と接することが怖くなった。

 

 

 

  ㉑

 

 ある日、伯父から腰を打ち付けられている最中に叔母が帰ってきた。

 伯母は半狂乱になり、叫び声を上げ、包丁を手にしたが、すぐに伯父に取り上げられた。

 暴れる叔母を押さえようとした揉み合いの末、叔母は伯父に首を刺された。

 赤黒い血を大量に流して、叔母ははっきりそれと分かるように死んだ。

 伯父は茫然として、血だらけの叔母と自分の腕を見たまま、しばらく動かなかった。

 

 私も刺される。

 キヨミはそう思ったが、逃げ出さず目を閉じた。死んだ方がましだ、そう思った。

 ずっと前から、そう思っていた。

 

 目を開けると、伯父の首に深々と包丁は突き刺さっていた。

 

 伯父が刺したのはキヨミではなく、自分の首だった。

 

 

 

 

 事件は瞬く間に全国へ広まった。

 ひとり生き残ったキヨミは奇異の目に晒され、どうやって生きていくべきなのか、全く分からなかった。

 陰で、悪魔の女、淫売、と呼ばれても、なんとも思わなかった。感情というものが、殆ど死んでいた。

 

 

 

 時が経ち、騒動が世間で騒がれなくなったある日、キヨミは一番遠くまで行ける切符を買って、電車に乗った。

 行き先は千葉の海の近くだった。

 その温泉街には小さな歓楽街があり、そこの売春宿で、素性を隠して、キヨミはひっそりと住み込みで働き始めた。

 

 

 

 ㉒

 

 母への手紙をひとしきり書き終えて、溜め息をついた。

 最初の一行を書き終えてから、他に何を書けばいいのか全く分からなくなってしまい、しばらく考えたが、とにかく思っていることを書くしかない、と思い、ペンを動かした。

 結婚したいと思っている、大切な人が居ること。

 大学の授業には、ほとんど出ていないこと。

 本当に申し訳ないけれど、これから先も、大学での学問が自分にとって必要だとは思えないこと。

 まだ十代の自分が大学を辞めて、どんな職に就いて働けるのかは分からないけれど、今すぐそうしたい、と思っていること。

 

 そこまで書いて、これじゃあ面食らって反対されるのは目に見えてるよなあ、と、心の中で苦笑いをした。

 「結婚するのは、大学を卒業して、就職してからでもいいじゃない」

 間違いなくそう言われるだろう。自分でも、それがまともな意見だと思う。かと言って、サツキの年齢のことや、まして地元の恋人の存在について書くことは、どうしても出来なかった。

 更に反対されるのは目に見えているし、それに―、サツキを貶めることになるような気がして、書けなかった。

 

 あまりにも唐突でぶっきらぼうな手紙だ。自分でもそう思ったので、文章の最後に、少し関係のないことを書いた。

 

「最近、コーヒーショップでアルバイトをしているせいか、コーヒーをよく飲むようになりました。この間、バイト代で小さなミルを買って、毎朝豆を挽いて飲んでるけど、なんとなく今までより美味しく感じます。

 母さんは、時々コーヒーを飲んでいたけれど、どんな豆が好きとかあるのかな。

 それでは、また連絡します。」

 

 書き出しから一方的に「大学を辞めて結婚します」で始まって、最後に一方的に「それでは、また連絡します」はねえよなあ、と自分でも思った。

 ただ、誰かに向けて手紙を書く、ということが少し心を落ち着かせてくれたようで、改めて読み返すと自分の文章の身勝手さや稚拙さが可笑しくて、少し心が軽くなった。

 いま、投函してしまわないと。

 明日になったら手紙を破り捨ててしまいそうな気がして、そう思った。グリーンモール・トーキョー・ベイの一階に入っている郵便局で八十二円の切手を買って、そのままポストに投函した。きっと明後日には札幌に届いて、母は驚くだろう。

 その先のことは、今は考えないようにしよう。そう思って、建物の外へ出た。外はもう暗くなっていた。

 涼しくて、風が心地良かった。

 

 




IMG_0430


「トーキョー ・ベイ 2」

 

 僕にとって、サツキは完璧な女性に思えた。

 交際経験がない、女性経験がない、ということで不安になったり、臆病になったり、恥をかいたりすることのないように、全てを察して先回りしてくれているように感じた。

 経験や自信の無い僕の前に次々と現れる障害物を、適度に残し、適切に取り除き、僕の成長を導いてくれる。

 その配慮は完璧に思えた。

 大学生活への馴染めなさや、一人暮らしの孤独も、サツキとの交際が始まってから、嘘のように消えていった。

 

 大学一年の夏は、今までの十八回の夏をすべて凝縮しても、全く比較にもならない程に楽しかった。

 あっという間の射精に終わった初体験のあとは、下腹部が痛くなるまで、数えきれないほど交わった。

 サツキの肌と僕の肌がくっついて、汗で滑らかにすべるとき、挿入して射精しそうな快感を我慢しながら抱き合っているとき、このままずっと一つになっていたい、と思った。

 

 何か重大なことを経験したときに「世界が変わって見えた」と言うことがあるけれど、僕はサツキと愛し合うことを知って、世界そのものが変わった。

 北海道でのこれまでの十八年間で見えていた世界の色を、忘れてしまった。

 サツキの全てが、愛おしかった。

 

 

  

 

 「グリーンモール・トーキョー・ベイ」の広大なワンフロアの中でも、三階にあるこの大型衣料店は、一、二を争う店舗面積で、ファストファッションと呼ばれる衣料品を売りまくっている。

 響子は大学生の頃から、この会社で販売のアルバイトをしていた。就職活動の時期になったとき、周囲の流れに合わせて幾つかの会社の説明会に顔を出したものの、早々に切り上げてアルバイト先のこの会社の正社員登用制度に応募した。その結果、もとより勤務態度も良く、優秀だった響子は早々に内定を得た。

 

 特段、自社の服が好き、というわけではなかったが、それ以前に響子は、ファッションそのものにさほど興味が有るわけでは無かった。

 ただ、接客や販売の仕事は響子にとって向いていると思える分野であり、楽しさややりがいも感じていた。待遇も、世間からの会社に対する評判よりはずっと良いものに感じられた。

 

 ただ、同僚であり、上司でもある誠と関係を持ってしまった理由の一つは、繰り返す毎日に退屈を感じていたからかもしれない。

 正社員として入社して四年目、この「グリーンモール・トーキョー・ベイ」の店舗に配属になって二年ほどが経つ。

 この先の人生はどうなっていくのだろう、と地平線のように漠然となだらかに見える未来に、倦怠感を抱いていたのは確かだ。

 昔から、自ら積極的に恋人を作る、というタイプではないと自覚している。今まで付き合った男の数は二人で、寝たのは誠も入れて四人。多くはないと思う。

 

 それなのに、なぜ。

 なぜ、こんなことになってしまったのだろう。

 

 

 

 

 今日の仕事も後半、という時間帯に少し客数が落ち着き、休憩に入る。携帯電話を見てみると、無数の着信が有った。相手は見るまでもない。

 なぜだろう。誠に直接、全てをぶつければいいのに、と、ふと思った。誠の様子を見る限り、この女のひとは夫には何も伝えていない。

 どうしてだろう。

 響子の気持ちの中で、少し何かが動いた。

 

 これまで誠の妻から沢山のメールが届いた。

 最初の数通は何度も読み返し、後悔や罪悪感に駆られていた。しかし、日々無数に送られてくるメールの、日に日に激しさを増していくその文面に恐怖を抱きはじめ、次第に読むことが出来なくなってしまった。

 今では、メールの中身を見ずに削除するようになった。

 

 携帯電話が震えた。メールだ。

 勇気を出して開いてみた。

 

 「いつまで電話に出ないつもりなんですか?

 ヤリマンの性犯罪者は、逃げることしか出来ないんだね、可哀想に」

 

 ずっと感じていなかったような感情が、湧き起こる。

 私はヤリマンじゃない。性犯罪者でもない。

 この女は、どうかしてる。

 

 自分より年上の職場の女に夫を寝取られたのが、相当に悔しかったのだろう。だけど。

 もしかしたら、あんたにだって、何らかの責任があったんじゃないのか。自分の旦那と真剣に話し合うのがまず先だろう。

 二十歳そこそこで子供を産んで、ろくに働いたことも無いくせに。

 響子はひとつ決心をして、着信中の画面表示のままの携帯電話の電源を切った。

 

 

 

 

 勤務を終え、退勤の作業を全て済ませた。遅番の誠の近くで、笑顔で声を掛ける。

 「お疲れさまです。お先に失礼します」

 誠は、いつもと変わらず爽やかな笑顔で応えた。

 

 すぐ横を通り過ぎるときに、

 「奥さんからの嫌がらせが酷いので、あとで電話しておきますね。警察にも」

 と、小声で、しかしはっきりと聞こえるように言った。

 「えっ?」

 誠の方を振り返らずに、響子は「グリーンモール・トーキョー・ベイ」を後にした。

 

 

 JRのいつもとは違う電車に乗って、目的地へ向かう。

 休憩時間中に社員名簿を確認し、誠の住所を手帳に書き写しておいた。電車に揺られながら、響子は今までの苦悩の毎日を思い出してみたが、不思議と随分遠い昔の景色のように思えた。

 慰謝料?裁判?やれるならやってみればいい。

 今の職場にも未練はない。

 そこまで考えると、急に眠くなった。思えばここ二週間ずっと、安心して長く眠れていなかった。

 電車の揺れに、意識が微睡んでくる。

 

 

 

 目的の駅に辿り着いた。

 ここは郊外のターミナル駅であり、いくつかの私鉄への乗り換えも可能な為、沢山の人で賑わっている。

 それなりの大きさの駅ビルがあったが、既に上階のレストランフロア以外は閉まっていた。改札を出ると、駅前のロータリーから大型ホームセンターが見える。看板の灯りからすると、まだ営業しているようだ。

 

 ホームセンターの店内はかなり広く、工具、自転車、衣類、ペットグッズなどを取り扱う以外にもスーパーマーケットとして食料品も揃えている。

 誠はここで買い物をして帰宅することもよくあるのだろうか、と、これから自分がしようとしていることに比べて妙に落ち着いている胸の内で思った。

 もはや誠への愛情や執着などは全く無かった。

 いや、もしかしたら、最初からそんなものは無かったのかもしれない。

 工具コーナーで一番大きい金槌を手に取ったが、重すぎて自分には振り回せない気がした。比較的小振りの、しかし打撃部は重厚な鉄で、先端部の反対側は鋭利な釘抜きになっている一本を手に取る。

 「ネイルハンマー 8オンス」とラベルに書かれたその金槌を買い物かごに入れて、食料品コーナーへ向かった。

 

 

 

 

 その日の朝、僕ら二人は裸でサツキの部屋のベッドの中に居た。

 サツキは、実家のある滋賀県の話をする。

 「すごくいいところなんだけど、本当に何も無くて・・この間お母さんから、近所に高速道路の降り口が出来る、って電話がかかってきてさ。まるで大ニュースみたいに大袈裟で・・でも、何もないところにそんなの出来ても、ね」

 笑いながら続けた。

 「たぶん、『だからたまには帰ってこい』っていうことだと思うんだけど、第一わたし車持ってないから関係ないし・・お母さんって、本当に天然なのよ」

 優しい口調で話すサツキが愛おしかった。

 

 「シンジの実家は札幌市でしょ?都会だよね、きっと」

 「全然そんなことないよ。栄えてる方まで遠いし・・

  でも、サツキの実家よりはましかも」

 笑いながらそう答えると、

「もう。どうせあたしは田舎者ですよー」

 と、ふくれてみせた。

 その表情がまた可愛いらしい。

 ベッドの中で、下半身が反応している。

 

 

 目覚めて、ここがサツキの部屋であることを認識する。

 

 二回目のセックスのあと、射精したまま眠ってしまったようだ。

 目を覚ますと、ベッドの隣ではサツキが優しい寝息を立てている。僕はあたたかい気分のままベッドから立ち上がり、下着を履いた。トイレから戻ってきたとき、ベッドの向かい側にあるテーブルの上で、サツキの携帯電話が光った。

 見ようと思ったわけではないが、メール受信の画面表示が目に入った。

 「充くん」とメールの送信相手の名前が表示されている。

 

 部屋が、妙に静かに感じる。

 サツキのワンルームの部屋は、世田谷区の中では中心からやや外れた駅の近くにある。女性らしく、マンションタイプというのか、オートロックで、部屋番号を入れてインターフォン越しに住人と確認を取らないと、建物玄関が開かない造りになっている。

 外観は綺麗だが、部屋自体はお世辞にも広いとは言えない。六畳ほどのワンルームで、千葉にある僕のアパートの部屋より、ずっと狭い。

 狭いけれど整頓されていて清潔なこの部屋が、なんだか妙に息苦しく感じる。

 

 ―ミツルクン?―

 

 サツキが男性に対して呼びかけるとき、自分以外の誰かを「くん」付けで呼んだのを、聞いたことがなかった。それだけのことで、嫌な気持ちがこみ上げてくるのが分かる。

 体温が下がっていくような、妙な不快感が体を包む。

 

 知らない男からメールが届いたぐらいでこんな気持ちになるなんて、どうかしてるよ。そんなことを思い、落ち着こうとした。しかしその思いとは裏腹に、嫌な予感は止まらない。裸で眠っているサツキを背にして、テーブルの前に座る。

 携帯電話と向かい合うような格好になった。

 

 サツキの方を一瞬、みた。微笑みを浮かべて眠っている。

テーブルに、向き直る。液晶画面を触って、メールを開いた。

 

 「お疲れ。いま夜勤明けです。眠い。

 昨日さつきのお母さんから、果物とか野菜が沢山届いたよ。来月のことだけど、休みが取れそうです。俺も会いたいよ。ひとまず、少し寝るね、おやすみ」

 

 

 座ったままの体が、まるで燃えてきたかのように熱くなる。この感情がどういうことなのか、分からない。

 今まで十八年間生きてきた中では、一度も経験したことのないこの感情は何だろう。

 深い哀しみと困惑と怒りのようなものが、体中を覆っている。

 

 もう一度、メールの文面を見た。

 夜勤明け、さつきのお母さん、俺「も」会いたい・・

 何も分かりたくないような気持ちになって、脱ぎ散らかしたままだった服を急いで着る。鞄を持ち、部屋から静かに出た。

 一瞬迷ったが、サツキの携帯電話の画面はそのままにしておいた。

 

 オートロックのマンションの玄関を抜け、自動ドアが無表情に開き、外に出たら、涙が溢れてきた。

 自分がまるで、赤ん坊にでもなったかのような気がしてしまう。駅の方へ向かってぐいぐい歩く。立ち止まったら、もう二度と動けなくなってしまいそうだった。駅前の小さな商店街の灯りが見えた。スーパーから聞こえる店内アナウンスが、言葉の意味を持たないまま、ぼんやりと鼓膜を通過した。

 

 

 

 ネイルハンマー8オンスが入ったホームセンターのビニール袋を持ったまま、知らない町を歩く。響子のスマートフォンによると、ここから徒歩十三分で到着の予定だ。

 駅から徒歩十五分弱。

 駅近とはとても言えないが、家族で住むならある程度の広さも必要だし、このぐらいが相場なのだろう。

 液晶画面の案内を見ながらそんなことを思い、ふと我に返りそうになる。ハンマー入りのビニール袋を手にぶらさげて歩いている自分が少し可笑しく思えてきた。

 

 いや、と響子は思い直す。今日届いたメールの内容と、きのう届いた妙に厳めしい文書を思い返す。

 

 ヤリマン。性犯罪者。

 逃げることしか出来ないんだね、可哀想に。

 不貞行為。二百万円。

 

 許せない。響子は、出たばかりのボーナスの何倍もの額を要求してきた女に、更に怒りを募らせた。

 

 フテーコーイ、ネイルハンマー、ヤリマン。

 フテーコーイ、ネイルハンマー、ヤリマン。

 

 頭の中で言葉がうろうろと歩く。

 ネイルハンマー、って何だろう。ネイル、好きだったのに全然やらなくなったな。

 そんなことを考えながら、歩く。あと三分で到着の予定だ。周りはすっかり住宅街らしくなってきた。

 

 スマートフォンの画面が誠からの着信を知らせてきた。

 閉店の時間だ。遅番での仕事の合間に慌てて掛けてきたのだろう。

 着信を無視したまま歩く。より一層、決意が強くなる。

 誠からの電話を知らせるスマートフォンの振動が、頑張れ、やっちまえ、と応援してくれているようにすら思えてきた。

 

 それらしき家が見えた。小振りだが見るからに新しい一戸建てに、灯りが点いている。ローンがまだまだ残っているのだろうな、と、どうでも良いことを思った。

 

 表札の名字を見る。誠の家だ。

 インターフォンを鳴らす。一度押して、三秒ほど待つ。

 もう一度。今度は連打した。

 十秒ほど待ったが、反応がない。インターフォンをもう一度鳴らそうとしたとき、子供の声が小さく聞こえた。ママ、と言った気がした。一瞬、響子の中で動揺が走る。

 小さな子供は夜は当然、家に居る。そんな当たり前のことも考えないで、ここまで来た。しかし、子供が居るから何なのだ。改めて歯をくいしばり、インターフォンをもう一度、長く、強く鳴らした。

 

 勢い良くドアが開いた。

 

 

 

 顔立ちの整った女が、こっちを睨んでいる。

 何度となく想像してきた誠の妻の顔を実際に目にして、ほんの一瞬、逡巡したが、響子は思い切り叫んだ。

 

 「いい加減にしろよ!ふざけんな!」

 

 自分で出した声の想像以上の大きさに、びっくりした。

 

 女は動じず、すぐに怒声を返してきた。

 

 「あんた、人ん家まで来て何やってんだよ!」

 

 もう引き返せない。力を込めて叫んだ。

 

 「誰がヤリマンなんだよ!」

 

 言うと同時に、響子は女に掴みかかっていた。

 押し倒そうと思い切り力を込めたが、手を振り払われて倒れたのは、響子の方だった。

 尻餅をついて倒れた響子の隣に、ネイルハンマーの入ったビニール袋が、ごん、と固い音を立てて落ちた。

 

 立ち上がろうとしたその時、足首に強い痛みが走る。捻ってしまったようだ。

 

 「ママ、どうしたの?」

 

 男の子の声が聞こえた。

 誠の妻の後ろに男の子が立っている。

 頭の中が真っ白になる。

 もう引き返せない。

 

 響子は立ち上がり、落ちているビニール袋の中からネイルハンマー8オンスを取り出して右手に持った。

 

 女の顔が青ざめる。

 振り返って、背後に居る息子に叫んだ。

 

 「中に入ってなさい!」

 

 響子は玄関の中に入り、右側の白い壁を思いっきりハンマーで叩いた。

 大きな音がして、壁の材質がぼろぼろと崩れ落ちる。

 男の子がそれよりさらに大きな声で泣いた。

 響子も動揺して、ハンマーを握る手に力が入らない。

 

 その時、女が渾身の力で体当たりをしてきた。

 響子は再び、玄関の外のコンクリートに倒れる。

 

 「警察呼ぶから!」

 と誠の妻は叫び、ドアが閉まった。素早く鍵がかかる。

 怒りがぶり返した。

 響子はハンマーの入っていたビニール袋から、ホームセンターで買っていた卵のパックを開けて、ドアに向かって卵を投げつけた。一つ、二つ、三つ。

 

 六つの生卵をドアに投げつけ終わると、涙がとめどなく溢れてきた。

 嗚咽しながら、ネイルハンマーを拾う。逃げなきゃ。駅の方角を見失っている。涙で視界が悪い。捻った右足が痛んで、速く走れない。

 

 もう、全部おしまいだ。警察がくる。

 ネイルハンマーを持ったまま、走る。涙が口に入って、しょっぱい。

 犬を散歩させている人と擦れ違った。

 逃げなきゃ。

 警察に、つかまる。

 




FullSizeRender


「トーキョー ・ベイ 1」

 

 

 都心の真ん中には、大きいショッピングモールはない。

 

 東京都内にある大きなモールは、江東区の埋め立て地の上にあるものと、お台場のやはり埋め立て地の上、ひと昔前まで海だった場所にあるものだけだ。

 

 千葉県の船橋市にあるこのショッピングモールの名前は、

「グリーンモール・トーキョー・ベイ」。

 言うまでもなく、ディズニーランドと同じ意味で「東京」が使われており、利用者の多くはこのモールの名称について、少し得意げに揶揄の言葉を口にしてから買い物に精を出す。

 

 「トーキョー、って」

 「千葉じゃん」

 「ディズニーランドじゃないんだから」

 

「グリーンモール・トーキョー・ベイ」は巨大な企業が十年前に建設、開業した大型ショッピングモールだ。三百以上の店舗が入っており、約七千台分の駐車場が用意されている。

 大抵のショッピングモールがそうであるように、週末は子供連れの家族で賑わうが、平日は週末の喧騒とは打って変わって閑散とした雰囲気になる。

 そんな平日でも、毎日モール内にあるカフェに足を運ぶ営業職の会社員も居れば、もっと足繁く通う常連客も居る。

 

 モール内のスーパーマーケットや百円ショップ、フードコート内のドーナツショップなどを中心に、開店時間の十時から、飲食店以外の店舗が閉まる二十一時近くまで、ほぼ毎日「トーキョー・ベイ」の中に滞在している一人の老婆のことだ。

 ほとんど全てのテナントの従業員がその存在を知っており、しかし何故だか、その老婆に嘲笑の言葉を口にしたり、侮蔑的な渾名をつける者は居なかった。

 ほとんど買い物をせずに一日中、巨大なショッピングモールを、手押し車を押して歩く彼女にはどことなく気品があり、清潔感があった。

 

   

 

 フードコートの一角に入っているドーナツショップで、オールドファッションと紙コップに入った水を机に置いて、老婆は座っている。

 その斜め向かいの席では若い女が二人、会話をしながら昼食を取っていた。

 僕はその後ろに座って、提出期限を二日後に控えた大学のレポートを進めようと、ノートパソコンを広げた。

 

「あたしが多いわけじゃなくて、みんなが経験なさすぎなんだと思う」

 二人組のうちの、ピンクのワンピースを着たかなり太っている女が、唐突に言った。もう一人の女は対照的に痩せ型で、小奇麗な服装と整った顔立ちを持ち、小刻みに相槌を打っている。

 大柄な女はさらに言葉を続ける。

「山下君にも、飲みに行こうって誘われてさ」

「山下君って、あの山下君?」

「うん」

「彼女、居るんじゃないの?」

「なんかね、その彼女のことで悩んでるんだって。よく分かんないんだけど」

 

 会話が耳に障って、レポートに集中出来ない。席を移動しようかと思うものの、ちょうど昼時でフードコート内は混み合っており、パソコンを広げられそうな席は他には見当たらない。

 イヤフォンを持ってくるべきだった、と後悔する。机の上に置いたスマートフォンの中には千曲近くの音楽が入っているのに、イヤフォンは別の鞄の中に置き忘れてきた。

 

「だってさあ、二人で飲んだりしたら、やっぱりそういうことになるじゃん」

「うーん・・」

 大柄な女は途切れることなく自身の性体験について語り続ける。小柄な女の方は相槌を打つだけで、ほとんど何も喋らない。

 僕はこの場所でレポートを進めることを諦めて、席を立った。

 

   

 

 「第三者による、公平な調査の上で改めて会見をさせて頂きます」

 ショッピングモール内にある大型家電量販店の一角には、最新型の大型液晶テレビが山ほど並べられ、その画面にはいずれも、政治資金を私的流用したことで話題になっている政治家が大写しになっている。

 手押し車を押しながら歩いていた老婆は少しの間、テレビの大群の前に立ち止まり映像を見ていたが、またすぐにゆっくりと歩きだし、家電量販店を後にした。

 

 同じ階の反対側にある大型衣料店では、平日とはいえそれなりの混雑の中、マイク付きのイヤーモニターを付けた店員たちがきびきびと立ち動いている。

 響子はファストファッションと呼ばれるその大型衣料店で、マイクに向かって在庫の確認についての指示を出しながら、ゆうべ自宅の郵便ポストに届いた書類のことを思い出していた。

 

 「夫・誠との不貞行為について、慰謝料二百万円の支払いを求める。また、今後一切夫・誠と面会しないことを同封の誓約書に記名、捺印のうえ返送を求める。期日までに支払わない場合、または書面の返送の無い場合には、即時に裁判を行うことを、この書面をもって通達する」

 

 響子は溜め息をつき、広いフロアの向こう側で紳士的な笑みを浮かべて接客している誠の方を見た。

 

 明るく気さくで、誰よりも仕事を楽しんでいるように見え、その爽やかな笑顔と仕事への誠実な姿勢には男女問わず好意を持たずにいられない。

 そんな誠と、響子が初めて関係を持ったのは三ヶ月ほど前のことだった。

 初めて二人で仕事後に食事に行ったあと、デザートでも食べるように関係を持った。

 

 二十六歳の響子には、独身で特定の恋人はおらず、六歳年上の誠には、妻と三歳の娘がいる。

 

 誠の妻がどんな女性なのか、響子は何度か想像してみたことがあった。

 誠より少し年上か同い年で、夫の健康や気分や性欲のバイオリズムを全て把握し、妻としての仕事を完璧にこなす、一流のスポーツトレーナーのような女性をイメージしていたが、実際には違った。

 誠の妻は二十四歳で、精神的にも響子の想像よりずっと若く、血気盛んで好戦的な女だった。

 誠との初めての交わりの後、もう一度だけ関係を持ち、響子は「これで終わりにしよう」と密かに決意した―のだが、その決意の二日後、誠の携帯電話のメール履歴から夫の浮気を発見した妻は、誠には何も伝えないままに、響子に執拗に電話とメールを繰り返すようになった。

それが二週間前のことだ。 

 

 響子は頭の中の不安を振り払うように、

「只今セール期間中で、大変お得になっております!」

 と、大きく声を上げた。

 

 

   

 

 北海道の実家から毎月アパートに届く、食料品や洗剤が大量に詰まった段ボールの中には、いつも便箋二枚ほどの、母からの手紙が入っている。八割方は母自身の近況を書き連ねているもので、文末にまあいちおう、といった感じで、

「シンジは大学はどうですか? 夏休みには帰省できますか? また連絡を待っています。それでは」

 と、書いてある。

 

 いつもはすぐに捨てる母からの便箋を、僕がなんとなく鞄に入れてもってきたのには、理由があった。

 

 母に手紙を出してみようと思ったのだ。

 

 

 

 

 「シンジが、本当に私を好きになってくれてるのか分からなくて、いつも不安になるの。おばさんだし・・」

 

 二回交わったあとベッドで並んで横になったまま、サツキは僕の髪を手櫛で梳かしながら言った。

 

 「おばさんじゃないよ」

 照れ臭くて、それ以外に気の利いた言葉を返すことが出来ない。

 サツキは、あらゆる意味で僕の初めての女性だ。

 初めてセックスをした相手であり、初めてキスをした相手であり、初めての恋人で、そして人生で初めて、心を許せた女性だ。

 

 北海道の男子校に通っていた僕は、サツキと付き合うようになるまで、世界中のすべての恋人たちは、どのようにして出逢い、どのようにして交際に至り、そしてどのような具体的な手順でセックスをしているのか全く分からず、よく想像を張り巡らせていた。

 漫画を読んでも、小説を読んでも、ネット動画を見ても、女性の体のどこにどう挿入するのかは、分からなかった。

 

 いま思い返すと、高校の同級生たちのほとんどの連中の女性経験値は僕と同じようなものだったと思う。同じ市内の女子校の生徒との経験を自慢気に話す一部のクラスメイトの声を、羨望の気持ちと自らの性知識、体験の乏しさを悟られないように聞いていた。

 僕も、そんな話は知ってるよ、といった表情や笑い声を作るのに精一杯だった。

 

 千葉の国立大学に合格し、進学を控えて一人暮らしの為の物件を探しに来たとき、僕は一つ一つのアパートの部屋を見る度に、その部屋でまだ見ぬ彼女とセックスをしている様子を想像した。

 北海道から同行していた母は息子のそんな馬鹿げた妄想などつゆ知らず、案内役の不動産業者の男に、近隣の買い物の便や、建物の耐震性を尋ねていた。

 隣室へ音がどのぐらい響きそうか、と母が質問しているときだけ、僕は聞き耳を立てた。

 

 セックスというものをしてみたくてたまらなかった。

 

 

  

 

 サツキさん、と呼ばれているアルバイト先のコーヒーショップの先輩のことが、なんとなくずっと気になっていた。

 僕には、二十代半ば以上の女性の年齢を見た目で判別するということが全く出来ないようで、二十七歳ぐらいかな、というサツキの年齢への予想は大きく外れた。

 サツキは三十六歳で、僕の年齢のちょうど倍であることを、冗談を交えてことあるごとに自嘲的に話した。

 あと数ヶ月後に僕は十九歳になる。

 倍の年齢ではなくなっても、きっとサツキは自嘲的な冗談を言い続けるだろう。

 

 僕は時々、頭の中で十八と三十六の両方の数に、十や二十を足す足し算を頭の中でするようになった。

 

 

 

 大学に行くようになって三ヶ月が経ち、キャンパス内には初夏の日差しが降り注ぐようになった。

 入学式のあとに様々なサークルの上級生から賑やかな勧誘を受けたものの、なんとなく「大学のサークル活動」というものに興味を持つことが出来なかった。

 声を掛けてきたり、チラシを渡してくる上級生たちのテンションの高さから、そこが自分にはそぐわない場所であることを察してしまったのだ。

 

 授業で一緒になった同じゼミのクラスメイトたちと一応連絡先は交換したものの、ぼんやりとしているうちにどんどん仲の良い者同士のグループが出来上がっていってしまって、すっかり乗り遅れた。

 入学式の頃には緊張した面持ちを見せていたクラスメイトたちは、大学生活が進むに連れて、どんどん明るく、うるさく、単位の取得が容易な授業には、出なくなっていく。

 見た目にも垢抜けていく同級生たちを、心の中で冷ややかに見ている自分が居たが、それでも一人きりでアパートの部屋に帰ってくると、孤独が身に染みた。

 すっかり大学生活に馴染んで、新生活を楽しんでいるクラスメイトたちを見ているのもしんどくなり、授業に出ない日が少しずつ増えていった。

 

  

 

 

 授業の出席率と反比例するように、五月の連休明けから始めたコーヒーショップでのアルバイトに入ることが増えていった。

 孤独を感じることの多い大学内での時間に比べて、アルバイト先での時間はむしろ、一人暮らしの寂しさを忘れられる、孤独感とは無縁の貴重な時間だった。

 サツキとも同じ時間帯に働くことが多く、会話を重ねる度に、不思議と嬉しい気持ちになった。

 

 「シンジ君は、夏休みは彼女とどこか行くの?」

 アルバイトにも慣れてきた七月のある日、サツキにそう聞かれた。

 「彼女居ないですよ」

 と、答えると、

 「そうなの?なんとなく居るのかと思ってた。

 もてそうだよね、シンジ君」

 

 そう言われて、なんだかとても照れた。

 今まで「もてそう」なんて言われたことは一度も無かった。

 嬉しさと照れ臭さを出さないように、

「俺、今まで付き合ったこと一度もないんですよ」

 素っ気なさを装って、そう答えた。

 「うそー、意外!シンジ君、かっこいいのになあ」

 嬉しさのあまり、何も考えられなくなっていくのが分かる。

 

 「じゃあ、どっかデートでも付き合って下さいよ」

 

 何も考えられなくなる勢いに任せて、そう言った。自分の口に、こんな誘いの言葉を発する能力が備わっていることが信じられなかったが、意外にもその言葉は空気を震わす振動となり音となって、サツキに届いた。

 

 「いいよ、行こうよ。行きたい」

 

 と、冗談やからかいではない、という意思表示を強く込めた表情で、サツキははっきりと言った。

 そしてそのままの強い口調で、

 「じゃあ、あとで連絡先交換しようよ」

 と、続けて言った。

 僕は、夢でも見ているような気持ちで、なんとか

「はい」

 と言い、そのときちょうど大量に下げられてきたコーヒーカップを洗った。

 大切なものを逃さないように、という気持ちで。




FullSizeRender


長い余生 2

       *

 

 

 

 夕方の新大久保はかなり肌寒く、まもなく訪れる冬の匂いを感じた。

僕の家は、大久保駅と新大久保駅の、どちらから歩いてもほとんど距離の変わらない位置にある。

 しかし、総武線の大久保駅よりも、山手線の新大久保駅の方が、駅前に遥かに人が多い。

改札から出ると、年齢も性別も国籍も多種多様な人々が、混沌とした風景の中で、それぞれの目的地に向かって早足に歩いていた。

二人の娘を連れた僕は、そんな混沌の中を抜け出すように自宅方面に向かう。

 

「ルナ、晩ごはん何食べたい?」

 

 長女に訊ねてみる。彼女はまだ眠そうな様子で欠伸をしながら、少し間を置いて、

 

 「プリキュアのカレー」

 

 と、答えた。

 

小さな女の子に人気のアニメがパッケージに大きく印刷された、そのレトルトカレーを買いに「マルヤ」へと向かう。

 もちろんそのカレーは甘口で、アニメに登場するキャラクターのシールが一箱に一枚、ランダムに入っている。

 

 

「マルヤ」に入り、いつものように僕が惣菜コーナーを見ていると、

 

「ツムちゃんのお父さん、ですか?」

 

と、後ろから独特の訛りのある声がした。

振り向くと、保育園へのお迎えのときによく見かける、ツムギと同じクラスの外国人の女の子、リズちゃんのお母さんが笑顔でこちらを見ている。

 

 「あ、こんばんは!」

 

 慌てて挨拶をする。

ツムギの所属する未満児クラスは子供の人数が少なく、このお母さんともよく顔を合わせるのだが、会っても会釈をするだけで、きちんと言葉を交わしたことは一度もない。

お母さんの隣には笑顔のリズちゃんが居て、寝ているツムギに向かって、つむちゃん、つむちゃん、と、喜んでくれている。

 

リズちゃんのお母さんが、

「リズがどうしてもアンパンマンのカレーが食べたい、って言って」

 

と、笑う。

 ツムギが寝たまま乗っている買い物カートのカゴの中から、プリキュアのレトルトカレーを手に取って箱を見せ、

 

 「うちも、そうなんです」

 

 と言うと、リズちゃんのお母さんが笑った。

 

 おそらくアラビア系、と思われる整った顔立ちで、日本語も、イントネーションは日本人とは少し違うが、片言というわけではなく、流暢に話す。

 

 「リズはツムちゃんが大好きで、家でもよくツムちゃん、ツムちゃん、って言ってます」

 

 お母さんがそう言った。

 確かにリズちゃんは保育園でよくツムギと遊んでいると、保育士の先生も言ってくれていた。

 

 ルナが退屈そうにしていることに、ふと気づく。

 

 「じゃあ、リズちゃん、明日、保育園でね。ツムちゃんが寝ちゃっててごめんね」

 

 と、言って僕はもう一度頭を下げ、その場を離れた。

 

 

 「ごめん、ごめん。保育園のリズちゃんのこと、知ってる?」

 

 「知ってるよ」

 

 ルナが言った。

 

 自分も子供の頃は、母親が誰かと立ち話をしてるのを待っているあの時間が、退屈で嫌だったなあ、と思い出す。

 子育てには子供時代を振り返る、という面もあるようで、子供たちの機嫌が悪くなるとき、よく自分の昔のことを思い出す。

 

 小さな子供はまるで、天気のように気分が変わる。突然、夕立のように泣き出す。そんな時はいつも、ああ、自分もこうだったよなあ、と、幼かった頃のことを思い出す。

 

 家に来客があったとき、母親が電話でよそゆきの声で話しているとき、子供の頃の僕はいつもなんだか落ち着かなくて、不機嫌になった。母がいつもと違うことが、なんだか不安なのだ。

 

 ルナも、ツムギも、わがままな時は沢山あるけれど、それでも随分いい子にしてくれているなあ、とよく思う。

 

 妻が居なくなった当初は不安が大きすぎて、独りで子供たちを育てていける自信が持てなかったが、この一年弱、いわゆるシングルファザーの生活をしてみて、その不安は半減された。

 

 自分の中で芽生えたのは、なんとかならないことはない、という気持ちと、この先、母親が居ない、ということは、ルナとツムギにとってはいつまでも抱える寂しさなのだろう、というやり切れなさで、その比重は本当に半々だ。

 

 

 「パパ、これ、好きなやつ、安くなってるよ」

 

 声のする方を見ると、総菜コーナーでルナが半額のジャーマンポテトを手に取って、笑顔で僕に見せていた。

 

 「おー!買おう!ありがとう」

 

 僕も笑顔で答えた。

 

 ルナはこの一年で何故か、ぐんぐんと賢くなった。

 平仮名はすべて書けるようになり、カタカナも全部読める。

 

 「ハイボールにあうんでしょ?」

 

 五歳の娘は、笑顔でそう言った。

 

 

 二歳の娘はまだ、カートの中でぐっすりと眠っている。

 

 

 

 

      *

 

 

 

 その日は休日で、母が珍しく、

 

 「ルナちゃんとツムちゃん、見ててあげるから、たまにはゆっくり過ごしたら?」

 

 と、言ってくれた。

 

 僕はその好意に甘え、恵比寿にある映画館へ向かうことにした。前からずっと観に行きたかった映画が、そろそろ公開終了してしまうことが、ずっと気になっていた。

 

 映画館は、ガーデンプレイスの中にあるいわゆるミニシアターで、大きなシネコンとはまた違う、独自の基準で選んだ作品を上映している。劇場の雰囲気も、心地良い。

 

 映画は大好きな作品の、シリーズ第二作目だった。

 期待を上回る内容で、二時間あまりの上映時間は、全く長く感じなかった。

 

 上映が終わって、余韻を抱えたまま外に出る。

 快晴で、外の陽射しが眩しい。映画の後半は夜のシーンが続いていたので、少し不思議な気分になる。時計を見ると、午後二時頃だった。

 ガーデンプレイスの、西洋の城の庭のような造りの階段を降り、ベンチに腰掛けた。

 

 久し振りに一人きりで休日を過ごせる、という解放感が、

堪らなく嬉しい。

 母には、子供たちが夕飯を食べ終える頃までに実家に帰る、と言ってあるので、まだまだ時間はある。

 

 

 ガーデンプレイスは、元々サッポロビールの工場が有った場所だ。この土地の現在に至るまでの詳しい経緯は知らないけれど、ここに「エビスビール記念館」があることは知っていた。

 

 

 

          *

 

 

 

 

 

 ビール記念館の中は高級ホテルのような整った空間で、僕はエビスビールの歴史を見学しながら、いつ試飲コーナーに向かうかを考えていた。

 

 ビールの醸造工程についての説明や、エビスビール発売当時のレトロな宣伝ポスターや缶のデザインをしばらくの間は見ていたが、十分と経たないうちに、僕の足は試飲コーナーに向かった。

 

 

 豪華な造りのバーカウンターの中に、タキシードと蝶ネクタイで正装している女性バーテンダーが居る。試飲コーナーと言っても、街にあるバーよりもずっと本格的だ。

 

 まずは販売機で、この試飲コーナーで使えるコインを購入する。

 僕は三種類のエビスビールを飲み比べできるセットを選び、バーテンダーにコインを渡した。

 彼女は完璧な笑顔を見せてそれを受け取る。

 間もなく僕の前に、金色、琥珀色、黒の三色の魅力的なビールが並んだトレイが置かれた。

 

 正確にはテイスティングサロンという名前が付けられているこの空間は、開放的で明るい造りになっている。

 団体客もおり、それなりに賑わっていたが、テーブルごとの距離は少し離れており、落ち着いて座れそうな席はいくつか空いている。

 三色のビールが乗ったトレイを持った僕は、どこに座ろうか、と席を見渡した。

 

 

 

 今度は後ろ姿ではなかった。

 

 重厚な木材で造られたテーブルの一席に、夢にまで出てきた人が座っていた。

 

 非日常的な空間のせいか、あの日後ろ姿を見掛けたときのような、逃げ出したくなる緊張は起こらなかった。

 

 彼女の隣の席は空いている。

 

 あのとき一緒だった男性と来ているのかもしれない、と思ったが、それでも構わない、と覚悟を決めた。

 

 「楓・・かな?」

 

 そう訊ねると、栗色のショートカットの彼女がこちらを見た。

 一秒ほど、じっとこちらを見たあと、笑顔と驚きの混ざった表情になり、楓はゆっくりと口を開いた。

 

 「・・雄介?」

 

 何年か振りにこの声に呼ばれた平凡な名前が、とても価値のあるものに思えた。

 

 ずっと聞きたかった声だった。

 

 僕は笑いながら頷き、

 

 「久し振り」

 

 と、言った。

 

 楓は子供のような、曇りの無い百点満点の笑顔を見せて、

 

 「久し振り!」

 

 と、少し場違いな大きめの声で、

 嬉しそうに言ってくれた。

 

 

 

 

      *

 

 

 

 試飲コーナーの販売機でコインを五千円分も買って、顔を赤くしながら二時間以上話している僕らに、きっとバーテンダーは呆れていただろう。

 

 幸運なことに楓も、一人でこのビール記念館に来ていた。

 僕らは五回も六回も、ビールをカウンターまで頼みに行きながら、色んなことを話した。

 

 奇跡みたいな時間だった。

 

 いつか死ぬのなら、今ここで死にたい、と心から思った。そのぐらい幸せな二時間だった。

 

 ――僕も、転職した楓も、仕事は大変だけれど、概ね順調であること。

 

 ――共通の知り合い達の近況。

 

 ――僕がこの間、勤務する都市型遊園地で、楓の後ろ姿を見掛けたこと。

 

 ――旦那さん?と訊くと、楓は笑いながら、

 

 ―ちがうよ。

 

 と、首を横に振った。

 それ以上、詳しくは訊かなかった。

 

 本当はまだ、聞きたくなかった。

 

 ――雄介は、結婚したんでしょ?

 

 知ってたんだ、と言うと、

 聞いたよ、とだけ、楓は言った。

 

 ――今更だけど、おめでとう!

 

 と言って、楓は僕のグラスに向かって、自分のグラスを向けて乾杯しようとする。

 

 僕はグラスを合わせて、とびっきり美味しい注ぎ方のエビスビールを飲み干し、笑いながら、

 

 ――別れたんだ。

 

 と、言った。

 

 ――うそ?本当?・・・ごめん、ごめん!

 

 そう言って、楓は僕の肩を触って謝った。

 表情に彼女の人の良さが滲み出ていて、僕は、ああ、本物の楓だ、と思った。

 僕も彼女の肩をぽん、と叩いて、

 

 ――ぜんぜん大丈夫。人生、何ごとも経験だから。

 

 と、笑いながら言った。

 僕も楓も、その頃には顔が真っ赤に染まっていた。

 

 

 ――楓は、結婚しないの? この間の彼とは。

 

 酔いも手伝って、訊いてみる。

 

 ――しないんじゃないかな。どっちでも、いいんだけど。

 

 そう言って、少し沈黙した後、

 

 ――雄くんは、結婚して、よかった?

 

 と、楓が訊いた。

 

 

 ――良かったと思ってるよ。子供たちは、本当に可愛い。

 ・・・うん。自分の子供は、世界一可愛い。

 

 僕はそう言ったあと、

 

 ――まあ、奥さん逃げちゃいましたけど。

 

 と、笑いながら言った。

 

 楓は、昔と変わらないあの笑顔を見せて、優しい声で、そっか、そっか、と言った。

 

 ――お子さんたちと住んでるの?

 

 ――うん。娘ふたりと、三人で住んでる。

 

 楓は赤い顔のまま、少し真剣な表情になって、

 

 ――かっこいいじゃん。

 

 と言った。

 それから彼女は、黒ビールをぐっ、と飲み干して、

 

 ――じゃあ、女、連れ込めないね。

 

 と、笑いながら言った。

 

 僕は楓の栗色の髪の毛を優しく触って、叩く真似をした。

 何年振りに髪の毛、触ったかな、と、アルコールの回り切った頭の中で思った。

 

 嬉しかった。

 

 

 

 

 

 試飲コーナーには他に客が居なくなり、僕らのビールグラスはちょうど空になった。とりあえず行こうか、と言うと、楓は頷いて、僕らは席を立った。

 

 ビール記念館を出ると、外は暗くなりかけていた。

 

 寒いね、と言って、僕は楓の手を握った。

 楓は笑いながら、僕の肩を叩いて、手を離す。

 僕も笑いながら、もう一度手を握る。

 

 今度は、離されなかった。

 

 

 

 

         *

 

 

 

 

 ガーデンプレイスから恵比寿駅の改札までは、ほとんど歩かなくても着いてしまう。

 

 ここには長い長い動く歩道があって、この大きなベルトコンベアは、沢山の人々をガーデンプレイスから駅へ運んでいく。

 

 ベルトコンベアの速度は、ありがたいことにかなり遅い。

 駅へと向かう多くの人々が、ベルトの右側を、早足で歩いていく。

 楓と僕は、ベルトの上で決して歩くことはなかった。

 

 ゆっくりと運ばれて、ベルトの間を歩かなければならない時も、ゆっくりと、手を離さずに歩いた。

 そして、ビール記念館の中に居た時とは対照的に、僕らの間に会話は無かった。

 

 ――このまま、改札に着いて、じゃあね、と言って別れて、それから――

 もしかしたら、もう永遠に会えないかもしれない。

 

 そう思うと、なかなか言葉が出てこなかった。

 何か話しかけようか、と何度も考えた。

 

 考えたけれど、やはり言葉は要らないような気がした。

 

 最後のベルトに乗った。

 

 ベルトの奥に、券売機や自動改札が少し見えた。

 息が苦しくなる。

 

 栗色の髪を撫でた。

 

 楓が、どん、と僕の方にぶつかって、体を預けてきた。

 それから、はにかんだような、恥ずかしそうな笑顔でこちらを見た。

 まだ、頬が少し赤い。

 

 小さな体を抱き締めた。

 涙が出そうになって、慌てて堪える。

 

 ――もう、三十四なのに。

 

 そう思って、苦笑いする。

 苦笑いをしながら、ずっと、堪えている。

 

 楓は動かなかった。

 最後のベルトの半分ぐらいの所まで来たとき、小さな栗色の頭が、僕の肩にもたれてきた。

 

 

 ベルトが僕たちを、最終地点の改札前まで運び終えた。

 僕らは体を離して少し歩き、改札と券売機の前で、立ち尽くした。

 

 夕方の恵比寿駅東口。

 沢山の人々が急ぎ足でそれぞれの目的地へ向かっている。

 僕らはその人波のなかで、何も言葉を交わすことなく、ただ、体を寄せ合って立っていた。

 

 

 十年前の失敗を、過ちを、取り返すチャンスがあるとしたら、今この場所、この時間だけだろう。

 

 実家では、そろそろ娘たちが夕飯を食べ終える頃だ。

 

 十年前の僕がもしも、未来のこんな自分の姿を見たら――笑うかな。

 

 ――笑いたければ笑えばいいさ。

 

 最後のチャンスなんだ。

 

 

 

 「あのさ」

 

 僕の肩に頭を乗せていた楓に向かって、話し掛けた。

 楓が少し笑みを浮かべて、こちらを見る。

 

 「すごいダサいこと、言ってもいい?」

 

 僕がそう言うと、楓はさらに笑って、

 

 「いいよ」

 

 と言った。

 

 

 

 二秒だったのか、五秒だったのか、もっと経っていたのかは分からない。

 

 なんとか僕の口から言葉が出てくるまでの間、楓は笑みを浮かべたまま、何も言わずに待っていてくれた。

 まるで中学生に戻ったようなみっともない僕は、それでも勇気を振り絞って、楓の顔を見つめて、口を開いた。

 

 「また会いたいんだ」

 

 楓が笑う。

 可笑しい、という風にも、困ったな、という様子にもとれるその笑顔は、やはり優しくて、明るかった。

 

 次の言葉を口にしないと、と思ったその時、楓が少しかすれた声で、

 

 「おチビたちの写真って、ある?」

 

 と、訊いてきた。

 意外な言葉だった。

 

 「あるよ」

 

 「見たいな」

 

 僕は頷いて、スマートフォンの写真フォルダを開き、娘たち二人が、リビングで笑いながらクッキーを齧っている写真を見せた。

 楓はその写真を見たあと、満面の笑みになって、

 

 「超かわいいね。雄くんに似てる」

 

 と言った。

 ありがとう、と小さな声で僕が答えると、

 

 「いまは、誰かに預けてるの?」

 

 と、楓が言った。

 僕は頷き、うちの親にね、と言うと、

 

 「お母さん・・・ユウコさん、元気?」

 

 と、楓が言った。

 よく覚えてるね、と僕が言うと楓は無言で頷き、

 

 「雄くん、メアド変わってない?」

 

 と、言った。

 うん、と僕が答えると、

 ――じゃあ、またあとで連絡する。ライン、やってる?

 

 と言い、

 

 ――ほら、そろそろ行かないと、でしょ?

 

 そう言って、僕の腕を引っ張り、自動改札を抜けた。

 お互いの乗る電車が、逆方向であることを確認する。

 

 ――また、会えるだろうか。

 

 エビスビールのマークが目立つ山手線のホームで、そう思っていると、新宿方面行きのエメラルドグリーンの電車が先に、こちらに向かって走ってきた。

 

 

 

 楓を抱き締めた。

 

 彼女の小さな手も僕の背中に回り、抱き締め返してくれた。

 猛スピードの山手線が、僕らの前に滑り込んでくる。

 

 栗色の髪と、形の良い耳を左手で軽く押さえて、顔を近づける。

 彼女は笑顔で僕の胸を叩いて、

 「外だから!」

 と言い、僕は照れ笑いをして、ごめん、と言った。

 

 ゆっくりと山手線が停車していくのが見える。

 

 「ねえ」

 

 楓が言った。

 

 「約束、覚えてる?」

 

 突然の言葉に慌てて記憶を遡るが、とっさに頭が回らず、思い出せない。

 

 ――約束?

 

 山手線のドアが開いた。

 

 ――思い出した。

 

 「閉まっちゃうよ!」

 

 そう言って、楓は僕の手を引っ張り、山手線に押し込んだ。

 すぐにドアが閉まる。

 

 ――またね。

 

 と、大袈裟に口を動かして楓に伝える。

 彼女が笑顔で頷いた。

 

 電車が動き出す。

 僕は精一杯の笑顔で、小さく楓に向かって手を振る。

 楓も手を振り返してくれているのが見え、彼女の姿がどんどん遠ざかっていく。

 山手線が加速を続ける。

 あっという間に楓の姿は見えなくなった。

 

 

 

 

      *

 

 

 

 きょうは早めに仕事を上がることが出来た。

 職場から保育園へと急ぎ足で向かう。

 

 大久保駅から早歩きで保育園へと向かう途中、僕と同じように反対側から急いで歩いてくる、背の高い女性が居た。

 リズちゃんのお母さんだ。

 彼女と目が合って、どちらからともなく、

 「こんにちは」

 と、笑顔で声を掛け合う。

 

 寒くなりましたね、と僕が言うと、本当ですね、とリズちゃんのお母さんが答える。

 彼女は頭に赤いバンダナのようなものを巻いているが、薄い生地で、あまり防寒効果は無さそうだ。

 母国での慣習か、宗教上の理由かもしれない。

 

 揃って保育園に行き、門扉を開き、子供の手が届かない高さに取り付けられている鍵を閉める。

 狭い園庭を抜けて教室に入ると、保育士の先生が「お帰りなさーい」とこちらに声を掛けてくれた。

 

 「ツムちゃん、ルナちゃん、リズちゃん。パパとママ、来たよ」

 

 先生の声を聞くとすぐ、子供たちの顔がこちらを向き、笑顔になった。

 

 

 

 さまざまな飲食店の看板が派手に光る大久保の道を、大人と子供、合わせて五人で歩く。

 ガードレール内は狭いので、子供の手を握りながらも邪魔にならないように、なるべく道の端に寄って進む。

 交差点に差し掛かったところで、

 

 「じゃあ、また明日、保育園でね」

 

 と、僕はリズちゃんとお母さんに向けて声を掛けた。

 リズちゃんは、こちらに向かってバイバイ、と手を振る。

 

 その時お母さんが、遠慮がちに名刺のようなものを差し出した。

 

 「あの・・実はうち、インドカレーのお店をやっていて」

 

 「そうなんですね、ありがとうございます」

 

 僕は黒を基調としたデザインのショップカードを受け取った。

 

 「味は美味しいと思うので、もし良かったら今度ぜひ来てみて下さい」

 

 「はい、ぜひ」

 

 リズちゃんのおうち、カレー屋さんなんだって。今度、行こうね、と二人に言うと、

 

 「行きたい!きょう行く!」

 

 と、大きな声でルナが言った。

 僕は笑いながら、今度、本当に行こうね、と、ルナに向かって言った。

 

 「でも、子連れでも大丈夫ですか?

  相当うるさくしちゃうかもしれないですけど・・」

 

 「ぜんぜん大丈夫です。意外と広いし・・空いてる時が多いから」

 

 と、笑いながらリズちゃんのお母さんが言う。

 

 「辛くない、子供向けのカレーもあるので」

 

 はい、と僕は答え、再び手を振って彼女たちと別れた。

 

 

 

 

 

       *

 

 

 

 新宿駅東口の地上に出る。

 綺麗なクリスマスツリーと、混沌とした人混みと、アルタのビルが視界に飛び込んできた。

 人の多い新宿で、待ち合わせ場所はどこが良いだろう、と考えた結果、東口の地上に出てすぐ脇にある金色のライオン像の前に決めた。

 

 ここなら分かり易いかな、と思って決めたものの、実際に来てみると周りには待ち合わせ風の人々が沢山居て、苦笑する。腕時計を見ると、針は待ち合わせ時間の五分前を指していた。

 

 金のライオンを正面から見ると、百獣の王の斜め後ろ辺りに、赤いダッフルコートのフードをすっぽり被って、ガードレールにもたれかかっている小柄な人を見付けた。

 不安な気持ちを抱えたまま少し近づいて、雰囲気から、すぐにあの人だと確信する。

 昔から、思い切ったファッションが似合うセンスの良い人だった。

 

 赤いフードの左肩をとん、と叩く。

 びくっ、と小さく動いて、見たかった顔がこちらを見上げて、笑う。

 

 「なんで、フード被ってんの」

 

 「なんかキュートかな、と思って」

 

 笑いながら、楓が言った。

 似合ってるけども、と言いながら、僕は彼女と二人で歩き始めた。

 

 イルミネーション凄いね、と言いながら、人波の中をかき分けるように歩く。

 

 「相変わらず、歩くの速いね」

 

 そう言われて、慌てて歩く速度を落とした。

 

 「あ、ごめん、ごめん」

 

 「全然大丈夫だよ。雄くんだなあ、って思っただけ」

 

 楓が笑いながら、そう言った。

 

 

 ついさっき、同じチェーン店に一人で入ったとは決して言わずに、地下にある英国風パブのドアを開いた。

 心配していたほど店内は混んでおらず、少し安堵して昔と同じように並んでカウンター席に座った。

 

 このパブはいわゆるキャッシュオンのシステムで、バーカウンターへ行って注文し、その都度料金を払う。

 その為、ほとんど接客されることはなく、それが僕には心地良かった。

 

 「とりあえず、飲み物買ってくるよ。ビールでいいかな?」

 

 「いいの?ありがとう。うん。ビールで」

 

 「普通の、日本のやつでいいのかな?」

 

 「うん。あ!ちょっと待って」

 

 楓が、笑顔で壁に立ててある小さなメニューを見る。

 

 「えっとね・・これ。バス・ペールエール」

 

 「了解。それ、美味しいよね」

 

 

 少し赤みがかったビールがたっぷり入ったグラスを持って、カウンター席に戻る。

 楓はありがとう、と言い、笑顔でそれを受け取った。

 

 「じゃあ、八年振りの約束に乾杯」

 

 そう言って僕が琥珀色のビールグラスを持つと、楓は微笑みながら、グラスを合わせてくれた。

 

 「覚えてたんだ」

 

 「忘れないよ。あんな、変な約束」

 

 そう言って僕が笑うと、嬉しい、と楓は呟くように言った。

 

 

 「ムール貝のワイン蒸し」

 

 僕がそう言うと、彼女は笑みを浮かべて大きく頷いた。

 

 「妙に美味しかったんだよね」

 

 「そう。昔、二人して、テンション上がっちゃって」

 

 そう言いながら、二人で笑う。

 

 

 

      *

 

 

 ――いつか、またあのムール貝を食べながら、一緒に色んな話をしよう。

 

 そんな冗談みたいな約束だった。

 

 

 僕らの関係がどうにもならなくなった八年前のあの夜、会社の近くのオフィスビルのテラスで、泣き笑いしながら、僕はそう言った。

 

 楓はそれを聞いて、やっぱり泣きながら、

 

 「うん。あれ、美味しいよね」

 

 と言って、笑った。

 

 ――約束。

 

 ――うん、約束。

 

 そう言って、僕らは抱き合ったまま、子供みたいにお互いの小指を絡めて、笑って、泣いた。

 

 

 

      *

 

 

 

 こうやって約束を果たせる夜が来るなんて、思ってなかったな。

 そう思いながら、立てかけてあるメニューを眺めた。

 メニューに目を通す。

 

 しばらくメニューを眺めて、裏返す。

 

 僕は笑いを堪えながら、小さく彼女に声を掛けた。

 

 「楓ちゃん」

 

 きょとん、とした顔で楓はこちらを見て、

 

 「はい。どうしましたか?」

 

 と、僕に合わせて、かしこまった口調で言った。

 

 「なくなってます」

 

 

 二秒ほどの沈黙の後、言葉の意味を理解した楓は大笑いしながら、

 

 「嘘ー! 本当に?」

 

 と言った。

 メニューを渡すと、彼女はその小冊子のようなメニューを隅から隅まで、じっと見た。

 

 「雄介先生」

 

 「はい」

 

 「確かにムール貝のワイン蒸しは無くなっていますが、

  これを」

 

 そう言って、楓が見せてくれたページには「ムール貝とフレッシュトマトのパスタ」の文字があった。

 八年前には無かったメニューだ。

 

 「これは・・」

 

 そう言って、楓の方を見る。

 彼女もこちらを見て、無言で頷き合う。

 僕が席を立とうとしたその時、楓が僕の肩に手を置き、

 

 「いや、ここは私が」

 

 と、真剣な面持ちで言ったあと、

 

 「そろそろやめよっか、この喋り方」

 

 と笑いながら言った。わたしが買ってくるね、と、楓がバーカウンターへ向かう。

 

 

 

      *

 

 

 

 「ムール貝とトマトのパスタ、美味しかったね」

 

 「いやあ・・あんなに美味いと思わなかったから、感動したよ」

 

 興奮気味にそう答える僕を見て、楓は可笑しそうに笑った。

 

 僕らは顔を赤くして、手を繋いでふらふらと歩きながら、アルコールの力を借りて、人生に酔っていた。

 

 「隣町にだね」

 

 「うん」

 

 「行ってみたい店があるのだが」

 

 「おっ」

 

 「付き合ってくれるかい?」

 

 「勿論です。お供します」

 

 何を演じているのか分からない僕の口調に、楓は阿吽の呼吸で合わせて、笑った。

 

 「ありがとう。ちょっと歩くけど、いい?」

 

 「うん。歩くの好きだし」

 

 

 新宿駅東口の方へ戻るように歩き、歌舞伎町方面へと向かう。大きな交差点を渡るとドン・キホーテがあり、そこから街は急激にいかがわしさを増す。

 この街は雑多で、賑やかで、汚くて、あやしい人たちばかりで、でも、好きだ。

 

 

 「楓、いまどこに住んでるの?」

 

 再会してから、なんとなく訊けなかったことを、訊いてみた。

 

 「今は、三鷹だよ」

 

 ――ひとりで?

 

 とは、訊かなかった。

 聞きたくなかった。

 

 「三鷹かあ。昔、吉祥寺でよく会ったよね」

 

 「うん。

  あ、佐世保バーガー、無くなっちゃったんだよ」

 

 「そっか。美味しかったのに」

 

 

 歌舞伎町を大久保方面に向かって歩いていく。

 

   

         *

 

 

 

 その店は大久保の小さな雑居ビルの三階の、外からは全く目立たない場所にあった。 

 

 ビルの前に学習塾のような地味な看板が一つあるだけ。   

 この店に、ふらっと入れるお客さんはなかなか居ないだろうな、と思いながら、少し勇気を出して「エル・ソル」と書かれたその店のドアを開けた。

 

 ドアノブの向こう側には、いかにも東南アジア風のベルがくくりつけられていて、軽やかな鈴の音が鳴った。

 綺麗な音だった。

 

 「いらっしゃいませー!」

 

 聞き覚えのある、外国訛りの声が耳に入り、店員の女性がこちらに歩いてくる。

 

 「あー!ありがとうございます!」

 

 リズちゃんのお母さんが口に手を当てて、驚いた顔で僕を見て、笑った。

 

 こんばんは、と笑顔で僕は言って楓の方を振り返り、

 

 「きょうは子供たちは親に見てもらってて。

  連れと来ました」

 

 と、紹介した。

 楓はぺこりと頭を下げた。

 

 ――連れと、来ました。

 

 我ながら、ちょうどいい言葉が咄嗟に出てくるもんだ。

 そう思いながら、案内された席に着く。

 楓は興味深そうに、店内にあるインド風の調度品を眺めている。

 

 「子供たちと同じ保育園の、友達のお母さんなんだ」

 

 「うん。なんか、いい感じのお店だね」

 

 テーブルに立ててあるメニューを見て、キングフィッシャーというインドビールを二つと、チキンティッカと、空心菜炒めを注文する。

 

 オーダーを確認したリズちゃんのお母さんは微笑みを浮かべて頷き、店の奥へ戻っていく。

 

 時計に目をやると、夜の十時になる頃だった。

 おそらく今頃は、母が娘たちを寝かしつけて居る頃だろう。もう、眠れているかな。

 

 リズちゃんのお母さんがこちらに来て、ビールの小瓶とグラスを二つずつ、テーブルの上に静かに置いた。

 

 ビールを注ぎ合って、何も言わずに小さく乾杯をした。

 

 

 「人生は難しいね」

 

 僕の口から出てきたのは何故かそんな、雲を掴むような言葉だった。

 楓は小さく頷いて、

 

 「そうだね。でも、不思議なこともいっぱいあるね」

 

 「うん。良いことも起きる」

 

 彼女は魅力的に笑いながら、そうだね、と言った。

 少し、沈黙が訪れた。

 

 

 「ぜんぶ、これで良かった、っていうことにしない?」

 

 僕がそう言うと、楓は少し悲しそうな微笑みを浮かべた後に、間を置いて、

 

 「そうなればいいと、思ってるけど」

 

 と言った。

 僕は黙って、次の言葉を待つ。

 

 店内には、小さいボリュームでインド音楽のBGMが流れ続けている。

 

 「自信、ないな。私じゃあ・・」

 

 楓の言葉を聞いて、僕はゆっくり彼女の手を握った。

 

 「大丈夫だよ。絶対、大丈夫にする」

 

 楓の目から、涙が突然零れる。

 

 「楓じゃなきゃ、駄目なんだ」

 

 そう続けると、楓は目を覆うようにして、小さく何回か頷いた。

 

 

 店の奥から、リズちゃんのお母さんが料理を持って歩いてくるのが見えた。

 

 

 

 

 

      **

 

 

 

 

 

 真夏の暑さの中で、なんとかタクシーを捕まえて四人で乗り込んだ。

 車内は冷房がしっかりと効いていて、快適だ。

 

 いつもよりかしこまった格好のルナとツムギは、タクシーに乗ったことが珍しくて嬉しいみたいだ。後部座席ではしゃぎ、彼女が優しくなだめた。

 僕らは会場に着いてから着替えるので、全くの普段着だ。

 

 小さい会場で、お互いの親族しか招待していないけれど、やはり緊張する。

 二回目なのにな、と思うが、もちろん口には出さない。

 

 

 楓は妊娠六ヶ月に入った。

 

 式を挙げるならギリギリのタイミング、と思い、小さい規模で行うことを二人で決めた。

 安定期に入った頃から、何度か打ち合わせやドレスの試着をした。

 服の上からではまだ、楓の妊娠は殆ど分からない。

 

 

 不安なことは僕にも彼女にも沢山あって、それはこれからもゼロになることは無いのかもしれない。

 

 それでも「これで良かったんだ、っていう事にしよう」と、言い続けてきた。

 新しい家族は冬に産まれる予定で、この上なく楽しみだ。

 その瞬間を想像するだけで涙腺が危ういのは、歳を重ねたせいだろうか。

 

 タクシーが会場に着いた。

 

 

 

 

 式場の控室で着替え終わり、ヘアメイクを担当してくれる女性に髪型をセットしてもらう。

 少し照れくさい気分で、座って髪をいじられていると、楓がウエディングドレスに着替えて、部屋の奥から出てきた。

 

 

 凄く綺麗だった。

 

 はっきり言って、すごく、楓らしくないけれど。

 

 

        

       *

 

 

 もうすぐ新郎新婦の入場です、と係の女性が笑顔で僕たちに伝えて、待合室を後にした。

 

 ルナとツムギは緊張している様子もなく、隣で、ママ、きれい!とさっきからずっと言っている。

 

 そうなんだ。

 二人じゃなくて、四人で入場することに決めていた。

 いや、正確には五人で、ね。

 

 昨夜、YouTubeで何度も見た「新郎のスピーチ」の言葉を、頭の中で繰り返す。

 さらに緊張が高まってくる。

 

 「パパ、だいじょうぶ?」

 

 と、ルナがそんな僕の様子を見て、訊いてきた。

 僕は苦笑しながら、うん、大丈夫、と答えた。

 

 

 ドアがノックされて、係の女性が入ってくる。

 

 「では、ご入場です。お願いします」

 

 と、満面の笑みで僕らに言う。

 

 楓の方を見る。

 彼女は、僕よりずっと落ち着いた笑顔で、係の女性に向かって頷いた。

 

 僕はようやく覚悟を決めて、席を立ち、深呼吸をして、彼女のお腹を軽く撫で、楓に、

 

 「楽しもうね」

 

 と言った。

 

 彼女は、十年前からずっと変わらない魅力的な笑顔を浮かべてゆっくりと頷き、

 

 「おっけー!」

 

 と、小さな声で、言った。

 





FullSizeRender


長い余生 1

「長い余生」

 

 

 

 

 

 

 よせい【余生】

 一、盛りの時期を過ぎた残りの生涯。

 二、残された人生。

 

 

 

      *

 

 

 夢の中で彼女は、十年前と、いや、八年前とも全く変わらない魅力的な笑顔で、パソコンのキーを素早く打ち込みながら、

 

 「おっけー!」

 

 と言っていた。

 

 その笑顔が最高に魅力的で、頼もしかった。

 

 

      *

 

 

 目が覚めた僕は、冴えない現実を生きていた。

 

 両隣には、二歳と五歳の二人の女の子が眠っている。

 

 二歳のツムギはいつも通り、寝ている間に小さな枕よりも上へ上へとのぼっていってしまい、敷布団の一番上が肩の辺りまで来て、掛け布団は全て剥がれていた。

 

 風邪ひいちゃうよ、と小さな声を出しながら僕は、ふかふかしている布団を掛け直す。

 まだ十月だが、ここのところ朝晩はめっきり寒くなった。

 

 逆側の右隣には、布団にしっかり体を入れて五歳のルナが眠っている。

 

 毎晩、こうして三人で眠るようになってもうすぐ一年が経つ。

 

 世間でよく言われる「川の字で寝る」は、夫婦のあいだに小さな子供が眠っていることを意味する。

 幸せの象徴のように言われることも多い言葉だ。

 

 しかし、今の我が家は毎晩「小の字」で寝ている。

 真ん中の棒である僕だけが圧倒的に長い「小の字」の寝床には、幸せとも、不幸とも言い切れない、複雑な味わいが有った。

 

 悪い夢でも見ているのか、ツムギが目を閉じたまま、突然泣き出した。僕は二歳児を抱き寄せ、背中をとん、とん、と撫でる。

 しばらくの間それを続けると、彼女は安らかな表情で再び眠りについた。

 ルナの方を見ると、先程と全く変わらない表情でぐっすりと眠っている。

 二人を起こさないように、僕は静かに布団から抜け出す。立ち上がって時計を見ると、午前二時を少し過ぎた頃だった。

 

 ぼんやりとした薄明かりの中で、二人はそっくりな顔で眠っている。

 

 

 

 寝室をそっと出てリビングへ向かうと、子供たちが食べた後の食器や、僕が一本だけ飲んだ、空のビールのロング缶がテーブルの上に乱雑に並んでいる。

 頭の中はまだ少し寝ぼけたまま、それぞれを流しやゴミ箱に適当に片付け、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。

 

 

 二歳のツムギの寝かしつけには、いつもかなり時間が掛かる。

 絵本を読み聞かせて寝かしつけるのだが、読み終わっても、もういっかいよむ、とか、つぎはこっちの絵本、とか、やっているうちに三十分ぐらいは経ってしまう。

 僕は眠気と格闘しながら絵本を読み、ツムギが眠るときには、もう布団から出られずに眠ってしまうことがほとんどだ。

 仕事の疲れがひどい時は、僕の方が先に眠ってしまって、パパ起きて、と何度言われても起きられずに、渋々二歳児は一人で眠りに就く。

 

 ツムギ用の幼児絵本は、五歳のルナにとってはもう興味の対象ではないものが多いようで、ツムギが寝付く前に、ルナはいつも、布団に包まって一人で眠ってくれる。

 ルナには、我慢させてしまっているなあ、と、いつも申し訳なく思う。

 

 

 

       *

 

 

 ダイニングテーブルの上を片付けて、いつものように、台所の棚にあるバランタインのボトルを取る。

 ウイスキー用と決めてあるグラスを出して氷を入れて、テーブルの上でひとり、呑み直す。

 

 三時間半後には再び起きなければいけない、と思いつつも、この時間の一人酒は、つい進んでしまう。

 

 子供たちを寝かしつけるのが、いや、子供たちとともに一度眠りに就くのが、だいたい九時半頃だろうか。

 僕は昔から、眠りが浅い方だ。

 九時半頃に眠ると、ほぼ必ず、真夜中に目が覚める。

 

 ロックのバランタインがきつく感じるようになってきて、冷蔵庫から缶のソーダ水を出してきて注ぎ、マドラーで軽く混ぜる。

 

 酔いが回っていく頭の中で、さっきまで見ていた夢のことを思い出した。

 八年間、全く会っていない、そして恐らくこれからも一生会うことはないであろう、楓の夢だった。

 

 眠りが浅い体質と関係があるのか、僕は悪い夢を見ることが多い。しかし、さっき見た夢はそうではなかった。

 

 目覚めた後にも、はっきりと、夢の中での楓の声の響きが残っている。

 

 楓の笑顔は、あの時よく見せてくれていたように、気丈さと優しさの両方を含んだ、誰にも負けない抜群の笑顔だった。

 

 楓は、いま寝室で眠っている二人の娘の母親では、ない。

 

 十年前に出逢った楓と、恋人だった期間は三ヶ月だった。 当時、僕が住んでいた六畳一間のボロアパートに彼女は転がり込んできて、それは濃密な三ヶ月だった。

 しかし、別れてからの一年半のあの時期の方が、記憶には強く残っている。

 

 僕らは離れ離れになっても、ろくでもない恋のような、棘だらけの愛のような、破滅的な逢瀬を続けた。

 

 だめだ、と分かっていても、お互い抑えきれずに僕の部屋で裸で抱き合ったあと、泣いていた楓を見て、僕も子供みたいに泣きじゃくったこと。

 

 寒い夜に、新宿の閉まったオフィスビルのテラスで、一時間も二時間も、自分たちのどうしようもない恋について、体をくっつけあって話したこと。

 

 

 

 寝室から泣き声が聞こえて、我に返る。

 ほんの少しだけ残っていたハイボールを飲み干し、僕は慌てて寝室へ向かった。

 

 

      *

 

 

 

 五時半にセットしたアラームが鳴りだして、眠い目を無理矢理こじ開けた。隣を見ると、またツムギが布団の上へと上っていて、首から上が敷布団から落ちてしまっている。元に戻し、布団を掛け直した。ルナの掛け布団も剥がれてしまっているので、静かに掛け直す。

 

 僕は二人を起こさないように静かに体を起こして、トイレに行き、顔を洗って、洗濯機のスイッチを入れ、リビングへと向かった。

 台所で、ゆうべ使った食器類を洗う。

 この一年弱の生活で気付いたことのひとつが、食器やコップや、料理に使った道具を洗うことが、意外にも気持ちのモヤモヤを流してくれるということだ。

 勿論やる前は面倒だが、水に触れて一人、黙々と洗い物をしていると、なんとなく気持ちが晴れてくる。

 

 洗い物がひと段落したら、子供たちの朝食の準備だ。

 その前に、いつも通りスマートフォンを使ってFMラジオをつける。

 

 

 

 ナツミは最後まで、そんなことないよ、と言っていたけれど、やはりあのころ彼女は、育児ノイローゼ気味だったのだろう、と、ふと思う。

 

 ―少しの間、子供たちを両親のところに預けて、ゆっくりした方がいいよ―

 

 何度もそう言ったが、彼女は最後まで、その提案を受け入れなかった。

 

 結果から考えてみればおかしな言い方かもしれないが、彼女は責任感の強い人だった。

 

 僕はその時、会社がとうとう開業した複合型テーマパーク内にある都市型遊園地の責任者に抜擢されたばかりだった。

 帰宅するのは毎晩、夜中に近かった。

 

 

 忙しい日々の中でも、ナツミの様子がおかしい、と薄々感じてはいた。

 それを気に掛けるだけで、何も出来なかった事への後悔は、今でもある。

 

 ある晩、僕がやはり夜遅くに帰宅すると、そこにナツミの姿はなかった。

 

 大声で泣きじゃくる二人の娘が、玄関まで、パパ、と泣き叫びながら走ってきた。

 その瞬間、ナツミがいま、ここに居ないことに気付いたが、とにかくルナとツムギを抱き締め、安心させることが、僕のすべきことだった。

 

 

 

 とんとんとん、と子供特有の軽い足音がして、リビングの引き戸がガラガラ、と開く。

 ほとんど目の開いていない顔で、ルナが立っていた。

 

 「ルナ、おはよ!」

 

 明るい声で僕は言った。

 彼女を抱っこしてトイレへ連れて行き用を足させ、濡れたガーゼを作って顔の目脂を拭き、リビングの椅子に座らせる。

 

 「朝ごはんのパン、焼いたのとふわふわなの、どっちがいい?」

 

 「・・カリカリの方」

 

 八枚切りの食パンをトースターに入れて、冷蔵庫からピーナッツバターと牛乳を出す。時計を少し見て、もう少ししたらツムギを起こさないと、と思う。

 二人の子供と自分の朝の支度をして、保育園に二人を預けてから職場へと向かう、この朝の時間帯が一日のうちで一番の勝負所だ。忙しいなんてものではない。

 出発ギリギリになってツムギのおむつが汚れてしまって、急いで替えることもしょっちゅうだ。

 

 

 保育園のお迎えに関しては、週の半分ほどは近所に住む母親にお願いしている。

 僕が保育園に迎えに行くとき、ルナとツムギはいつも一番最後のお迎えで、二人と保育士で一緒に遊んでいる。

 その姿を見る度に申し訳ないような気持ちが湧いてくる。

 それでも、迎えに行き、笑顔で駆け寄ってくる二人と再会すると、仕事の疲れも半減する。

 

 

 

      *

 

 

 

 雄介の現在の主な仕事先であるテーマパークは、文京区の水道橋、東京ドームのすぐ近くにある。

 東京ドームや、雄介が働く都市型遊園地、隣接するショッピングモールやスパ施設まで、全て同じ会社で運営を行っている。当然、従業員の数はかなり多い。

 遊園地に隣接しているショッピングモールの社員たちとは比較的頻繁に交流が有るが、東京ドーム勤務の社員たちとは、月に一度の合同ミーティングで顔を合わせるぐらいで、あまり深い交流はない。

 

 その日の仕事は、概ね順調と言ってよかった。

 テーマパーク全体を彩るハロウィンのディスプレイは、この都心の遊園地にとても似合っていた。

 

 園内で仮装用の衣装をレンタル出来る、という催しも人気だった。特に目新しいアイディアではないのだろうが、発案した本人である僕は、十月のここまでの入場者数の順調さに、ひとまず安心していた。

 

 

 

 夕方の四時ごろ、いつものように僕は、園内のアトラクションをひとつずつ見て回っていた。

 大観覧車にはカップルや子供連れの家族が列を作っている。ジェットコースターにはグループで遊びに来ている若者たちが楽しそうに話しながら、順番を今か今か、と待っていた。

 パーク内を魔女の仮装をした子供たちが走って、僕の横を駆け抜ける。

 自分に子供が出来てから、街中で小さな子供を見かけると、つい見てしまうようになった。特に女の子には気を取られて、娘たちと重ねて見てしまう。

 

 その時、パーク内の売店の前にいる女性の後ろ姿が、ふと目についた。

 既視感というのだろうか。

 

 ショートカットの髪型。形の良い耳。

 栗色の髪。

 

 背の低いその後ろ姿は、どう見ても楓のそれだった。

 鼓動が早くなる。

 

 彼女とは対照的に背の高い男性と一緒に居る楓は、売店で買い物をしているようだった。

 紙カップに入ったドリンクを従業員から受け取っているその姿を、どうしても長く見続けることが、出来ない。

 

 僕は逃げるように、従業員専用の通用口に向かった。

 

 

 

 

 事務所の中にある、社員用フロアの一角になんとか辿り着いて、自分のデスクに座る。

 幸い他の社員は外に出ているようだ。僕はさっき見たばかりの、楓の後ろ姿を思い出した。

 

 最後に会った八年前とまるで変わらない後ろ姿だったが――顔を見ることも、声を聞くことも、出来なかった。

 

 もちろん、男性と一緒だったから、という理由もあるが、もしも彼女が一人だったとして――

 それでも僕には、彼女に話し掛けるどころか、しっかりと顔を見る勇気も無かっただろう。

 

 

 後悔の気持ちが、段々と湧いてきた。

 声を掛けることは無理でも、せめて正面から顔を見れたら――そして、自分に対してのそれではなくても、楓の声をもう一度聞けたら――

 そう、強く思った。

 ゆうべ見た夢のことを思い出す。

 夢の中で、僕は確かに楓の声を聞いた。

 

 いま、頭の中でも、楓の少しかすれた声を、確かに思い出して聞くことが出来る。

 

 

 携帯電話が鳴った。

 業務用の方ではなく、個人で所有している携帯宛だった。

 液晶画面に目をやると、娘たちの通う保育園からの着信が表示されている。

 慌てて通話ボタンを押す。

 

 

 

      *

 

 

 会社の一期後輩に当たるテーマパークの責任者の一人に相談し、早退させてもらうことを決めた。

 同僚たちへの申し訳ない気持ちが募るが、ツムギの状態がとにかく心配だった。

 

 ――ツムギちゃんが、保育園で二回も吐いてしまって・・かなり具合が悪そうなんです。

 

 電話越しに、保育園の先生はそう言っていた。

 

 

 

 僕がいま住んでいる家は、総武線で新宿を一つ過ぎた大久保駅から歩いて十分ほどのところにある。

 日本語学校と韓国料理屋と、くたびれたホテルが沢山ある、かなりカオティックな地域だ。

 

 おそらくここは多くの人にとって「子育てしたい街」の候補に入らない地域だろう。

 しかし、僕にとってはこの街での生活は、満員電車での通勤を除けば、悪くないものだった。

 

 妻との離婚後、まもなく両親の住む実家に近いこの街に引っ越した。

 今の賃貸マンションの近くにはかなり大きい公園があり、休日に子供たちと遊ぶときは、決まってそこへ向かう。

 ルナとツムギにはそれぞれお気に入りの遊具や遊び方があり、この公園では時折、同じ保育園の友達とも遭遇する。

 

 

 

 

        *

 

 

 

 保育園に着くと、既にルナとツムギは同じ教室に居て、ツムギは年配の保育士さんに抱っこされていた。

 保育士の先生がツムギに、お父さん来たよ、と声を掛けるが、ツムギはぼーっとしたまま、反応がない。頬が赤く、目は普段よりとろんとしていて、いかにも熱が有りそうに見えた。

 

 ルナが、

 

 「ツムちゃん、つぶつぶになっちゃって」

 

 と言い、肌に蕁麻疹が出たんだな、とすぐに理解した。

 

 「ツムちゃん、お待たせしてごめんね。

  帰って寝よう」

 

 そう声を掛けると、ツムギは小さい顔を静かに傾けて、頷いた。

 

 

 ありがとうございました、と保育士の先生に声を掛けて、教室の外に出る。

 具合の悪いツムギを左腕で抱えるように抱っこして、右手でルナの手を繋いで歩く。

 仕事を早退して向かったものの、保育園を出る頃には空はほとんど真っ暗になっていた。

 

 「ツムちゃん、かわいそうだね」

 

 「そうだね。熱はそんなに高くないみたいだけど、家でゆっくり休もうか」

 

 ルナと言葉を交わしながら歩く。

 保育園から自宅までは一人で歩くと十分とかからない距離だが、娘たち二人を連れて歩くと、二十分はかかる。

 

 

 「このまま、おうちに帰るの?」

 

 ルナが突然、言った。

 

 「そうだね。ツムちゃんも具合が悪いし」

 

 僕がそう言うと、ルナは遠慮がちに、

 

 「スーパーでお菓子、買いたい」

 と言った。

 

 僕は迷ったが、左腕で抱えているツムギに、

 

 「お菓子買ってから帰る?」

 

 と訊くと、具合が悪いはずのツムギはすぐに頷いた。

 

 

 

 

 家と保育園の間にあるこの「マルヤ」というスーパーマーケットは、自宅から徒歩五分ほどのところにあり、二、三日に一度は買い物に来る。

 

 この大久保の街には、生まれてから大学に入って一人暮らしを始めるまで、ずっと住んでいた。

 

 「マルヤ」は昔から変わらず、ここにずっとある。

 しかし、僕が子供の頃から今に至るまで、街全体の眺めは随分と変わった。

 

 騒々しい、眠らない街。

 

 その雰囲気は、僕の幼少時とさほど変わらないのだが、十五年ほど前に起こった韓流ブームがこの街を大きく変えた。

 元々、この辺りは昔から韓国や中国、台湾から日本に来て生活をしている、アジア圏の外国人が多い地域だ。

 そして、約十五年前に日本に突然起こった韓流ブームによって、この街のメインストリートである大久保通りや職安通りには、韓流アイドルや韓国人俳優のグッズを売る店が爆発的に増えた。

 

 しかし韓流ブームの盛り上がりは徐々に衰退の兆しを見せる。ここ五年ほどはその傾向は特に顕著で、この街を訪れる韓流ファンの数は僕の見たところ、十年前のそれと比べると半分も居ない。

 

 

 

 

      *

 

 

 「マルヤ」はそんな大久保の激動に対して、我関せず、と言わんばかりのスタンスで何十年もここにある。

 この騒々しい街の住民たちの、食料品や日用品の買い物のニーズを一手に引き受け続けている。

 

 

 スーパーに入るとツムギは、降りる、と言ってカートから降り、歩いて菓子コーナーへと向かっていく。どうやら症状はそれほどには悪くないようだ。

 

 ツムギはアンパンマンの形のチョコレート、ルナはいちご味チョコレートのアポロの小箱を手にして、満足気に家へと向かう。

 僕も「おつとめ品」として半額のシールが貼られていた総菜をいくつか買い、夕飯の準備の手間が半減されたことに、ほっとしていた。

 

ツムギの具合が悪かったこともあり、その日の晩は二人を早く寝かせることが出来た。 

 

 




 IMG_9460


 

 

約束をしよう ギリギリ守れないぐらいの

ここのところ、
ちょっと、うまくいってない。

自分自身が。



IMG_8115




理由は複合的なもの、
と言ってしまえばそれまでなのだけれど

要は焦りと苛立ちだ。
自分自身への。



FullSizeRender




でもね、
こんなピンチは何度も経験してきた。

もちろん
「その都度うまく乗り越えてきた」
なんて、
とてもじゃないけど言えない。


それでもまだ、
バンドは続いている。



でも。
続ける為に
続けている訳じゃ、無いんだ。

それは100%違う。


IMG_7919




でも、
そんなこのバンドに、
俺のぐしゃーっとした気持ちの中の少しでも綺麗な一滴に、
愛情や愛着や独特の味わいを感じてくれている人が居るのも事実で。


大好きで居てくれている人が居るのも、
事実で。



FullSizeRender




七月末にね、
レコーディングを再開して、その分のミックス音源が完成しました。

良い音源が出来たと思う。
エンジニアさんもそう言ってくれた。



IMG_7598




8/23にはライブもありました。


8/23(金)
渋谷LUSH
セットリスト

1、タバコ
2、チャイナ・ブルー
3、Dance.
4、霧雨みたいな恋でした
5、月が綺麗ですね(新曲)
6、そんなの無理だし。



FullSizeRender





一曲目は「タバコ」

多分、七年振りにステージで演奏した。

後からライブの音源を聴いたけれど、
我ながら、
一曲目に持ってきたのは、
とても良かった。

クーニーもようこちゃんも
初めて演奏した曲だったけど、
バッチリだったね。




IMG_7271




新曲の
「月が綺麗ですね」も、

大好きなイラストレーターのyanaさんに描いて頂いた、
バンド初の全編アニメーションMVを八月に公開したばかりの
「霧雨みたいな恋でした」
も、気持ち良く歌えました。





凄く良いライブだった・・!

打ち上げで呑み過ぎるまでは、、!笑





久し振りにライブハウスで、
あんなになるまで酔っ払ってしまった。

最後は楽屋で寝ちゃってさ。笑

俺の大好きなLUSHの下石さんに、

「吉田くーん、そろそろ・・」

って、優しく起こされて、、、


ああ、もう、本当に恥ずかしい。




IMG_7849





でも、
若い時はよく、
ライブの打ち上げで酔っ払って、
寝てました。それも外で。

特に下北沢のQueのライブの後・・

秋とか、夏とか、
気候が良いと、酔ってぐうぐう寝ちゃってたな、あの時は、、
9年前ぐらいかなあ。
大体朝の4時ぐらいになると田代さんが起こしに来てくれて。笑




IMG_5722






ともかく今年もあと四ヶ月を切り
(急だね)
果たして・・

今年中のアルバムリリースは叶うのか!??

という状況ではあるけれど、

色々、良い発表が出来ることも出てくると思うので、
楽しみにしていてね。



ちなみに、
10/23(水)に今年初の吉田ソロライブを渋谷LUSHでやります。

久し振りだから、
しっかり練習する。




そして、
11/23(土)・24(日)に静岡県浜松市のLiveHouse窓枠で行われる、
一番好きな屋内サーキットイベント、
「ララC!」
に三年連続で今年も出演させて頂くことになりました!



どっちも、
楽しみにしていてね。




いつもネズミハナビを聴いていてくれて
人生の中に置いていてくれて、
本当にありがとう。


また書くね。




IMG_7427





青は藍より

レコーディングの前は、
いつもナーバスになる。

これはもう、
十年以上前から、そう。



FullSizeRender




俺のようなC級ミュージシャンにとって、レコーディングがどれだけ大きな、
そして数少ないチャンスかってことが、
分かってるから。



FullSizeRender




そんなプレッシャーが祟ったのか、
調子を崩してしまって。

昨日のスタジオリハーサルに、
行くことが出来なかった。



FullSizeRender





二人には本当に申し訳ないことをしたのだけれど、、!!







クーニーは直ぐに、
こんな風にLINEの返事をくれた。




IMG_7228


何という優しさ。



ようこちゃんも、

「良い感じに沢山、クリック練習が出来たよ」

と連絡をくれた。





持つべきものは良い仲間だ、
と心から感謝しています。


これまでだって、一人では、
13枚のCDを出せていなかった。
絶対に。





FullSizeRender





「縁」なんて、

古い言葉かもしれないけれど。

袖振り合うも多少の縁、
コンビニでお釣りを渡してくれる店員さんの笑顔が素敵だったら、
それも縁。




IMG_7176




クーニーとも、
ようこちゃんとも、
昔、それぞれ別のバンドでネズミハナビと何度も対バンした。


会えば話す、
という位の関係だった。




そんな二人の共通点は、

ネズミハナビがピンチヒッターを必要とした時に心意気で応えてくれて、
そして、今まで一緒にやってくれている、ということなんだよな。



IMG_7082





不遜で生意気な十年前の俺が、
今へと繋がる縁を作ってくれていた。





何だか、
今回はカタい文章になってしまったね。。。笑






とにかく泣いても笑っても、
三日後にはレコーディングです。





新作を、
楽しみにしていてね。




FullSizeRender


心中。

「心中」という行為、

というか文化、というか、

概念というものは、

どうやって、

いつから生まれたのだろうか。


そんな事をふと思った。




FullSizeRender




WikipediaやGoogleに頼るのは無粋だ。

何も持たず、
考えてみよう。



FullSizeRender




訳あって結ばれることが許されない者同士の、究極の愛の選択肢。

それは容易に想像できる。

「一緒に死ぬ」=永遠になる、

という概念なんだろうな。


「これで現世の苦労も終わり、
二人は永遠に結ばれるんだ・・」

というところ、だろうか。





FullSizeRender




この令和の時代、
いや、平成の頃だって、

家族で無理心中、とかはあっても、

「純愛を貫かんが為の心中」

という事件は無かったように思う。




FullSizeRender




良い時代になったんだと思う。

医学の進歩や文化の発展と似ているんだろう。

あるのか無いのか分からない「あの世」や「来世」を信じて命を捨ててしまうんだもの。

まあ、身も蓋も無い書き方をしてしまえば、

馬鹿だよね。



FullSizeRender




でも個人的には、

そこまで追い詰められて心中を選ぶ、

というロマンチシズムはきらいじゃない。

本気で生きている人が好き、

ということもあるけれど。


FullSizeRender





どうせ生きても離れ離れ、

そんな人生に、
価値はない。


分からなくは、ない。




FullSizeRender





でも今の時代なら、

それだけの勇気があれば、

どんなに色眼鏡で見られようが、

罵声を浴びせられようが、

倫理に反していようが、

命まで取られることは、きっとない。




FullSizeRender




心中が無くなったことは、

人間自体の情熱の烈しさ、
が弱まった訳ではない、

と思いたい。



そんな、
梅雨の明ける気配のない、
7月15日。



FullSizeRender



5月29日の日記。

ブログを書くのが随分と久し振りになってしまって、
ごめんなさい、、!
(いつもそんな書き出しだ)


今はマクドナルドの二階の窓際席で、
賑わいの有る商店街を見ながら、
アイスコーヒーを飲んでいます。


FullSizeRender



ネズミハナビは今、最高傑作のアルバムを完成させる為に、
新曲作りに励んでいます。


かなり課題が見えてきたよ。

今の三人は、ほんとうに良い。



IMG_6164




ようこちゃんもね、
良いバンドをやってきた人なだけあって、凄く鋭いこと、
必要なことを指摘してくれたり、
提案してくれるんだ。





自分で無意識にサボっていた、
ギターやアレンジ作りの実力を上げることに直結することなので、
それが凄く嬉しいんだ。

今まで、実は、
あまりそういう人は居なかったから。


IMG_6127




昨日、とても良い曲が出来た。


まだ半分ぐらいだけれど、
昨日、クーニーとようこちゃんに弾き語り音源を送って、
夜中に携帯を見たらようこちゃんから、

「新曲とても良い感じだと思うよ」

と連絡があった。

今朝はクーニーから

「俺もいいと思った!」

とラインが。

嬉しい。





IMG_6254






もう人生の半分以上、
バンドをやっているけれど、
作った曲を初めてメンバーに聴かせる時は、
未だに少し緊張する。






最初のリスナーは、
バンドのメンバーなんだ。

これってとっても大事なことで、
一人きりで「ネズミハナビ」として活動していた時、

2014年の終わり頃かな、そういう時期があったんだけれど。



正直、なかなか曲を作れなくて。



FullSizeRender





誰に向けて作曲すればいいのか分からなかったというか。

いや、
勿論リスナーに向けて、世間に向けて、作ればいいんだけれど。


それが俺には出来なかった。

やっぱり、バンドっていうものが大好きなんだよね。


FullSizeRender




と、ここまで書いたのが5/29でした。

今は6/5の朝。

これから、ブログももっと書くね。

やっぱり俺にはこういう時間も、

必要みたいだから。


読んでくれてありがとう。




FullSizeRender






廓(くるわ) 二

 「寒いから、呑みながら待ってて」

 大迫さんはそう言いながらトレンチコートを着て、レジで店員に、

 「クルマ取ってすぐ戻ってくるから。
あの女の子、ひとりだから一応気を付けてあげて」

 と、声を掛け店を出た。

 中国人とおぼしき店員は、一瞬驚いたような表情を浮かべて、すぐに小刻みに何度か頷いた。


 どうしてあんなに気が利くんだろう。

 
 大迫さんが、少し離れたコインパーキングまで車を取りに行く間、店の中でビールを少しずつ呑みながら、そう考えていた。

 私はお店にとっては確かに一応、お金を生み出す商品なわけで、そしてこの吉原のソープ街は凄く入れ替わりが激しくて、そして狭い業界だ。

 人気の女の子が他のお店に移った、というのはよく聞く話だ。大迫さんのような男性従業員が店長やもっと怖い人達から、私たちのことを丁寧に扱うよう厳重に注意されていることは想像できる。

 それにしても。

 どうして、大迫さんの気遣いは、あんなに心地良いんだろう。
もちろん恋愛感情では無いのだが、
信頼感を強く持たずにはいられない。



 店の前に見慣れた黒い車が停まって、大迫さんが出てくる。
中華料理店の自動ドアが開いて、私の向かい側に再び座った。

 「ありがとうございます」

 私がそう言うと、大迫さんは表情を変えずに小さく横に首を振ってテーブルの上の伝票を手に取り、

 「もう行くんで、大丈夫?」

 と、私に訊いた。
 私が頷くと、伝票を掴んだ側と逆の手で、隣の椅子の背に掛けてあった私のコートを、私に差し出した。




      
            *




 吉原周辺から私の住んでいるマンションまでは、車で大体三十分かかる。

 「横になって、寝てていいから」

 いつも通りそう言われ、後部座席に座らされる。

 もちろん横になることはないが、気付くと座ったまま後部座席で眠っていることはしょっちゅうある。
 
  今日もいつも以上に疲れは溜まっているが、なんとなく眠る気にはならない。

私はバックミラーに映る大迫さんの鋭い目を、なんとなく見続けていた。



 「大迫さん、奥さんと息子さんにはどのぐらい会ってないんですか?」


 気付くと、私はそう話し掛けていた。

 大迫さんは黙ったまま窓を開けて煙草の煙を吐き、外に少し灰を落とした。


 「もうすぐ二年近くになっちゃうね」

 いつも通りの淡々とした声で、大迫さんがそう言った。

 「長いですね・・お子さん、幾つになりました?」

 そう訊いて、私はすぐに後悔した。
 
  疲れと酔いが相まって、判断力が鈍くなっている。

 ヤクザのような、そうではないような、でも、限りなくそれに近い場所で生きてきた人に対して、立ち入り過ぎたことを訊いてしまった。



 「八歳だね。小二。でかくなってんだ。写真で見るだけでも分かるよ」

 大迫さんはいつもより明るい声で、少し笑みを浮かべながら言った。
 私は内心ほっとして、

 「奥さんから写真は送られてくるんですね」

 と、明るい声を作り、言った。


 また大迫さんが、外に向かって煙草の煙を吐いた。
 
それからしばらくして、

 「そうだね。別に、すげえ仲悪いってわけでもねえんだ。何なんだろうな、これ」

  強面の彼が、
  細い目を更に細くして、笑った。


 本気で笑っている大迫さんを初めて見た気がして、なんだか嬉しくなった。

 「ガキには会いてえけどさ、何喋っていいのか分かんねえな・・『宿題やってるか?』とか、くだらねえ事しか思い浮かばねえ」

 いつもより饒舌な大迫さんの様子を見ながら、私はふと自分の人生について考えていた。



 私は高校生のとき、百円ショップでアルバイトをしていたが、学校もバイトも適当にさぼって、よく体を売っていた。

 一日も早く、
お金を貯めてあの家を出たかった。

 私が中学二年生の時にパパが突然事故で死んでから、うちは地獄になった。

 母親はいつも怒っているか泣いているかのどちらかで、一人っ子の私は、母にとって感情をぶつける対象でしかなかった。



(続く)

IMG_3661

All You Need Is ’LOVE’

少し心が疲れてしまっているんだ。


だから、
今まで当たり前に書けていたブログも書けなかった。

ごめんね。




FullSizeRender




いつも、冬はちょっと心の調子が悪いことが多いのだけれど、

今年はそうでもなくて。


それは良かったんだけど、

その分、春になってきた今、

どん、って来ちゃったのかな。



FullSizeRender





今は映画「アイ・アム・サム」を観てたんだけど・・

相当泣きながら観ててさ。笑

だって凄い良い作品過ぎるんだもの。

だから、観終えちゃうのが勿体ない・・

とか、思って。


小説でも、映画でも、

音楽のアルバムでも、

素敵な作品に対してはこんな気持ち、

たまにあります。




FullSizeRender





2月15日の渋谷と、

3月2日の名古屋のライブはどちらも本当に素晴らしい夜で、

本当に楽しかったんだ。



FullSizeRender




2/15 渋谷LUSH

1、オボロヅキ
2、JAPANESE GIRL
3、天国なんて行きたくない(初披露新曲)
4、Dance.
5、霧雨みたいな恋でした
6、ハッピーライフ



IMG_3628





3/2 名古屋DAYTRIP

1、オボロヅキ
2、天国なんて行きたくない
3、チャイナ・ブルー
4、霧雨みたいな恋でした
5、Dance.
6、クラッシュ

enc.ハッピーライフ



FullSizeRender




良いライブをやる、できた、

ってことが一番の元気の素で、

生きてる実感で・・

その効果が、もっともっと、

長持ちすればいいのにな、

なんて、いつも思ってるよ。





IMG_3884




バンドはとっても好調です。

ようこちゃんとやり始めて、

一年近くが経って、最近は凄く良い感じに、

ハイペースで新曲も出来てきているし・・!


何より、お互いの音楽の波長みたいなものが合ってきた。



だからライブは、

ここのところいつも、

凄く気持ちよくやれています。



IMG_4669





ようこちゃんはね、

スタジオに来るときも、

最初に顔合わせる時、笑顔で来てくれるんだよね。



バンド内のこういう話を書くのも、

青臭いというか、

少し照れ臭いことだけれど。




IMG_4226




その「笑顔でくる」っていうのが凄く、

人間として大人だなあ、

大切なことだよなあ、って思うんだ。





俺なんか考えこんじゃう方だから。

たぶん、クーニーも意外とそうかな。


口角上げようと思っても、

周りから見たら、

怖い顔とか暗い顔してる時、

あるんだろうなあ、って、思う。笑




IMG_4683






楽器や声やメロディや言葉で、

人の心を動かしたいって人間が、

自分の曇った心も動かせないんじゃ情けないね。



口角上げていきますよ。

強く、明るく、優しく。


そしてかっこよくやろう。


そういうバンドだと思うんだ。

ネズミハナビは。



IMG_4682




また書くね


書いたら少し、気持ちが晴れたよ。




FullSizeRender




廓(くるわ)

コップ一杯のビールだけで、私は少しくらっ、とした。

 小さなテーブルの向かい側に座る大迫さんはそんな私の様子に気付いたようで、

 「疲れてるよなあ、そりゃあ」

 と、いつもの落ち着いた声で言った。

 「大丈夫です。明日やっと休みなんで」

 大迫さんは微かに笑みを浮かべ、優しい手つきで煙草をくわえて火を点ける。煙が私の方に向かわないように指を曲げて、小さく頷きながら言った。

 「真っすぐ帰っちゃっても良かったのに。悪いね」

 「明日はもう、爆睡するんで大丈夫ですよ。それに、大迫さん一人で食べるの寂しいと思うから、付き合ってあげますよ」

 私は冗談だと分かるように、笑みを浮かべながら言った。

 鋭い目つきと細い眉、痩せ型だがどう見ても堅気の人間とは違う雰囲気を纏ったスーツ姿の大迫さんが、目を細めて笑う。

 不思議な迫力の有るその笑みに内心ほっとしながら私は、もう一口ビールを喉の奥に注ぎ込んだ。苦くて、炭酸の強い、いつものビールだ。

 『仕事の後の一杯の為に生きているんだ』という言葉を昔からよく聞くが、どうやら私にはその言葉は当てはまらないようだ。
 きっと、私の仕事の中身のせいだろう。
 いや、仕事の内容じゃなくて私自身の問題かもしれない。

 「今日は本当に良く頑張った!ビールが美味い!」

 と爽やかに呑めている同業者は、居るのだろうか。私にはあまりイメージ出来ない。でも、そうやって美味しくビールを呑めるソープ嬢はきっと沢山居て、そんな彼女たちを、私は心から羨ましく思う。

 「カオリちゃんさ、餃子と春巻、どっち食いたい?」

 大迫さんが、アサヒの中瓶から私のコップにビールを注ぎながらそう言った。

 「あー・・お腹空いてるんで、両方でもいいですか?」

 「おう」

 大迫さんはそう言うと、お兄ちゃん、と側を通りかかった店員に声を掛けた。

 「餃子二人前と春巻き一つ、あとチャーハンちょうだい」

 中国人とおぼしき男性店員が注文を復唱し、立ち去る。

 「ありがとうございます。・・・大迫さんも飲みたいですよね、すいません」

 「いや、大丈夫だよ。カオリちゃんを送ってくまでが俺の仕事だから。帰ったら浴びるように飲むよ」

 少しの沈黙のあと、大迫さんが、

 「なんか、さっきカオリちゃんも同じようなこと言ってたよな」

 と、笑った。
 私も軽く笑って、ふと中華料理店の大きなガラス窓から外を見た。


 東京都台東区千束四丁目ーー
この一角の雰囲気は、まるで異国のようだ。
 吉原、と呼ばれるこの一帯は、造りからして不思議な空間だ。
 何本もある似たような通り。人通りは少ないが、古びた喫茶店のような店の間に「入浴料一万円、総額三万円〜」といった看板のある、粗末な造りのソープランドがほぼ等間隔に並んでいる。

 そして朝から夜まで、それぞれの店舗の前にスーツ姿の胡散臭い客引きの男が立っている。

男達はまるでそれぞれの店舗から見えない首輪で繋がれているかのように、
一定の距離以上は動かずに立ち続けている。


 「お待たせ致しました」

 中国人訛りの声と共に料理が運ばれてきた。



 瓶ビールからコップにビールを注いで、空になった瓶をテーブルの上に置いた時、

 「カオリちゃん、いつまでやんの?この仕事」

 と、大迫さんが言った。

 「決めてないですけど・・結局こっちに戻ってきちゃうんですよね。でも、そんなに長くは・・需要も無くなるだろうし」

 笑いながら私が答えると、大迫さんは眉間を上に寄せるような表情をしながら小さく頷き、空になったビールの瓶を一瞥して店員に向かって、瓶ビールもう一本ちょうだい、と言った。



IMG_3293

最後には、笑いましょうよ

2018年も残すところ、
あと九時間ほどとなりました。

今日の天気は見事な冬晴れ。

元旦も晴れるといいな。



FullSizeRender




今年は色んなことがありました。


うまくいかなかったこと、
悔しいこと、
情けなかったこと、
不安だったこと、
大変だったこと、
悲しかったことが、
沢山ありました。



IMG_2892




それと同じぐらいか、
もうちょっと多く、かな

凄く嬉しかったこと、
気持ち良かったこと、
楽しかったこと、
感動したこと、
感謝してること、
いま、楽しみなこと、
優しい気持ちになれたことも、
あります。



IMG_2786



色んな感情が混ざって、
一人じゃ抱えきれないぐらいになって、好きな人を巻き込んで、行動して。


曲を書くのも、

文章や小説を書くのも、

歌を歌うのも、

全部「誰かと分かり合いたい」

という本能的な欲求からです。



FullSizeRender




僕は異常な寂しがり屋で、
ある部分について、多分、
すごく敏感です。

いつも心のどこかが満たされない、
穴があいている。
お腹が空いている。

一緒に、側に居る人からしたら、
嫌だよね、きっと。



IMG_2943




今年は結構、愛しい人の死とか、
大きな事件とか、

「いざという時に、
その人の本性が出る」

というような、
かなりのピンチが複数、
ありました。

話さないけど、
話せないけど、

人に話したら、
「ちょっとそれは・・大変だったな」
と言ってくれるようなことが、
あった。


でも、
そういう時はなんとか頑張れるんだよね。

人間って誰でも案外、
本当に大変なことは、
乗り越えられるんだと思う。

それで、小さなことでつまずく。

そして大きな傷をつくる。




FullSizeRender




人生は難しいよね。

でも、去年より、
一昨年より、
五年前より、十年前より、

強く、賢く、上手く、優しく、
なっていると思いたいじゃない。

だから、あがくよ。


なんだか今回は抽象的なことばかり書いてしまって、ごめんなさい。




FullSizeRender





この間ね、
丸一日レコーディングをやって、
いま、
その音源のミックス作業が始まろうとしているところです。


二年振りのレコーディングは、
そりゃあもう、
気持ち良かったよ。

レコーディングの歌録りが、
大好きなんだ。

ヘッドフォンをして、
ブースの中でひとり、
マイクに向き合う。

部屋を少し暗めにして、ね。
ムードが大事なんだ。
曲の世界に入り込む。



セックスに似てるのかもしれないね。

録りたてのバンドの音と、寝る。

激しく、優しく。

大晦日に書くことが、
こんなことになってしまって、
ちょっと、ごめん。笑

凄く良い新作が出来そうです。

発表を、少し首を長くして待っててね。




IMG_2808




今年、ネズミハナビのライブに遊びに来てくれたみんな、
本当にありがとう!

ライブに来れなくても、
家で、車で、街で、イヤフォンで、ヘッドフォンで聴いてくれていた全ての人達、本当にありがとう。



2019年、

最高の新作と、
最高のライブを沢山、
お届けします。


良いお年をっっ



IMG_2937



雨漏りするなら直せばいいじゃん

レコーディングを、
年末にかけて行うことにしました。


突然、決めました。

(そうやって昔からいつも、
メンバーを心配にさせるという・・)



IMG_2341




でも直感でね、
かっこつけてしまうけれど、
今しかない、
って感じたんだ。


ある朝、起きてすぐに。



IMG_2339




僕の場合はだけど、
直感はいつも朝、起き抜けです。

曲が出来るのも、
朝。

まだ誰も起きてない時間。





IMG_2340




最近の新曲たちなら、

凄く良いものが出来そうだと思ってます。


この激動だった2018年の年末に、
レコーディングっていう、、

世界で一番か二番に好きな挑戦をさせてもらえるのが、すごく嬉しい。



レコーディングは、
本当に大変だけど、
大好きです。



だって奇跡が起こるんだから。
それを、作れるんだから。



FullSizeRender




ミックスの時、
エンジニアさんやメンバーと音やアイディアを詰めていく作業も好きだし、
何より一番大好きで興奮するのは、
歌入れです。


変な言い方だけど、
歌録りってさ、
ひとりきりでブースの中にいて、
マイクと向き合う。

ヘッドホンとモニターで、エンジニアさんとやり取りする感じが、
ガンダムとかエヴァンゲリオンに乗って戦ってるみたいなんだ。


集中してるから、
汗もかくし、
凄い気持ちよくて。

大好きなんだ。




IMG_2331
(髪切ったんです・・)



新作をどういう形でお届けするかも、
楽しみにしていてね。



もっと書こうと思ってたこといっぱいあったんだけど・・

今朝は寒いけど、
天気がいいね。

お互い良い一日にしよう




FullSizeRender




また、書くね。



ララCについて、愛について。

近所のショッピングモールで、
いまこれを書いています。

目の前にはケンタッキーがあってね。
カーネルおじさんがこっちを見ています。

パーティーバーレルXmas早割、かあ。


ケンタッキーの隣にはサーティーワンアイスクリーム。

サーティーワンのお店や、
看板の色はもうなんだか、毎日がクリスマスみたいだ。

明るい。



FullSizeRender




俺はふつうにしてるとすぐに心が暗くなるので、
こうやって明るい場所で書く、とか、
そんな小さなことが、
気分が、とても大切なのです。




さて!!

先日25日の日曜日は・・
やってきましたよ。

浜松・窓枠にて!

「ラジオを聞いてライブに行ってCD買おう!」

通称「ララC!」


FullSizeRender



去年、
はじめて呼んで貰って・・
凄く楽しくてさ。

それで、九月頃だったかな、

「出たいな、今年も・・(主催者の)上嶋さんにメールしてみようかな」

と思ってたその日に!

その上嶋さんから、
ララC!への出演のお誘いのメールが来たんだ。
本当だよ。


「よし!勇気出して、図々しく立候補だ!」
と思ってパソコンのメールを開いたら、
上嶋さんからメールが来てたんだ。

本当に嬉しかった。

大袈裟かもしれないけれど、
運命じみたものを感じてしまいました。




FullSizeRender




ライブはといえば、
本当に楽しくてさ。

最高の一日になりました。


11/25

浜松・窓枠
「ララC!」

1、クラッシュ
2、チャイナ・ブルー
3、JAPANESE GIRL
4、霧雨みたいな恋でした(初披露新曲)
5、エスプレッソ
6、優しい雨



IMG_2277




思えばドラムのようこちゃんとは、
初の遠征だね。

この日、初めて歌えた新曲「霧雨みたいな恋でした」を、
何人かのお客さんに、
「新曲、良かったです」
って言って貰えて嬉しかった。


「優しい雨」もそうだし・・
うん、やっと、
新しい素敵さを持った新曲、
溜まってきたよ。



FullSizeRender




クーニーの多才さとアレンジ力と、
ネズミハナビに新しい感性を吹き込んでくれたようこちゃんのお陰です。


新しいアルバム、
最高のやつ、作りたいな。



FullSizeRender



そして、
夜は嬉しいことに、
主催者でありTheビール飲もうズのVo/G、
上嶋さんのゲストとして、
ソロで弾き語り出演させて頂きました。


11/25 吉田諒(アコースティック)
セットリスト

1、ハッピーライフ
2、Dance.




FullSizeRender



浜松のお客さんは本当にあったかくて、
楽しかったし・・・

上嶋さんの歌が凄く良くて。
ぐっときて、
交互に歌えて光栄だったよ。



IMG_2274

(こちらの写真は上嶋さんのTwitterからお借りしました)



静岡の大好きな友達、
brand new SUNRIZEのリョーマ君も駆け付けてくれました。
リョーマ君もライブだったのに、
無理して、合間縫って来てくれたんだ。




FullSizeRender




本当に嬉しくて、
俺ね、人のこと、おまえ、って、
もの凄く親しい人以外に、基本的に呼ばないんだけど・・

リョーマ君が駆け付けてくれて、
「おまえは本当に最高だな!」
って言っちゃったからね。笑




FullSizeRender



大好きなイベントで、
ツーステージ歌えて最高だったよ。



FullSizeRender




帰りのクルマの中では、
運転手を買って出てくれた友達のたっちん(ありがとう!)
が、眠くならないように、疲れた体にムチ打って、
みんなで猥談をしながら帰りました。

いわゆる、エッチな話ですね。

僕は全然、興味が無いのだけれど。

仕方なく、ね。

たっちんが眠くなってはいけないから、ね。


仕方ない。やむなし、というやつだね。




IMG_2158





とにかく、幸せな日だったよ。

また、ぜったい浜松いくね。

長くなっちゃったね。




FullSizeRender



また書きます。



倒れるときは前のめりで。

朝はすっかり寒くなった。

いまも、
一時間ほど前に起きて、
数日振りにストーブのスイッチを入れて、
膝から下には厚手の毛布を掛けてこれを書いている、
というわけです。



IMG_1512




随分、
ここに書くのが久し振りになってしまった。

前回は
「どういう光景を見ても、
すぐにぐっときて最近、泣いてしまう」

ということを書いた覚えがあるのだけれど、
その辺はここ最近、
少しましになってきました。


調子が戻りつつある、
ということです。
きっと。



IMG_1663




大きな理由の一つはね、
自信を持てる新曲が、
ふたつ出来てきた、
ということ。


ひとつめは、
「優しい雨」という曲。



今年、急逝してしまった大好きな親友を想って作りました。


この「優しい雨」を、
先日10月16日の下北沢CLUB Queでのライブで、ラストにやって。


すごく気持ちよく歌えて、
手応えがありました。


セットリストを。



FullSizeRender



10/16 下北沢CLUB Que

1、オボロヅキ
2、チャイナ・ブルー
3、JAPANESE GIRL
4、ハッピーライフ
5、Dance.
6、優しい雨(初披露新曲)




FullSizeRender




半年振りのQueはやっぱり最高で、
店長の後藤さんにも、PAの中村さんにも、久し振りに会えて嬉しかった。


そして何より、今回イベントに呼んでくれたreading noteのみなさん、遊びに来てくれたみんな、
本当にありがとう!!



FullSizeRender




打ち上げでは、
共演したオトループのドラマー、淳さんと沢山話せて嬉しかった。

アツくて、素敵な人でした。

大学が一緒だったり、
高校も同じ系列のところだったり・・
偶然だね。



FullSizeRender




そして、
10月27日は成宮アイコさん、青山祐己さん、内藤重人さんの三人の企画、
「ハロー、言葉 Vol.1」にオープニングゲストとして出させて頂きました。


IMG_1755
(※写真は成宮アイコさんのTwitterからお借りしました)



まずはソロの弾き語りで歌って、
その後アイコさんとのコラボ曲「ほたる」を生演奏での初披露をして。




(以下四枚の撮影:無水教一さん)
IMG_1796



そしてその後、
一人三分ずつ、10人。
オープンマイクで詩を朗読する企画に。


アイコさんが、
「吉田さん、詩の朗読やってみませんか?」と誘ってくれて。

他の参加者さんの中に入って、
詩を一編、書いて朗読しました。



IMG_1793



この日のイベントの雰囲気、
すごく良かったんです。





なんていうのかな、
他にないぐらい、
お客さんも出演者も一体になって参加している、素晴らしいイベントでした。


IMG_1794



イベント後、腰痛で満身創痍の内藤さんを車で送っていってさ。

ふたりでゆっくり話したのなんて、
もしかしたら初めてかもしれないのに、心が不思議と落ち着いた。


なんでだろう。
いい人はいいね。
内藤さん、男前だよなあ。
見た目も、中身も。



出演者みなさんのライブも、
本当に素晴らしかった。


また出たいな。

「ハロー、言葉」
素晴らしいイベントです。



IMG_1797


話は飛んだけど、
自信を持てる新曲の二つめが、
凄く良いんだ。


三日前のスタジオで、みんなで作ってる間は本当、
ああでもない、こうでもない、
って苦労したけれど、

帰って聴いてみると、

「これ、本当に良い曲になったな」

って思えて。

何回も何回も聴いてる。

お風呂の中でも、
お酒飲みながらでも、
布団の中でも。



FullSizeRender



この感覚、しばらくなかったな。

正直、ここまで好きになれた曲は、
久し振りです。



明後日のスタジオでも、
更によくなりそうだから、
楽しみです。



11月もよろしくね。

や、
これからも、ずっとよろしくね。


また書きます。



FullSizeRender








Ustreamのアーカイブ映像はこちら −星の降る夜に−
月別アーカイブ
  • ライブドアブログ