2011年10月15日

狼少女のならす警鐘とプロレスリング/「ELEPHANT'S FOOT」

ヒロガラ林さん主宰、ガラ劇「ELEPHANT'S FOOT(エレファント・フット)」。
舞台のドアを開けると、そこは煙でたちこめ、前が見えない幻想的な空間だった。
しかし幻想的な雰囲気はまた、不安をあおり、掻き立てる。
そんな初日の感想を書きとめたい。
どんなに大きな音の警鐘も、慣れてしまえば耳をふさがずとも、眠ることさえできるもの。
たとえばプロレスラー・ヒロ斉藤選手の得意技として、セントーンという技がある。
スペイン語で「尻もち」、を意味し、仰向けの相手の腹部をめがけ飛び上がり、自らの背面を落としていくプロレス技です。

単純な技ゆえ誰が最初に使ったのかはわからない。しかしおそらく、
レスリングのベースにはない「高さ」を使うということで、画期的な技であったこでしょう。
しかし時は経ち、プロレス技がどんどん高度になるにつれ、比較的真似もしやすく、
受け身の取れる形で落ちるため、危険度は少ないと、見る側もやる側も思いがちになってしまう。

しかしヒロ斉藤いわく、実はメキシコでは亡くなる人の出る危険技。それも仕掛けたほうが危険な技。
背中から落ちることで安易、安全に見える技も、実は不安定な相手の体に乗るので、
仕掛けたあと不規則に頭や首から落ちる可能性が、非常に高い技であるというのです。
コーナー最上段からのダイビングセントーンなど、目測を誤れば脳を揺らすこと必至の危険技。
実際、今年は吉江豊選手が失敗し、試合中に脳震盪を起こしてしまったといいます。

使い手と知られるヒロ選手もキャリア33年の現在、そこからくる腰痛に悩まされ、試合の際は痛み止めを飲んでいるほど。
忘れがちだがプロレスに優しい技などなく、すべては身を切る、危険と隣り合わせの技なのです。

1997年のライガーボム、2000年のエルボー、そして2009年のバックドロップ。
たびたび3団体がまとまり現状における問題が叫ばれるが、時が過ぎればなかったことのようになってしまう。
もう見慣れたからいいのでしょうか。いや、違う。叫び続けることに意味がある。
劇中では狼少年ならぬ、羊飼いの狼少女が警鐘を鳴らします。鳴らし続けて得られたものは…。気付いた人は…。

舞台の本筋そのものはプロレスとは関係なく、もっと大きなものを題材にしているのですが、
いかにエンターテインメントに寄ろうとも、プロレスは危険である、というメッセージは、
うざがられても心に留めておかなきゃいけないフレーズなのだと、カーテンコールとともに心に響き気付かされました。
忘れることも怖いけれど、慣れより怖いものもないのです。

さて、ネタバレを避けつつ感想を書いていたら、ただのプロレストークになってしまったので、舞台の話に戻りましょう。
17人の役者さんがシーンごとに入れ代わり立ち代わり、別の役へと投じ、流れるように彩るのもこの舞台の特徴ですが、
レフェリーや実況という立場で西口レスラーを引き上げてきたガラさんの経験のなせる技か、
各人に見せ場を作りながらのこの構成は見事に尽きます。

そして扱うのは非常に難しい題材。笑いのフレーズとして出てきたワードであっても、
綿密な下調べからの脚本であることが、うかがい知れます。
一度観た人でも「落穂拾い」「羊飼いの少女」「にがよもぎ」「プリピャチ」そして「象の足」などのワードで検索し、
もう一度舞台を見に行くことで、必要最小限のセットにリアルな情景が重なり、
ドラマ性が一層浮かび上がること請け合いなので、お勧めしたいところですね。
また、上記ワードのどれか一つでも引っかかるなら、見ておいて損はない舞台ですよ。

「ELEPHANT'S FOOT」■ガラ劇第2回公演「ELEPHANT'S FOOT」
公演日時:10月14日(金)〜16日(日) ※全5回公演
■10月14日(金) 19:00(終了)
■10月15日(土) 14:00 / 19:00
■10月16日(日) 13:30 / 17:30(開場時間はそれぞれ30分前)
会場:高円寺明石スタジオ
チケット:前売¥2000 / 当日¥2500


【参考資料】
新日本プロレス携帯サイト「立会人カッキーのクワクワ宣言」第30回「セントーン職人・ヒロ斉藤」
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まともに歩けないほどスプリングを入れた「レスラーにやさしい」リング上で「死闘(笑)」を繰り広げる今のプロレス(ごっこ)の方がよっぽど問題
だから地味なのに効く寝技をしなくなり、技術が失われ、やろうにもできなくなったわけだからね
Posted by けつ at 2011年10月15日 12:40
「セントーン」を引き合いついでだが、ディック東郷選手が試合中に尾てい骨骨折してしまったけど、多分原因は必殺技の「セントーン」。 「セントーンマスター」という異名を持つ東郷選手でさえ、絶対的必殺技で怪我をするのですね。

どんな内容かと気になっていたら、こんな深い劇だったとは。
Posted by 通り菅井 at 2011年10月15日 13:41
●通り菅井さんへ
僕の中でオーバーラップしたというだけで、
実際の内容はプロレス無関係な(ほんのちょっと垣間見えますが)内容ですのでご了承ください。
深い内容というのはそのとおりで、いろいろ考えさせられました。
Posted by 漁師JJ at 2011年10月15日 19:06
●けつさんへ
大技に頼った試合構成はたびたび指摘されていますよね。
けして大技といえないセントーンでこのダメージなのですから、
日々身を削るプロレスラーという職業を心から尊敬します。
Posted by 漁師JJ at 2011年10月15日 19:09
昼の部行ってきましたー
たぶん今年の3月以降から作り出した舞台だと推測しましたが半年間で練り上げて作り上げるなんてスゴいですね。
「三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵」もキーワードのひとつでしたね。
伏線が張りまくられていて考えさせられて有意義な日曜日の午後を過ごさせて頂きました。
Posted by TJS at 2011年10月16日 18:53