【患者】49歳 男性
【主訴】不穏状態
一昨日までは異常はなかったが、昨夜から暴れるようになり、翌午前3時に救急搬送された。
この1週間、飲酒量が多かった。
【ER受診時のバイタルサイン】
血圧 120/72mmHg
脈拍 104回/min
呼吸数 23回/min
体温 37.0℃
SpO2 98%
意識レベル JCS3-R
※付帯項目:R(Restless) 不穏
「意識障害」の鑑別といえば、AIUEOTIPSですね!
【現病歴】
一昨日までは異常はなかったが、昨日午後から意味不明なことを喋るようになり、トイレでないところで排尿しようとする。昨夜からは暴れるようになり、翌午前3時に救急搬送された。もともとビール好きで、多い時は朝からビールの大瓶(633mL)を1日で12本前後飲み、この1週間も飲酒量は多かったらしい。昨日は朝から何も食べていないが、ビールはいつものように飲んでいたという。
【既往歴】健診、病院に行ったことがない
【家族歴】特記事項なし
【生活歴】
喫煙:20本/日を30年間
飲酒:毎日ビール大瓶8〜12本(5〜7.6L)
アレルギー:なし
【社会歴】職業:以前は建築業、2年前から無職
【内服】なし
【備考】
病院に来たことを理解しておらず、不穏状態である。攻撃的で、つじつまの合わないことを話す。一通り喋り終わると、傾眠傾向になる。こちらの指示には応じない。診察しようとすると抵抗する。
問診をとった段階で、改めて鑑別診断について、その可能性について討論して頂きました。
(赤字:強く疑う、黒字:まだ否定は出来ない、青字:可能性は低い)
【身体所見】
発熱、痙攣、嘔吐なし
頭痛は訴えない、発汗なし
眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に黄疸なし
頸静脈の虚脱、皮膚ツルゴールの低下はなし
手掌紅斑なし、羽ばたき振戦なし
呼吸音は肺胞呼吸音を聴取する
心雑音は聴取しない
四肢の浮腫は認めない
神経学的所見は正確にとれない(明らかな麻痺なし)
深部腱反射、項部硬直は評価不能
筋委縮なし
【検査所見】
簡易血糖検査器での血糖 : 141 mg/dL
血算 : Hb 14.0, WBC 7800, Plt 22.3万
生化学 : TP 6.4, BUN 7, Cr 0.5, AST 54, ALT 30, Na 107, K 3.2, Cl 70, Ca7.6
血中アンモニア 75(30〜86)mg/dL
血漿浸透圧 : 229 mOsm/kg
著明な低ナトリウム血症!(意識障害の原因)
血漿浸透圧予測式
血漿浸透圧(mOsm/kg)
= 2×Na + 血糖/18 + BUN/2.8
正常値:285~295 mOsm/kg
【診断】
ビール多飲症
beer potomania
食事摂取が少ない状況で、ビール多飲によって起こる低Na血症で、水排泄能を超える過剰な水(ビール)摂取が存在する。
【低Na血症】
血清Na濃度135 mEq/L以下を低Na血症といい、入院患者で最もよくみられる電解質異常。
急性型(48時間以内の発症)の低Na血症では脳浮腫が起こる。
通常、血清Na 125 mEq/L以上では無症状だが、それ以下になると、嘔気、嘔吐、錯乱状態、傾眠、痙攣、昏睡を呈する。
低Na血症の評価では、まず高張性や等張性の低Na血症を否定するために血漿浸透圧を調べる!
【低張性低Na血症の治療】
症状が軽微であれば、水分制限
基礎疾患の治療
Naの低下が高度で、痙攣をはじめとした重篤な中枢神経症状が見れる場合、高張食塩水投与の適応となる!
※急性期のNa補正は120~125mEq/Lまで
今回の症例では、3%塩化ナトリウム溶液を77mL/時で投与
補助治療はフロセミド(ラシックス)
【今日のポイント】
低栄養、アルコール中毒では、Vit.B1欠乏(Wernicke脳症)による意識障害を考え、Vit.B1静注!
アルコールによる意識障害を想定した場合、アルコール離脱せん妄、アルコール性肝炎といったアルコール関連疾患を念頭に置く!
意識障害をみたら、
ABCの観察と処置
➠ Do DONT
➠ 頭部CT施行
➠ AIUEOTIPS
また、learning issues調べておきます。
お疲れ様でした。