シン・ゴジラ2回目見たので約束通り書きます。特に官邸方面の意思決定シーンを中心に解説していきますね。ネタバレ含むのでまだ見てない方はそっと閉じて今すぐチケット予約だ。

【初動段階】
初動は何が起きているのかわからないというところから始まるのでまず情報収集。矢口が「下へ降りよう」と言いますがこれは官邸地下の危機管理センターを指します。内閣官房が所管する官邸の危機管理対応のための施設ですが、内部構造などは非公開ですので「まああんな感じ」とだけ言っておきます。「既にキンサンチームが招集されました」というセリフが出てきますがこれは「緊急参集チーム」略して緊参チームのことで、自然災害、事故その他緊急事態が発生した際に内閣危機管理監が各省の局長級をこの危機管理センターに集めて初動対応を決めていきます。あらかじめ想定される事態では参集基準が決まっていて、例えば地震であれば「5強6弱」すなわち東京23区内で5強、それ以外で6弱が観測された場合は自動的に招集がかかります。ゴジラは当然想定されていないケースなので危機管理監が招集を判断したものと思われます。招集がかかるとメンバーはただちに参集して30分以内に会議が開催されるので、当然メンバーは常に30分以内に官邸に駆けつけられる位置に所在しなければなりません。ちなみに内閣府防災担当では統括官(=局長)と審議官(=次長)が交代で待機態勢をとっています。なお官房副長官はメンバーではありませんが、事態が大きければメンバー以外にも総理、官房長官、関係閣僚、副長官ほか皆集まりますので全てここでトップダウンで意思決定が出来ます。もちろん撮影が許可される訳はないのでセットです。ほかに各省の要員が集まるオペレーションルームが出てきましたが、あれは有明広域防災拠点にある施設を代用しています。

【緊急災害対策本部設置】
官邸の態勢が「官邸連絡室」「官邸対策室」へと移り、危機管理監が緊急災害対策本部設置を総理に打診します。これは災害対策基本法に根拠のある最高レベルの対応態勢で、総理を本部長、全閣僚を本部員として政府が全力モードに移ることを意味します。我々は「緊対本部」と呼んでいます。これまで東日本大震災でしか設置されたことがありません。その後、巨災対=「巨大不明生物特設災害対策本部」が登場しますが、緊対本部との関係がよくわかりません。本来は「巨大不明生物緊急災害対策本部」の事務局であるべきですが、緊対本部とは別の組織を立ち上げた設定かもしれません。
なお、緊対本部設置のために閣僚会議を開催して、いちいち会議が必要な煩雑さを嘆く、というシーンが出てきますが、実際にはこんなまどろっこしいことはしません。法律には総理が閣議にかけて設置する、と書いてあるので閣議開催が必要ですが、実際に閣議を開くわけではなく内閣総務官室(=閣議の事務をする部署)が電話で秘書官経由で全大臣の了解をとりつけ、「持ち回り閣議」という形式で設置を決めることにしており、毎年9月1日にはその訓練もやっています。実際に東日本大震災では発災後約30分で設置しました。法治国家ですので法律に則ったプロセスは当然必要ですが、緊急時にそのプロセスを出来るだけ簡略化する仕組みは作られています。

【自衛隊による対処】
いよいよ自衛隊による対処というところで法的根拠を議論するシーンが出てきます。シビリアンコントロールを大原則とする自衛隊では何をするにも「これは自衛隊法第何条に基づく行動か?」ということが問題になり、実際そこが決まらないと命令が出せません。作中では「治安出動」なのか「防衛出動」なのか、という議論になりますが、これは武器使用の総理判断につなげるための演出でしょう。実際にはそんな物騒な規定を振り回さなくても「災害派遣」(自衛隊法第83条)で行けると思いますが、それだと知事の要請だけで動けるため総理の出番がないので敢えてそうしたのでしょう。現場部隊の確認が上位の司令部を何段階も経て総理のところまで上がる様もリアリティがありました。ちなみに東京都が自衛隊に要請するシーンで東京都庁の災害対策本部会議室も出てきましたがあれは実物を使ってるようです。

【官邸からの撤退】
いよいよゴジラが都心に迫り、官邸からの撤退を決断します。ここでは「市ヶ谷も有明も近すぎるので立川へ」というセリフが出てきますが、これは首都直下地震を想定した緊対本部設置を念頭に置いているものと思われます。首都直下地震では都心部も被災しますので官邸その他が機能しない状況も想定され、その場合にどこに緊対本部を置くかはあらかじめ決められています。すなわち総理官邸が使えない場合は、内閣府(中央合同庁舎8号館)→市ヶ谷(防衛省)→立川(内閣府予備施設)という順序となり、今回は第4順位の立川を選択したことになります。ちなみに有明(広域防災拠点)は選択肢に出てきませんが、ここは首都直下地震の際の現地対策本部予定場所として想定されています。なお本部要員は自衛隊大型ヘリ(CH-47)で移動しますが、総理ほかは総理専用機として使われるスーパーピューマで移動することになり、作中でも木更津から2機持ってきています。2機持ってくるのは自衛隊の要人空輸では常に不慮のトラブルに備えて予備機を用意するためで、おそらくリスク分散のために総理と官房長官は別の機体に乗ったと思いますが両方ゴジラに撃墜されたのでしょう。

思いつくままざっと書きました。他にもたくさん書きたいことがありますがとりあえずこんなところで。