2008年02月14日

自作小説『ネゴシェイション』第179話

バレンタインの日ですね。
義理チョコまで手作りするという女性、私の周りには多いです。チョコの価格が高騰してるため、手作りの方が安上がりなのか?

手作りチョコで心配なことがひとつ。というのは、相手の男性を勘違いさせかねない。
「ほんとは俺に気があって、本命チョコじゃねえの? 義理とか言ってるけど照れてんのかな? デヘヘ」
みたいな。

そんなトラブル防止のため、知人女性にアドバイスしました。
私:「義理チョコにはちゃんと、『義理』って刻印した方がいいぞ」
女性:「わかった。RYUYAくんにあげるのにも、『義理』ってしっかり刻印しとく」
私:「どうせなら『仏恥義理(ブッチギリ)』にしてくれ」
女性:「文字がふたつ増えると、その分チョコの容積が減るよ」
            ↑
オチがなくてすみません。
にしてもバレンタインって、いい年こいた成人男性も「ギブミー チョコレート」の精神になる日ですよね。
「何だかな〜」って思うのは私だけ?

それはそうと小説本文、ヒロイン真希の登場シーンをやっと増やすことができそう。
っていうか、「片桐真希がヒロインなの?」という突っこみ、あっちこちで受けてます。
真希のキャラを参考にさせてもらってる松原渓さん、サイパンに何と! CM撮影ロケ!
早く見た過ぎる! 撮影も往復も、無事でありますように。



・・・・・・・

会計を済ませ、片桐真希に声をかけようとした。
彼女は展示ラックに吊るされた商品を眺めている。盗撮器や盗聴器の存在を探知し、警報を鳴らす機具らしい。一見すると、UFOを模したアクセサリーのような形だ。
片桐真希がジーンズのポケットに手を入れ、振動する携帯電話を取りだした。ディスプレイを見るや何かのボタンを押す。振動が止んだ。通話拒否の操作をしたのだろう。
ゼットは訊ねた。
「出なくていいの?」
「いいんです」
心なしか声に棘がある。ゼットは直感した。好感をおぼえない男性からのクリスマスデートの誘いだろうと。
空腹をおぼえ、さらに訊ねた。
「腹減ってない?」
「少し。高瀬さんは?」
「夜は予定ある?」
答えによっては今は軽めにすませ、夜は荻窪の駅ビルで夕食をご馳走するつもりだ。
「六時からバイト入ってます」
「何のバイトか訊いていい?」
「スポクラのインストラクターです」
微妙なところだ。身体を動かすバイトであれば、軽食で済ませた方がいいかもしれない。ただ、片桐の体質もあるため何とも言えない。彼女に判断をゆだね、ファーストフードで済ませることで合意した。

彼女は名残惜しげな視線を盗撮、盗聴防止グッズに向けたが、レジへは運ばない。おそらくは予算の問題で。
代わりにゼットが買い、プレゼントすることにした。目から火が出るほどの価格ではない。何より、この程度では足りないほど片桐には感謝している。また、彼女自身は知らないことではあるが、水沢による危難の件での負い目もある。
片桐真希が言った。
「バイト先で使うつもりですから、自分で買います」
「片山ジムの更衣室でも使ってほしい。他の女性練習生も安心できるから」
「だったら会長が払うべきです。それにわたしは、いつもジムにいるわけじゃありません」
「園香とスパや銭湯に行くことがあれば、そのときも使ってくれ」
片桐真希はしばらく迷った顔を見せ、言った。
「じゃあ、お昼はわたしが持ちます」
ゼットはやむなくうなずき、思った。千羽鶴の折紙を皮切りに、どちらが代金を持つかの議論が、俺と片桐とのあいだではやたらと交わされる。

片桐真希は駅からすぐのスパゲティ専門店を選んだ。こんな高い店でおごらせるわけにいかない。そう言おうとすると先手を打たれた。
「身体を動かすバイトだから、カーボ・ローディングがいいんです」
テーブルで向き合うと、片桐が携帯電話の背面を向けてくる。
「はいじゃあ、いち足すいちは?」
「やめろよ」
「せっかくお洒落してるんだから、園たんに見せてあげないと」
「この髪型、変じゃないか」
「似合ってますよ。ところで高瀬さん、好きな俳優って誰です」
似てると言って笑顔を引きだす、ありふれた謀(たばか)りに違いない。頬の筋肉に力をこめゼットは言った。
「ジャン・ユーグ・アングラード」
「今日の高瀬さん、ジャン様そっくり!」
黄色い声が頬の筋肉をくすぐり緩めた。同時に、携帯電話が光り電子音を響かせる。片桐が勝ち誇った顔で画像を見せてくるのが癪で、唇をとがらせ言った。
「片桐の声が面白いから、つい笑っちゃったじゃねえか。っていうか、アングラードが誰だか知ってて言ってんのか」
「『ニキータ』の恋人ですよね」
片桐が携帯電話を操作する。画像を添付しメールを送信したらしい。園香が新しい携帯電話を持っていないとすれば、おそらく矢舘杏奈の携帯電話に。

園香へのプレゼント選びになぜ付き合ってくれるのか。ストレートに訊ねることを無粋と思わせる、和んだ空気につつまれた。
ふたりとも、モッツァレラチーズのスパゲティをオーダーした。佐々木にされたのと同じ質問をゼットはしてみた。
「日本でも女子のプロボクシングが始まるらしいけど、片桐は出てみるつもりないの」
「法律を学びたいですから。ところで高瀬さんって、井川先生のゼミですか」
「そうだよ」
「わたしも杏奈も美宇も、来年は井川ゼミに入るつもりです」
ゼミについて、ゼットはいくつかアドバイスしながら思った。この話題のためだけに、今日付き合ってくれたわけではあるまい。他に何か用があるはずだ。

運ばれたスパゲティを食べ終え、セットメニューのコーヒーを飲みながら片桐が切りだした。
「井川先生、ブログを開くよう高瀬さんに勧めましたよね。わたしと一緒にやってみません?」
これだったのか。そう気づきながらも疑問が残る。
「あのとき、俺が乗り気じゃないって気づかなかった?」
「今もですか」
返答に困った。井川教授は憲法上の人権が骨抜きにされることを恐れ、俺にブログを提案した。表現の自由とて例外ではない。アジア共通言語の普及にとっても障害にならないとは限らない。園香とデイヴの理想を援護射撃するため、井川教授の勧めに応じるのも悪くない。
そう思いはじめていたところに片桐真希からの提案だ。優秀な彼女となら、俺が独りでするより充実した内容にできるだろう。ただ、園香の問題を解決してなお、俺が前科者になっていないという保証はない。
「片桐がまず始めて、しばらくして俺も参加するって形はどうだろう」
「園香さんのことと関係するんですか」
できれば返答を拒みたい。だけど片桐は、筋を通そうとしている。まずは俺の了承を求め、それから井川教授に持ちかけるつもりだろう。

「そう。ただ、具体的なことを話すわけにはいかない。その代わり、片桐が始めるブログに協力してもらえるよう、俺からも井川先生に頼んでみる。それでどうかな」
「できれば園たんの意見も聞いてみて、ブログのコンテンツに反映させたいんです。高瀬さんもわたしも、法を学ぶ者としてはたしかに駆けだしです。それでも知らず知らずのうちに、法を知らない人たちと感覚がズレてないか、法律の条文に振りまわされるあまり血の通わない上から目線の言葉になってしまってないか、そのチェックを怠りたくありません。またそうしなければ、井川教授が論文ではなく、不特定多数の人に向けたブログという媒体を勧めた趣旨を没却しかねません」
「“趣旨を没却する”なんて言い方する時点で、俺たちの感覚は世間と十分ズレてるな。っていうかそれをアピールするために、わざとその言い回し使ったろ」
「バレました?」
「バレバレ。言葉は悪いけど、ルームシェアは園香との取引材料ってわけだ」
「その言い方でかまいません。園たんは当面の住まいを確保できます。わたしはわたしで、寝食を共にする園たんから率直な意見を聞きだし、ブログのコンテンツに反映できるってわけです。それに……」
言いづらそうにする片桐の言葉を、ゼットが継いだ。
「マイノリティの意見を反映させれば、より多角的で深みのあるコンテンツにできる。そう計算したんだな」
片桐がうなずき言う。
「お母さんの出身はフィリピンで、お父さんは在日中国人だったそうですね」
「そうらしい」
答えながら、ゼットは自分に言い聞かせた。園香の意思を尊重すれば、フィリピン人と中国人のハーフ、それでいいはずだ。

(第180話に続く)

ryuya777 at 05:29コメント(0)トラックバック(1) 
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