2009年10月30日

自作小説『ネゴシエイション』第499話

今日って、暑くなかったですか?


・・・・・・・

☆★☆★☆★☆

熱海のアジトに到着した頃には四時をまわっていた。世良と祥子はエスティマから降りることなく、岩井を残しそのまま走り去った。
予期せぬミニチュアダックスのプレゼントに、理沙は狂喜乱舞した。
岩井はやや気がとがめはしたが、世良ではなく自分からのプレゼントであると嘘をついた。
名前は呼びやすさと響きの可愛らしさから、『クー』に決めた。
生後間もないクーは、一日のうち多くを睡眠時間にあてる。彼をケージに入れ、先日合意したことを実行することにした。

理沙が言う。
「自殺サイトのBBSで復讐代行の依頼をつのるのは、リスクが高いと思う。世良とバッティングするかもしれないから」
「そうだな」
「そこで考えてみた。リスカ歴がある女の子としてブログを開いて、同じ行動に出てる女の子の悩み相談なんかを受けつけるのって、どうだろう」
「リスカって、必ずしも自殺未遂行為とは限らないでしょ。自殺を考えてる人ほど、誰かに強い恨みをいだいてるかな」
「人それぞれだと思う。同じようなブログ開いてる子は多いと思うから、トラックバック送ったりすれば輪が広がるかも」
「試す価値はあるかな。ただ、ここのパソコンを使うのはまずい。世良にハッキングされてる可能性だってないとは限らないから」

「じゃあ、どうする?」
「ノートパソコン用意する。ホットスポットでネットにつなげよう」
秋葉原に行けば、中古のノートパソコンが安く手に入るだろう。
次に、先ほど読んだ小説のワンシーンを理沙に話した。
彼女が言う。
「ジェシカっていう登場人物みたいに、身体が大きくならないだけじゃなくて、顔立ちも子供のままの人ってほんとにいるの?」
「いるって話、聞いたことある」
「都市伝説じゃなくて?」
「うん。何なら、インターネットで後で調べよう」
「このシーン、読んでて恐くなってきた。自分の欲望のためにこんな手段を考える人がいるなんて」
「このシーンが世良の想像によるフィクションなのか、それともヤツが知ってる実話をもとにしてるのか、今の段階では分からない」

「それでも恐い。だって……」
「理沙の気持、分かるよ。ジェシカみたいな存在を欲しがる男が実際にいることを、俺たちは知ってる。ロリコンじゃなくても、欲望の対象が幼児じゃなくても、多かれ少なかれ同じような欲望を人は誰でもいだいてる。自分が性的魅力を感じる異性が歳を取る姿を見るのは、誰だってつらい。逆に言えば、若い頃の自分にとってセックスシンボルだった同年代の異性が、自分が老いたときに若い頃の姿で現れたら……」
「自分の心まで若返るかもしれない」
「そう。場合によっては、身体まで若返るかもしれない。特に年老いた男の場合、性的機能が回復することだってありえる。たとえば政治家であれば、若い頃に感じた性的興奮の記憶を喚起されて、バイタリティを取りもどせるかも。世良の小説に書かれてることは、人が誰でもいだいてる心の闇。だから恐いんだ」

理沙は首を左右に振り、言った。
「あたしも性欲は否定しない。でも、その対象は相手の肉体だけじゃない。心、人格、そういったものを含めて愛せるようになりたい。もちろん、相手の肉体を欲望の観点からしか見れない人がいるってことも知ってる。でも、ある程度の年齢になってもそのままの人って、可哀そうだと思う。動物と同じじゃん」
「愛情と性欲は別、そう言う人もいるよ」
「そのふたつを自分の中でシンクロさせることができる、そんな人とめぐり合うことが生きる目的だと思う。他の人はどうか知らないけど、あたしはそうしたい」
岩井は思った。おとといの晩、理沙を抱かなくてよかった。欲望のまま抱いていたら、今この瞬間、自分を恥じていただろう。

(500話に続く)

ryuya777 at 22:51コメント(0)トラックバック(0) この記事をクリップ!
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