学校にあるスタインウェイが欲しいと友人が言っているのを目にしたことから、音楽の授業が懐かしいと思う今日この頃である。
 何が良いって、ご近所さんを気にかけることなく音を出せるのだ。音量が小さいがためにも廃れたと言われるリコーダーではあるが、狭い部屋であれば、近隣住民に対して良心の呵責を覚えるぐらいには大きな音を出すことができる。バイオリンほどの声量はないけれど、甲高い音は精神にぐさりと刺さって耳が痛くなるのだ。結果として、セロテープミュート(と呼んでいる。プラ管リコーダーの頭管から吹口の方へ細く切ったセロテープを差し込んで減音すること。掠れたフルートのような音色になる。セロテープなので固定が容易)なんてみみっちい手を使う羽目になる。
 学校のホールだといくらか気持ちよく(実際の腕前より二三枚上手に聴こえる)なれるし、健康のための腹式呼吸もこなせるのだ。あの抜けるように音の響く感覚は、家ではそうそう得ることはできない。ああ、手加減せず音を出す機会が欲しい。

 ある日の帰りは満月の夜道だった。駅まで歩く道すがら、ふと空を見上げてみると、吐く息の向こうに月が明るく輝いていた。あれがベテルギウスシリウスポルックス……と歌ってみて語呂の悪さに溜息をつき、駅前のロータリーを眺めて新鮮な感覚にとらわれた。気温のためか湿度のためか、さまざまな街の灯が澄んでいて、まるで建物が暗闇から浮かび上がったようである。夏の帰り道にはついぞ見ることのなかった色彩であり、冬だからこそ初めて気付いた景色だった。
 手に持ったしるこドリンク(自販機で売られていた。夏ならばカルピスアイスが相応しい)も温かい。初雪こそ降っていなかったが、まあ満足だ。最近一人で行動することが増えた。とはいっても、周囲の人が驚くほどの金柑を摘んだり、古紙をあさったりしつつまあまあ楽しく過せている。友人達はこのまま疎遠になってしまうには惜しい人ばかりであるから、これからもうまくやってゆければ嬉しい。ほうっと息を吐き、白んでは消えてゆく様子を面白がりつつ眺めながら、何となくこんなことを考えた。

【思い出ぼろぼろ】
・面倒なので二段落。
・「あなたは今どこで何をしていますか」と歌いながらの人探しも面白い。
・夕食どきに『たまこまーけっと』というアニメを三話まで観た。特に興味深いのが二話である。キャラクターの性格や人物関係を、持ち物やちょっとした描写から描いているのが面白いと感じたが、それ以上に細かな感情描写に驚かされた。あれだけのことを文章で自然に描き出せたら、いったいどれだけ良いだろう。
 聞かれる前から具体的に、どこがどうこうと語るのはやらないけれど。