3月11日(晴れ)
 朝方よりしばらくぐうたらした後、『後巷説百物語』を読んで後期の勉強を始める。大学に落ちた幼馴染から悲痛なメールが届いた。
 どうせ今年は夏から冬にかけてつらくなるのだから、今ぐらいは前向きに過ごしたほうがよいのではなかろう。周辺の探索をするとか、時たま古本屋へ足を運ぶとか、あとは人と話すとか。友人達の不幸を喜ぶわけでは決してないが、やはり何となく心強く思われる。高校を卒業しただけで疎遠になってしまうなど、いくらなんでも勿体ない。
 彼を近所の公園へ誘い出して、夕方から夜にかけてお喋りをした。思い付きから家中を引っ掛きまわして紙コップを見つけ、魔法瓶にロンドン土産の紅茶を淹れて近所の公園へと駆け出す。急拵えの紅茶は幾分薄目で不評だったが、僕にはほのかに温かく、これで奴の気が少しでも紛れたなら十分有意義であったと言えよう。
 将来の夢や受験への不安、あるいは「世の健全な男子中高生はどこでエロ本を買うの」という疑問や「色鬼(色欲の鬼では無論ない)」という変わり種の鬼ごっこについてなど、話は多岐に渡り、気付けば二時間以上がも過ぎていた。
 オケ盤のドラクエ10のCDを購入した。アルバムの中の「天空の世界」という曲に近年のドラクエにはない端正さを感じると調べてみれば、やはり十年前以上の曲であった。ドラクエシリーズの音楽はアレンジをするのが難しい。
 そういえば、この世には茶柱を立てるために点てるお茶があるらしい。世間では何とも奇妙な需要と供給が成立しているのだなあ。

3月12日(晴れ)
 首が痛うて右しか向けぬ。どうやら昨晩の内にひねってしまったらしい。これはカンニングの謗りを受けるだろうかと、『ボートの三人男』を読みながら考えた。この本は僕の文章の規範の一つである。小論文を書く前には妥当な選択であろう。
 試験場最寄りの石橋駅でぽつりと詠む。下の句は浮かばず仕舞いであった。
  落ちぬことを 祈りて通る 石橋の 
 試験については多くは語らぬ。大阪へ行くのは遠足以来のことだろうか。
 帰りに友人と落ち合うことになった。彼は京都の大学を受けるというので、四条河原町で待ち合わせたのだ。しかし、待てど暮せど奴が来ぬ。いつ現れるとも知れぬので、上着を被ってバス停前で昼寝をしていたが(通行人に大いに笑われた)、時計の長針が一周してもそいつは姿を見せない。やっと彼が謝りながらやってきたのはみのむしの生態模写にも飽きることさらに半時間後であった。
 どうもバスを間違えて果てしない旅を始めたようであった。観光地だけあって、京都の市バス網は非常に複雑なのである。虎屋でぜんざいでも食べながら話をするという案は放棄し、あれこれと寄り道をして帰った。いつ来るかと待っていたが、どうせ一時間半も掛かるなら、今思えばブックオフで休めばよかった。
 充実はしていたが、いやはや。

3月13日(曇りのち大雨)
 PM2.5が百鬼夜行をしていると気象庁は宣う。しかし、あれはもしかすると国民を家に閉じ込めて洗脳せんとするNHKの陰謀なのではないだろうか。こんな考えが浮かぶぐらい頭が痛い。成人の日に雪が降ったのは記憶にも新しいけれど、
「天が羽目を外す若者を足止めして悪い事をさせないようにしたのではないか」
と友人が言っていたことを思い出した。この考えにはちょっと感心している。
 夕食の最中にエリマキシギという鳥についての番組を見る。この種には二種類の雄が存在しており、これらが面白い行動を見せるのだそうだ。番組に従って、ここでも縄張り雄(縄張りを持つ強い個体)と白エリ雄(弱い個体)と呼ぶことにしよう。
 エリマキシギの雌が雄を選ぶ基準の一つは強さである。そのため、縄張り雄は己が腕っ節を誇示するため、白エリ雄と示し合せて一芝居を打つのだ。縄張り雄は白エリ雄に頭を下げて(物理的な意味で)、雌の前でぼこぼこにやられる演技をするように頼み込む。求愛する際、縄張り雄は雌の様子を観察しつつ白エリ雄をフルボッコにし、雌が受け入れる様子を見せれば雌に襲いかかるのだ。
 無論白エリ雄もやられっぱなしという訳ではない。彼らも隙あらば縄張り雄の相手を狙い、時には思いを遂げるのである。加えて演技に参加するかどうかは白エリ雄の自由であり、そのため二種の雄の数は釣り合いがとれているのだとか。
 ちゃっかりしているなあと眺めていたら、さらに驚きの映像が出て来た。
 雌と思しき鳥が、いきなり雌鳥を追い掛け回して求愛をはじめたのである。ボノボよろしく人間の目線からすると倒錯した世界なのだろうかと、変な声を上げてしまった。ところがそうではないらしい。なんとエリマキシギには「偽メス」と呼ばれる第三の雄が存在し、これは雌のふりをして雌に近付き、上手い具合に相手を見付けるのだ。
 なんとまあ、人間臭いことか。

【思い出ぼろぼろ】
・日記をつけてみようキャンペーンである。本当は一週間分をまとめて一つの記事にするつもりだったが、無為に書き連ねたところ一日につき原稿用紙一枚半以上を費やしてしまっていたので、さすがに長すぎるだろうと前後に分けてみることにした。
・『ボートの三人男』、原題"Three Men in a Boat, To Say Nothing of the Dog!" は、ロンドンの本屋で見かけ(およそ12£)、嬉々として購入した。しかし単語が難しいこと難しいこと。昨年の今頃に単語ノートを作ろうとしたものの、一ページにつき見知らぬ語が十以上出ては仕方がない。これは今はまだ力不足だと諦めざるをえなかった。
・この本について調べていたら、偶然オーディオブックに行き当たった。イギリスの密林で調べたところ、MP3のデータで12£である。しかし日本に戻ると3000円。いくらなんでもひどいじゃないか。そうは言っても、どうやってポンドで払えば良いのだろう…… 
・水害によって車もろとも 駄目になってしまう前、我が家には機関車トーマスの英語版の朗読テープがあった。非常に綺麗な発音だったと記憶しているが、なにぶん英語であり、僕は小学校さえ入っていなかったため、意味が分かった試しはない。親が言うところによると、最初はちんぷんかんぷんであったが、難度も聴く内に少しずつ分かるようになっていったとか。読書百遍効果は、こういうところにも出るのだろう。