先日、AKG N40を購入した(内容はPart3に)。まだエージングの半ばであるが、膨張気味であった低音が引き締まり、どちらかというと消極的気味であった高音が前へ出て、さらに輝きを増ししつつある。まだまだ伸びしろを感じる音に、この先が楽しみで仕方がない。
さて、最近はN40を中心に使用し、そのパフォーマンスに感嘆する日々を送っているのだが、他方でこれまで愛用してきたAKG N20U(Part1)の凄みに改めて気づいた。N20はN40の1/3程度(1万5千円ほど)で購入できるわけだが、正直N20の音質は3万円代のイヤホンに引けを取っていないし、N40より良い部分もある。今回はN20の優れた音質について再考してみたい。
思えば、N20を購入した当初は「まぁ、優秀だね」と、値段と見合った性能を感じたぐらいであった。しかし、エージングが進むにつれて音の輪郭がくっきりとしだし、低音が丁度良い張りを持ち、抜けの良い高音が鼓膜を品良く刺激し始めた頃、「やはりAKGはカラヤンに愛されただけのことのあるメーカーだ」とつくづく感心したものである。AKGの製品は、他社のものよりもエイジング化けするようだ。
AKGの音作りは、原音再生という理念から始まるらしい。これがどれほど難しい事か、想像にたやすい。非自然的な機械から自然さを再現するのは、朝食に作った目玉焼きを、どうにかして生たまごに戻すようなもので、大変な難題である。どうせ不自然でまずい出来の料理なら、ケチャップを塗りたくって味を誤魔化すのもひとつの手段だ(そういうメーカーは沢山ある)。しかしAKGはそうはしない。ストイックに原音を鳴らすのだ。
さて、AKG N20Uをプレイヤーに刺し、ブラームスのピアノ協奏曲第1番(ヴェルザー=メスト,CLO,ブロンフマン)を聴く。もう何回聴いたかわからないが、何度聞いてもN20の鋭い弦の響きが心地よい。ただしなやかなだけでなく、程よい音圧が鼓膜を押すから、スカッと晴れわたった音なのだ。キレの良いストレートの(音)球が鼓膜に投げられる。
柔和で優しい音には、なめらかで上品な再生能力が光る。目まぐるしく音が変わっていく場面では、ハキハキとした発音で一音一音を発していく。この辺りはN40に比べると劣る部分ではあるが、価格の差を考えれば、とんでもなく上出来だ。低音と高音が、互いに潰し合わずに協調し合うイヤホンはなかなか少なく、それを1万円台の製品で実現しているのがすごい。
低音域は、ダイナミック型ということもあって重量感のある音がする。充分引き締まっているし、中高域の邪魔をすることはない。高音域は抜け良くさわやかに放出されるようなイメージだ。クラシックによく合うのだが、女性ヴォーカルの音楽にも最適だろう。
ただ(褒めてばかりだと信憑性が失われるので書いておくが)、男性ヴォーカルの楽曲は、豊かな低音再生の中に影を潜めてしまうことが稀にある。中音域の僅かな音域で輪郭が薄いような感覚だ(プレイヤーの性能にも依存する)。
どんな高額イヤホンにも長所短所はあり、そこにユーザーの好みが合わさったのち、価値付けされる。しかし、値段以上の性能を持っていることは断言しても良さそうだ。低音にも高音にも寄らない中庸なサウンドを持ち、自然な鳴りで音楽を楽しみたい方に、お薦めする(他メーカーの濃い味付けに慣れた方には物足りないかも)。
AKG N20U
ミドルクラスなのは価格だけ。
AKG N40
N20の特徴をそのままに、1クラス上の濃密な音楽。
AKG
2016-07-27
AKG K3003
発売から5年経ってもなお、イヤホン界の頂点に君臨。
追伸:私はAKGの社員ではありません。
T.D