賃金減額とその実務


(1)背景

・ 定昇制度の維持困難、降格・降職人事の一般化
・ 「何に対して賃金を支払いたいか」という経営者のメッセージの表れとしての、賃金制度変更

(2)不利益変更を考慮すべき減額の例

・ 降格、降職制度を導入して、結果として降給になる場合
・ 個別に労働契約を変更する場合
・ 定年延長したとき、延長した期間(55歳→60歳の延長で、この5年間)の賃金を減額する場合
・ 退職金の減額改定

(3)不利益変更を行うときの手順

①個別労働者からの合意の取り付け
書面(または黙示)による同意

②就業規則による変更
「高度の必要性と合理性」を備えた変更
(第四銀行事件、みちのく銀行事件)

③労働協約による変更
 4分の3以上の労働者で組織される労働組合との協約の締結により賃金減額などの不利益変更が行われる場合には、組合内の効力(規範的効力)があるかどうか、その組合に加入していない組合員にもその決定が及ぶ(一般的拘束力)かどうか。


(4)労働条件の不利益変更とは

 使用者と労働者が、雇用時に交わした労働契約の内容(労働条件)を変更するときに、従来よりも低い条件に変えること。使用者が提示した変更に、労働者が同意しないからといって労働契約を解約することは、労働契約の場合はできなません。使用者の指揮命令権に基づく一方的変更が予定されている労働条件もあるが、賃金や労働時間は基本的労働条件であり、相手の合意を得ずに一方的な不利益変更は認められません。


(5)「労働条件の不利益変更」に関する判例

①秋北バス事件(最判昭43.12.25)

 「就業規則は、経営主体が一方的に作成し、かつ、これを変更することができることになっているが、既存の労働協約との関係について、新たに労働者に不利益な労働条件を一方的に課するような就業規則の作成または変更が許されるであろうか、が次の問題です。

 おもうに、あらたな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきですが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続きによる改善にまつほかはありません。

そして、新たな定年制の採用のごときについても、それが労働者にとって不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではありません。」

(ポイント)
 就業規則が、本来画一統一的処理を前提としてつくられているものであることから、その変更による労働条件の変更を必ずしも否定されるものではないことを、裁判所が判断した例


② 第四銀行事件(最判平9.2.28)、みちのく銀行事件(最判平12.9.7)

 1.変更によって労働者が被る不利益の程度

 変更によるマイナスを代償措置や、経過措置でカバーできているか


 2. 変更の必要性の中身・程度

 「2期続けて赤字経営であった」「国際的な競争力を要求される時代において、労働生産性と結びつかない形の年功賃金制度は合理性を失っているため、成果能力の基づく賃金制度を作る必要性があった」「タクシー業界では、営業収入との関連を重視した賃金制度を採用しないと、新規採用が不利になる、年功制は、労働生産性と逆行してしまう」という判断


 3. 変更後の制度内容自体の相当性

 定年延長が国家の政策としてその必要に迫られていたこと、定年延長に伴う人件費の増大は、考慮する必要がある。

賃金減額は甘んじて受けるべき程度の不利益であると判断


 4. 代償措置、その他の労働条件の改善状況

 定年延長


 5. 激変緩和措置・経過措置の実施の有無

 調整給の支給


 6. 労働組合等との交渉の経緯

 協議回数、通算協議期間


 7. 他の労働組合、一般従業員への対応など

 4分の3を超える多数組合のみを相手にすることなく、非組合員、一般従業員、少数組合員に対しても、説得の努力を行ってきたか


 8.同種事項に関するわが国における一般状況

 同業他社の賃金形態の状況



③朝日火災海上保険事件

 労働協約の規範的効力についての判断。



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