2011年4月11日(月)

Q-1:
次の例は、中国の学生の作文です。


    私は韓国語
    +
によって/をもって/で
    日本語の勉強をしています。


   上の下線部は問題ないでしょうか。


Q-2:手段や方法を表す場合の
    「~によって」 と 「~をもって」 の
    互換性がよくわかりません。

A:韓国の先生からのご質問です。
  まず 「Q-1」
からです。

日本語科に中国からの留学生がいて、
韓国語で進められる授業を聞きながら、
日本語の勉強をしているそうです。

中国の朝鮮族ではありませんから、
この学生は、一方で
韓国語を習いながらの日本語専攻ですから、
韓国語での文法説明が分からないときがあって、
困ることがあるようです。

最上の選択は 「~で」 です。

また
「~をもって」 ではなく
「~でもって」 なら、
可能な選択になります。

やや俗語的方言的な感じですが。

ただ、
いずれも不自然な響きを帯びるのは、
上のような特殊な状況を
脳細胞がすぐさま理解できないからでしょうか。

   韓国に留学している
   中国人の私は、韓国語で
   日本語の勉強をしています。


上のように説明的な書き換えをすると、
すんなりと頭に入ってきます。

私たちの脳細胞は、
怠慢なのか省エネ型なのか、
生活習慣に流される理解の仕方をします。

   タッくんは
   ジェットコースターに乗っています。

何の文脈も状況設定もなければ、
上の文は英語式にいえば<現在進行>

   タッくんは今
   ジェットコースターに乗っています。

と理解して、決して<現在完了>

   タッくんはもう
   ジェットコースターに乗っています。

とは理解しません。

ひとつの例文から、
どれほどたくさんの状況設定ができるか、
というのは、
ある意味では教師のレベルの問題です。

 「~によって」 と 「~をもって」 の
使えないわけは、
以下の説明で、ご理解ください。
 
「Q-2
」 のために、
次のような教科書に出てくる例文を
ご用意くださいました。

<A+によって+B>


1)その問題は話し合い
  +によって/で+
  解決できると思います。


2)ボランティア活動に参加すること
  +によって/で/を通して+
  自分自身も多くのことを学んだ。


3)数学者は正しい推論
  +によって/で+
  次々と定理を導き出す。

4)彼は両親の死後、
  叔父家族の温かい励まし
  +により/で+、
  自分の目指す道に進むことができた。


上のすべてのAは、Bのための
手段や方法を表していますが、
AとBの関係は、
次のようになっています。

  A+の結果/を通して/の後で+B

また
Aによって」は、
手段や方法のほかに、
次のような意味を表します。

ア)原因や理由
  経営陣の戦略の失敗によって
  年度末決算は赤字へと転落した。

イ)受身の動作主
  これは火山の噴火によって
  押し流された溶岩の堆積です。

ウ)根拠
  このような場合、前例によって
  判決が下されることになる。

エ)相応変化
  売り上げと勤務日数によって
  年収に開きが出るようになっている。

先ほどの手段や方法の4つの例は、
次のように、
上の「ア~ウ」との重なりを見せます。

1)その問題は
  話し合い
によって解決される。
  <原因/受身の動作主>


2)ボランティア活動に
  参加すること
によって
  多くのことを+学べる/学ばせられる。
  <原因/受身の動作主>


3)
正しい推論+
  が定理を導き出す/
  によって定理が導き出される。
  <根拠/受身の動作主>


4)
叔父家族の温かい励まし+
  が自分の目指す道に進ませた/
  によって進ませられた。

  <原因/受身の動作主>


つまり、
AとBとの間に
「時間の継起性」があり、
Aに
「原因や根拠/受身の動作主」
という意味合いがこめられています。

 (注)『日本語類義表現使い分け辞典』
    P334~P336/P365~P367/
    P601~P606を参照

  

ただし
「~によって」は、
一時的に利用する具体的な
道具や工具類には使えません。

・駅までバス+で/*によって+行く。
・書類をファックス+で/*によって+送る。


上の場合
「~によって」には
<受身の動作主>になる
意味合いが含まれていません。
 

<A+をもって+B」


5)誠実な田中さんは
  非常な努力をもって
  問題解決に当たりました。

  →努力しながら

6)試験の結果は、
  1週間後に書面
  +をもって/で+
  お知らせします。


7)今回のアルバイトでわたしは
  働くことの厳しさを
  身をもって経験した。
  →体験する/慣用的用法

)彼の努力をもってすれば、
  金メダルは間違いないだろう。

   →努力し続けていけば


上のすべてのAは、Bのための
手段や方法を表していますが、
AとBの関係は、
次のようになっています。

  A+付帯状況/同時に+B


「6」を除けば、
ほかの3つは文字通りの
「~を持っている」
という意味が生きています。


ただ「6」は
「Aを以(も)ってと為(な)す
のバリエーション
「書面を以ってお知らせとする」です。

・この地を以って我が第二の故郷とする。
・この覚書を以って契約成立とみなす。
・これを+もって/もちまして、本日は
 閉店と+いたします/させていただきます。

いずれも「A=B」
であることを示しています。

ただし、
書き言葉やスピーチ専用の
「~をもって」も、
具体的な道具や工具には使えません。

・この紙を10枚ずつ、クリップ
 +で/*をもって+留めておいてください。


  (注)『日本語類義表現使い分け辞典』
     P367を参照

「Q-1」の「韓国語」は
物ではありませんが、一種の工具
「ペン/英語+で+手紙を書く」
と考えられます。