「あーら。森田くんじゃないの」

南浦和駅でバッタリ会ってしまった。

「森田くん、髪の毛ふさふさなのね」

お前に関係無いだろ、と森田は思った。

「森田くん。こっち向いてよ」

誰が見るか。こういうタイプの女と目を合わせると、ロクな目に遭わない。

「キャーキャー森田くんってば」

しぃっ!
森田は唇に人差し指を当てた。

制服で大声をあげたら、会社の恥だ。

「石岡さん、静かに」

すると、石岡は上目で見てきた。

「やっぱり石上さんの方が好きなんだ」

「そういう問題じゃないんだよ」

周りがこちらを見ている。

まったく厄介なのとばったり出くわしたものだ。

「森田くんってば私のこと嫌い?」

「うん。人前で大声を出す人は嫌いだ」

すると石岡は指をしゃぶり出した。

まったく始末に負えない。

「石上さんの方がやっぱり好きなんだね?」

森田は首を横に振った。まかり間違って縦に振れば何をされるかわからない。

「じゃあ、私、秘密一つだけおしえてあ・げ・る」

何のつもりなのだろうか?

「石上さんって、婚約者がいるみたいなのよ」

そう言って自分に気を向けようとする戦法だろう。こういう自己中な女にはありがちなのだ。

「はいはい」

適当にあしらう事にした。

「ねー、森田くんってばー」

再び喚き出す。

「しーっ。静かに!」

しかし、周りはこちらに注目している。

そこへ同僚の馬場(ばんば)が来た。

「助けてくれよ」

「あれ? きみは京浜東北線の」

「そうよ。京浜東北線の美人運転士、石岡翼よ。あんず姫って呼んでね」

なぜあんず姫だ。

「ねぇねぇ。ばばさん」

「あのー。僕はばばじゃなくてばんばっていうんですが」

馬場はたじろいでいる。

「ばんばさん。私と武蔵野線の運転士の石上さんどっちが可愛いと思う?」

それかよ。

「馬場。答える必要無いぞ」

「だったら、この場を立ち去りましょうよ」

「そうだな」

と言って踵を返したものの、石岡が肩を掴んできた。

「どっちが可愛いか答えてよ」

「石岡さん、あなただよ」

と馬場が大人の対応をした。そうしたら、石岡はついて来なくなった。