2005年11月

2005年11月28日

大酒飲みの国

以前、スウェーデンのレストランで同席した現地の友人とソムリエがもめていた。後で聞いてみると、一回に出せるお酒の規制量が決まっていて、これ以上お酒が出せないということだった。もっと詳しく聞いてみると、100年以上前、国民的にお酒が好きなスウェーデンではその反動でGDPが極端に下がり国益を揺るがす問題になったそうだ。それから全てのアルコールは国営の酒屋で販売される事になり、バーやレストランでも時間や量の規制がされている。
 
国営というとお洒落じゃない感じがどうしてもするが、スウェーデンの国営機関はとてもデザインがいい物が多い。例えば、国営酒屋のシステムボラーゲットでは年2回お酒のカタログが発行されている。そのカタログの表紙には新進グラフィックデザイナーやイラストレーターが起用され、ここからメジャーになっていく事も多いという。また、中面のリストには牛やエビなどのピクトグラムがあるが、それはそのお酒が何の食べ物、飲み方に適しているのかをビジュアル表現している。
こんな酒屋をみていると、規制のなかでむしろ楽しみを見いだしている国民性がうかがえる。

bolaget
システムボラーゲットのお酒カタログとその中のピクトグラム。
店内に入るとフリーで持ち帰り出来る。たまにフリーペーパーなども発行されている。

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2005年11月25日

少子化対策

ここ数年スウェーデンやデンマークなど北欧の国を訪れる事が多いが、特に感じるのが子供の多さ。ストックホルムの若者が集まるSOHO地区の公園には、ブランドファッションを身にまとった若い夫婦がベビーカーを押してやってくる。日本でよくある“公園デビュー”とはお洒落感がどこか違う。子供を持つ事がある意味ステータスのような感じさえうかがえる。
 
北欧諸国も現在の日本のように一時出生率が落ちたようだ。高納税の国にとっては将来の死活問題に関わってくる。もちろん国が率先して少子化対策に手を打つ事はあたりまえで、交通機関や医療施設など、妊婦や乳児連れに大きい優遇措置がはかられている。それ以上にメディアや民間の産業など社会全体でバックアップしていることが大きな解決策になっているような気がする。
民間と政府がひとつの問題に取り組んでいく事で本質的に社会がより良い方向にいっているような感じがして、政府ばかりに頼ってしまう今の日本の他力本願意識を自分も変えていかねば、と思う。

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たまたま見つけたこの本は、グラフィカルに子育てのノウハウや問題を紹介している。デザインで子育てを提案するという視点が面白いと思う。

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2005年11月16日

本当のエコ

スウェーデンのマクドナルドでは、プロモーションとして紙コップの柄が巨匠デザイナー、スティッグ・リンドベリのデザインだった。リンドベリのデザインはグフタフスベリという陶器メーカーの食器の絵付けのために50〜60年代に制作されたもので、この食器はここ数年日本でも人気が高く、本国のアンティーク屋さんでも日本人が値を上げているようだ。このグフタフスベリがマクドナルドとコラボしたのが今回のコップ。スウェーデンのマクドナルドの凄いところは紙コップに防熱の樹脂を使っていない事。紙の厚みを倍近くにして、さらに表面を波上のエンボスにする事によって、手が触れる面積を減らしている。これによってホットドリンクを入れても熱さをあまり感じなくなる。素材は紙しか使っていないのでリサイクルが可能なのだ。実は日本でもこういった紙コップはあるのだがコストがあまりにもかかるため、採用しているところはほとんどない。それ以上に素晴らしく感じるのはこのリンドベリのデザインを採用した事。こんなかわいい紙コップだったらリサイクルどころか捨てるのまで惜しくなってしまう。物を捨てないというのは究極のエコロジーだと感じる。それも、絵柄だけでそんな気にさせてしまうのがデザインというものの凄さだと思う。

papercup
マクドナルドとグフタフスベリミュージアムコラボの紙コップ。
葉っぱ柄が“ベルソ”という作品名。ドット柄が“アダム”。
残念だが現在は終了、今後マリメッコ柄なども展開するらしい。
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2005年11月14日

FRONT

1年以上前だったか、スウェーデンの女性デザインユニット、“FRONT”の記事をある雑誌で見かけた。デザインというよりはまだ本格的な製品になっていないのと、コンセプチャルな内容からアーティストと言った方が正しいかもしれない。たまたまオランダ出張の際にドローグデザインのお店で丁度展示をおこなっていた。
実物を見るのは今回がはじめてだった。彼女らの作品はとてもユニークなものが多い。例えば、壁紙。カタログの制作の欄には“ネズミ”と書かれている。壁紙の展示の横のVTRをみると、壁紙をネズミがかじり、かじった部分が壁紙の模様となる。なるほど、ネズミが柄を作っているので制作がネズミなのだ。
他にはコートを掛ける壁の出っ張り。生乾きの陶器の円柱をヘビに這わせ、ヘビが通った跡は少し窪む。その窪みがコートなどを引っ掛けるフックの代わりになるという作品だ。少し歪な二股のフラワーベースもある。ウサギの掘った巣穴に石膏を流し込んでとった型をもとに作ったものだ。彼女らもそうだが、スウェーデンのデザイナーは自然や動物をモチーフにしたり、調和を考えて作られたものが多い気がする。

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ドローグから72個限定販売されたFRONT唯一(?)のプロダクト。
温度で透明になるインクを使い、熱いものを注ぐと写真が見えてくる。

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2005年11月06日

ヨーロッパを旅して ーその3:アムステルダムー

今回の渡航先、最後はオランダのアムステルダム。ここ数年訪れる事の最も多い国だ。そしてこの国で注目するひとりがピート・ヘイン・イークというデザイナーだ。ピート作品との出会いは青山の某インテリアショップのオーナーとアムスに一昨年の春に行った時だった。

友人がオーナーを務めるアムスのインテリアショップで廃材を何重にも重ねたテーブルを発見した。使い古された材木は中古家具を連想させるが、それは全く違っていて、むしろ新しさすら感じた。多分、デザイナーは新素材の一つとして廃材を選んでいるんだと確信したのである。その秋から青山のお店では彼の家具を扱いはじめた。そして。僕も新しい引っ越し先用に棚を特注で作ってもらった。
 
今年のはじめ、そのピートが内装を手がけたカフェがホテルの近くにある事を聞き、今回の旅で訪れるのはこれが3回目だ。路地にも関わらず毎回行く度に客が多くなっているように感じる。内装もさながら、お店で焼いているパンや自家製のジャムもとてもおいしい。そして入り口近くにあるパンやジャムが並べられた大きな棚も廃材を使ったものである。ものすごくとんがっていながら、どこか和める感じ。それが古都アムステルダムにも通じ、この店はある意味僕が感じるオランダの縮図のようである。刺激と和み、この2つを持ち合わせた面白い国故に、僕はこの国をヘビーローテーションしてるのかもしれない。

amscafe
アムスにあるピート内装のカフェ『De Bakkerswinkel』
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柳本浩市
Glyph. 代表
1969年生まれ。
北欧 × デザイン × 飛行機好きが転じ、 2002年Glyph.(グリフ)を立ち上げる。

おしゃれインテリアショップでのイベントや海外商品のプロデュース、 企業とのコラボなどちょっとした活動を手掛ける傍ら、 casa BRUTUS、Esquire、GQ、Engine、HF、Vogue、BRUTUS、など デザインコンシャスな雑誌で執筆中。

自ら出版した「Departure」はちょっとしたエアラインブームを巻き起こした。
最近の北欧デザインブームの火付け役でもある。

こだわりの趣味を仕事でも楽しむちょっとした大人である。