下記は、私の師匠が執筆中の『カルマ・タロット』のテキストの一部です。
『カルマタロット』の流れが、物語の中で解説されています。


■ライフ・ミステリー・ショートストーリー(カルマ・タロット)
 
 私の名前は後田敦子。学園の生徒だ。

今日は土曜日で松任先生の『カルマ・タロット』の講義になっている。


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「では・・・誰かにクライアント役・・・つまり、被験者になってもらおうと思うのですが・・・」

ホワイトボードに『タロット・CUBE』を貼って、クラス全体を見回す松任先生。

被験者になりたくない者は目を伏せる。この学園では当然のだが、そんなタイプの人に無理やり何かをやらせたりはしない。これは素晴らしいことだと思う。

窓際の座席でそんなことを考えていた私は、松任先生と自然に目が合った。

「では・・・久しぶりに、後田さんやってみましょうか?」

「えっ?私ですか?」言ってはみたが、私が自分から望んでいるのはクラスのみんなには伝わっている。

 

私は教壇の横に作られた特別席に静かに速やかに移動した。今日はこの実習のために、机にセッション用の布が敷かれている。

「では、今日は、後田さんが被験者という事で、『カルマ・タロット』のより深い部分について解説してゆきますね・・・」そうみんなに言ったあとに、私に軽くアイコンタクトしてくる。

私は緊張した様子を見せないように、慣れた感じで頷いた。

 

「まず・・・後田さん。何か見て欲しいことはありますか?」

松任先生が教壇に立って、カードをシャッフルしながら聞いて来る。

「はい。あります。実は、恋愛のことでちょっと・・・」

「おおおぉぉぉ・・・・・・」いつものみんなのリアクション。

実は私はクラスのある男の子(現在訳あって休学中である)と付き合っている。一応、みんなには秘密にしているのだが、普通の人よりもちょっと繊細で、敏感なここの生徒は、すでに気付いていることだろう。

 

「恋愛ですね・・・何を知りたいんですか?」

松任先生が興味深そうではあるが、表情を崩さず、眉だけを動かしながら聞いて来る。

「実は、好きな人がいるのですが、その人の気持ちが分らないんです・・・それで、その人の本当の気持ちが知りたいなぁ、と・・・こんなんで良いですか?」

私はちょっと緊張しながら松任先生を見上げた。

「もちろん大丈夫ですよ・・・ただし、ちょっと、みんなに解説をしますが、『タロットからの情報をどう扱うか?』ということを先に明確にする必要があります。というのも、その前提によって、導かれるカードが変わってしまうからです・・・つまり、このカードからの情報により、後田さんがどう行動するかを先に決めて、カードを開くことで、より正しいカードが導かれるのです・・・どうします後田さん。カードの結果をどう受け止めますか?」

こう聞かれて私は考えた。

『もしも、悪いカードの場合どうするのか?良いカードの場合どうするのか?つまり、それを決めないといけないということだよね・・・良いカードなら安心・・・悪いカードなら、彼の意思に従う・・・それで良いだろう・・・』

「悪いカードが出たら、彼の意思に従うということでお願いします」少し緊張感を増した声。

「本当にそれで良いんですか?例えば彼が、もう飽きたから別れたいとか言ったら、それでもう別れてしまうんですか?」ちょっとにじり寄るように聞いて来る松任先生。

『飽きたとか言われたら・・・』「はい。それで良いです」ちょっときっぱり強めに言った。

「そうですか・・・しかし、今のままではカードを正しく導けない気がします。というのが、後田さんが、カードの結果がネガティヴに出た場合を受け止められないような気がするからです・・・というよりも、ネガティヴな結果でも、そこから努力というか頑張ってなんとかしたいと思っているんではないですか・・・」

「えぇっ・・・」こういうのを図星というのだろう。別れようと言われて、素直に引き下がれる私ではないのだ。私はちょっと言葉をつまらせながら言った。

「じゃ、それでお願いします」

ニコリとする松任先生。みんなの方を向く。


「これで、カードは正しく導かれることになりました。象意的にネガティヴなカードが出ても、被験者が対応することを約束したからです。この約束がない場合、被験者のカルマがそのままカードに出る可能性があります。つまり、被験者が体験すべき感情をカードが発生させる可能性が高いのです・・・」

次に先生は椅子にかけて私と向き合った。

「では後田さん。カードを導きますね・・・彼の本当の気持ちを教えて下さい・・・違和感がなくなるまでシャッフルします・・・」

集中しつつカードを操る。やがて、手が止まり、一枚のカードが選ばれて、布の上に静かに伏せて置かれた。

「このカードが正しいことを宣言します。もしも読めなかったら、私の前提が間違っています」

私の目を見て静かに言った。私は頷いた。静かにカードがめくられた。

 

『死神』のカード・・・
 

「げっ」私は思わず変な声を上げてしまった。

しかし、ニヤリとする松任先生。

「これってどういう意味か分ります?」

「えっ・・・『死神』だから・・・あの、死んで生まれ変わる・・・再生のカードなんですよね・・・」

私はとっさに、一般的なポジティヴな象意を口にした。

ニコリとする松任先生。

「そうです。その通りなんですが・・・ではまず、対応のカードから見てゆきましょうか・・・では『タロットマンダラ』を開いて下さい・・・『CUBE』では『死神』のカードの対応は『審判』です・・・『審判』のカードと『死神』のカードを比較して、一番特徴的な部分どんな所ですか?」
 

私は『タロット・CUBE』を見ながら答える。

「『審判』はみんなで死から復活させてもらうカードで・・・『死神』は『法王』が必死に『死神』に向き合って・・・戦っているカードです・・・」

「そうです。その通りです・・・ではこれが、彼の後田さんに対する気持ちだとするなら、どんなことが考えられますか?」

『え?戦ってる?私と戦ってるのかな・・・』

「彼が私と戦っているということなんですか?確かにちょっと議論はしますが・・・」

・・・彼と議論って・・・ざわざわ・・・みんなが反応する。


「では、後田さん。『死神』のカードの登場人物に、彼と、後田さん自身を見つけて下さい・・・」

クラスの反応に関係なく松任先生が静かに言った。私は死神のカードに集中する。

・・・この馬に乗った『死神』が私?彼がこの必死そうな『法王』?ん・・・『法王』の横に、女性が・・・これ『女帝』だよね・・・これが私?だとしたら、彼は私を守ってくれようとしている?死神から?ん?対応の『審判』のカードの男性は、女性を守る感じではないよね・・・つまり、彼は私を死神から必死に守っている?ということ・・・だったら、もっとマメに連絡くれても良いと思うんだけど・・・

ここまで私が考えた時に、松任先生が軽く咳払いをして続けた。

「後田さんのポジションは、おそらく、その瀕死の女帝でしょうね・・・彼は、必死で守ってる・・・そんな感じですね・・・しかし、ここで、もう少し深く見てゆくために、後田さんが彼のことをどう思っているかを見たいと思います・・・」

そう言うとまた残ったカードでシャッフルを始めた。

「後田さん。大丈夫ですか?」私は無言で頷いた。

私自身の気持ちをみんなの前で、カードとして出されるのはあまり気分が良くないが、流れ上、仕方のないことなのだろう。

 やがて、一枚のカードが決定した。

「このカードは、後田さんの彼に対する気持ちが導かれるはずですが、彼との価値観のギャップが出ることにもなるはずです・・・」そう言って静かにめくられる。

 

『戦車』のカード・・・

  

「ん・・・」『なんで私の彼に対する気持ちが戦車・・・』私は意味が分らない。読めないのだ。

カードから目を上げると、私の様子を静かに観察していた松任先生と目があった。

「ちょっと難しいカードが出ましたね・・・後田さんに読めないですよね?」

私は頷く。控え目にニコリとして先生は続ける。

「このカードがなぜ読めないか、分かるんですよね?」

「はい・・・おそらく、カルマと抵触している内容なのだと思います」

「そうです。この『戦車』のカードは後田さんのカルマと抵触しているはずです・・・しかし、ちょっと分る範囲で分析して下さい。まず、戦車に乗っている男性は彼ですよね・・・そして、2頭のスフィンクス・・・これは誰ですか・・・」

『えっ・・・』よく分からない上に、答え難い内容を聞いて来る先生に対して、少し反発を覚えた。

「さぁ、誰なんですかね・・・私の他に、誰かいるんではないですか?」

ちょっとぶっきら棒に言った。

 先生はちょっと困ったような、ちょっと呆れたような表情で首をかしげる。

「これは彼に対する不満というか、心配というか・・・それが、後田さん自身の家族関係のカルマから投影・・・つまり転移している可能性があります・・・」


『えっ?』そう聞いてピンとくる内容があった。私の母の職場でのカルマである。若い男性の職員さんを好きになった母は、その気持ちの持って行き場所に困ったという話であり、その感情の不理解が私にアトピーを発生させて、そして、それが鈴木杏子先生の事務所への縁となり、現在の私はこの学園に通っているのだ。

「あ、はい。分りました・・・ばっちり出てます。このカードに、私のカルマが・・・ということは、私は彼を疑いの眼差しで見ているということですよね・・・浮気してるんじゃないか・・・って」

自然に声が小さくなる。

「まあ、そう考えるのが『カルマ・タロット』の方法論ですね・・・特に、死神のカードの法王が彼だとすれば、彼は後田さんのためにも必死に頑張ってますよね・・・しかし、彼のそんな気持ちを誤解して、彼を信用できないでいる・・・」

私は無言で頷くしかなかった。松任先生が続ける。

「しかもこの2枚のカードに共通する要素として『戦う』というテーマがあります。つまり、彼は現在戦っている最中で、それを後田さんはサポートしたいと考えている・・・これは『戦車』の戦士とスフィンクスの関係から分ります」

「そうです。その通りです」私はハッとした。

「しかも、その戦いは手伝えない・・・サポート出来ない・・・それが苦しいし、悔しい・・・そうではないですか?」ちょっと得意そうな松任先生。しかし事実だ。

「そうです。その通りです・・・しかし、このカードから、なぜそれが分かるんですか?」

「簡単です。死神の法王は、女帝から助けてもらおうと考えてないのがはっきり分かるからです」

私は死神のカードを見た。確かにそうだ。この法王は女帝に頼る気なんて全くない。

「ということは、つまり、私は彼のサポートを出来ないことで不安になっている。そして、それは私自身のカルマであると・・・そして、彼はそんな私を守るために戦ってくれている・・・つまりそんな内容なんですよね?」

松任先生は大きく頷いて、少し大きな声で続けた。

「その通りです。そしてここからが本番です・・・最初に約束したように、このカードは、後田さんが対応することを前提に導かれたカードです。つまり、このカードには、後田さんがどう考え、どう行動するべきかまで導かれているのです」

「おおおぉぉぉ・・・・・・」存在を忘れてしまっていた、クラスのみんなのテンションも上がっている。

私は少し戻って来た緊張感で質問する。

「つまり、この2枚の『対応のカード』から導くんですよね?」

ニコリとする松任先生。

「そうです。ここから導いてゆきます・・・まず、『死神』の対応が『審判』であることは分りました。次に『戦車』の対応を見ます・・・『戦車』の対応は『正義』です。この質問の文脈では『対応のカード』は、『本カードの状態をより良い状態に導く要素』であると考えます。つまり、後田さんは、『正義』のカードの要素を学ぶ必要があるということです・・・」

  

みんなの方に向き直り続ける。

「ここで言う『正義』の要素とは、『戦車』との比較から導かれるものです。例えば、『戦車』の仕事が、現場の体力を使う仕事であるならば、『正義』は事務仕事や勉強などになります。また、『戦車』が動的、体験的であることを表すならば、『正義』は静的、理論的であると考えられます。そして、『タロット・マンダラ』を見ると分りますが、『戦車』は『吊られ人』側であり、『正義』は『運命の輪』の側にあります。これは、『戦車』は『人のルールの縛られた関係』であるのに対して、『正義』は『天のルールの自由な関係』だということです・・・つまり、彼を天のルールに沿って自由にしてあげなさいという意味もあるのです・・・」

納得ではあるが、しかし・・・松任先生は続ける。

「しかし、現実的、実際に彼を自由にするのは難しいことです・・・ですがこのカードは、『運命の輪』にある真理を学ぶことで、自分を戒めることが出来て、彼をより自由に出来ると教えてくれているのです」

「おおおぉぉぉ・・・・・・」相変わらずリアクションの良いクラスメイトに安心しながら、私も深く納得していた。

『なるほど・・・つまり私は、彼の帰りをおとなしく、真理を勉強しながら待っていれば良いってことか・・・納得かも・・・』

ザワザワした感じが収まるのを待っていた先生が続ける。

「次に、更に深くこの2枚のカードから読んで行きます。『死神』のカードが彼のポジションだとするならば、対応の『審判』のカードは、被験者の理想だと考えられます。つまり、被験者は付き合うという状態を、『審判』の登場人物のような関係だと考えている可能性があるということです」

 私は『審判』のカードの裸の親子を見てちょっと恥ずかしくなって、咳払いして質問した。

「あの・・・まだ、結婚とか、子供とかって考えてないんですけど・・・というか、何で、『彼の気持ちの対応のカード』が私の理想になるんですか?」


ニコリとする松任先生。

「あの・・・別に、結婚とか子供とかって言うことではないんですよ・・・説明しますと、まず、今回の『彼の本当の気持ちを教えて下さい』という質問から導かれるカードは、文脈上、被験者の前提から一番離れた内容が導かれるものなのです。つまり、一番激しく彼のことを誤解している部分が、カードとして表れるということです。そして、その対応のカードというのは、彼から見て一番ズレている、被験者の前提となる可能性があるのです。つまり、被験者が『審判』のような前提を・・・理想を持っているので、『死神』のカードの内容を誤解する・・・そう考えられるのです。そして、そう考えるなら、『死神』と『審判』のカードの相違点を前提に、何を理想としているかを推測することが出来るということです・・・つまり、被験者は、彼に対して、『対等な関係』を求めています。そして、『もっと、成り行きに任せて良いのでは?』という印象を持っているかもしれません・・・いかがですか?」ちょっとかしこまって聞いて来た。

「はい。本当にその通りだと思います・・・そして、彼は、自分にもっと任せて欲しい、頼って欲しい、信じて欲しい・・・そう思っているハズです・・・『死神』のカードの『法王』のように・・・」

確かにこの内容は、彼から何度も言われた内容だったのだ。

頷いた松任先生が続ける。

「納得してもらえて良かったです。しかし、『カルマ・タロット』には、ここからまだ更に深く読む方法があります。興味ありますか?」

「えっ?まだあるんですか?」『もうお腹一杯かも・・・』そう思いながらも聞いてしまう。

「これから先の内容は、軽く流す感じで覚えておいて下さい。このレベルのリーディングは一般的なものではありませんので・・・」

松任先生のこの前置きは、実は、先生自身の限界ギリギリの講義内容であることを示している。そして、逆に考えるならば、この前置きの後の内容こそが、私にとって、本当に勉強になる内容なのだ。

「先生。是非お願いします」私は少し身を乗り出しながら言った。

ニコリとするがちょっと余裕のない松任先生。

 
「では、解説しますね・・・実はこの『カルマ・タロット』のシステムは多重構造のリーディングを前提に、『タロット・マンダラ』としてまとめられています。つまり、この『マンダラ』には、これまでに解説した以上の読み方があります・・・まず一つ目が、『4つの道』という考え方です。『太陽』と『月』から始まり、『皇帝』『法王』『女帝』『女教皇』に分離して、最後は、『隠者』と『星』を経由して、『愚者』と『世界』に至る仕組みです・・・」

松任先生はホワイトボードの貼られている『マンダラ』を示しながら解説を続ける。

「この『4つの道』の理論から、今回の『死神』のカードは、『法王』が『隠者』『愚者の真理』に至るために必要なイベントであると考えられます。つまり、彼は、現在、真理に至るための修行の最中であり、対峙すべき大きな存在と向き合っている最中だと考えられます。そして、それが今回の被験者の問題意識の理由の根源になっているものだというでもあるのです」


 確かに彼は、自身の修行も兼ねて、今回のプランを決定している。

「そして、『4つの道』から『戦車』のカードを見ると、『戦車』はこのあと『皇帝』になり、『塔』のイベントを経て、『隠者』『愚者の真理』へと至ります。つまり、被験者は『皇帝』になる道を歩んでいるということになります。つまり、被験者は『もっと大きな現実的な力が欲しい』と考えているのかもしれません・・・まぁ、現在、学生の立場なので、就職先の心配をしているという感じかもしれませんが・・・」ニコリとする。

「はい。その通りです。就職先の心配をしています・・・」正直に答えた。私の両親(父→教頭先生、母→看護師長)の常識から考えても、フリーターや派遣では許してもらえないのだ。

「しかも後田さんは、おそらく、一般職を考えていますよね?そしておそらく彼は、研究職か、何かコンサルタント的な仕事を・・・」

「えぇっ!?そんな所まで分るんですか?」素直に驚いた。このタイプの話しはあまり誰にも話していなかったからだ。ちょっと得意そうな松任先生。

「実は、『4つの道』のより上位の仕組みに『意識的なカルマの集中』という考え方があって・・・これは、『女教皇』から、『法王』と『女帝』に別れた流れが、『皇帝』で一つになり、敵国と戦争をするという流れなんですが・・・彼のカードである『法王』は、『皇帝』に『死の無力化のカルマ』を武器として渡す役割のポジションで、職業に喩えると、研究職やコンサルタント的な『後方から支援する仕事』になるんです・・・それに比べて『戦車』は、ライバルのある戦場で戦うというポジションです・・・後田さんの現状から考えるならば、おそらく癒しの仕事ではなく、一般職での就職を希望しているのではないのかな・・・と・・・そんな風に考えたのです・・・」

 一瞬の間の後に、「おおおぉぉぉ・・・・・・」みんな納得したようだ。


 私も納得したが、気になることがある。

「ということは、誰でも一枚のカードから、こんな細かい内容まで読めるんですか?」

みんな知りたいだろう。ニコリとする松任先生。

「残念ながら、そう言う訳ではないんですよ・・・おそらく今回は、後田さんの抱えている問題が、形を変えて、彼との関係に影響を与えていたということなんです・・・むしろ、就職に関する不安が、彼との関係の不安として持ちあがっていたという感じなんですよ・・・つまり、とても重要で、本質的な問題の連鎖が、『死神』と『戦車』のカードとして、表れただけなんです・・・つまり、今回のように重要な内容を扱うことが出来るならば、それなりに詳しくカードから導ける可能性がありますが、普通はここまでは上手くいかないかもしれませんね・・・」

私は当然の質問をする。

「では今回ここまで深く読めたのは、私の問題が本質的だったから、ということなんですか?」

頷く松任先生。

「本当にその通りなんです。しかし、もう一つ重要な前提があるとするならば、今回、私が、このレベルのリーディングを披露したいと思っていたということです。つまり、誰の前提でリーディングするかによって、カードの導かれ方が変わってしまうといことなのです。もしも、基本的な象意だけを前提にリーディングした場合、今回のようなカードが出なかった可能性もあるのです。つまり、私の『カルマ・タロット』への理解の深さが、そのまま、導かれるカードに反映するということなのです」

「おおおぉぉぉ・・・・・・」また納得の歓声。松任先生はテンポ良く続ける。

「そして、そして、更に言うならば、被験者が後田さんであるという設定は、かなり都合が良いものでした。このクラスの中でも、カルマの法則に対する理解の深い後田さんが被験者になってくれたお陰で、速やかに、最高レベルのリーディングに入っていけたのです・・・実際に、カルマに抵触するはずの『戦車』のカードを考えてもらった時に、あんなに素早くカルマを理解するのは、普通は不可能ですから・・・」

「えっ?いや、何回も何回も考えているカルマですから・・・本当に形を変えながら、私の人生に何度も係わって来てるカルマなので・・・正直、『またかぁ』みたいな感じでした・・・」

急にちょっと褒められた私は、このカルマの理解について褒められた時用に準備していた定型文を使った。褒められたとしても、真に受けて調子に乗るとロクなことがないのは、この学園のみんなはよく知っている。

「なるほど、すでにこのカルマについての謙遜が型になってるんですね・・・まあ、とにかく、私としては、後田さんで正解でした。とても良い講義が出来たと思います。ありがとうございました」

松任先生がペコリと頭を下げた。

私はほとんど反射的に中腰になり、「いえいえ」と手を振った。

これは黒柳先生から習った型だった。

ちょっと楽しかった。

(了)